24kp-5
冨士 大和(大宮東2年) 投手 184/75 左/左 | |
2年夏の埼玉大会・慶應志木戦では、17奪三振を奪い一躍名の知れた 冨士 大和 。秋の大会では、聖望学園相手に19奪三振を奪うなど、その勢いは止まらない。 (投球内容) スリークォーターからの腕の振りから投げ込む変則気味のフォームながら、切れ味鋭い球で三振の山を築く。昨夏の山村国際との試合をもとに、今回はレポートを作成してみたい。 ストレート 135キロ~後半 ☆☆☆☆ 4.0 球速こそ135キロ強ぐらいなのだが、尋常じゃないボールのキレで三振の山を築きます。強豪校の選手でも、高めの明らかなボール球でも手を出してしまうほど。それでいて、もっと荒れ荒れの投手かと思いきや、安定して右打者の外角に集められるコントロールもある。左打者にも外角中心の配球だが、意図して高めの吊り球を使ってくるなど、意外にいろいろ考えて投球を組み立てられていることに驚かされた。 変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブなど ☆☆☆★ 3.5 真っ直ぐ中心の配球で、それほど左打者に逃げてゆくスライダーを多く使って来るわけではありません。むしろ、チェンジアップケ系の球を多く織り交ぜ、時々もっと緩いカーブのような球を使ってきます。秋季大会では、そのチェンジアップ系の球が100キロ台で変化しており、一度浮き上がら沈むような球を結構使っていて、これはチェンジアップというよりも、むしろカーブに近い球速のパームボールのような球なのだろうか? この球を意図して使っているとすれば、投球の幅も広がってきているように思える。 その他 牽制は、適度に「間」を外す感じで、走者を刺そうといった感じのものではなかった。走者に対する目配せはしっかりできていたが、クィックは 1.3秒台と遅めなのは気になった。左腕でしっかり走者に注意を払っているので、スタートが切られ難いと考えているからだろうか? それでも、走者を置いてからも冷静に打者に対峙できていた。 (投球のまとめ) 元々荒れ荒れの制球で、打たれ出すと一辺倒になる投手かなと思っていたが、そんなことはなかった。しっかりボールを意図したところに配球し、ピンチでも冷静に、さらに変化球の増え、秋には幅も広げてきていた。本格派でもなく、球速が際立つわけではないので上位指名とか評価され難いが、なかなか初見の高校生が攻略するのは困難なタイプではないのだろうか。 (投球フォーム) 今度は、フォームの観点から考えてみたい。フォームは、秋季大会のものを参考にさせて頂いた。セットポジションから、比較的静かに足を引き上げてゆきます。ただし、かなり高い位置まで引き上げます。軸足一本で立った時には、膝はピンと伸びがち。それでも、全体的にはバランス良く立てていました。 <広がる可能性> ☆☆☆☆ 4.0 高い位置で足をピンと伸ばすので、お尻は三塁側(左投手の場合)に落とすことができています。また、「着地」までも地面に着きそうなところから一伸びすることで、体を捻り出す時間を確保できています。そのため、曲がりの大きな変化球の習得も期待できるのではないのでしょうか。今は速球中心の配球ですが、将来的には変化球も楽しみな投手ではあります。 <ボールの支配> ☆☆☆☆ 4.0 グラブは最後まで体の近くにあるものの、最後少し後ろに抜けてしまいがち。それでも軸は見た目ほどブレていないのか? 両サイドの投げわけはできているので、その点はあまり気にしなくても好いのかかも。 足の甲のでの地面の捉えも、地面を捉えているように見えるので、浮き上がろうとする力を抑えることはできているようです。それほど低めに決まるといったイメージはないのですが、特に高めに抜けている球は多くはありません。むしろ、意図的に高めの速球で空振りを狙いゆくことがあるぐらい。「球持ち」も思ったよりも良く、けして球離れが早い粗っぽいリリースではありませんでした。 <故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5 お尻はしっかり落とせているので、カーブやフォークなどの球種を投げようとしても無理は感じませんし、スリークォーターの腕の振りからあまり縦の変化をといったフォームではないのかもしれませんが。 腕の送り出しにも、無理は感じられません。そういった意味では、肩への負担も大きくはないのでは? 多少力投派のフォームなので、疲労は溜まりやすいかもしれません。 <実戦的な術> ☆☆☆☆ 4.0 「着地」までの粘りがあり、なかなかボールが出てこない感じなのでは? ボールの出処も隠せていますし、見えてからは一瞬でボールが到達するような感覚なのかもしれません。 腕の振りも好いので、打者としては吊られやすい。この腕の振りと出処が隠せていることで、驚異的な奪三振を実現できています。特に秋になってからか? 球持ちが良くなり、ある程度体重を乗せてからリリースできつつあるようになります。夏までは切れ味勝負といった感じだったのですが、秋の真っ直ぐには球威も加わってきているように感じます。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、大きな欠点は見当たりません。特に「着地」や「開き」に優れていたフォームだったのですが、この秋は「球持ち」や「体重移動」の部分にも磨きがかかってきているのかもしれません。思った以上に制球を司る動作も良く、故障のリスクも高くありません。それでいて、好い変化球を習得できる下地があります。ただし、スリークォーター系故に縦の鋭い変化は望み難いものの、この独特の球筋ゆえのメリットの方が大きいそうです。想像以上に実戦的なフォームであり、正直驚いています。 (最後に) スリークォーター系の変則気味なフォームや、秋の時点では垢抜けた球速はありませんでした。それでも、どの試合でも破格の奪三振を奪える能力は図抜けており、非常に面白い存在です。上位指名され難いタイプだとは思いますが、最終学年で何処まで突き抜けて行けるのか? 春から、ぜひその成長を確認しに行きたい投手です。 (2023年秋 埼玉大会) |