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木澤 尚文(ヤクルト)投手のルーキー回顧へ







木澤 尚文(慶応大4年)投手 183/85 右/右 (慶応義塾高出身) 





「ボールの迫力は屈指」 





 はちきれんばかりに腕を振り下ろし投げ込まれるボールの迫力は、2020年度のドラフト候補の中でも屈指のものがあるのではないかと思われる 木澤 尚文 。しかし彼の凄いのは、同じぐらい変化球も素晴らしいということに尽きるのではないのだろうか。


(投球内容)

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。先発だろうとリリーフだろうと、全身を使って投げ込むピッチングスタイルに変わりがないのが、この男の一番の特徴ではないのだろうか。ただし8月に行われた春季リーグに比べると、やや物足りない成績だったことは否定できない。そこで、シーズンのでき云々など関係なく力をぶつけてくる、秋の早慶戦の投球に注目してみた。

ストレート 常時140キロ台後半~150キロ台中盤 
☆☆☆☆★ 4.5

 ボールが見えてからミットに収まるまでが一瞬で、ズバーンと凄い勢いで打者の元に到達する。球速以上にそのボールの迫力は、今年の候補でも一番ではないかと思えてくる。しかし結構荒れ球の傾向が強いのだが、要所ではズバッと良いところに決まって手も足も出ない。4年秋のシーズンでは、37回1/3イニングで9四死球で、四死球率は 24.1% と数字の上では充分に合格圏内の範囲でとどめている(基準は投球回数の1/3以下)。プロの打者の打力、そして狭いストライクゾーンに対応できるかどうか? 

またボールの威力の割には、簡単に捉えられてしまうことがある。ボールの出どころが見やすいからだと考えられるが、被安打は31本で被安打率は 83.1% (基準は70%台)と悪い数字ではない。ただし、これだけのボールを投げている割には、数字の上でもやや物足りない。

変化球 カットボール・スプリット・カーブ など 
☆☆☆☆ 4.0

 木澤の最大の武器は、配球の1/3を占めると言われるカットボールにある。この140キロ台のカットボールが、速球との見分けがつかずタイミングが合わせずらい。特に左打者の内角をこれで突くことができるのが、木澤の最大の良さでもある。その他にも、高速で沈むスプリットもある。また投球に余裕が出てくると、110キロ台のカーブを混ぜてくることもある。基本的には、速球と高速変化とのコンビネーションでピッチングを組み立ててくる。ちなみに奪三振は、37回1/3イニングで39個。投球回数を上回るほどの、奪三振を誇っている。もう少しスプリットの精度を高めるのと、緩いスライダーのようなカーブをうまく活かしたい。

その他

 クィックは1.0秒前後と高速で、牽制も非常に鋭い。間を使ってとかいう感じではないが、力でガンガン推してくる。

(投球のまとめ)

 速球にしても変化球にしても、一つ一つのボールの威力は一級品であるのは間違いない。しかしその一方で、防御率は 3.14(通算でも2点台後半)とイマイチで、能力の割に数字が伴って来ないもどかしさがある。こうやってみると、プロでも先発ができないということはないと思うが、やはり即戦力として活躍するとしたら、リリーフの方ではないのだろうか?


(投球フォーム)

 では今度はフォームの観点から考えてみたい。セットポジションから、足を引き上げる勢いは並で、それほど高くまでは引き上げては来ない。軸足の膝には力みは感じられないが、少し全体のバランスとしては ト の字になりがちでツッコミやすい立ち方になっているのは気になるところ。オフシーズンにもフォーム分析をしているので、何か大きな変化があったのか観てみたい。

<広がる可能性> 
☆☆☆ 3.0

 お尻の一塁側への落としは、甘さは感じられるものの、カーブやフォークといった球種を投げらないことは無さそう。ただしそういったのキレや曲がりが、不充分になる可能性は捨てきれない。

 また「着地」までの地面の捉えりは平均的で、粘り強いとは言えない。したがっていろいろな変化球は投げられものの、武器になるほどの球が身につけられるかは微妙。しかし現時点で、プロでも通用するであろう見分けの困難なカットボールを身につけられていることは大きい。


