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吉川 悠斗(ロッテ)投手のルーキー回顧へ







吉川 悠斗(浦和麗明3年)投手 185/77 左/左 
 




「今年の左腕で一番好み」 





 高校生に左腕の人材が多かった22年度において、いま振り返ってみると最も好みのサウスポーはと訊かれれば、この 吉川 悠斗 と応えるのではないのだろうか。秩父農工戦では、試合開始から9者連続三振を含む20奪三振を記録。その後の2試合の模様もみたが、なかなか興味深い素材だった。


(投球内容)

 秩父農工戦のインパクトが強烈過ぎたが、この夏は3試合に登板し、21回 17安 9四死 33三 9失 防 3.86 という内容で、最後の夏を終えている。春から、腕の振りや身の柔らかさから、非常に気になる存在ではあったのだが。

ストレート 135~MAX142キロ ☆☆☆ 3.0

 球速は140キロ出るか出ないかぐらいだが、ピュッと打者が差し込まれるようなフォームで、球速の無さは気になりません。実際、秩父農工戦ではボールも来ていて、各打者も差し込まれたり空振りをすることが多かった。特にこの選手は、右打者外角の逆クロスへの球筋が一番良い球がゆく。その一方で、疲れもありキレ味が鈍った市立川口戦では、高めに浮いた球を捉えられ痛打を浴びていた。打者の外角に集められるコントロールはあるが、やや真ん中~高めのゾーンにゆくことが多いようだ。

変化球 スライダー、チェンジアップなど ☆☆☆ 3.0

 変化球のキレも悪くなく、左打者に対しては外に切れ込むスライダーで空振りを誘えていた。また右打者には小さく逃げるチェンジアップがあるのだが、この球は変化が小さく空振りを誘うというよりも引っ掛けさせる意味合いが強いのかもしれない。それでも、21イニングで33三振の奪三振率には目を見張るものがある。

その他 

 牽制は、見極めがつき難く左腕らしくて上手い。クィックは、1.2秒前後と平均的で、フィールディングは落ち着いてボールを処理できていた。特に投げる以外の部分にも、大きな欠点は見当たらない。しかし、投げるタイミングを変えて来るとか、微妙にコースを出し入れをするような繊細な制球力は見当たらない。この夏は、21イニングで9四死球と、四死球率は 42.9% と、けしてコントロールが良いとは言えないので。

(投球のまとめ)

秩父農工戦は、相手との力関係含めて出来過ぎの感もあり、これだけをみて過大評価するのは危険だろう。その一方で、敗れた 川口市立戦は疲れも溜まっていたのか本来のボールの勢いが薄れてていたのもあり、これだけをみて過小評価するのもどうだろうか? そういった意味では、フォーム分析をして、どのへんが評価の落とし所なのか考えて行きたい。





(投球フォーム)

 ノーワインドアップから、足を引き上げる勢いはあるものの、あまり高い位置までは引き上げてきません。軸足の膝はピンと伸びがちで、少し トの字 になるようなツッコミやすい立ち方になりがち。それ以上に、軸足にしっかり体重を乗せきる前に、重心が沈んでゆくのは気になりました。

<広がる可能性> ☆☆☆ 3.0

 お尻はバッテリーライン上に残りがちなので、体を捻り出すスペースは充分ではありません。したがって捻り出して投げるカーブで緩急を効かしたり、フォークのような落差のある縦の変化球の習得するのは厳しいかもしれません。

 それでも「着地」までの粘りは適度に作れているので、体を捻り出す時間はそれなり。スライダーやチェンジアップなど、そういった球種の変化はそれなりに期待できるのではないのでしょうか。実戦でも、真っ直ぐだけでなく変化球とのコンビネーションで三振の山を築けていました。

<ボールの支配> ☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力は抑え込めており、軸はブレ難いのではないかと。そのため、両サイドへのコントロールは悪くように思います。ただし、基本的に内角を厳しく突くというよりも、外にしっかり集めるタイプの投球です。

 足の甲の地面の捉えがよくわからなかったのですが、しっかり捉えていたとしてもその時間が短く、浮き上がろうとする力を充分に抑え込めているかは疑問です。「球持ち」も悪くはないので、高めに制御できず抜け球が多いということはないのですが、真っすぐが真ん中~高めのゾーンに集まりやすい傾向にあるようです。そのため、キレが鈍ると一気に痛打されてしまう傾向がみられます。

<故障のリスク> ☆☆☆ 3.0

 お尻は落とせないフォームですが、カーブやフォークなどの球種は見られず、窮屈になる機会は少ないのでは? したがって肘への負担などは、少なそうには見えます。

 腕の送り出しを見る限り、肩への負担も少なそう。けして力投派でもないので、疲労を溜めやすいということはなさそうです。むしろ現時点では、根本的な筋力や体力などが不足していることの方が問題であるように思えます。

<球の行方> ☆☆☆☆ 4.0

 「着地」までの粘りも適度に作れており、ボールの出どころも腕がワンテンポ遅れて出てくる感じで、打者は差し込まれやすい傾向にあります。

 腕も適度に振れて投げ終わったあと体に絡んでくるので、打者としては吊られやすいのでは? またある程度体重を乗せてからリリースできているようで、投げ終わったあとの地面の蹴り上げは悪くありません。ただし、投げ終わったあとバランスを崩すので、まだステップの幅が適正ではなく、体重移動が充分とはいえない、あるいはエネルギーをロスしてしまっているところがありそうです。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、大きな欠点は見当たりません。また、各動作もさらに良くなる余地が残されています。

 足の甲の地面の捉えの関係か? 球筋がやや高めに浮きやすいこと。故障のリスクはさほど高いとは見ていませんし、スライダーやチェンジアップ系などの変化球のキレも悪くないので、全体的には悪いフォームではありません。何より、打者が差し込まれるような感覚に陥ることに、すでに成功しているのは大きいです。


(最後に)

 身のこなしの柔らかさなどを観ても、好素材であることは間違い無さそうです。まだまだ筋力や体力やウェートなど物足りないものはあるものの、これは時間が解決して行ってくれる可能性が高いと考えられます。全然フォームも投手としてのタイプも違うのですが、9連続三振を奪っている姿なのは、石井一久(現楽天監督)の高校時代をも彷彿させるものがありました。3位前後で指名する価値は、充分ある好素材ではないのでしょうか。


蔵の評価:☆☆☆(上位指名級)


(2022年夏 埼玉大会)