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田中 大聖(23歳・HONDA鈴鹿)投手 178/98 右/左 (鶴岡東-太成学院大出身)





 「微妙なライン」





 投げっぷりの良いマウンドさばきから、150キロ前後の速球を投げ込む 田中 大聖。しかし、2025年のドラフトで指名されるかどうかは微妙な位置にいるように思える。その理由を、セイバーメトリクスの観点も交えて考察する。


投球内容

2025年都市対抗本戦までの公式戦成績

投球回:14イニング
被安打:15
四死球:3
奪三振:12
防御率:2.57
WHIP:1.29((15安打 + 3四死球) ÷ 14イニング)
K/9:7.71(12三振 × 9 ÷ 14イニング)
BB/9:1.93(3四死球 × 9 ÷ 14イニング)
FIP:約3.20(仮定:被本塁打0、定数3.10使用、計算式:((13 × 0 + 3 × 3 - 2 × 12) ÷ 14) + 3.10)
すべてリリーフとして起用

セイバーメトリクス補足:

WHIP(1イニングあたりの安打+四死球)は1.29と、リリーフ投手としてはまずまずだが、優秀とは言えない水準。K/9(9イニングあたりの奪三振)の7.71は平均的で、速球の威力に見合う空振り奪取力は物足りない。BB/9(9イニングあたりの四死球)の1.93は優秀で、
制球力がある程度安定していることを示す。FIP(守備に依存しない投手指標)は防御率(2.57)よりやや高めの3.20で、運に頼らず安定した投球ができているが、圧倒的な支配力は欠ける。

ストレート:145~150キロ 
☆☆☆★(3.5)

 ミットにズバンと突き刺さるような
ボールの勢いと球威は水準以上。ただし、細かいコースの投げ分けはなく、ストライクゾーン内に力強く投げ込む荒々しいスタイルが特徴。セイバーメトリクス視点では、K/9が7.71にとどまることから、速球の「見逃し三振」や「空振り」を誘う力がプロの打者相手では限定的かもしれない。

横変化:
☆☆(2.0)

 都市対抗での投球を見る限り、スライダーなど横に変化する球はほとんど確認できなかった。横変化の少なさは、打者の目線を左右に揺さぶる能力が不足していることを示唆し、プロの打者が速球を絞りやすくなるリスクがある。

縦変化:
☆☆☆(3.0)

 縦の変化球は縦スライダー、フォーク、チェンジアップのいずれか不明だが、明確な特徴は見られない。空振りを誘うよりも、速球とのスピード差で打者を揺さぶる役割が強い印象。セイバーメトリクスでは、K/9の低さから、この縦変化球が空振りを誘う決め球として機能していない可能性が高い。速球とのコンビネーションで打者を翻弄しているが、プロレベルでは決め球の強化が必要。

緩急:


 緩い球は確認できず。速球と変化球の球速差で打者の的を絞らせない狙いがある。緩急の欠如は、打者が速球のタイミングに慣れやすくなるリスクを示す。セイバーメトリクス的に、ピッチトンネリング(投球軌道の類似性)が不足している可能性があり、打者に球種を早めに見極められる懸念がある。

その他:
☆☆☆(3.0)

 クイックタイムは1.0~1.1秒程度でまずまず。走者への目配せも怠らない。フィールディングの反応も良く、大学時代に二刀流を経験しただけあって動きは悪くない。ただし、投球術は野手出身のような粗さがあり、力で押すスタイルが目立つ。セイバーメトリクス視点では、低いBB/9(1.93)がクイックや牽制の意識の高さを裏付け、走者への対応力は一定の評価を得る。ただし、投球術の粗さが打者のタイミングを崩す工夫の不足につながり、被安打数の多さ(15安打/14イニング)に影響している可能性がある。

