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隅田 知一郎(西武)投手のルーキー回顧へ







隅田 知一郎(西日本工大4年)投手 177/77 左/左 (波佐見出身) 





 「ボールが強くなった?」





 4年春のリーグ戦を生で観て感じたのは、確かに良い投手なのだけれども、まだプロで一年間戦ってゆくのには筋力的にも体力的にも、少しひ弱い印象が残った。投球センス・変化球・フォームなど惚れ惚れする素材も、1位指名それも重複するほどの絶対的なものは感じられなかった。


(その後)

 春季リーグ戦を制して、全日本大学選手権に出場。強豪校である上武大相手に、8回 4安打 14奪三振 1失点 の快投が認められ、一躍1位候補として認知されることになる。確かにこの日の投球は、まさに 隅田 知一郎 といった内容ではあったが、上記の筋力や体力的な不安はまだ私の中で払拭できずにいた。


(秋のリーグ戦)

 まともには、秋の投球は確認できず。ただ一部映像を見る限り、春よりもひ弱さが薄れ打者の手元までのボールがワンランク強くなったのではないかという印象を受けた。では実際のところ、リーグ戦の内容は春とどのように違っていたのだろうか?

4年春 42回 24四死 51三 防 1.71
4年秋 23回  2四死 36三 防 0.39


 被安打のハッキリしたデータが見つけられなかったのだけれども、幾つかハッキリと春とは違う傾向がみられた。まず、四死球が率が 57.1% だったのが、僅か 8.7% に大きく改善されている点である。このへんは、身体がビシッとしてきて球筋が安定するようになったとかいうのもあるのかもしれないが、何より全国大会を経験し、相手を見下ろして投げられる精神的な余裕が大きいのではないかと。今までのリーグ戦では、結構制球がアバウトなところがあり、技術的に何かを掴めたとか、肉体的な成長によって球筋が安定してきたという理由であれば良いのだが ・・・ 。このへんは、相手レベルが変わるプロの打者相手だと、またアバウトな面が顔を覗かせる可能性は否定できない。

 奪三振は、1イニングあたり 1.21個 と、元々変化球でも三振を奪える選手で、どのシーズンでも多かった。真っすぐのキレだけでなく、変化球でも狙って三振が取れるのが彼の良さ。特に左腕ながら、チェンジアップだけでなくフォークに落差があって三振が奪えるこを春は評価した部分。そしてこの秋は、さらにその三振比率を 1.56個 と数字を伸ばしている。これは、やはり軸となる真っ直ぐが強くなったことで、より変化球も生きたり、真っすぐでも空振りを多く奪えたのではないかと想像する。

 被安打の数字はわからなかったが、春の防御率が 1.71 とまずまずといった数字から、秋は圧倒的な 0.39 という数字に向上していることからも、春よりも絶対的な内容で被安打率も相当低下していたのではないかと想像できる。


(最後に)

 いま動画で探しても、私がこの秋みたバックネットカメラからの映像は見つからない。しかしそこで見たものは、かなり春よりも力強さを増していたボールだったと記憶する。その球が安定して投げれているとすれば、春よりワンランクレベルは引き上がっており、4球団の競合にになったという評価も頷けるところ。春見た時は、ローテーションに入っても5,6勝前後かなといった評価だったが、今ならば二桁前後ぐらい行けるまで資質が伸びているのかもしれない。その答え合わせは、球春到来まで待ちたいと思う。そのため私自身も、春よりワンランク上のものを記したいと思う。


蔵の評価:☆☆☆☆ (1位指名級)


(2021年 秋季リーグ戦) 










隅田知一郎(西日本工大4年)投手 177/76 左/左 (波佐見出身) 
 




 「変化球でも三振が取れる」





 大学選手権の前に、日本文理大との試合を観戦してきた 隅田 知一朗。その時に全国の舞台でアピールできれば、上位指名になるだろうなと思って戻ってきた。そして大学選手権に出場し、14奪三振のパフォーマンスで一躍上位候補と認識された。そんな彼の良さとは、真っ直ぐで圧倒するというよりも、変化球で三振が取れるところではないかと思うのだ。


(投球内容)

 速球でグイグイ押すというよりは、変化球を交えたコンビネーションで討ち取ってくる総合力に優れたサウスポーです。プロでもローテーション投手として、先発を意識できる素材だということ。

ストレート 140キロ~147キロ ☆☆☆★ 3.5

 真っ直ぐ自体は、プロの打者を圧倒するほどの球威はないと思います。しかし、コンスタントに140キロ台を記録し、力を入れれば140キロ台中盤を記録できる強弱のメリハリを感じます。何よりその真っ直ぐを、両サイドに投げ分けるコントロールがあり、要所では空振りを奪えるキレもあります。真っ直ぐだけを続くのは辛いのですが、変化球を交えることで効果的に使うことができています。

