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加藤 洸稀(ソフトバンク)投手のルーキー回顧へ







加藤 洸稀(滝川第二3年)投手 175/73 左/左 




「センスの好い左腕」 





 驚くような球はないものの、センスの良さを感じさせるサウスポーでもある 加藤 洸稀 。 こういったタイプの左腕はけして珍しくはないと思うのだが、なぜ彼が選ばれたのか? 考えて行きたい。


(投球内容)

 最後の夏は、4試合・18回2/3イニングを投げて6失点。そのうち破れた社戦では5失点したが、あとは、3試合に投げて1失点という安定感だった。

ストレート 135キロ前後~後半 ☆☆★ 2.5

 球威・球速という観点では、ドラフト指名された投手の中ではかなり劣ります。球速よりも打ちづらさはありそうなのと、両サイドに投げ分けられる安定したコントロールがあるのが特徴。私の格言にもある「コントロールの好い左腕は買い」という意味では、地でゆくタイプではないのでしょうか。

変化球 縦横のスライダー・チェンジアップ? ☆☆☆★ 3.5

 カウントを整えるストライクゾーンに決まるスライダーと、曲がりながらカーブのように沈むボールゾーンに切れ込むスライダーを使い分けます。投球の殆どは、この二種類のスライダーで構成するように感じられました。この縦のスライダーなのか、チェンジアップなのか見極めが難しい球もあったのですが、一応チェンジアップ系の球もあると思いますが、ほとんど使ってきません。この縦のスライダーの威力があるのが特徴で、いかにこの球を振らせるのかがポイントになります。

その他

 クィックは、1.20~1.25秒 ぐらいとやや遅いです。牽制も入れてはきますが、走者を刺そうといった鋭いものは観られず。それでもしっかり走者への意識ができていれば、左腕だけに走者も容易にはスタートは切れないでしょう。ベースカバーの動きもまずまずで、フィールディングの反応・動きも悪く有りませんでした。

(投球のまとめ)

 マウンドさばきに優れて、安定した制球力の持ち主。特に際立つボールはないものの、ボールゾーンに切れ込むスライダーには威力があります。まだまだ高校生の好投手といった感じがしますが、素直に肉付けされて真っ直ぐにキレや勢いが出てくれば、このスライダーが生きるのではないのでしょうか。





(投球フォーム)

 今度は、フォームの観点から、今後の可能性について考えてみましょう。フォームの入りは平凡なのですが、足は比較的高い位置まで引き上げられています。それほど軸足に余裕はないのですが、軸足一本で立った時のバランスはとれていました。

<広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5

 比較的高い位置でピンと足が伸ばされており、お尻の三塁側(左投手の場合)は、それなりに落とせています。身体を捻り出すスペースはある程度確保できているので、カーブやフォークなどの球種を投げるのには無理はありません。

 その一方でで、「着地」までの地面の捉えは平均的。身体を捻り出す時間は並ぐらいで、キレや曲がりの大きな変化球を習得できるかは微妙です。それでも曲がりながら沈むスライダーにはキレがあるので、その点はあまり気にしなくても良さそうです。将来的にもいろいろな球種を習得できる下地はありますが、空振りを誘えるようなキレや曲がりのある球を習得できるか鍵になります。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで身体の近くにあり、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができています。ゆえに軸はブレ難く、両サイドへのコントロールはつけやすいのかと。足の甲の地面への捉えはできているものの、まだその時間が短いように思えます。また「球持ち」やボールの押し込みもそれほどではないので、高めに行ったり抜けたりする球も観られます。ただし、その点も股関節の柔軟性や下半身の筋力強化で、もっと低めに粘っこい制球力を身につけられる可能性は感じます。

<故障のリスク> ☆☆☆☆ 4.0

 お尻はある程度落とせているので、カーブやフォークといった球種を投げても窮屈にはなり難いのかと。まして現時点では、そういった球種は観られないので、肘への負担は少なそう。腕の送り出しを観ていても、肩への負担も少ないのでは? けして力投派という感じでもないので、疲労を溜めやすいこともなさそうです。

<実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りが平凡なので、けして打者がタイミングが合わせ難いとかそういった嫌らしさはありません。それでもボールの出どころは隠せているので、見えないところからピュッと出てくる感覚になり、球速よりは打者も速く感じられかもしれません。そのためにも、もっとボールのキレや勢いを増さないと、その効果が活かせないと考えられます。

 腕は適度に振れており、打者も勢いで吊られそう。ボールにもある程度体重を乗せてからリリースできているようには見えますが、肝心のウェート不足でグッと体重が乗って来るような球威はまだ観られません。このへんも、もう少し「着地」までの粘りを身につけてしっかり体重移動を行い、「球持ち」をもっと長く持って体重が乗ってからリリースできることを徹底させたい部分ではあります。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「開き」こそ悪く有りませんが他の部分では発展途上の印象です。それでも制球を司る動作や故障のリスクが低いのは明るい材料で、あとはいかに投球の幅や決め手を身につけて行けるかではないのでしょうか。フォームの観点では、まだ発展途上ではあるものの、意識や取り組み次第ではもっとよくなれる可能性は感じられます。


(最後に)

 現時点では、驚くようなボールを投げるわけではありません。それでも制球力の好いサウスポーであり、ボールゾーンに切れ込むスライダーという武器を持っています。今の投球センスに加え、フォームに工夫を重ねたり肉体のパワーアップやキレを増してきたときに、いかに実戦的なサウスポーになれるかではないのでしょうか。通常ならばこういった投手は、大学などで能力が本格化するのを待つところです。しかし、あえてボールが見劣る選手を、プロの環境や指導者の元鍛えてみたときに、どういった結果になるのか? 興味深い選手ではあるように思えます。同期が大学を卒業する頃には、その結果が出ているのではないのでしょうか。


(2021年夏 兵庫大会)