投球のまとめ

 速球の威力は魅力だが、変化球に絶対的なものはなく、プロの打者相手では粘られたり、じっくり見られた際にどうなるかが懸念される。セイバーメトリクス的に、WHIP(1.29)とFIP(3.20)はリリーフとして標準的だが、K/9(7.71)の低さが示すように、プロの打者に対する
「決め球」の不足が課題。防御率(2.57)がFIPより低い点は、守備や運に助けられている可能性を示唆する。今後、投球の改善が見込めるか、フォーム分析を通じて考えてみたい。





投球フォーム

 ノーワインドアップから始動し、足の引き上げは控えめ。リリーフ投手としてはフォームの入りが非常に静か。軸足一本で立つ際、膝から上がピンと伸びがちで、全体のバランスは優れているとは言えない。

広がる可能性:
☆☆★(2.5)

 引き上げた足が地面に伸びがちで、お尻の一塁側への落としが甘い。そのため、体を捻り出すスペースが十分ではなく、カーブやフォークなどの変化球は投げられてもその変化は鈍い傾向にある。着地までの地面の捉え方は平均的で、体を捻り出す時間も標準程度。大きな変化よりも、球速のある小さな変化を中心に投球の幅を広げる方向性が予想される。セイバーメトリクス視点では、変化球の少なさがK/9の低さ(7.71)や横変化の弱さに直結しており、フォーム改善による変化球の強化が急務。

ボールの支配:
☆★(1.5)

 グラブをしっかり抱えられず、遠心力が外に逃げるため、軸がブレやすく両サイドのコントロールが難しい。足の甲での地面の捉えも浮きがちで、力を込めるとボールが上ずりやすい。「球持ち」も優れているとは言えず、指先の感覚もややアバウト。BB/9(1.93)の低さは、フォームの課題を補うアバウトな制球力があることを示すが、プロレベルでは細かいコースへの投げ分けが求められるため、制球の改善が必要。

故障のリスク:
☆☆(2.0)

 お尻の落としが甘い中で縦変化球を多用しており、肘への負担が懸念される。腕を低い位置から急に高く引き上げる動作は肩への負担が大きく、力投派ゆえに疲労が溜まりやすい可能性がある。セイバーメトリクスでは、投球回数が少ない(14イニング)ため故障リスクのデータは限定的だが、フォームの負担が大きい点は長期的な耐久性に影響する可能性が高い。

実戦的な術:
☆☆★(2.5)

 着地までの粘りは平均的で、ボールの出どころがやや早い。そのため、ボールの勢いほど打者に脅威を与えていない可能性がある。腕は強く振れているが、開きが早いため打者がタイミングを合わせにくいとは言えない。体重がボールに十分に乗っていないため、打者の手元での勢いも限定的。

 セイバーメトリクス視点では、被安打率(15安打/14イニング)の高さが、ボールの出どころの早さやピッチトンネリングの不足を反映している可能性がある。打者が速球を捉えやすいフォームの課題が、WHIP(1.29)の高さに繋がっている。

フォームのまとめ

 「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の4大動作すべてに課題が残る。制球を司る動作に難があるが、実際の四死球は多くない(BB/9:1.93)ため、アバウトな投球でも問題ない可能性がある。ただし、体への負担は大きく、ケアが必要。将来的に武器となる変化球を見出しにくいフォームのため、
どのように打者を仕留める球を確立するかが鍵となる。セイバーメトリクス的に、K/9の向上(変化球の強化)やWHIPの改善(被安打の抑制)が求められるが、現在のフォームではその実現が難しい可能性がある。


最後に

 実際のパフォーマンスはリリーフとしてボーダーライン上といった内容(防御率2.57、WHIP1.29)。フォーム分析からはリスクの高い素材とも言える。セイバーメトリクスでは、FIP(3.20)が防御率より高く、運に頼った面があることを示唆。K/9(7.71)の低さがプロでの支配力不足を露呈している。育成枠のある独立リーグなら指名の可能性はあるが、支配下での指名に踏み切る球団は限られるだろう。そのため、
(支配下級)の評価にまでは至らなかった。


(2025年 都市対抗)