変化球 スライダー・カット・ツーシーム・フォークなど ☆☆☆☆ 4.0

 カットボールでカウントを整えつつ、もう少し緩いスライダーも時々交えます。小さく逃げてゆくツーシーム的な球に加え、要所では縦に鋭く落ちるフォークで空振りが奪えます。カウントを整えられる変化球と共に、しっかり狙って空振りを奪える縦の変化球があるのが、彼の最大の強味ではないのでしょうか。

(投球のまとめ)

 自分のペースで投球を組み立てられるタイプで、勢いだけで押そうというスタイルではありません。ある程度力を入れなくなてもボールは来るので、プロでも先発が期待できるタイプなのでしょう。マウンドさばきも悪くないですし、要所で力具合を変える強弱をつけることもできます。まだ多少ひ弱さを感じなくもないのですが、プロでも5勝前後ぐらいならば1年目からあげても不思議ではありません。


(投球フォーム)

 今度は、フォームの観点から考えてみましょう。セットポジションから足を高い位置まで引き上げ、軸足の膝には力みは感じられず、適度にバランス良く立てています。

<広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5

 お尻は適度に三塁側(左投手の場合は)に落ちており、身体を捻りだすスペースを確保。カーブで緩急をつけたり、フォークのような縦の変化球にも無理は感じません。

 また「着地」までの地面の捉えもそれなりで、身体を捻り出す時間もある程度確保できています。そのため曲がりの大きな変化球の修得も可能であり、実際変化球で三振を奪うことができています。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5 

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込むことができている。したがって軸はブレ難く、両コーナーへのコントロールは安定している。ただし、足の甲の地面への捉えは浅く、力を入れて投げるとボールが上吊りやすい。また「球持ち」も以外に浅く、思ったほど指先でボールをコントロールされていないところもあり、繊細なコントロールがあるのかと言われると、そこまで細かい制球力があるわけではない。

<故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5

 お尻は落とせているので、カーブやフォークといった捻り出して投げる球を投げても負担は感じ難いのでは? カーブは観られないが、縦の変化球がフォークだとすると肘への負担は心配にはなる。しかし彼のようにスペースが確保されていれば、それほどその点でも不安は感じられない。

 むしろ以前よりもボールを持っている肩が上がり、グラブを持っている方が下がる傾向にあったので、肩への負担は少し感じられるようになってきた。それほど力投派ではないので、疲労が溜めやすいといったほどではないとは考えられるが。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは適度にあり、タイミングが合わせやすいわけではないだろう。またボールの出どころもある程度隠せているので、その点は問題ない。ただし球威のあるタイプではないので、甘く入ると長打を浴びやすい傾向はあるのではないのだろうか。

 気になるのは、思ったほど投げ終わったあと腕が絡んで来ない点。そういった意味では、腕の振りに勢いがない分、上のレベルの打者が何処まで変化球を振ってくれるのかなどの不安は残る。また体重が充分に乗り切る前にリリースを迎えており、思ったほど打者の手元までのボールの強さが物足りない点にも課題を残す。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「開き」こそ悪くないが、残りの部分ではまだ改善の余地があるのではないかと思えてしまう。それでも故障のリスクはさほど高くなく、制球を司る動作も高めに集まりやすい傾向はあるものの、四球で自滅するタイプではない。最大の良さは、変化球で空振りを奪える決め手があるということ。ただし、思ったほどまだ実戦的なフォームではないことも頭の片隅に入れておきたい。


(最後に)

 リーグ戦で見たときは、2位以上かなといった感じで見ていた。確かにテンポもマウンドさばきも制球力も適度にあり、プロでも先発でやって行ける素材ではあると感じた一方、そこまでまだ絶対的な凄みは無いようにも思えた。今回の大学選手権での活躍で、ハズレ1位ぐらいにはなるのではないのだろうか。1年目から一軍で先発も経験して行けるとは思うが、本当の意味で10勝前後を意識できるようになるのは2年目以降ではないのだろうか。


蔵の評価:☆☆☆ (上位指名級)


(2021年 大学選手権)










隅田 知一郎(西日本工業大3年)投手 176/74 左/左 (波佐見出身) 





 「楽しみ」





 有力左腕が多い今年のドラフト戦線において、個人的に期待しているのが、隅田 知一郎 。波佐見高校時代も甲子園で先発していた投手で、当時から中々前に飛ばさない勢いのあるボールを投げていたのが印象的だった。


(投球内容)

 脱力したフォームから、ピュッと腕を鋭く振って来るので、打者としては差し込まれやすいフォームです。西日本工業大に進んでからも、一年春からリーグ戦で登板。ここまでの三年間で26試合に登板し、7勝4敗 防御率 1.77 と実績を積み、有力な指名候補に位置づけられています。

ストレート 常時145キロ前後 ☆☆☆★ 3.5

 彦根東戦に甲子園で登板した時も、常時135~MAX143キロの速球には勢いを感じさせ、なかなか前に飛ばさない力強さがありました。大学に進みさらに球速を増し、映像を見る限り常時145キロ前後は出ているのではないかと感じるほどです。また最速では、150キロを記録するまでになったと言います。