<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力は抑えられている。したがって横のブレは抑えられく、両サイドへはボールは散りやすい。しかし腕をブンと振りながら投げ込むフォームのために、細かい制球力はつけにくい。

 足の甲での押しつけが地面から離れてしまい、浮き上がろうとする力を抑え込めていない。「球持ち」も並ぐらいに見えるが、時々上手く押し込めるのか低めに素晴らしい球が行くことがある。フォームの再現性が低いのは課題だが、これが安定してくると、なかなか驚異的なピッチングになってくるのではないのだろうか。


<故障のリスク> 
☆☆★ 2.5

 お尻はある程度落とせているので、カーブやフォークといった捻り出して投げる球種にも窮屈になることはない。ただし、こういった球は投げて来ない。縦の変化もスプリットで握りが浅く、肘への負担という意味ではそれほどでもないのではないのだろうか。

 むしろグラブを持っている肩は下がり、ボールを持っている肩はかなり上がっており、送り出しでは肩への負担を感じさせる。また腕の振りが尋常ではなく全身を使って投げ込ので、疲労を溜めやすく肘の靭帯損傷という怪我に見舞われたのもわからなくはない。この恐怖心を打ち勝つまでに腕が振れるようには戻ってきているが、再び故障をしてもおかしくはない。


<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは平均で、ボールの出どころはやや早く見える。打者としては、イチ・ニ・サンでボールを待つことができ、また球筋もいち早く読まれやすい。簡単に苦になく打ち返されてしまうことが多いのは、この単調なリズムによるところが大きそうだ。

 腕の振りは素晴らしく、勢いがあって空振りを誘いやすい。足の甲は地面から浮いていても、覆いかぶさるようなフィニッシュで、ボールにしっかり体重を乗せ、迫力の球を投げ込むことができる。


(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に「開き」がやや早いのが気になる。むしろ昨秋の投球をフォームチェックした時よりも、ボールが見やすくなっていたのではないかと。このへんが、4年秋のリーグ戦がもう一つだった要因なのかもしれない。

 基本的に昨年と大きな変化は感じられ似が、全体的に動作の粘りや重心の沈み込みなどが浅く悪くなっていた。このへんは、8月に春季リーグを行い、1ヶ月足らずで秋のリーグを迎えたという疲労もあったのかもしれない。フォームだけで言えば、けして実戦的な技術の持ち主とは言えないだろう。



(最後に)

 先発を任せるには、投球の奥行きに欠け単調な印象は変わっていなかった。学生相手ならば、このスペックがあれば先発でも形にはなる。しかしプロの一軍打者相手だと、そういった粗は目立ってきてしまう恐れがある。また制球のアバウトさも、もっとハッキリした形に表れてきてしまうかもしれない。ローテーションの中に収まる可能性はあっても、5勝前後できれば御の字ではないのだろうか。

 そうかといってリリーフならば即戦力級だとは思える部分もあるのだが、大きな故障を経験してきている選手なので、あまり無理をさせられないという事情もある。そういった意味では、かなり起用法が難しい選手ではないかと危惧する。この素晴らしい能力を、いかに安定して引き出すことができるのか? チームの運用の仕方と、本人のケアなど取り組み方でも大きくは変わってきそうだ。彼が外れ1位で指名できたのも、この使い勝手難しさに原因があったのかもしれない。それでもボールの素晴らしさはピカイチなだけに、1位指名にふさわしい選手だとは評価したい。



蔵の評価:
☆☆☆☆ (1位指名級)


(2020年 秋季リーグ戦) 









木澤 尚文(慶応大3年)投手 182/78 右/右 (慶應義塾出身) 





 「スペックは充分」





 投げ込まれるストレートの威力、変化球のキレは素晴らしい 木澤 尚文 。これだけの能力の選手が、この秋は早慶戦の1試合のみの登板に留まった。その理由に、高校時代に痛めた右肘靭帯損傷が未だに影響しているからなのだろうか?


