21kp-12





伊藤 樹(早稲田大3年) 投手 176/78 右/右 (仙台育英出身)





 「安心して観ていられる」





 
投球内容
 中背の体格から、オーソドックスなフォームで投げ込む正統派。3年時には大学選手権や神宮大会で先発を務め、日本代表として国際試合でも3試合に登板するなど、実績では世代屈指といえる存在だ。
ストレート 常時140キロ~140キロ台後半 ☆☆☆★ 3.5
 驚くような球威や球速はないものの、
回転が良く質の高いストレートを投げ込んでくる。両サイドいっぱいに投げ分ける安定した制球力が持ち味だ。ただし、際立った球威や嫌らしいフォームではないため、甘く入ると長打を浴びやすい傾向が見られる。
変化球 スライダー、カーブ、チェンジアップ、スプリットなど ☆☆☆★ 3.5
 絶対的な決め球があるわけではないが、多彩な変化球を巧みに組み合わせられる。高低・両サイドを幅広く使い、
ストライクゾーンを効果的に活用する豊富なバリエーションで、打者に的を絞らせない投球が持ち味だ。
その他
 クイックタイムは1.15秒~1.25秒程度と、特に素早いわけではない。それでも投球タイミングをずらしたり、ボールを長く持って走者や打者を焦らせたりする術は高校時代から光っていた。牽制はあまり入れてはこないが、ベースカバーなどは素早く、投球以外の部分でも下手ではなさそうだ。
投球のまとめ
 プロの先発としてはスケール的には物足りない面もあるが、こうした投手がローテーションの5、6番目にいると試合を壊さず、チームを助ける存在になり得る。起用法が明確であれば、常時145キロ前後~150キロ近い出力も期待でき、さらに垢抜けた投球を見せる可能性もある。特にランナーを背負った場面でも要所を締められる点は、典型的な“好投手”といえるだろう。





成績から考える
 3年秋のリーグ戦では、8試合 6勝0敗 60回 36安打 17四死球 60三振 防御率1.80(3位)という成績を残し、1年春からリーグ戦で投げてきた中でも、キャリアハイといえるシーズンだった。
1. 被安打は投球回数の80%以下 ◎
 被安打率は45%と、東京六大学の投手としては破格の数字だ。甘く入ると簡単に打ち返されそうなイメージがあったが、
投げミスが少ないことを示しているのだろう。ちなみに、2024年の全国大会では25回1/3で15安打、被安打率59.2%だった。これを見ても、投げミスがかなり少ない投手と判断してよさそうだ。
2. 四死球率は投球回数の1/3(33.3%)以下 ○
 四死球率は28.3%で、この基準もクリアしている。普段はそれほど精密な制球力がある印象ではないが、
要所で際どいコースにズバッと決まるイメージが強い。無理に打たれるくらいなら、微妙なコースに投げて振ってもらわなくてもいいという割り切りができる投手なのかもしれない。なお、全国大会では51.3%とやや高めで、極めて高い制球精度を持つわけではない点も押さえておきたい
3. 三振は1イニングあたり0.9個以上 ○
 秋は60イニングで60奪三振と、投球回数と同数を記録して基準をクリア。際立った決め球があるわけではないが、
ここぞという時にベストボールを投げられる勝負強さが光る。全国大会では0.71個に減少しており、元々三振を量産するタイプではないようだ。プロでも同様の傾向が予想される。
4. 防御率は1点台が望ましい ○
 秋の防御率は1.80で、3年間の通算でも1.74という数字を残している。ただし、
一度も0点台という圧倒的なシーズンがないだけに、最終学年でこの基準をクリアできれば頼もしい。観ていて絶対的なものを感じにくいのは、こうした数字にも表れているといえる。
成績からわかること
 東京六大学という全国屈指のリーグ戦で残した成績は見事だ。すべての項目をクリアする総合力の高さは素晴らしいが、被安打率以外は突出していない。この点が、投手としての隙の少なさや凄みを感じさせない投球にもつながっているように思える
最後に
確かに大学生としては、すでに高い実戦力と総合力を備えた投手といえるだろう。一方で、今後の伸び代や素材としての圧倒的な凄みは感じられにくい。そうした意味では、中西聖輝(青山学院大)と同様、ドラフト3位前後を基本線とするタイプと見られる。ただし、最終学年で圧倒的な成績を残せば、上位24名(2位)以内も狙える位置に浮上するかもしれない。そのレベルに達すれば、プロでも即戦力として期待できる存在になる可能性がある。
2024年 秋季リーグ戦


 








伊藤 樹 (仙台育英3年)投手 178/78 右/右 
 




 「4年後が楽しみなタイプ」





 高校から即プロというよりも、大学などを経由したら凄く良くなりそうだなと感じたのが、この 伊藤 樹 。下級生までは、最終学年にブレークした 佐藤 由規(元ヤクルト)のような成長曲線を描くのかなと思っていたのだが、むしろ球速よりも球質を重視して実戦的な方向で進化してきた印象を受けた。


(投球内容)

