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海田 智行(オリックス)投手のルーキー回顧へ



海田 智行(日本生命)投手 179/80 左/左 
 




               「コントロールのいい左腕は買いだと言うが」






 左腕は、まずコントロールがいいこと。私の観戦のポリシーにしている事である。しかし海田のボールは、駒沢時代からみても、何か心に響いて来ない。日本生命に進んでからも、不動のエースとして活躍。しかし目に見えて、大学時代から、大きな成長を遂げたようには見えないのだが・・・。


(投球内容)

 非常にオーソドックスで、大人しいフォームのサウスポー。ただこの選手の上手いのは、緩い球を上手く織り交ぜて来るところ。安定した制球力と緩急で、相手の打ち気を交わすのが、この選手の持ち味だ。

ストレート 130~137キロぐらい

 元々球質は、ピュッと手元でキレるタイプ。そのため少しでも甘く入ると、球威に欠けるぶん痛打を浴びる心配がある。実際キレも、ストレートで空振り誘うというよりは、ピュッと少し差し込む程度の球。

変化球 カーブ・スライダー

 大学時代は、シュート系の球もあったように思ったが、都市対抗の投球を見る限り、100キロ台のカーブと、120キロ台のスライダーのみのように見える。カーブは、しっかり緩急を効かしカウントを稼ぎ、スライダーのキレはよく、左打者の外角低めに切れ込む球で空振りを誘っている。この投手で一番良い球は、ボールになるスライダーを上手く振らせる時ができた時。

その他

 牽制はなかなか鋭く、二塁などにも素早く送球し自信を持っているようだ。クィックもコンスタントに1.1秒台投げ込めるなど、その辺も抜かりはない。落ち着いたマウンド捌きで、四球で自滅することもなく試合を作って行く。

(投球のまとめ)

 左打者には、外角中心に投球を組み立て、左対左には強い。むしろ課題は、両コーナーに投げ分けることはできるのだが、右打者に対して。甘くない球でも、打ち返されるケースが目立つ。ただそれでも、右打者に踏み込まれないように、かなり内角への厳しい攻めをしているのだが、右打者を仕留められる球がないのが課題。

 特に球威・フォーム・配球に特徴がなく、イニングを重ねて行くと、どうしても相手に馴れられてしまったり、甘く入るところを打たれてしまう。その辺の欠点は、大学時代とあまり変わっていないのではないのだろうか。



(投球フォーム)

<広がる可能性>

 お尻の三塁側の落とし(左投手の場合)が少し甘く、見分けの難しいカーブや縦に鋭く落ちるフォークのような球を投げるには向いていない。それでも結構カーブを使うのだが、実際には右打者にも左打者にも、このカーブは打たれていなかった。そう考えると、それほど悲観することはないのかもしれない。「着地」までの粘りは平均的で、今後も何処まで球種を増やして、投球の幅を広げられるのかは微妙だろう。

<ボールの支配>

 グラブは内に最後まで抱えられているので、両サイドへの投げ分けはできている。ただ足の甲の押しつけが浮いてしまい、ボールが上吊りやすい。あるいは、しっかりコントロールしようと思うと、かなり力を抜いて投げないとコントロールできない。ただ「球持ち」は悪くないようで、指先の感覚には優れている。実際制球力が、この投手生命線でもある。

<故障のリスク>

 お尻が落とせない割にカーブを投げるところは、少々無理があるかなと思える。しかしそれほど割合は多くないし、力投派でもないので身体への負担は少なそう。振り下ろす腕の角度には無理はなく、肩に負担のかかるフォームではない。特に故障の可能性は感じないが、日頃から身体の手入れは充分に行っておきたい。

<実戦的な術>

 「着地」までの粘りが平均的で、打者からはそれほど苦にならない。それでもボールの出所は早すぎることはなく、「開き」も平均的見える。しかし実際は、右打者からは明らかにコースが読まれてしまっているので、ボールが意外に見やすいのかな?という疑問は残る。