(投球内容)

ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。

ストレート 常時140キロ台後半 
☆☆☆☆ 4.0

 体重がグッと乗った時のストレートは、球威と勢いが素晴らしく容易には前に飛ばすことができない代物です。高めに抜けたりコントロールのバラツキはあるのだが、低め膝下にビシッと決まることも結構あり、こういった球が安定して投げられれば手も足も出せないだろう。

変化球 スライダー・カットボール・ツーシームなど 
☆☆☆☆ 4.0

 手元キュッと変化する130キロ台後半のカットボールのような球で、カウントを整えてきます。この球が、非常にキレがあり有効。他にも縦に沈む球があるのですが、縦スラなのかフォークなのかよくわかりませんが、腕の振りも良く落差があって威力があります。ツーシームやとチェンジアップもあるそうですが、正直変化球の曲がりも独特なので良くわかりません。1つ言えるのは、変化球のキレが良く、かなり威力があるということ。

その他

 クィックは、1.1秒~1.15秒 ぐらいでまとめてきます。牽制やフィールディングに関しては、今回の観戦ではよくわかりませんでした。今年の、チェックポイントとして観て行きたいポイント。

(投球のまとめ)

 速球の威力・変化球のキレ は、プロでも上位のものがあると思います。問題は、コントロールとこのパフォーマンスを年間通じて発揮できる状態にあるのかという部分。この2つの問題をクリアできれば、間違いなく1位で消えると思います。今年の慶応は、佐藤 宏樹 にしても、この木澤 にしても、能力は素晴らしいもののプロの世界で耐えうる身体なのか見極めることが求められます。


(投球フォーム)

フォームの観点からも、今後の可能性について考えてみたい。

<広がる可能性> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻の一塁側への落としは、多少の甘さは感じられるものの落とせている方ではないのだろうか。これならば、カーブやフォークといった球種も投げらないことは無さそうだ。

 「着地」までの粘りはそこそこで、まだ充分というほどではない。したがっていろいろな変化球は投げられるが、武器になるほどの球が身につけられるかは微妙。それでも現時点で、カットボールと縦スラだかの変化球のキレは素晴らしいので、その点は気にしなくても良さそうだ。

<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力は抑えられている。したがって横のブレは抑えやすく、両サイドへはボールは散りやすい。足の甲での地面の押しつけが浅いので、浮き上がろうとする力を抑え込めていない。「球持ち」も並ぐらいに見えるが、時々上手く押し込めるのか低めに素晴らしい球が行くことがある。リリースが安定して来ると、もっとコントロールのバラツキも、減って来るのではないのだろうか。

<故障のリスク> 
☆☆★ 2.5

 お尻はある程度落とせているので、カーブやフォークといった捻り出して投げる球種にも窮屈になることはない。ただしこういった球は投げていないようなので、問題は無さそう。

 むしろグラブを持っている肩は下がり、ボールを持っている肩はかなり上がっており、送り出しには負担の感じさせる。また腕の振りも投げ終わった後に肩が中に入り込むほどで、疲労を溜めやすく肘の靭帯損傷という怪我に見舞われたのもわからなくはない。その恐怖心が残っているのか? 慢性的に無理できないのかは定かではない。

<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りもそこそこで、ボールの出どころも平均的。特別苦になるようなフォームではないが、ボール自体が圧倒的なので甘くても打ち損じも多いのだろう。

 腕の振りは素晴らしく、勢いがあって空振りを誘いやすい。ボールへの体重の乗せも発展途上の印象はあるが、指にかかった時のボールの球威や勢いには素晴らしいものがある。こういった球が安定して投げられるようになったら、プロでも容易には打ち返せないだろう。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である、「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特別優れているところもないが大きな欠点も見当たらない。それだけ伸びしろは残されており、意識と努力次第では良くなる可能性を秘めている。

 足の甲の押し付けが浅いのと力投派で再現性の低いフォームからか? コントロールが不安定。非常に疲労を溜めやすく、負担の大きなフォームに身体が耐えられるかが心配なところだろうか。フォームとしては未完成だが、まだ伸ばせる余地が充分のこされている。プロ入り後、大化けしても不思議ではない。


(最後に)

 非常に、スペック的には魅力溢れる素材です。ただしリスキーな素材でもあるので、かなり戦力に余裕がある、あるいは投手育成に自信がある球団ではないと厳しいのではないのでしょうか。上手く能力を引き出せれば、プロでもセットアッパーやクローザーあたりを担って行ける存在になるのではないのでしょうか。


(2019年秋 早慶戦)