 中背の体格から、かなり反動を付けて投げてくる力投派。それだけ消耗も激しいので、チームでもリリーフで登板しているのもわかる気がする。

ストレート 常時 140キロ台~MAX147キロ ☆☆☆★ 3.5

 コンスタントに145キロ前後を投げられるスピード能力と、回転数の多そうな伸びのあるストレートには目を惹くものがありました。そういった球が時々高めに抜けることはあったものの、両サイドにしっかり投げ分けるコントロールもあります。ただし気になったのは、中背ゆえにボールに角度がなかったり、「開き」が少し早く打者からは合わされやすい側面があるということ。そのため、球質が鈍ると、一気に痛打される危険性は持っています。

変化球 スライダー・チェンジアップ・スプリット・カーブなど ☆☆☆★ 3.5

 小さく横滑りするスライダーでカウントを整えつつ、チェンジアップやカーブを織り交ぜつつ、結構スプリットをしっかり落とすことができていました。球種としては多彩で、ストレートを軸に上手くそういった変化球をコンビネーションに交えて来るタイプではないかと。ただし三振を奪うのは、コースに一杯にズバッと真っ直ぐを投げ込んで来る時が多いように感じます。

その他

 クィックは1.15秒~1.25秒ぐらいと平均的なのですが、あえて投げるタイミングを変えたり、ボールを長く持って相手を焦らしたりする投球術を持ち合わせています。ランナーがいない時は、ポンポンとテンポ良く投げ込むなど「間」を明らかに意識した投球を心がけます。牽制は、なかなか入れてきませんでしたが。

(投球のまとめ)

 中背で一辺倒になりそうなところを、間合いを変えたり多彩な球種で的を絞らせない工夫は感じられました。持ちうる能力や引き出しをすでに結構使いきって投げているので、今後の伸び代という意味でどうなのか?という疑問は残ります。高校生としてはA級の投手なのですが、さらにその上があるのか? 大学など高いレベルで見極めタイプなのかと感じました。


(投球フォーム)

 今度は、フォームの観点から考えてみます。ワインドアップで振りかぶり、反動をつけてカカトをヒールアップして投げ込む力投派。足を引き上げる勢いや高さがあり、最初からエネルギーの捻出を高くして投げます。それでも軸足一本で立ったときには、膝には適度な余裕がありバランス良く立てていました。

<広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5

 引き上げた足を高い位置でピンと伸ばしており、お尻は一塁側にしっかり落とせています。したがって身体を捻り出すスペースは確保できており、カーブやフォークなどは無理なく投げられます。

 ただし「着地」までの地面の捉えは平凡なので、身体を捻り出す時間が物足りません。多彩な球種を操れる土壌はありますが、武器になるほどのボールを見出だせるかは微妙です。

<ボールの支配> ☆☆☆☆ 4.0

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができています。そのため軸がブレ難く、両サイドへの投げ分けは安定しやすいと言えます。また足の甲での地面の捉えも深く、浮き上がる力を抑える働きがあります。それだけボールが低めに集まりやすいはずなのですが、腕がスリークォーターで手首を立てて投げられいないので、「球持ち」が良い割にボールが抜けやすいのは気になりました。

<故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5

 お尻はしっかり落とせるので、カーブやフォークを投げても窮屈になり難いと考えられます。そういった意味では、肘への負担は少なそう。それもカーブはさほど投げてきませんし、フォークというよりは握りの浅いスプリットであることも大きいと考えられます。

 また腕の送り出しを観ていても、肩への負担も少なそう。ただし凄く反動を付けて力投してくるので、疲労は溜まりやすいのではないかと。そこからバランスを崩し、思わぬところへ負担がかかり故障に繋がるという危険性は捨てきれません。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りに欠けるので、打者としては「イチ・ニ・サン」でタイミング合わせやすい傾向にあります。まして「開き」も早く球筋がいち早く読まれやすいので、コースを突いたような球でも合わされたり縦の変化を振ってもらえない可能性があります。

 腕はしっかり振れていて良いのと、ボールの伸びが素晴らしいのでその点ではイメージ以上にボールが来るので空振りを適度に誘えるのではと。また、体重をしっかり乗せてからリリースできているので、打者の手元まで生きた球が投げられています。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」や「開き」に課題があり打ち難さというところに不安が残ります。その一方で、「体重移動」などは良く、エネルギー効率が良く持ちうる能力を上手くいかせているように思えます。制球を司る動作は良いので、あとは肘をしっかり立てて投げられること。故障のリスクは高くないものの、力投派過ぎて消耗が激しいところは気になります。また多彩な球種を操れる土壌はあるものの、武器になる変化球を見出だせるのか、これからの課題ではないのでしょうか。


(最後に)

 すでに持っている肉体のスペックや引き出しを多く使っての投球だけに、今後の伸び代という意味での不安が残ります。そのぶん大学などに進めば、比較的早い段階から活躍できるレベルにはあります。その中で実戦と経験を重ねつつ、さらに総合力を引き上げられれば、4年後は即戦力を期待されてのプロ入りも現実味を帯びてくるのではないのでしょうか。まずは、段階踏んで伸びてきてほしいので、個人的には高校からプロよりも大学に進んでプロ入りを目指す方が良いと考え、 を付けるのはやめることにしました。


(2021年 選抜大会)