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辻 大雅(広島)投手のルーキー回顧へ







辻 大雅(二松学舎大付3年)投手 182/79 左/左  
 




 「基本はできている」





 夏の甲子園でみた時は、ごく普通のサウスポーといった印象しかなかった 辻 大雅 。しかし、改めてじっくり観てみると、なかなか投球の基本のできている好いサウスポーだった。


(投球内容)

 二松学舎大付属らしい、オーソドックスなサウスポー。この夏は、甲子園で 2試合に先発し 15回 15安 5四死 11三 防 3.00 といった内容でした。

ストレート 135~142キロ ☆☆★ 2.5

 甲子園のスピードガンは、左投手は2~3キロは遅く出るので、130キロ台中盤の球速でも130キロ台後半ぐらいのスピード能力はあると考えられます。夏の予選では、帝京戦で142キロまで記録したと言います。それでも、真っすぐの球速・球威という意味では、やはり高校からプロに入る左腕としてはやや見劣ることは否めません。ただし、両サイドを結構突いてくる選手で、微妙な出し入れで勝負できる制球力と投球術があります。四死球がそれほど少なくはないのですが、このへんは微妙なところで勝負した時に、ボールだと判定されるケースが多いからだと考えられます。

変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップなど ☆☆☆ 3.0

 真ん中~低めのゾーンに切れ込むスライダーが、非常に低めに集まって良かったです。他にも緩いカーブがあってアクセントにはなっていたのですが、この球は高めに浮くことも結構あります。また、チェンジアップ系の球もあり結構使ってくるのですが、この球は空振りを誘ういった球ではありません。三振をビシバシ奪うという変化球はありませんが、カウントを整えて、引っ掛けさせるという役割は充分果たせていました。

その他

 鋭い牽制観られませんでしたが、クィックは1.1秒前後とまずまず。ピンチでも落ち着いていましたし、フィーディングも下手な選手ではありません。そういった意味では、マウンドさばき、野球センスにも優れた選手だと言えます。

(投球のまとめ)

 凄みのある球はありませんが、両サイドにボール散らせて、コースで微妙な出し入れもできます。スライダーを低めに集める技術もあり、両サイド・低めと幅広くゾーンを使えていました。そういった投球術・制球力はあるので、あとはいかにストレートに磨きがかけられるかに懸かってきます。これができれば、そのまま素直に成績になって現れてくるタイプではないのでしょうか。





(投球フォーム)

 今度は、フォームの観点から、この選手の可能性について考えてみましょう。ノーワインドアップから足を上げる勢いは並ですが、高い位置まで引き上げられている。また、膝がピンと伸びがちで力みは感じられるものの、全体のバランスとしては上手くとれて立てている。

<広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5

 お尻の三塁側への落としには、多少の甘さはあるものの落とせている。したがってカーブやフォークといった、捻り出して投げる球を投げるのに無理は感じられない。

 「着地」までの地面の捉えもそれなりで、適度に体を捻り出す時間を確保。したがって曲がりの大きな、変化球の習得も、ある程度期待できるのではないかと考えられる。すなわち、ある程度良い変化球を投げられる下地ではできている。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで体の近くにあり、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができている。故に軸はブレ難く、両サイドへのコントロールはつけやすい。その一方で、足の甲での地面の捉えは浮きがちで、力を入れて投げるとボールが上吊りやすいのかもしれない。それでも「球持ち」は良く指先まで力が伝えられており、ある程度手元でボールがコントロールできていそうだった。

<故障のリスク> ☆☆☆☆ 4.0

 お尻はそれなりに落とせているので、カーブやフォークといった球種を投げても窮屈にはならなそう。カーブは結構使ってくるが、現時点ではフォーク系のボールは見当たらない。腕の送り出しを観ても、肩に負担がかかる感じはしない。けして力投派でもないので、疲労も溜め難いのではないのだろうか。

<実戦的な術> ☆☆☆☆ 4.0

 「着地」までの粘りも適度に作れており、ボールの出どころもある程度隠せている。そういった意味では、けして合わされやすいフォームではないのだろう。腕も投げ終わったあと体に絡んでいるし、ボールにも適度に体重を乗せてからリリースできていた。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」でも、全ての部分で欠点は見当たらない。1年生の時に肘を疲労骨折したそうだが、現在のフォームを見る限りは故障のリスクは高くは無さそう。制球を司る動作もまずまずで、将来的に良い変化球を習得して、投球の幅を広げて行けることも期待できそうだ。そのため、欠点のない実戦的な良いフォームとなっている。


(最後に)

 甲子園での球速は、左腕では2~3キロは遅く出るので130キロ台半ばだったのは気にすることはないだろう。実際のボールの感じもこれからだとは思うが、制球力や投球術・変化球ともに一定のレベルにはある。あとは、プロ入り後いかにボールの球威や球速を増して行けるかではないのだろうか。それでもすでに投球の基礎はできているので、体作りに力を注げれば、素直に出力のアップが結果に反映されそうなタイプ。現時点でプロ入りの「旬」だとは思わなかったが、将来凄く良い投手になるかもという期待は、持たせてくれる投手だった。


(2022年夏 甲子園)