20sp-21





行木 俊(広島)投手のルーキー回顧へ







行木 俊(19歳・徳島ID)投手 184/76 右/右 
 




 「正直よく知らなかった」





 今年はコロナの影響で、アマチュア野球はなかなか試合が始まらなかった。そんな中、いち早く試合を再開したのが独立リーグ。そのため有力の選手の試合は、早い時期に網羅したつもりだった。しかしその中に、この 行木 俊 は含まれておらず、指名された時には正直どんな選手だったのかよくわからなかった。


(投球内容)

 長身でスラッとした投手体型だが、まだ線の細さは感じられる。それでもノーワインドアップから、勢いのあるボールを投げ込んでいた。

ストレート 常時140キロ台~後半 ☆☆☆ 3.0

 コンスタントに140キロ台~中盤ぐらいは出ていそうな勢いのあるボールを投げ込んできており、ストレートでグイグイ押してくるピッチングスタイル。時には指にかかった球が、150キロ近く記録してくるときがある。特に角度を感じさせる球筋だが、コントロールはかなりアバウト。それでも公式戦では、35回1/3イニングで9四死球と、投球回数に対し1/4強ぐらいと、四死球で自滅するタイプではない。

変化球 スライダー・フォーク・カーブなど ☆☆☆ 3.0

 右打者外角低めに、曲がりながら沈むスライダーを集めるのが特徴。このスライダーの精度は悪くなく、甘く高めに浮いて来ないのは良いところ。左打者には、チェンジアップのような沈む球がある。これはチェンジアップではなくフォークらしいのだが、まだ打者の空振りを誘うというよりも、カウントを整える役割となっている。また余裕が出てくると、緩いカーブも交えて来る。

その他

 クィックは1.0~1.1秒ぐらいと素早く、牽制も走者を刺すような鋭いものを交えてくる。元々内野手だったとのことで、フィールディング含めて動きは良い。あとは、駆け引きなり間のとり方などを覚えてゆくことになりそうだ。

(投球のまとめ)

 まだストライクゾーン内の球が甘く、NPBの打者だと打ち損じてくれるかは微妙。ストライクゾーンの枠内には集めることができるが、これが粘られたり打ち返されたした時に、自分の投球ができるのかが一つポイントになってくるのではないのだろうか。

 投手歴は2年ぐらいと伸び代を残しており、即戦力というよりは、何年かプロの環境や指導のもと育成することが前提ではないのだろうか。まだ肉体的にも技術的にも経験値でも不足しており、本格化するのは数年後といったタイプだろう。





(投球フォーム)

 今度はフォームの観点から、今後の可能性を模索してみたい。ノーワインドアップから足を比較的高い位置まで引き上げ、軸足一本で立った時に膝に余裕がありバランス良く立てている。

<広がる可能性> ☆☆☆ 3.0

 引き上げた足を比較的高い位置でピンと伸ばせているので、お尻はそれなりに一塁側へと落とせている。そのため身体を捻り出すスペースは確保できており、カーブやフォークを投げるのに無理はない。

 しかし「着地」までの地面の捉えに粘りがないので、身体を捻り出す時間が物足りない。そのため変化球のキレや変化量が中途半端になりがちで、決め手に欠ける可能性がある。変化球でカウントを整えることはできているが、武器になる球を習得するのには、もう少し「着地」までの時間を稼ぐ必要があるのではないのだろうか。

<ボールの支配> ☆☆★ 2.5

 グラブを内に最後まで抱えられ、外に逃げようとする遠心力は抑え込めている。通常ならこれで、ある程度両サイドへの制球は安定しやすくなる。しかし彼の場合、頭の位置と振り下ろす腕が離れているので、どうしても軸が大きくブレやすい。これにより、コントロールがアバウトになる要因になっているのではないのだろうか。

 また足の甲の地面への押しつけは浮いてしまい、浮き上がろうとする力を抑え込めていない。それでもボールが極端に抜けないのは、球持ちはそれなりである程度押し込めているからではないのだろうか。そのため制球がめちゃくちゃになりそうなところを、なんとかストライクゾーンに集めるまではできている。

<故障のリスク> ☆☆★ 2.5

 お尻は落とせているので、カーブやフォークを投げても窮屈にはあまりならないのではないのだろうか。したがって、肘などへの負担は少ないのではないかと。

 ただしボールを持っている肩は上がりグラブを持っている肩は下がりながら、やや外旋しながら思いっきり腕を振って来るので、肩への負担が気になるフォーム。身体のケアには、充分注意してもらいたい。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りがないので、イチ・ニ・サン でタイミングは合わせやすい。しかしボールの出どころは極端には早くないし、角度はあるので少し芯をずらし打ち損じは誘えるのかもしれない。被安打は、35回1/3イニングで24安打と、被安打率は68.0%とかなり低い。

 腕の振りには勢いがあるので、打者の空振りを誘える要素はある。しかし気になるのは、35回1/3イニングを投げて奪三振は15個という決め手に欠けるところがあるのだ。ボールにはまだ充分体重が乗せきれているというほどでないのと、投げ終わったあと一塁側に重心が流れるように、ダイレクトにボールに力が伝えきれておらず、ボールの質に課題を残す結果となっている。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」においては、「着地」と「体重移動」に課題があります。すなわち、ボールの質などに繋がる、エネルギー効率が課題のフォームだとわかります。

 また故障のリスク・制球を司る動作・将来的に武器になる球を習得できるのかという観点でみると、かなりリスキーな素材であることがわかります。そういった部分を、プロ入り後いかに改善して行けるかではないのでしょうか。


(最後に)

 まだ高卒2年目の、成長途上の投手といった感じがしました。速い球を投げられる才能があり、これからプロの環境や指導で、どのように化けるのかといったことに期待した指名だと考えられます。体格・ボールの勢い・伸び代も秘めていて、まだまだ独立リーグには、こんな選手がいたのかと驚かされました。個人的には育成レベルかなと感じたので  は付けられませんが、少し長い目でどのように育つのか見守って行きたいと思わせてくれる選手でした。


(2020年 シーズン)