20dp-9





山野 太一(ヤクルト)投手のルーキー回顧へ







山野 太一(東北福祉大4年)投手 172/77 左/左 (高川学園出身) 





 「無敗の男」





 山野 太一 の4年間のリーグ戦成績は、22勝0敗 と無傷のまま終えた。1年春のリーグ戦では、140キロ台中盤の速球にキレキレの変化球で、防御率 0.29 で最優秀防御率に。その時は凄いと思ったが、以後故障などもあって冴えなくなったのか? やたら変化球の割合の多いピッチングにモヤモヤさせられることが多かった。


(投球内容)

 生観戦したのは、ドラフト会議後に行われた 東北各リーグの優勝チームがずとった 東北優勝決定戦。この試合に登板した山野は、立ち上がりから丁寧なピッチングが目立っていた。

ストレート 140キロ~MAX91マイル(146キロ) ☆☆☆ 3.0

 変化球の割合がストレートより多いピッチングで、ストレートを投げてくる時に140~中盤ぐらいのボールを投げ込んでくる。1年春に魅せたような、ストレートでガンガン押してキレキレの球を投げ込んでくるという感じでは今もない。それでも両サイドには、しっかり投げ分けて来るコントロールはある。球威・球速としては、プロに混ぜると平均ぐらいではないのだろうか。

変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップなど ☆☆☆☆ 4.0

 この投手の最大の武器は、いつでもストライクが取れるスライダーにあります。この球を、内外角に使い分けることができるのが特徴です。また立ち上がりは制球が定まらなかったものの、緩いカーブやチェンジアップ系の球もあります。スライダーほど精度・キレに絶対的なものはありませんが、打者の的を絞らせないという意味では良いアクセントにはなっています。

その他

 昨秋もそうでしたが、あまり走者を刺すような鋭い牽制は観られません。「間」は外すとか、そういった意味あいが強いです。クィックは、昨秋は1.25秒前後かかっていました。しかしこの秋は、1.1~1.2秒ぐらいと基準レベル以内にスピードアップ。フィールディングは、自分から積極的にボールを処理にゆくなど、自信があるように見えます。

(投球のまとめ)

 丁寧に投げようという意識は感じられるのですが、それほどテンポの良い投球ではありません。特に変化球が多いので、リズムに乗り難い側面があります。それでも低めやコーナーに丹念に集める集中力はあり、球威の無さを繊細さで補っている部分があります。

特に「間」の使い方が上手いとか、投球術が巧みだという感じではないものの、要所を占めること、大崩れしないというところでは優れていないと、なかなか地方リーグとはいえ4年間無敗で過ごすことはできません。あとはその能力を、全国大会で実証できなかった物足りなさは残りますが。


(成績から考える)

 オフに作成したレポートでは、フォーム分析を行いました。そこで今回は、残した実績から最終学年のピッチングを考えてみましょう。ちなみに、唯一行われたこの秋成績は

5試合 3勝0敗 35回 24安 20四死 46三 防 2.57(4位) 

1、被安打は投球回数の80%以下 ◎

 被安打率は、68.6% と、基準である70%台どころか60%に到達。なかなか相手としては、的が絞り難かったことがわかります。しかし下級生までの3年間では、49.1%ということで、実はラストシーズンは下級生のときよりも被安打が多かったことがわかります。

2、四死球は投球回数の1/3以下 ✕

 ラストシーズンの四死球率は、57.1%とかなり悪いことがわかります。下級生までの3年間では、40.5%と、アバウトですが最終学年よりは遥かにまともな数字です。普段のリーグ戦では、かなりコントロールに苦しんでいたことがわかります。良いときと悪い時の差が激しいというのは、このコントロールのデキによって全然変わってくからなのかもしれません。

3、奪三振は1イニングあたり0.8個以上 ◎

 1イニングあたりの奪三振は、1.31個 と投球回数を遥かに上回ります。3年間の平均では、1.24個と、この部分に関しては下級生の時よりも優れていました。

4、防御率は1点台が望ましい △

 最終学年では、防御率 2.57 と平凡な成績に。しかし1年春には、0.29(1位)、2年春には、1.13(2位)、3年春には、0.00(1位)など、1点台を満たしたシーズンも少なくありません。そのためシーズンによってバラツキは激しいのですが、持っている能力的にはかなり高いものがあることは間違い無さそうです。

(成績からわかること)

 優勝決定戦では、低めやコーナーに丹念に集めていて高い制球力があるように見えました。しかし残した成績を見る限り、かなり日によって違う、シーズンによって調子のバラツキが激しいことが気に気になります。そのへんが、1年春の躍動感溢れるピッチングに比べると、その後はダルく見えてしまっていた要因なのかもしれません。

(最後に)

 良い時のピッチングであれば、開幕ローテーション・あるいはリリーフとして即戦力が期待できる内容でした。その一方で、デキが悪い試合が結構あるので、そのへんが成績にどう影響するのかは気になります。またその原因が、慢性的に何処か痛いところがあり、騙し騙しやっていたのではないかという不安は抱きたくなります。もしそうだとすると、プロで長く険しいシーズンを乗り切れるほどの身体なのかには疑問が残ります。1年目から5勝前後はできそうに見えましたが、状態が持続できないとなるとプロでは全然終わる可能性も否定できません。それでも今回の代表決定戦でのピッチングや、一年春の衝撃的な内容を思い出すと、持っている潜在能力を評価してみたいと思わせるものがあります。


蔵の評価:☆☆ (中位指名級)


(2020年 東北優勝決定戦) 











