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松本 凌人(名城大4年)投手 185/90 右/右 (神戸国際大付属出身) 
 




 「試行錯誤」





 独特の溜めのある変則フォームから、平塚合宿で見た時には、一連の流れの中から投げ込むオーソドックスなフォームに変わっていた 松本 凌人 。いろいろ試行錯誤しながら、自分にとって最適な形を探す日々が続いている。


(投球内容)

 防御率1点台を誇っていた成績も、今春のリーグ戦では 防 5.35 。それでも、秋の松山合宿にも選出されていただけあって、この春の平塚合宿のメンバーにも招集されていた。


ストレート 140キロ~150キロ 
☆☆☆★ 3.5

 球速的には、常時145キロ前後~150キロ級の勢いのある真っ直ぐには目を惹くものがあります。サイドから繰り出す
荒れ球で、打者としては的が絞り難いものがあります。その一方で、欲しい時にストライクが取れないという不安定さもありました。また変則でタイミングが取りづらいのもあり厄介だったのですが、フォームをオーソドックスにすることで何か嫌らしさが薄れたようにも思います。ちなみに平塚合宿でのマイガンでの最速は、90マイル(145キロ)程度とイマイチでした。

変化球 カットボール・スライダー・スプリット・シュートなど ☆☆☆☆ 4.0

 彼の良さは、
真っ直ぐと見分けのつき難い変化球とのコンビネーションにあります。特に打者の近く小さく変化するカットボールは、真っ直ぐと見分けがつきません。同様のことは、シュートやスプリットにも言えます。さらに、打者が思わず腰砕けになるような、曲がりの大きなスライダーも持っています。真っ直ぐの勢いが素晴らしいからこそ、これらの変化球がより生きることになるのでしょう。

その他

 0.9秒台の高速クィックに加え、牽制は実に鋭く、フィールディングの動きにも優れます。その一方で、微妙な出し入れや「間」を使った投球術など、そういった部分には欠け、ボールの勢いで抑えに行くタイプに見えます。

(投球のまとめ)

 ボールの勢いで押せていた下級生時代は良かったのですが、エースとして期待され先発を中心に起用されることで、
勢いが薄れ粗っぽさが目立つようになってきました。それを改善しようと、いろいろ試行錯誤をしているものの、まだまだ良い形が見つからなかった感じです。しかし、立て直しに成功すれば、非常に異色の存在なので、面白いと思います。







(成績から考える)

 この春は、
33回2/3 35安 17四死 31三 防 5.35 と、彼のキャリアの中でも最悪なシーズンでした。3年秋までの成績と比較して、今シーズン何処が悪化していたのか考えてみます。


1,被安打は投球回数の70%以下 ✕

 今シーズンの被安打数は、投球回数を上回っております。3年秋までの通算成績では、73.0% であったことを考えると、明らかに捉えやすかったことが伺えます。ただし、元々地方リーグの成績としては、70%を割っていないので圧倒的ではなかったこともわかってきました。

2,四死球は、投球回数の1/3(33.3%)以下 △

 今春の四死球率は、50.5%と悪く、制球力粗さは相変わらず。以前から制球力の粗さは気になったものの、それでも29.8%とリーグ戦では基準を満たすレベルにありました。そのため今シーズンは、フォームのバランスを根本的に崩していた疑いがあります。

3,1イニングあたりの奪三振は、0.8個以上 ◯

 1イニングの奪三振は、0.92個 。この数字は、先発の基準どころかリリーフの基準もクリアできています。ただし、下級生まででは 0.71個と以外に平凡であり、この点では
今シーズンは大きく良化していたことがわかりました。

4,防御率は1点台以内 △

 確かに今シーズンは、防 5.35 と、全然でした。それでも通算では、1.81 と基準を満たしていますし、3年春には 1.11 で最優秀防御率にも輝いています。リーグ戦では絶対的ではないものの、適度なまとまりは普段から示してきました。

(成績からわかること)

 
この春の成績は、元来の出来に比べると程遠かったことがわかります。それだけに、立て直しに成功すればプロからも高い評価がされそうなものです。秋に、そういったものを示せるかどうかが、上位指名への鍵となりそう。ちなみサイド気味なフォームのため、左打者への被打率は.302厘と高く、その一方で右打者には.185厘と低いことがわかります。左打者への投球が、課題として残ります。


(最後に)

 元々、ドラフト1位候補とも言われていたのですが、オフシーズンの寸評にも書いていたように、個人的にはそこまで高くは評価していませんでした。それは、プロでもリリーフタイプのように使い方が限定されそうだということ。それは、粗っぽいサイドハンドで、ゲームメイクできるタイプではなく、ボールの威力で勝負するタイプに思えたから。しかし、秋に上手く立て直すことができれば、大勢(巨人)投手のような存在になっても不思議ではないように思います。そのため現状は、3位前後ぐらいで評価しています。



蔵の評価:
☆☆☆(上位指名級)


(2023年 平塚合宿)









松本 凌人(名城大3年)投手 183/89 右/右 (神戸国際大附出身) 
 




「見分けがつかない」 





 松本 凌人 を生で観ていてビックリしたのは、真っ直ぐと変化球の区別が投げる時に全くつかないということにある。フォームに全く緩みのないところから、ボールが変化してくるのだ。そのため打者は、思わず腰砕けにさせられる。この衝撃は、ランディー・ジョンソンが来日した時に見た、ことごとく日本の打者達がスライダーに腰砕けにされていた時を彷彿とさせる。


(投球内容)

