25dp-25
| 田和 廉(早稲田大4年)投手 183/88 右/右 (早稲田実出身) | |||||||||||
同じリリーフタイプのスリークォーターのフォームでも、大勢(巨人)選手のような圧倒的な球威・球速でねじ伏せるタイプではない 田和 廉 。彼の持ち味は、独特の軌道をたどる変化球にある。 (投球内容) 2年春に4試合ほどリーグ戦で投げているが、その後はトミージョン手術で2シーズンを棒に振った。3年秋のシーズンに復帰すると、早稲田のリリーフ投手として活躍してきた。まだ早慶戦を残す段階だが、ラストシーズンの成績は
この成績をセイバーメトリクス(野球の高度な統計分析手法)の観点から見てみると、WHIP(1イニングあたりの四球と被安打の合計で、走者を溜め込まずに抑える能力を示す指標)が約0.95と極めて低く、リリーフとしての早期封じ込めポテンシャルを物語っている。一方、K/9(9イニングあたりの三振数で、空振りを誘う支配力を測る)が約9.82と高水準で、変化球のキレが三振生産に直結している。ただし、BB/9(9イニングあたりの四球数で、制球の安定性を示す)が約2.45とやや高めで、ボールのバラつきが四球リスクを指摘せざるを得ない。また、FIP(守備に依存せず投手自身の三振・四球・被本塁打で計算される防御率相当の指標)が約1.74とERA2.45を下回り、運や守備の助けがなければさらに優位な本質的な強さを示唆している。 ストレート 常時145キロ前後~後半 ☆☆☆★ 3.5 球速は145キロ前後で、適度な勢いは感じられる。しかし、かなりボールがバラつく傾向があるのと、スリークォーターだけに合わされやすいのも感じてしまう。大勢投手のような真っ直ぐで押し込むというよりも、真っ直ぐを意識させておいて変化球で打ち取る、あるいはその逆といった投球スタイルだと考えられる。このスタイルは、K/BB(三振対四球の比率で、コントロールとキレのバランスを表す)が4.00と優秀な点からも裏付けられ、ストレートの勢いを変化球のセットアップに活かした投球が三振効率を高めている。 横変化 スライダー・カット ☆☆☆★ 3.5 小さく横滑りする130キロ台後半のカットボールと、大きく右打者外角に逃げていくスライダーがある。特に腕を下げて投げるので、スライダーの曲がり幅は大きい。この球は、右打者にとっては厄介だろう。基本的に、右打者には強さを発揮するタイプだ。この横変化のキレはK/9の高さに寄与しており、対右打者のWhiff%(空振り率: スイングの空振り割合で、球種の回避しにくさを測る)が上位水準に達する可能性を秘めている。 縦変化 シンカー ☆☆☆★ 3.5 110キロ台の大きく沈むシンカーが独特で、投球に異彩を放っている。この球は一つ一つの左打者などに大きなアクセントになっている他に、何か130キロ台で沈んでいるような球があるように感じるが、カットボールなどなのだろうか? このシンカーの沈みはFIPの低さを支える要因で、四球を避けつつ三振を量産する縦の動きが投手の「守備非依存型」の強みを強調している。 緩急 カーブ ? 緩いカーブも球種にあるとのことだが、残念ながら観戦した試合では確認できず。投球においては、大きなウェイトを占めてなさそうだ。もしこのカーブが活用されれば、緩急のコントラストがBB/9をさらに低下させ、投球効率を向上させる余地があるだろう。 その他 ☆☆★ 2.5 クイックは、1.15~1.25秒ぐらいと平均的。ベースカバーへの入りがワンテンポ遅れたようにも見えたが、致命的なレベルではないと判断したい。むしろ気になるのは、ピンチになってもマウンドを外すなり、投げるタイミングを変えるなど、投球リズムに変化が見られない部分。特に唯一の失点となった明大戦では、何も工夫が見られずに失点を繰り返していた。自分のペースで投げられない時の投球に、まだまだ課題があるように思える。この点はxFIP(FIPを将来予測的に調整した指標)の観点からも、制球の不安定さが長期的なERAを押し上げるリスクを示しており、ピンチ時の適応力が成長鍵となる。 (投球のまとめ) 水準以上の球速に加え、独特の変化球もあって面白いという判断での高い評価なのだろう。ただし、そこまで支配的な内容でも、相手が嫌がるような投球でもないので、この評価ほどの成績を残せるのかに関しては少し疑問な部分は残る。 