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松本 健吾(24歳・トヨタ自動車)投手 180/83 右/右 (東海大菅生-亜細亜大出身) 
 




「ピリッとしないところもあるけれど」





 昨年の日本選手権で、強豪・パナソニック相手に1安打完封勝利をした 松本 健吾 。あの時の投球を安定して出せるのであれば、1位指名も間違いないだろうといったピッチングだった。しかし、今年に入ってからはピリッとしない登板が続く。ドラフト指名後に再び訪れた、日本選手権での舞台。しかしそこでも、前年のような神ピッチングは観られなかった。


(投球内容)

 オーソドックスな右投手といった感じで、それほど
ボールやフォームに威圧感は感じられません。23年度は、時々は先発はしていたものの、都市対抗など含めて、リリーフでの起用が目立ちました。


ストレート 145キロ前後~後半 
☆☆☆★ 3.5

 適度な角度と勢いを感じさせる、145キロ前後の真っ直ぐを投げ込んできます。適度に両サイドに散らせる投げ分けができており、それほど四死球で自滅するような危うさは感じられません。ただし、結構
簡単に右打者にスコンと振り抜かれて打ち返されるのが気になります。良いところは、内角を意識的に攻めて来られるところ。

変化球 スライダー・カット・フォーク・ツーシーム・カーブなど 
☆☆☆★ 3.5

 かなり球種は多彩で、特にリリーフだとフォークだかスプリット系の沈む球を多く使ってきます。ただし、その精度・キレという意味では、そこまで絶対的なものはありません。ツーシームやカットなど、小さく動かす球も多く使ってきています。基本的に真っ直ぐが合わされやすいので、多彩な球種を駆使して的を絞られないようにしているのだと考えられます。

その他

 クィックは、1.0秒前後~1.05秒前後と高速で、フィールディングも素早く反応してうまそうです。昨年は、ベースカバーに遅れる場面も観られましたが、そういったところもだいぶ改善されているのでは? 牽制も鋭いものがありますし、走者を出しても落ち着いて投げ込んできます。

(投球のまとめ)

 昨年の日本選手権の登板が出来すぎだったとみるか、上手く導けばそういった投球が安定して出せるようになるのかは難しい判断です。ただし、今年の内容をみる限りは、やっぱりあれば出来過ぎだったのかな?と思えなくはありません。ボールが苦になく合わせられるところなどをみると、ちょっと昨年の 吉村 貢司郎(東芝)と重なる部分があります。



(成績から考える)

 23年度の公式戦の成績は、
29回2/3 29安 9四死 20三 防 2.43 。この数字をどうみるべきなのか? 考えてみたい。

1,被安打は投球回数の80%以下 ✕

 被安打率は、投球回数とほぼ同数の 97.8% 。一軍を意識するのであれば、これを80%台、一軍定着を狙うならば、これを70%台で圧倒したいところ。上記で述べたように、試合の中で簡単に打ち返されるといった懸念を、数字の上からでも裏付けられた。

2,四死球は投球回数の1/3(33.3%)以下 ❍

 四死球率は、30.3% と基準を満たしている。それほど繊細なコントロールがある感じはしないが、打者の内角を厳しく突いたり、四死球で自滅するような危うさは感じられなかった。

3,三振は1イニングあたり0.9個以上 ✕

 1イニングあたりの奪三振は、0.67個 と平均的。縦の変化を積極的に使ってくる割に、それほど三振が多いわけではない。三振が少ないと、出塁させたランナーを得点に結びつけてしまうケースが増えてしまう。特に、被安打が多めの投手だけに。

4,防御率は2点台 ❍

 社会人であれば、先発ならば2点台、リリーフならば 2.50以内 ぐらいの防御率を求めたい(独立や大学生なら1点台)。そういった意味では、この基準はクリアできている。

(成績からわかること)

 球速もあって球種が多彩でも、被安打の多さや三振の少なさから、
ボールの威力という意味ではどうなのだろ?という疑問は残った。都市対抗では右打者に打たれるケースが目立ったが、データ的には 左打者には.213厘、右打者には.190厘 と、右打者を苦手としているわけではないようだ。いずれにしてもプロの一軍打者相手だと、本当に自分のピッチングを貫けるのか? あるいは、今の力で通用するのかと言われると、現状は微妙な成績といった印象を受けた。


(最後に)

 大卒社会人、それもドラフト2位での指名を考えれば、オープン戦や開幕してからも、積極的に起用の機会は与えられそう。ただし、その中で結果を一年目から残せて行けるかと言われると、昨年のハイレベルな社会人投手達でも苦労している現状を考えると、厳しいのではないかとみてしまう。ただし、昨年の日本選手権に近いパフォーマンスを、安定して出せるようであれば、一年目からローテーションに定着、そして二桁をも残しても不思議ではない。その辺、どうなるのか? 興味深く見守って行きたい。


蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


(2023年 日本選手権)









 松本 健吾(23歳・トヨタ自動車)投手 179/76 右/右 (東海大菅生-亜細亜大出身)





 「いつもできれば」





 日本選手権・パナソニック戦では、1安打・完封勝利をするなど、見事な投球を魅せた 松本 健吾。 このような投球がいつもできるのであれば、開幕ローテーション入りして、一年目から二桁前後の勝ち星を期待しても良いのではないかと思える内容だった。


(投球内容)

 しかし、昨年1年間の公式戦の模様をみると、この試合が特別良かった可能性も高い。昨年の通算成績は、40回2/3 46安 10四死 30三 防 3.54 と、圧倒的な内容ではなかった。