 ボールを置きに来るような腕の振りなので、身体にからみついてこない。これでは打者からも、速球と変化球の見分けもできてしまうだろう。また足の甲が浮いてしまい「体重移動」が上手くできていないので、ボールに体重が乗ってこない。そのため打者の手元まで、ボールがグッと来ないのだ。

(投球フォームのまとめ)

 「着地」の粘りも、「開き」も平均的のように見える。ただ「球持ち」がいいことからも、制球を充分武器にできそうだ。ただ「体重移動」に課題を残すので、今後もストレートが磨かれるのかは気になるところ。

(成績から考える)

今年の都市対抗予選では、5試合に登板しチームを都市対抗に導いた。

被安打は、イニングの70%以下 ×

 31回1/3イニングを投げて、被安打は37とイニングを上回っている。すでに球の威力や配球が、社会人レベルの打者相手でも、かなり劣っていることを物語る。増してプロの打者相手では、この傾向も顕著になるだろう。

四死球は、イニングの1/3以下に ◎

 31回1/3イングで、四死球は僅か5個と。四死球率は、実に16.0%と極めて優秀だ。彼を推せる材料と言えば、やはり安定した制球力だろう。

奪三振は、イニングに対し1.0前後 ×

 1イニングあたり、奪三振は0.58個。通常0.8個以上ぐらいから、結構三振を奪っていることになる。そう考えると、かなり決めてに欠けるタイプ。基本は、コースを突いて相手の打ち損じを誘うタイプだろう。

防御率は、1点台が望ましい △

 社会人の打者相手だけに、できれば1点台が望ましいが、予選では防御率は 2.59 だった。それほど悲観する数字ではないが、それほど絶対的な存在ではないことが、この数字からもよくわかる。


(データからわかること)

 データの観点からも、制球は高く評価できるが、球の威力・決め手の無さなどは、かなり心配だという結論に至った。実際の投球を観た印象と、データの数字にギャップはなかった。

(今後は)

 駒大時代から、目に見えて変わった印象はない。ただ社会人で、関西地区屈指の好投手として積み上げた実績は、素直に評価できるポイント。安定した制球力、緩い球を使える上手さ、厳しい攻めなどを観ていると、やはり実戦派。

 しかしフォームや投球にイヤらしさや威圧感はなく、やはりプロの打者相手では苦しいだろうと言う印象は否めない。いくら「制球の良い左腕は買いだ!」と言っても、やはり今の内容では苦しいのではないか。それが、私が下した結論である。彼は、すでに完成品に近い投手。活躍するにしろ、通用しないにしろ、2,3年以内に白黒ハッキリするだろう。果たしてプロで、どんな未来が待っているのだろうか?


(2011年 都市対抗)









海田 智行(駒沢大)投手 178/70 左/左 (賀茂出身)





                 「左のボーダーライン!」





 左スリークオーターから繰り出す独特の球筋と、左の外角に切れ込むスライダーに関しては、「面白い」と思わせるものがある。一見、球威に欠け、球速も並な左腕投手なだけに、面白みのない投手に映るかもしれないが、見方によっては中々興味深い投球をする投手。単なるまとまり型と観るのか、光るものがあると観るのかは、人によって意見が別れる投手だろう。


(投球スタイル)

ストレート 135~130キロ台後半

 キレはまずまずだが、キレ型故に球威に欠ける傾向がある。甘く入ると怖い側面があることは否めない。

スライダー 120キロ台

 左スリークオーター独特の球筋と軌道を描いたスライダーで、特に左打者にとっては、外角に切れ込んで行くスライダーを捌くのは中々辛いものがある。

シュート 120キロ台後半

 右打者の外角に、スクリューと言う程ではないが、外角に逃げる球で投球の幅を広げようと言う意識がある。この球も右打者に対しては、悪くない。

カーブ

 投球が一辺倒にならないように、緩急を使おうと言う意識はあるようだ。

その他

 牽制もまずまず鋭く、クィックも1.1秒台と素早い。投球をまとめるセンス・マウンド捌きにも優れるが、球威・球速がないので、長いイニングボールを魅せられると、打者も対応してきてしまう傾向がある。