 独特の足の上げ下ろしをしてくるので、打者としてはタイミングを図るのが難しい。リーグ戦では、3年春に最優秀防御率を、3年秋に3位となる 1.89 の成績を残した。ただし、プロを想定するとリリーフという役割になるのではないのだろうか。

ストレート 150キロ前後 ☆☆☆☆ 4.0

 真っすぐは、かなり暴れてコントロールが良いとは言えない。その辺は、通算で 134回1/3イニングで40四死球。四死球率こそ 29.8% にとどめているが、荒れ球と言っても過言ではないだろう。ただし彼の場合、ボールが上手くストライクゾーン内に散ってくれていて、返ってこれが的を絞り難くしているという効果がある。また、真っ直ぐ自体の勢い・力強さという質の面でも悪くない。

変化球 カットボール・スプリット・スライダーなど ☆☆☆☆ 4.0

 以前はサイド特有の大きな曲がりをするスライダーを使っていたが、今は高速で小さく変化するカットボールを多く使ってカウントを整えてくる。また、左打者には小さく逃げるスプリットを多く使い、共に140キロ前後で変化するので速球との見極めが難しい。投球に緩急や奥行きは感じられないものの、初見の相手や短いイニングだと、なかなか並の打者が対応するのは厳しい。

(投球のまとめ)

 投げっぷりが良いだけでなく、いろいろ考えて配球もできているなど冷静な一年目も兼ね備える。かなりアバウトなところがあるので、欲しい時にストライクが取れない部分もあるのだろうが、短いところであれば、そういった粗が出にくいのではないのだろうか。個人的には、完全にリリーフの素材だとみている。

(投球フォーム)

 今度は、フォームの観点から考えてみたい。ただし、サイドハンドの投手は、通常のフォームとは評価の仕方が当てはまらない部分も多い。松本投手の最大の特徴は、ボールを投げるまでにあり、そこでタイミングを崩すという特徴がある。一般の選手は、本格的な投球動作の良し悪しでタイミングが合わせられるか決まるのだが、この選手の場合投げる前に大きく左右されるという傾向が強い。ゆっくりと始動し勢い良く伸び上がるが、なかなか本格的に投げ始めないフォームとなっている。

<広がる可能性> ☆☆★ 2.5

 前に倒れ込むように重心を沈めてくるサイドハンドなので、お尻はバッテリーライン上に落ちがち。そのため、カーブで緩急をつけたり、フォークのような変化には適さない投げ方ではある(そもそも腕が横から出てくるので)。

 「着地」までの地面の捉えも、やや早い感じで、体を捻り出す時間は短め。曲がりの大きな変化球をというよりは、フォームで幻惑することの方を重視している印象がある。それでも、スライダーに関してはサイド特有の大きな曲がりをしている。逆に腕の振りが強すぎて、スライダーは曲がり過ぎて制御しきれない感じがする。

<ボールの支配> ☆☆★ 2.5

 グラブは最後まで内に抱えられているので、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができている。そもそも前に倒れ込むことで制球を乱しやすい要素はあるものの、両サイドにはボールを散らすことはできている。

 足の甲での地面への押しつけが浅いので、ボールは高めに抜けたりとアバウトになりがち。また指先の感覚も、けして良い方ではないのではない感じはする。

<故障のリスク> ☆☆☆ 3.0

 お尻を落とせていないフォームでありながら、握りは浅いとはいえスプリットは結構使ってきます。しかし、スプリットでもあるので、その点はあまり気にしなくても良さそう。

 腕の送り出しは、サイドだけに肩への負担もそこまで無理な感じはしない。しかし、かなり力んで投げる力投派であり、疲労はそれなりに溜めやすいフォームではないかと感じられる。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りはやや淡白な印象はあるものの、この選手の場合投げるまでの動作でタイミングを外してくる。ボールの出どころはある程度隠せていて、いち早く地面を捉えてくる。そのため、見えないところからピュッと素早く出てくる感じで、左腕のタイミングのとり難いさに似ている。

 腕は強く振れていて勢いがあるので、打者は思わず吊られてしまう勢いはある。ただ、リーグ戦では先発も多いせいか? 134回1/3イニングで三振は96個と、1イニングあたり0.71個と意外なぐらい平凡な奪三振率。投げ終わったあと三塁側に重心が流れるなど、作り出したエネルギーをリリースに繋げられているかと言われると、体重の乗り具合含めて、しっかりでてきるとは言えない。ただし、この選手の場合は、むしろそのフォーム故に、癖のある球を投げているので、今のままでよいのではないのだろうか。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」という観点では、「開き」以外はあまり良いとは言えない。ただし、この辺が上手投げとサイドの違いであり、素直に当てはめられない。制球を司る動作も、故障のリスクも並ぐらい。投球の幅が広げられるのか? といった部分も、現状は カットボールやスプリット を効果的に使えており、リリーフでというのであれば、それほど投球の幅を広げる必要もないのではないのだろうか。


(最後に)

 粗っぽいサイドハンドというイメージを持ちがちだが、意外に冷静で考えて配球できるインテリジェンスも兼ね備えている。粗っぽい部分を逆に自分の持ち味だと活かす発想もできていそうだし、カットボールでも内角を突くだけでなく、外からストライクゾーンに入れて来るバックドア的な使えるバリエーションも持っている。プロの先発となると物足りない部分はあるが、ことリリーフでという意味では、プロでもなかなかいないタイプだけに、面白いのではないのだろうか。個人的には、リリーフの素材だと観ているので、ドラフトでは3位前後が基本線だと考えている。


(2022年秋 神宮大会)