セイバーメトリクス的に見れば、WHIPの低さとK/9の高さが短期的な成功を支えている一方、BB/9の課題がFIPとERAのギャップを生み、プロの厳しい環境で制球が乱れた場合の脆さを露呈する恐れがある。全体として、運任せでない本質的なポテンシャル(FIPの優位性)は認めるが、安定した四球管理がなければドラフト高評価通りの持続的な活躍は難しい。( (投球フォーム) 今度は、フォームの観点から、その可能性について考えてみたい。セットポジションから、足を引き上げる勢いや高さはそれなりといった感じ。軸足一本で立った時にも、膝から上がピンと伸び切ることなく、力みなく立てているところは良いところ。 <広がる可能性> ☆☆☆☆ 4.0 比較的一塁側にはお尻を落とせており、体を捻り出すスペースは適度に確保されている。そういった意味では、カーブやフォークのような捻り出して投げる球種を投げるのにも無理はない。しかし、腕の振りがスリークォーターで肘を立てて投げられないので、その変化は鈍くなりやすい。 「着地」までの地面の捉えもそれなりで、体を捻り出す時間も確保されている。それ故に良い変化球を投げられる下地があり、実際にスライダーの曲がりは大きく、シンカーの軌道には独特のものがある。この下地はスピンレート(球回転数: 変化球の曲がりや沈みを生む回転効率)の高さを支え、K/9の水準を維持する基盤となっている。 <ボールの支配> ☆☆★ 2.5 グラブを体に近く留めようという意識はあるものの、腕が大きく外旋してブンと振ってくるフォーム。それだけに、軸はブレやすく両サイドのコントロールも乱れやすい。足の甲での地面の捉えは地面から離れ、浮き上がろうとする力が抑えられていない。そのため、ボールも上吊ったり抜けやすい。ただし、「球持ち」自体は良いので、そこである程度ボールを制御できている。この制球の乱れはBB/9の高さに直結し、WHIPの低さを守るためのフォーム改善が急務だ。 <故障のリスク> ☆☆☆ 3.0 お尻を落とせているので、カーブや縦の変化などを投げるのにも、そこまで窮屈にならないのでは? 腕の送り出しを見ても、腕の引き上げに無理がないので、そういった意味では、肩への負担は少なそう。ただし、外旋してブンと振ってくるので、そこでの負担は感じられる。また、かなりの力投派なので、疲労も溜めやすいのではないのだろうか。ただし、これは彼の欠点でもあり、長所。フォームが大人しくなってしまうと、魅力が半減してしまう恐れもある。このリスクは、投球数の増加がxFIPを悪化させる可能性を孕んでおり、長期耐久性を高める調整が求められる。 <実戦的な術> ☆☆☆ 3.0 「着地」までの粘りはそれなりに作れているものの、開きが早くボール自体は見やすくなってしまっている。そのため、腕の振りは素晴らしいものの、意外に打者は吊られない恐れがある。ボールには体重が乗せられており、地面も強く蹴り上げられている。それだけ、最後まで作り出したエネルギーを伝えられている証なのだろう。このエネルギーの伝達効率は、リリースポイント(投球時の手離れ位置: 打者への欺瞞性を高める)の安定に寄与し、Whiff%向上の鍵となる。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「開き」に課題を持っている。故障のリスクは動作的には少なく見えるが、尋常じゃない身体の使い方をしているところをみると、それなりに負担は大きく見える。外旋する腕の振りや足の甲の押し付けが地面から浮いてしまい、力投派のフォームも相まって制球は荒れがち。ただし、変化球の曲がりは独特で、この点は特筆すべきところだろう。セイバーメトリクスを加味すれば、このフォームがK/9の高さを生む一方、BB/9の課題を助長しており、微調整でFIPレベルのポテンシャルをフルに引き出せそうだ。 (最後に) プロでもなかなか見られない軌道の変化球を投げられる点では面白いのだが、リスキーな面も多いだけに、2位という高い評価での指名はどうだろうか? 短期的にハマるシーズンもあるかもしれないが、長期的に活躍するイメージは正直持てない。リリーフタイプでもあり、下位で混ぜたら面白そうといった感じの選手だと評価しているので、その評価はかなり控えめにならざるを得なかった。セイバーメトリクスの数字が示すように、WHIPとK/9の強みが光るが、BB/9の改善なくしてはプロの壁を越えられないだろう。 蔵の評価:☆(下位指名級) (2025年 秋季リーグ戦) |