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冨士 大和(大宮東3年) 投手 186/78 左/左 





 「結構まだ粗い」





 独特のフォームから、切れ味抜群の球を投げる 冨士 大和 。そのボールのキレや変則フォームに目が奪われてしまい、私自身少し冷静な判断ができていなかったと反省させられた。


(投球内容)

 最後の夏は、4回戦で甲子園に出場した山村学園に敗れ最後の夏を終えました。

ストレート 135キロ~140キロ前半 
☆☆☆ 3.0

 
変則的なフォームでタイミングがとり難いだけでなく、切れ味抜群のボールを投げ込んできます。その一方で、かなりボールのバラツキは顕著であり、まだまだ制球が不安定な部分があるのも確か。キレこそ素晴らしいのですが、球威や球速という意味では、ドラフト候補としてもやや劣るぐらいといった感じがします。それでも、並の高校生では容易には捉えることはできません。

変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップなど 
☆☆★ 2.5

 スライダーは、うまく制御できずストライクが取れていないことが少なくありませんでした。ちょっとカーブと見極めが難しいのですが、
一度浮き上がって沈むような、独特のチェンジアップがあります。ただ、この球の精度というのはそれほどなく、結局真っ直ぐ頼みの投球になりがちです。この球が、うまく制御できるようになると、ピッチングに余裕が生まれてきそうです。真っ直ぐを捉えられることは少なく、打たれるのは甘く入った変化球であることが多いといった印象を受けました。

その他

 基本的に、クィックは使ってきません。その代わり、左腕らしく
投球モーションとの見極めが難しい牽制を多く混ぜてきます。面白いのは、左投手ながら二塁牽制でも走者を刺していたことでしょうか。まだ細かい駆け引きだとか、微妙な出し入れをできるような余裕は無さそうです。

(投球のまとめ)

 変則を活かした打ち難さと、容易には捉えられない真っ直ぐは健在でした。ただ、下記に記した下級生の時よりも内容が劣化したというよりも、、評価を修正したことで各点数や評価が昨年よりも厳しくなったという感じでしょうか。
唯一無二の投球フォームと真っ直ぐのキレは評価できますが、まだまだ総合力には課題の多い選手でした。


(成績から考える)

 僅か2試合分のサンプルではあるが、その傾向から考えてみたい。この夏は、
15回 8安 3四死 18三 防 1.80 といった内容でした。

1,被安打は投球回数の70%以下 ◎

 15イニングで8安打ということで、被安打率は 53.3% と極めて低いです。やはり、この変則フォームからタイミングが取りづらいこと。想像以上に、真っ直ぐがキレてくることで、被安打は少なくなっている。特にヒットの多くは、真っ直ぐではなく、甘くなった変化球だった。

2,四死球は、投球回数の1/3(33.3%)以下 ◎

 かなり真っ直ぐも暴れるし、変化球でしっかりカウントがと整えられないことが多いのに、四死球率は 20.0% という少なさに驚いた。ただし、試合を観る限り、本当のコントロールが無さそうなので、プロに入っても四死球率の低さを維持できるのかには懐疑的な見方はしている。

3,奪三振は1イニングあたり 0.9個以上 ◎

 投球回数を上回る奪三振を奪えており、1イニングあたり 1.20個と基準を大きく上回っている。

4,防御率は、1点台以内 ◯

 防御率は 1.80 と、一応基準を満たしている。ただし、その数字は絶対的ではない。

(成績からわかること)

 被安打率の低さと奪三振率の高さは、実際見ていてもわかる。しかし、制球力に関しては、プロでも高いものを示せるかは微妙な気がする。成績的には圧倒的な数字が並ぶが、防御率が示す通り実際の投球では、そこまで絶対的な存在になりえていないように見えた。


(最後に)

 
プロでもいないタイプの変則左腕であり、チームに加えてみたいと思わせるものがある。その一方で、まだまだ制球力や変化球の精度含めて物足りない部分もあり、育成枠での評価は妥当だった気がする。昨年みた時は、非常に面白い素材だと思ったものの、最終学年での内容をみると、 をつけるほどではないのかなといった印象を受けた。果たして、超個性派のこの投手が、プロでどのような成績を残して行くのか興味深く見守ってゆきたい。育成枠でならば、非常に興味深い存在ではないのだろうか。


(2024年夏 埼玉大会)









冨士 大和(大宮東2年) 投手 184/75 左/左
 




 「キレが凄い」





 2年夏の埼玉大会・慶應志木戦では、17奪三振を奪い一躍名の知れた 冨士 大和 。秋の大会では、聖望学園相手に19奪三振を奪うなど、その勢いは止まらない。


(投球内容)

 
スリークォーターからの腕の振りから投げ込む変則気味のフォームながら、切れ味鋭い球で三振の山を築く。昨夏の山村国際との試合をもとに、今回はレポートを作成してみたい。