ストレート 140キロ台後半~152キロ ☆☆☆★ 3.5

 大阪ドームのガンは、常時2~3キロ速い印象があるので、この球速は多少割り引いて考えている。実際は適度に勢いは感じられるものの、真っすぐの威力としては、そこまで圧倒的なものはない。通算成績でも、投球回数を上回る被安打を浴びていることからも、球速よりも合わされやすい傾向があるようだ。

 ただし、このパナソニックす戦の投球を観ている限り、内外角・それも比較的安定した真ん中~低めの高さに集まっており、真っ直ぐのコマンド力は高い。意図的に内角を厳しく突くなど、実戦力はかなり高い。

変化球 スライダー・カット・スプリット・ツーシーム? ☆☆☆★ 3.5

 120キロ前後のスライダーや140キロ前後のカットボールなどでカウントを整えたり、右打者の内角にもツーシーム的に、少しシュート回転させているのかもしれない。更に、高速で沈むスプリットを使ってきて、球速のある小さな変化を多く織り交ぜてくる。

 絶対的な球は持っていないが、いろいろな変化を投球の中に織り交ぜ、試合を組み立てられている。40回2/3イニングで30三振と、1イニングあたり0.7個と、けして三振をバシバシ奪ってくる投球スタイルではない。

その他

 クィックは、1.05~1.15秒ぐらいとまずまず。牽制も適度に鋭く、走者を刺す場面もみられた。ベースカバーがちょっと遅れ気味なのかなというのは気になったが、ボールも適度に長く持ったりとそういった意識も感じられる。狙ったところに投げられる制球力があるので、きっちり意図した配球を可能にしている。

(投球のまとめ)

 シーズン最後の試合で神ピッチングを魅せたので、これがいつもできることなのか、それとも成長してきたのかの判断は難しい。そのためにも、シーズンに入ってからの安定したパフォーマンスに注意する必要があるのではないのだろうか。ただし、パナソニック戦での投球を見る限り、投球術・制球力・ボールの威力含めて、ここまで完成度の高い大学生はいない。そういった意味では、さすが社会人と思わせてくれる大人のピッチングだった。





(投球フォーム)

 今度は、フォームの観点から、その可能性について考えてみたい。セットポジションから、足を引き上げる勢いを高さはあります、そのため意外にフォームの入りはリリーフ投手のような感じです(実際の投球はそんなことはないのですが)。また、軸足一本で立った時には、膝に余裕があり適度なバランスも保てて立てています。

<広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5

 引き上げた足を地面に向けて伸ばしているので、お尻の落としは甘めです。しかし、その後深く一塁側に落ちてゆくので、カーブやフォークのような捻り出して投げる球種も、投げられないことはないと考えます。

 前に足を適度に逃し、「着地」までの地面の捉えはそれなりです。したがって、曲がりの大きな変化球の習得も可能だと思うので、いろいろな球を駆使して、投球の幅は広げて行けるのではないのでしょうか。ただし、上記の理由から、フォークなどの縦の変化が絶対的な武器になれるかは微妙です。

<ボールの支配> ☆☆★ 2.5

 グラブは抱えておらず、最後解けてしまっています。そういった意味では、軸がブレやすい恐れはあります。しかし、日本選手権の投球を見る限り、かなり両サイドにしっかり投げ分けられていました。そのため、そこまで気にしなくても、良いのかもしれません。

 足の甲の地面の捉えも浅く、浮き上がる力を抑え込めています。それでも、ボールもそれほど高めに集まったり抜けたりしないので、その点もそこまで気にすることが無さそう。このへんの動作をきっちりしなくてもボールが操れているのは、「球持ち」が良く指先までしっかり力を伝って修正できるからではないのだろうか。ただし、制球を乱しやすい動作をしているという不安はつきまとう。

<故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5

 お尻はある程度落とせている上に、それほどカーブを投げたり、フォークを投げて来ないので、そこまで窮屈になる機会も少ないだろう。縦の変化も、握りの浅いスプリットやツーシーム気味なので。ボールの送り出しにも無理は感じられず、肩への負担も少なそう。けして力投派というほどでもないので、疲労を溜めやすいというほどでは無さそうだ。

<実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5

 腕は強く振れていて、投げ終わったあと体に絡んでくる。したがって打者は吊られそうだが、ボールの見やすさが平均的なので、意外に吊られてくれないのかもしれない。ボールにも適度に体重を乗せてから投げられているようで、もっとウェートが増えれば、さらに打者の手元まで力のあるボールが投げ込めそうだ。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」に優れ、あとの部分も平均的なレベルには保てている。ただし、実際の成績などを観ていると、打者からは意外に合わせやすいのかなといった印象は受けています。

 制球を司る動作には不安が残るものの、実際の投球では制球が良いのでその点はあまり気にしなくても良さそう。故障のリスクもそれほど高そうもないし、投球の幅も広げて行けそうなフォームだけに、比較的実戦的な技術の持ち主だと評価できるのではないのだろうか。


(最後に)

 日本選手権での投球は、大学生にはない「大人ピッチング」を魅せてくれました。フォーム技術もけして低くは無さそうですし、このピッチングを年間通して投げられれば、開幕ローテーション入り、二桁前後の勝ち星を期待しても良いのではないかと思えるほどです。問題は、そういった高い次元でのパフォーマンスを、安定して出せるかに懸っているのではないのでしょうか。


(2022年秋 日本選手権)