山野 太一(東北福祉大3年)投手 172/74 左/左 (高川学園出身) 





「変化球が多すぎ」 





 左腕から、140キロ台中盤の速球を投げ込める 山野 太一 。しかしその投球の多くは変化球であり、たまに速球を織り交ぜて来るというスタイル。どうしても変化球中心のピッチングだと、投球にリズムが生まれ難くなってしまうのだ。そういった歯がゆさが、この投手の投球をみていると残る。


(投球内容)

 ゆったりしたモーションから投げ込むので、とても172センチの体型には見えません。そういったマウンドで大きく見せるというのは、良い投手に多く見られる特徴です。

ストレート 常時140キロ台~後半 
☆☆☆★ 3.5

 高川学園時代から好投手として注目され、甲子園でも活躍。しかし福祉大進学後に、格段に球速・キレを増しました。1年春のリーグ戦では、4勝負けなしで防御率 0.29 でいきなり最優秀防御率を獲得。ストレートのキレ・勢いは、この1年時が一番良かったです。以後故障などもあり変化球中心の配球になってしまったのですが、現在はストレートの勢い・キレもかなり取り戻しつつあります。それゆえに、もう少しストレートを中心としたピッチングができないのか?という不安は残ります。

 確かにたまに投げるストレートの割に、相手が対応してくるのは気になります。ボール自体は、両サイドに散らすことはできているのですが ・・・。四死球は、以前は投球回数に対し1/3ぐらいには留めていました。しかし上級生になるに従い、アバウトになっているのは気になるところでしょうか。投球のリズム感がイマイチなのは、狙ったとおりにボールが決まらないことが多いからかもしれません。

変化球 スライダー・カットボール・カーブ・チェンジアップなど 
☆☆☆★ 3.5

 120キロ台の曲がりながら沈むスライダーにキレがあり、他にも130キロ台中盤のカットボール、110キロ台のカーブなどがあります。さらに右打者には、チェンジアップ系のぼーるがあり、一通りの球種を持っています。入学以来、ほとんどのシーズンでは投球回数以上の奪三振は奪えています。

その他

 それほど鋭い牽制は入れて来ないで、マウンドを外すような感じで織り交ぜてきます。クィックは、1.25秒前後とやや遅めで、フィールディングは積極的にボールをとりに行く動きの良さは感じました。

(投球のまとめ)

 ボール1つ1つは良いのですが、何か投球全体になるとまとまりというか、リズムが悪くなってしまいます。せっかく良さを、うまく引き出せていないのではないかと。リーグ戦では入学以来19勝0敗 と圧倒的な実績なのですが、全国大会に行くと物足りません。最終学年の目標は、全国大会でも通用するピッチングを身につけることではないのでしょうか。



(投球フォーム)

 ではフォームを分析して、傾向や今後の可能性について考えてみましょう。ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。

<広がる可能性> 
☆☆☆★ 3.5

 引き上げた足をかなり二塁方向にまで引いて投げ込むので、お尻はバッテリーライン上に残りがち。そのため身体を捻り出すスペースは充分には確保できず、カーブで緩急をつけたりフォークのような縦に鋭く落ちる球にはあまり適さないフォームです。

 それでも「着地」までの粘りは適度に感じられ、身体を捻り出す時間は確保。キレや曲がりの鋭い変化球の習得は、けして無理なフォームではありません。実際に球種は多彩で、絶対的な武器はないものの、コンビネーションで相手を打ち取ることができています。

<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブを最後まで身体の近くで抱えられ、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができている。そのため軸がブレ難く、両サイドへの投げわけは安定しやすい。

 足の甲での地面への押しつけもできているが、若干浅いところがある。したがって力を入れて投げてしまうと、ボールが上吊りやすい。「球持ち」は並ぐらいで、それほどボールを押し込むとか指先の感覚に優れているといった感じはしない。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻の落としが充分ではないわりに、カーブを結構使ってくる。そのため窮屈になることがあり、肘への負担が少ないとは言えない。しかし腕の送り出しには無理がなく、肩への負担は少なめ。過去に肩を痛めた経験があるだけに、そのへんは注意してみたい。現状力投派でもなく、疲労を溜め難いフォームになっている。

<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りはそれなりで、合わせやすいフォームではないのだろう。ボールの出どころもある程度隠せており、甘く入らなければ大丈夫そう。しかし実際の投球では、意外に苦になくストレートに対応されていたのは気になった。

 振り下ろした腕は適度に身体に絡み振れているので、打者からの空振りは誘えている。ボールにも適度に体重を乗せてからリリースできており、打者の手元までの勢いも悪くはない。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に大きな欠点は見当たらない。逆に特別良いというほどのものもないので、今後のさらなる努力次第ではもっと嫌らしいフォームになっても不思議ではない。

 コントロールを司る動作、故障のリスク、武器になる変化球の習得などの観点でも悪くなく、投球フォームに関しては 中の上 ぐらいの技術ではないのだろうか。


(最後に)

 肩痛の影響なのか、以前のようなガンガン速球で押すというピッチングは厳しいのかもしれない。そのためどうしても変化球を多く使い、時々ストレートを交えるというピッチングにならざるえないのではないのだろうか。ただしそれで通用するのであればよいが、全国大会やさらにプロの世界を想定すると現状は微妙な内容。その辺をさらに相違工夫して、より高いレベルでも通用できるものにできるのか注目してゆきたい。現状の内容だと、ドラフト指名されても即戦力になれるのかは懐疑的な見方になってしまう。


(2019年 神宮大会)


 








山野 太一(高川学園)投手レポート(無料)