25sy-11





岸本 大希(23歳・徳島IS)遊撃 169/71 右/左 (長崎商-桐蔭横浜大出身) 
 




 「徳島でも地味だった」





 毎年多くのプロ野球選手を輩出する徳島インディゴソックス。今年も多くのドラフト候補がいるチームの中で、岸本 大希 は地味な存在だった。そんな彼がプロ入りを実現したのはなぜなのか? ここで検証してみたい。


走塁面 
☆☆☆☆ 4.0

 一塁までの塁間は、セーフティバントを試みた時でも3.7秒前後くらい。正確なタイムは計測できていないが、普段の駆け抜けなら4.0秒前後ぐらいだと想定され、中の上 くらいの脚力の持ち主ではないか。それでも、アイランドリーグでは41盗塁を記録し、失敗は10個で成功率は8割を超える。そういった意味では、NPBレベルでも、
ある程度足を売りにしてやっていける選手ではないか。

守備面 
☆☆☆★ 3.5

 
捕球から素早い動作の切り替えが特徴で、遊撃手としての守備範囲もかなり広い。ただし、難しい体勢から投げると送球が乱れることもあり、本当の意味での肩の強さは並くらいではないか。今シーズンも69試合で19失策をしており、安定感という点ではそこまでではない。

 走塁に関しては、
走力以上に盗塁技術などに優れている印象だ。遊撃手としては守備範囲が広く動きも悪くないものの、肩の強さは平凡といった感じがする。それでも、センターラインで勝負していける選手ではないか。





(打撃内容)

 走力を活かして揺さぶるコンタクトヒッターというイメージが強いが、チェックした試合では右中間にホームランを放っていた。2025年度の成績は以下の通り。


 打数  安打  二塁打  三塁打  本塁打 打点 四死球 三振  打率
242 73 10 2 5 47 57 32 .302


 これらの数字から、OPS(出塁率と長打率の合計で打撃の総合力を示す指標)は0.856とリーグ上位レベルの生産性を示す。また、四球率(BB%、打席に対する四球の割合)は19.1%と高く選球眼の良さが、四振率(K%、打席に対する三振の割合)は10.7%と低くコンタクトの安定感がうかがえる。ISO(長打力の指標)は0.120で、ホームラン5本の片鱗を表している。


<構え> 
☆☆☆ 3.0

 左打席から大きく前の足を引いて、グリップは高めに少し捕手側に引いて添えられている。後ろ足に重心を預けがちなので、腰の据わり具合や全体のバランスにはクセがあるが、両目で前を見据える姿勢は悪くない。そのため、錯覚を起こすことなく球筋を追うことができる。

<仕掛け> 
遅すぎ

 投手がリリースを迎える直前に、浮かせていたかかとを下ろすだけといった感じで、タイミング的には「遅すぎる仕掛け」を採用している。通常、日本人の筋力やヘッドスピードを考えると、このタイミングでの始動でプロレベルの球を木製バットで打ち返せるのかといった心配は残る。しかし、このタイミングで結果を残してきたので、壁にぶつかるまではこのスタイルを続けてほしい。

<足の運び> 
☆☆☆ 3.0

 構えていた場所で、浮かしていたかかとを踏み込むだけといったスタイル。始動~着地までの間がないので、狙い球を絞り、その球を逃さない「鋭さ」が求められる。開いていた足のところに踏み込んでくるので、アウトステップの形になっている。そのため、内角への意識が高いのではないか。

 踏み込んだ足元は、
インパクトの際には動かず止まっている。そのため、アウトステップでも甘めの外角球や低めの球にも、ある程度食らいつけるのではないか。

<リストワーク> 
☆☆☆★ 3.5

 打撃の準備である「トップ」の形を作るのは自然体で、力みなくボールを呼び込めている。ただし、始動が遅いので
バットを引くのが遅れないよう注意したい。バットの振り出しは決してインサイドアウトではないものの、外角の球を捉えるまでには大きなロスは感じられない。インパクトの際にも、バットの先端であるヘッドは下がらず、広い面でボールを捉えられている。それだけ、フェアゾーンにボールが飛びやすい。体付きからひ弱そうに見えるが、意外にパンチ力があってキッチリ振り抜いてくる

<軸> 
☆☆☆☆ 4.0

 足の上げ下げが小さいので、目線の上下動は少なめ。体の開きも我慢でき、軸足の形も崩れていない。軸足の内腿の筋肉も強そうで、粘りだけでなく鋭い打球も飛ばすことができている。

(打撃のまとめ)

 始動の遅さやトップを作れるのが遅れやすい動作を見ていると、NPBの一軍レベルの投手のスピードやキレに順応するのに少し時間はかかるかもしれない。ただし、それは動作の問題であり、決して非力だからというわけではない。その点は始動を工夫したり、動作をNPB仕様にしていけば、いずれ改善できる問題ではないかと考えられる。セイバーメトリクス的に見ても、高いOPSが示す総合力はプロで活きる基盤となりそうだ。


(最後に)

 物凄く守備が上手いとか、滅法足が速いといった感じはしなかった。また打撃でも、少し時間はかかるかなという気はする。そのため、一芸に秀でているというよりも、
攻守のバランスが取れていることが指名された理由の一つではないか。あとは、走攻守全てのレベルをさらに引き上げられるかに懸かっている。そういった意味では、個人的には育成枠での指名は妥当だったと評価し、ここからどういった形で生き残りを図るのか、注目して見届けたい。


(2025年 アイランドリーグ戦)