 高校時代から勢いがあったものの、やや制球がアバウトな部分がありました。大学でも通算で116回2/3イニングで47四死球ということで、四死球率は 40.3% とやや粗っぽいタイプなことがわかります。投球回数の1/3以内が一つ制球力の目安ですが、ボールに威力があるぶん多少甘くしても、40%以内には留めたいところです。

変化球 スライダー・チェンジアップなど ☆☆☆ 3.0

 変化球はスライダーとのコンビネーションが中心で、たまにツーシームような小さく逃げるチェンジアップらしき球を投げているように見えます。スライダーでカウントを整えることができますし、ストレートに勢いがあるだけにスライダーでも三振が奪えるのでしょう。通算でも、116回2/3イニングで144個と遥かに投球回数を上回る三振が奪えています。ただし、チェンジアップなどのシュート系の精度や緩急をつけるためのカーブなどは観られないだけに、変化球を磨いて投球の幅を広げて欲しい部分はあります。

その他

 クィックは、1.0~1.1秒 ぐらいと基準以上。ボール処理も落ち着いてできており、けして下手では無さそうだ。フォームもゆったりとして投げられており、「間」を意識できたマウンドさばきに優れた投手だと言えよう。

(最後に)

 けして力でねじ伏せるといった力んで投げるタイプではなく、脱力したフォームからビュッと力強いフォームを投げ込んでくる実戦派。そういったセンスはあるので、これで変化球で幅をもたせられるようになると、もっと深味のある投球ができるのではないのだろうか。最終学年では、そういった投球をふくらませることができるのか見極めて行きたい。





(投球フォーム)

 大学時代の映像では、クィックで投げるものしかなかった。そのため、軸足に体重を乗せきる前に一気に体重を沈めてしまうフォームしか確認できなかった。ちなみに高校時代は、しっかり軸足に体重を乗せてから投げていたのだが・・・。

<広がる可能性> ☆☆☆☆ 4.0

 お尻はしっかり三塁側(左投手の場合は)に落ちているようで、身体を捻り出すスペースは確保できています。そのため、カーブやフォークなどを投げるのにも無理はないのですが、腕の角度がスリークォーター気味なので、充分にはそれらの球種が変化しない可能性はあります。

 「着地」までの地面の捉えをみても、適度に粘ることができています。したがって身体を捻り出す時間は確保でき、曲がりの大きな変化球の習得は期待できそうには見えるのですが ・・・ 。しかし現状は、変化の大きさよりも、球速のある小さな変化の方が適しているようにも見えます。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5

 グラブは内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力は抑え込めている。したがって軸がブレ難く、両サイドのコントロールはつけやすいと考えられます。また足の甲で地面の抑えもできているように見え、ボールが上吊るのを防ぐ働きがあります。

 しかし実際には、動作の割にボールがバラつく傾向があります。考えられるのは、リリースが浅く「球持ち」が安定しないこと。そのためボールが思ったほど低めに来なかったり、再現性が低く動作の割に制球が荒れ気味なのかもしれません。

<故障のリスク> ☆☆☆☆★ 4.5

 お尻は落とせているので、カーブやフォークといった球種を投げても窮屈になることは無さそう。さらにそういった球種もほとんど観られないので、肘への負担は少ないのではないのだろうか。

 また腕の送り出し・角度にも無理は感じられないので、肩への負担も少ないのでは? 元々力投派というよりはむしろ、ボールを置きにゆくようなフォームでもあり、疲労は溜め難いのではないかと考えられる。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは適度に作れていて、合わされやすくはないのではと。ボールの出どころも隠せているので、ボールがなかなか見えなく、見え始めてからも一瞬でボールが到達するので、打者としては差し込まれやすい。

 気になるのは、「球持ち」が浅く振り下ろした腕が身体に絡んで来ない点。そういった意味では、腕の振りに強さはあっても粘っこさは感じられない。またボールに体重を乗せる前にリリースしてしまっているので、打者の手元までの球威などが物足りなくも見えなくはない。あくまでも腕や上半身を強く振ることで、キレを生み出すフォームになっている。こういったフォームは、なかなか持続してキレのある球を生み出し続けることは難しい。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」だと、「球持ち」と「体重移動に課題を残す。故障のリスクが低そうなところは好感だが、リリースの不安定さから制球がアバウトなのと、スリークォーターの腕の振りにより、球種が限定されやすいところをどう補えるかではないのだろうか?


(最後に)

 イメージ的には、神内 靖(延岡学園-元ソフトバンク)左腕などと少しイメージが重なる部分があります。 上記にも書いたように、制球のアバウトさと投球の幅の狭いのが一つ難点で、それをこの一年でどう変えて行けるかだろう。3年生の時点での映像を見る限り、大学からの指名も充分意識できる素材。それだけに指名される云々よりも、即戦力になりうるのか? 上位指名できそうな器なのか? 指名を前提にぜひ生でその投球を見定めてみたいと思わせてくれる選手だった。


(2020年 リーグ戦)