10ky-21





Note 山田 哲人(ヤクルト)内野手の記事へ







山田 哲人(ヤクルト)内野手のルーキー回顧へ




山田 哲人(大阪・履正社)遊撃 180/77 右/右





               「2010年度NO.1内野手!」




 けして打撃に華はないし、走力に光るものがある選手ではない。しかし、2010年度のドラフト戦線において、この山田 哲人が、高校・大学・社会人含めても、NO.1の内野手だと評価する。


(守備・走塁面)

 夏の大阪大会・PL学園戦を生で観戦致しました。試合前練習から、ボールが吸い付くようなグラブ捌きの柔らかさと、一歩目の判断力に優れたダッシュ力のある遊撃守備は、上のレベルでも二遊間を担って行く素材だと確信させられました。

 甲子園ではミスなども見られたのですが、非常に堅実で丁寧なプレーヤーで、けして派手なプレーで魅了タイプの遊撃手ではありません。地肩も滅法強いと言うよりは、基準以上のものがあると言った程度で、際だつほどのものはありませんでした。

 まして走力に関しては、多少塁間を緩めて4.75秒前後。通常緩め方にもよりますが、全力で駆け抜けたタイムから0.2秒ぐらい引くと、本当の走力がわかります。そう考えると、潜在的には4.55秒前後ぐらいに相当致します。通常塁間の目安となるのは、

3.9秒弱  プロで足を売りに出来るレベル

4.0秒前後 足を売りに出来るのかは走塁センスにもよるが、プロでも俊足の部類

4.2秒前後 スカウトが、プロの基準と判断するタイム

4.3秒以下 プロの基準以下となり、割り引いて考える

となる。上記の数字は、左打者の目安であり、通常右打者の場合、タイムから、0.3秒を引くと、同等の走力が計測することが出来る。ただし、セーフティバントや左打者が一二塁間に引っ張ったような、最初から一歩目のスタートをきっているような場合は、参考資料とはならない。

 彼の場合は、恐らく塁間を左打者換算で、4.25秒前後ぐらいに相当し、プロの基準である4.2秒に近いタイムでは走れそうです。この夏の大阪予選の8試合では、盗塁を3個記録。この数字を観る限り、けして走れない選手ではないようです。ただ走力に関しては、図抜けたものはなく、プロで売りにできるほどかには疑問が残ります。




(打撃面スタイル)

 高校通算30本塁打以上のパンチ力を秘めますが、基本的に野手の間を抜けたり、内野手の頭を越すような、はじき返す打撃が得意の打者です。そのためイメージとしては、強打者と言うよりは、好打者です。ただ生粋のアベレージヒッターでもなければ、天性のスラッガーでもないと言う、やや特徴が見えづらい選手です。ただその辺は、二遊間が担えると言う、付加価値がついて、はじめて評価されるタイプなのではないのでしょうか。

(特筆すべき点)

 この選手の素晴らしいのは、打席での集中力とボールを見極める動体視力の高さにあります。けして凄みがある選手ではないのですが、勝負どころでは集中力が発揮されて、非常に勝負強さがあります。そして甲子園でも2回戦の聖光学園の歳内宏明(2年生)右腕のフォークボールを、第一打席から完全に見切っていたのには驚きました。けしてボールゾーンに切れ込むフォークボールに手を出さなかったのです。この点が、打者としても非凡なポテンシャルを秘めていることを、強く印象づけられた瞬間でした。





(打撃フォーム)


<構え> 
☆☆☆☆

 スクエアスタンスで両足を揃え、グリップの高さは平均的です。腰の据わりも悪くないのですが、センターカメラから見ても背番号が読み取れるように、少しクローズ気味のバランスで立っていることがわかります。そのため両目で前を見据える姿勢も、平均的になっております。また打席では、身体を動かして揺らぎ自分のリズムで打席に入るなど、リラックスできているのも好いです。

 クローズスタンスで注意すべき点は、高めに浮いた力のない変化球を除き、打球をセンターから右方向に打ち返す意識を徹底させること。この選手は、それを徹底できている点も、素晴らしいです。けして構えから威圧感は感じませんが、自分のリズムで打席に立ち集中できている点では、一定の評価ができるのではないのでしょうか。