<右打者に対して> 
☆☆☆☆

 アウトコース低めにカーブ・シュート系を集めつつ、両サイド高めに速球を投げ別けて来る。特にインハイを厳しく突くことが出来るのは、意外に右打者に対しても対策が出来ているところは評価したい。

 空振りを取れるような絶対的な球はないが、変化球を低め・特に右打者にはシュート系の球を有効に使えている。この投球が、安定して出来るようになればと思うのだが・・・。


<左打者に対して> 
☆☆☆☆

 左打者に対しては、左スリークオーター独特の背中越しから来る球筋を生かして、アウトコースの真ん中~低めに速球とスライダーを集めてくる。このゾーンにしっかり集めることが出来る時は、左打者には相当厳しい攻めとなっている。ただ左打者には、内角を魅せるとか、他の攻めのバリエーションがあるわけではない。


(投球のまとめ)

 気になるのは、こういったピッチングを長いイニングを持続出来ない傾向にあり、回を重ねるにつけ、微妙な制球力が薄れる時がある。また相手打者も、けして凄みがある球を投げるわけではないので、回を追って慣れてしまう。そのため、現状この選手の持ち味が出るのは、かなり限られている。その辺の精神的・肉体的なスタミナを引き上げることが、投球全体のレベルアップにつながる。それか多少アバウトでも、細かいことをあまり気にしないで投げる割り切りを覚えるのかのいずれかだろう。


楽天


(データから考える)

 今春の成績から、今後の可能性について考えてみたい。

8試合 3勝2敗 44回2/3回 32被安打 20四死球 34奪三振 防御率1.22


1,被安打は、イニング数の70%以下 △

 被安打率は、71.7%と僅かに基準を上回っている。やはりこれは、イニングに進むにつれて、打たれる傾向があるようなので、少しでも好い状態を長くキープするスタミナを養いたい。

2,四死球は、イニングの1/3以下 ×

 四死球率は、44.8%とかなり悪い。彼の場合、甘いところ入って来るようなアバウトさではなく、低め・コースを丹念に突こうとして、微妙な制球力を乱すところから、四球を出すケースが目立つ。この辺が、勝負所でもう少し割り切って投げきれるようになる、元来の制球力が悪くないだけに、数字も随分変わってきそうなのだが・・・。

3,奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 ×

 奪三振率は、76.2%と、けして高くない。元来、低め・コースを丹念に突き、打たせて取るのが、この投手の身上だからだ。ただし左打者に対しては、アウトコースに逃げて行くスライダーで、空振りを取れている。

4,防御率は、1点台が望ましい ○

 このファクターだけは満たしている。ただレベルが劣る東都二部での成績だけに、この数字を素直に評価出来るのかは微妙との見方も出来よう。

(データから考える)

 実際の投球を観ていると、制球や被安打の部分は、精神的・肉体的なスタミナなどが改善されると、かなり条件を満たして来る可能性は感じられる。ただこういったファクターを、実際に満たせないところに、彼のまだ物足りない部分だとも言えよう。秋のリーグ戦では、目に見えた数字での証明も、求められる。


動画:海田 智行(駒沢大)投手


(投球フォーム)

 いつもように、上記の動画を見ながら、彼の投球フォームを分析してみたい。


<踏みだし> ☆☆☆


 まずワインドアップで振りかぶる時の、足の横幅は肩幅程度。足をあまり引かず、バランス重視で立っている。球の勢いよりも、制球を重視ていると言うことだろうか。

 先発型らしく、足を引き上げる勢いは静かで、自分の「間」を重視している。ただそれでも、足をじっくり高い位置まで引き上げられており、けしてエネルギー捻出は低くない。

<軸足への乗せとバランス> ☆☆☆

 軸足一本で立ったときの、膝から上に注目して欲しい。彼の場合、あまり軸足の膝に余裕がなく、比較的真っ直ぐ膝が伸びてしまっている。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。しかしそ割には、全体のバランス・軸足への体重の乗せも悪くなく、膝にもそれほど力みが感じられないのは好い。

<お尻の落としと着地> ☆☆☆

 引き上げた足を、比較的高い位置でピンと伸ばしているので、お尻の三塁側への落としは悪くない。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながるからだ。