ストレート 135キロ~後半 
☆☆☆☆ 4.0

 球速こそ135キロ強ぐらいなのだが、
尋常じゃないボールのキレで三振の山を築きます。強豪校の選手でも、高めの明らかなボール球でも手を出してしまうほど。それでいて、もっと荒れ荒れの投手かと思いきや、安定して右打者の外角に集められるコントロールもある。左打者にも外角中心の配球だが、意図して高めの吊り球を使ってくるなど、意外にいろいろ考えて投球を組み立てられていることに驚かされた。

変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブなど 
☆☆☆★ 3.5

 真っ直ぐ中心の配球で、それほど左打者に逃げてゆくスライダーを多く使って来るわけではありません。むしろ、
チェンジアップケ系の球を多く織り交ぜ、時々もっと緩いカーブのような球を使ってきます。秋季大会では、そのチェンジアップ系の球が100キロ台で変化しており、一度浮き上がら沈むような球を結構使っていて、これはチェンジアップというよりも、むしろカーブに近い球速のパームボールのような球なのだろうか? この球を意図して使っているとすれば、投球の幅も広がってきているように思える。

その他

 牽制は、適度に「間」を外す感じで、走者を刺そうといった感じのものではなかった。走者に対する目配せはしっかりできていたが、クィックは 
1.3秒台と遅めなのは気になった。左腕でしっかり走者に注意を払っているので、スタートが切られ難いと考えているからだろうか? それでも、走者を置いてからも冷静に打者に対峙できていた。

(投球のまとめ)

 元々荒れ荒れの制球で、打たれ出すと一辺倒になる投手かなと思っていたが、そんなことはなかった。しっかりボールを意図したところに配球し、ピンチでも冷静に、さらに変化球の増え、秋には幅も広げてきていた。本格派でもなく、球速が際立つわけではないので上位指名とか評価され難いが、なかなか初見の高校生が攻略するのは困難なタイプではないのだろうか。






(投球フォーム)

 今度は、フォームの観点から考えてみたい。フォームは、秋季大会のものを参考にさせて頂いた。セットポジションから、比較的静かに足を引き上げてゆきます。ただし、かなり高い位置まで引き上げます。軸足一本で立った時には、膝はピンと伸びがち。それでも、全体的にはバランス良く立てていました。

<広がる可能性> 
☆☆☆☆ 4.0

 高い位置で足をピンと伸ばすので、お尻は三塁側(左投手の場合)に落とすことができています。また、「着地」までも地面に着きそうなところから一伸びすることで、体を捻り出す時間を確保できています。そのため、曲がりの大きな変化球の習得も期待できるのではないのでしょうか。今は速球中心の配球ですが、将来的には変化球も楽しみな投手ではあります。

<ボールの支配> 
☆☆☆☆ 4.0

 グラブは最後まで体の近くにあるものの、最後少し後ろに抜けてしまいがち。それでも軸は見た目ほどブレていないのか? 両サイドの投げわけはできているので、その点はあまり気にしなくても好いのかかも。

 足の甲のでの地面の捉えも、地面を捉えているように見えるので、浮き上がろうとする力を抑えることはできているようです。それほど低めに決まるといったイメージはないのですが、特に高めに抜けている球は多くはありません。むしろ、
意図的に高めの速球で空振りを狙いゆくことがあるぐらい。「球持ち」も思ったよりも良く、けして球離れが早い粗っぽいリリースではありませんでした。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻はしっかり落とせているので、カーブやフォークなどの球種を投げようとしても無理は感じませんし、スリークォーターの腕の振りからあまり縦の変化をといったフォームではないのかもしれませんが。

 腕の送り出しにも、無理は感じられません。そういった意味では、肩への負担も大きくはないのでは? 多少力投派のフォームなので、疲労は溜まりやすいかもしれません。

<実戦的な術> 
☆☆☆☆ 4.0

 「着地」までの粘りがあり、
なかなかボールが出てこない感じなのでは? ボールの出処も隠せていますし、見えてからは一瞬でボールが到達するような感覚なのかもしれません。

 腕の振りも好いので、打者としては吊られやすい。この
腕の振りと出処が隠せていることで、驚異的な奪三振を実現できています。特に秋になってからか? 球持ちが良くなり、ある程度体重を乗せてからリリースできつつあるようになります。夏までは切れ味勝負といった感じだったのですが、秋の真っ直ぐには球威も加わってきているように感じます。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、大きな欠点は見当たりません。特に
「着地」や「開き」に優れていたフォームだったのですが、この秋は「球持ち」や「体重移動」の部分にも磨きがかかってきているのかもしれません。思った以上に制球を司る動作も良く、故障のリスクも高くありません。それでいて、好い変化球を習得できる下地があります。ただし、スリークォーター系故に縦の鋭い変化は望み難いものの、この独特の球筋ゆえのメリットの方が大きいそうです。想像以上に実戦的なフォームであり、正直驚いています。


(最後に)

 スリークォーター系の変則気味なフォームや、秋の時点では垢抜けた球速はありませんでした。それでも、どの試合でも破格の奪三振を奪える能力は図抜けており、
非常に面白い存在です。上位指名され難いタイプだとは思いますが、最終学年で何処まで突き抜けて行けるのか? 春から、ぜひその成長を確認しに行きたい投手です。


(2023年秋 埼玉大会)