<仕掛け> 
遅すぎる仕掛け 投手のリリース前後に始動

 多くの欧米人やキューバ人などは、このタイミングで始動する。狙い球を絞って、打てる球を引っぱたく、そんなスタイルを取る。ただこのようなスタイルは、非常に脆く打てる球は限られる。

 また始動~インパクトまでの時間が極端に短いので、スイングに不可欠な動作を端折ることで、インパクトを間に合わせようとすることになる。それでも打ててしまう欧米人のヘッドスピードと筋力の強靱さは、残念ながら日本人には真似出来ない。日本人の場合このタイミングでは、プロレベルの投手を相手には通用ないと私は考えてている。ただし、もしこのタイミングの始動を使いこなす日本人が現れた時、パワーで世界のスラッガーと対峙出来る存在になっているだろう。

 それはともかく、彼の場合もプロのスピード・キレに対処するためには、もう少し始動を早めることが求められそう。この点では、少しプロ入り後苦労することが予想される。

<下半身> 
☆☆☆

 足を小さくステップして、ベース側にインステップして踏み込みます。外の球をきっちり叩くことができるのですが、先にも触れたようにクローズ気味のスタイルからも、無理にボールを引っ張ろうとすると、ことごとくボールを引っかける可能性が高いです。打撃の割り切りが如何ににできるのかが、彼の打撃の好不調を決めるのではないのでしょうか。

 踏み込んだ足下は、インパクトの際にもブレません。そのため無理に引っ張りに行かなければ、センターから右方向にはじき返す打撃は期待できそうです。ただ打撃の「間」があるタイプではないので、あらかじめ狙い球を絞って、その球を逃さず叩くタイプの打者です。ただ甘い球を逃さないと言う「鋭さ」は、この選手の打撃の真骨頂だと思います。

<上半身> 
☆☆☆☆

 打撃の準備段階である「トップ」を、いち早く作ることができています。そこからバットを振り下ろして来る選手で、ボールを捉えるまでロスがありません。ボールを捉える時も、バットの先端が下がらないので、その後のスイング軌道も悪くありません。スイングの弧の大きさ・フォロースルーの取り方などは並で、ヘッドスピードも基準レベルを満たしますが、際だって鋭いとか力強いと言うほどではありません。

<軸> 
☆☆☆☆

 頭の動きは小さめで目線は安定しているので、ボールを的確に捉えやすいと思います。身体の開きも我慢できておりますし、軸足も地面から真っ直ぐ伸びて、安定した打撃が期待できます。


(打撃のまとめ)

 始動が「遅すぎる仕掛け」を採用するなど、プロのスピード・キレに対応するのには、少し時間がかかりそうです。またスイング自体の鋭さ・力強さも、プロレベルになるには、数年かかるのではないのでしょうか。

 それでもボールを捉える選球眼の良さ・甘い球を逃さない集中力と鋭さには、非凡なものを感じます。打撃に華はありませんが、プロで活躍して行ける素材を持っていると評価できます。


[高画質で再生]

山田 哲人(履正社)遊撃手 [バックアップ] 


(意識づけ)

 私が彼を評価するもう一つの理由が、プレーへの意識の高さにあります。上記の動画を見て頂ければわかると思いますが、前の打者の対戦にもしっかり注意を傾け、次の打席を想定できております。ただそれほど素振りに関しては、チェックポイントを決めて振っているようには思えません。あくまでも試合に入り込むために、軽く身体を動かしているといった感じです。

 しかしながら明らかに打席に入る時には、ラインを踏まないように入ることからも、彼の繊細さが伺われます。こういったところからも、守備的負担の大きな二遊間を担う資質が感じられます。また打席に入る時にも、足場をしっかり馴らしてから入ります。この辺は、打者としてのこだわりを強く感じさせ、高校生ながら野球で飯を食って行こうと意識が感じられます。





(最後に)

 プロのスピード・パワーに慣れるのに、数年はかかると思います。しかしながら、天性の動体視力・集中力・野球への意識の高さなどからも、いずれはプロでもレギュラーまで昇りつめられる素材だと評価いたします。

 恐らくプロでは2番や6,7番あたりの地味な役所になるとは思いますが、きっちり自分の仕事を果たせる選手になるのではないのでしょうか。個人的には、大変その将来を期待してみたい一人で、派手さはないのですが本当に好い選手だと思います。


蔵の評価:
☆☆☆  (上位指名級)


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年・夏)