 ただ着地までの粘りは並で、体重移動を阻害するようなステップの位置ではないが、けして着地までの時間に粘りがある方ではない。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

<グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆

 グラブは最後まで内に抱えられているものの、やや後ろにすり抜け気味なのが残念。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。

 また左足のスパイクに注目してみると、足の甲での押しつけはやや浅く、その粘りもそれほどでもない。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。

<球の行方> ☆☆☆☆

 それほどグラブを斜め前に差し出していないくても、前の肩と後ろの肩を結ぶラインには角度が出来、ボールを長く隠すことが出来ている。また着地の瞬間にも、持っているボール握っている手は、頭の後ろにしっかり隠れており、球の出所は遅い方・すなわち球は打者から見えにくいはずだ。

 また腕の角度を観ていても、もっとスリークオーターなのかなと思いきや、結構並の高さぐらいまであり、現在のフォームは上手投げに近い。より特徴を出すのであれば、将来的にはもっとスリークオーターのフォームになるかもしれない。ただ腕に角度をつけても、けして無理な角度になっていないので、身体への負担は小さいだろう。

 球持ちも平均的で悪くないが、制球を売りにする・球の打ちにくさを売りにすることを目指したいタイプだけに、球持ちはもっと長く、深くしたい。この点が改善されてくると、もっと嫌らしい球を投げられるようになるだろう。

<フィニッシュ> ☆☆☆

 振り下ろした腕は身体に絡んで来るが、腕の振り・上体の振りに弱さを感じる。また体重移動自体は好いのだが、地面を強く蹴り上げるような躍動感が欲しい。ただバランス重視の投手らしく、投げ終わったても全身のバランスを崩すようなことはない。


(投球フォームのまとめ)

 投球フォームの4大動作である、着地・球持ち・開き・体重移動の観点で言えば、着地までの粘り・球持ちの長さに、更なる改善を期待したい。けして悪いと言うわけではないが、制球力と打ちにくさを追求して欲しいタイプだけに、より実戦的なフォームを身につけたいところ。

 またフォーム全体に躍動感・力強さが物足りなく、筋力の弱さが感じられる。この辺が改善されて来ると、もっと手元までグッと来るような勢いやキレが生まれて来るだろう。


(最後に)

 現状大卒指名となると、その球のみならず、技術的にも、肉体的にも物足りない印象は否めない。彼を観ていると、駒沢大学時代の高橋尚成(東芝-巨人)を思い出す。綺麗なフォームからキレの好い球を投げるのだが、あとワンランク球速・勢いが物足りなかった大学時代。彼のような正当派の左腕では海田はないが、球威に欠ける、球速にもうワンランク物足りないところは好く似た印象がある。

 海田の場合も、心身共にスタミナUPを心がけたり、全体的な筋力UP、打ちにくさなど技術の追求を求めたいところ。ただフォームや投球の根本土台は好いだけに、意識次第では秋までのレベルUPも期待出来なくはない投手。秋までに目に見えた成長が観られれば、大学からプロへ指名されてもと言う期待感を抱かせてくれる。そういった意味では、今後も追いかけてみたいと、初めてこの春のリーグ戦の投球を観て思わせてくれた!


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(2009年 春季リーグ)




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 新2年生ながらエース的存在のサウスポー。立ち上がりボールが先行する場面も見受けられたが、フォーム・ピッチングともにまとまった破綻のないタイプ。始動から右足を大きく引き上げるところまでは小嶋(阪神)っぽくもあり、腕も最後まで振れるなど、均整の取れたフォームだった。

 常時135㌔(MAX139㌔)前後の速球にスライダー、シュート、時折100㌔台のカーブを織り交ぜるピッチングで、内角を思い切って突くコントロールも持ち合わせていた。スケール感はあまり感じないが、大学生の好投手として今後も注目したい存在。

(2007年 5月3日 DINAMO-JIN 氏)




海田 智行(広島・賀茂高)投手 175/62 左/左

 伸びのある速球とスライダーなどを織り交ぜ、安定したマウンド捌きが自慢の好投手。