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九谷 瑠(26歳・王子)投手 178/80 右/左 (堅田-大阪大谷大-矢場とんブースターズ)
 




 「地味にいい」





 大学卒業後、社会人の矢場とんブースターズから移籍した 九谷 瑠 。社会人4年目を迎えながらも、今年の都市対抗では橋戸賞を受賞し、ドラフト候補として注目される存在になってきた。そんな九谷選手の現状を考えてみる。


(投球内容)

 今年の都市対抗では、4試合に登板し優勝に大きく貢献した。飛躍の年となった今年の都市対抗までの公式戦成績は以下の通り。

投球回数
被安打
四死球 奪三振  防御率 
71回
60
 23  62 2.54 


 これらの数字から算出されるセイバーメトリクス指標を見ても、安定感が際立つ。WHIP(1イニングあたりに出した走者数で、被安打 + 四死球を投球回で割った値)は1.17と優秀で、出塁を許しにくい投手であることを示す。また、K/9(9イニングあたりの奪三振数)は7.86と平均以上で、空振り奪取能力が高いK/BB(奪三振と四死球の比率)は2.70とまずまずで、四死球を抑えつつ三振でアウトを稼ぐ効率の良さがわかる。一方、H/9( 9イニングあたりの被安打数)は7.61と被安打を低く抑えており、防御率2.54 の背景にこれらの支配力がある。

ストレート 常時145km/h前後~150km/h強 
☆☆☆★ 3.5

 それほど細かいコースへの制球はないのだが、
低めに強い球が投げられるのが彼の良さ。打者の空振りを誘う感じの球質ではないものの、打者の手元まで強さが衰えないので、ある程度甘くても打ち損じを誘いやすいボールを投げている。このストレートの強さが、H/9の低さに寄与していると言える。

横変化 スライダー カット 
☆☆☆★ 3.5

 打者の手元までのブレーキもよく、カウントを整えるのに大きく貢献している。打者の空振りを誘うフィニッシュボールという色彩は強くないが、投球において重要な役割を担っている。他にも、小さく動くカットボールなども織り交ぜてくる。これらの変化球が、四死球23(比較的少ない)とWHIP1.17の安定を支えている。

縦変化 チェンジアップ 
☆☆☆★ 3.5

 縦にしっかり沈む
チェンジアップが最大の武器。カウントを整えたりタイミングを崩すためというよりも、フィニッシュボールとしてゴロを打たせたり、空振りを誘うという役割を担っている。この球のゴロ誘発効果が、被安打60(H/9 7.61)の抑え込みに繋がり、奪三振62(K/9 7.86)の多くを占めている可能性が高い。

緩急 カーブ 
☆☆☆★ 3.5

 調子が上がってくると、積極的に投球に織り交ぜてくる。フィニッシュボールという球ではないが、投球に大きなアクセントを生んでいる。緩急の使い分けが、K/BB 2.70のような三振・制球のバランスを保つ助けになっている。

その他 
☆☆☆☆ 4.0

 クイックは1.0~1.1秒ぐらいとまずまずで、走者にもしっかり目配せをしつつ、ボールを長く持ったりしてスタートを切り難くする。鋭い牽制などもあり、多彩な球種・巧みな投球術で、
容易には走者を進ませない。これにより、走者を出しても連打を防ぎ、WHIPの低さを維持している。

(投球のまとめ)

 垢抜けた投球をするわけではないが、相手に的を絞らせないようにしつつ、要所では強い球や沈む球なども織り交ぜ、試合を作ってくる。セイバーメトリクス的に見ても、WHIP1.17やK/9 7.86は社会人レベルで上位クラスで、プロのブルペン(中継ぎ)で即座に活用できる支配力を示唆する。そういった技術は、プロに入っても、ある程度すぐに一軍を意識できるレベルにあると言える。





(投球フォーム)

 セットポジションから、足を勢い良く引き上げてくる。フォーム序盤から高いエネルギー捻出が見られるなど、
リリーフタイプの選手なのかもしれない。軸足一本で立った時にも、それほど軸足の膝に力みは感じられず、適度にバランスを保って立っていられる。

<広がる可能性> 
☆☆☆☆ 4.0

 お尻は一塁側(右投手の場合)に適度に落とせており、体を捻り出すスペースを確保。そのためカーブやフォークといった、捻り出して投げる球種を投げるのにも無理は感じられない。

 「着地」までの粘りも適度に作れており、体を捻り出す時間も確保。そういった意味では、武器になるほどの変化球を習得できても、不思議ではない選手だ。これがさらにK/9を向上させるポテンシャルを秘めている。

<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができている。したがって軸はブレ難く、両サイドへのコントロールはつけやすそう。しかし、足の甲での地面の捉えが浮きがちで、力を入れて投げるとボールが上吊りそうなのが怖い。「球持ち」も並ぐらいで、少し
力をセーブしながら投げている印象はあるが、実際にはボールが高めに抜けたり上吊る場面は見られなかった。この支配力が、四死球23(K/BB 2.70)の基盤となっている。

<故障のリスク> 
☆☆☆☆★ 4.5

 お尻の落としはできており、カーブやフォークなどを投げても負担は少なそうだ。またカーブは時々投げてくるが、明確にフォークやスプリット系の沈む球は見られず、肘などへの負担は低そうに見える。腕の送り出しに関しても、違和感は感じない。そういった意味では、肩などへの負担も少ないのではないか。投球フォームも、決して力投派ではないので、疲労も溜め難いだろう。71回の投球をこなしても防御率2.54を維持しているタフさが、これを裏付けている。

<実戦的な術> 
☆☆★ 2.5

 「着地」までの粘りは作れているので、打者からタイミングが計られやすいことはなさそう。しかし、体の
開きは少し早いので、縦の変化などは振ってもらえず見極められやすい可能性は高い。また、投げ終わったあと腕が体に絡んで来るような粘っこさや、地面を強く蹴り上げるような躍動感はなく、少しボールを置きに行くような感じのフォームには、物足りさが感じられる。セイバーメトリクスで測るWHIPの低さが、この実戦術の成果だ。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に
「開き」と「体重移動」に課題を残す。制球を司る動作では、足の甲での地面への捉えが浮きがち。しかし、実際にはそれほどボールが上吊っていないので、そこは気にしなくても良さそう。故障のリスクが低いので、積極的に新しいことを試みたり、タフな活躍も期待できそう。また、武器になる変化球の習得も期待できそうなフォームであり、欠点もあるが実戦的な投球も期待できる下地はある。データ的にK/9 7.86のような三振率をさらに伸ばせば、プロでの適応が早まるだろう。


(最後に)

 プロの先発投手としては、垢抜けたものがなく物足りないかもしれない。しかし、中継ぎなどからであれば、一年目から一軍で活躍できる可能性を秘めている。セイバーメトリクス指標(WHIP1.17、K/9 7.86)からも、即戦力として中位クラスの価値がある。ドラフトでは、指名があったとして年齢的なものもあり5位前後ぐらいとみている。しかし、その順位以上の活躍を、一年目から期待できるかもといった意味では面白い存在だ。下位でも即戦力になりうるといった意味では、お得感のある指名になりそうだ。


蔵の評価:
☆☆(中位指名級)


(2025年 都市対抗)