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岩田 将貴(阪神)投手のルーキー回顧へ







岩田 将貴(九州産業大4年)投手 178/83 左/左 (九産大九州出身) 





 「おもしろい」





 今年の阪神の指名選手の中でも、個人的に一番面白いのではないかとみているのが、岩田 将貴 。 一塁側に大きくステップして、さらにサイドで投げ込んでくるという超変則左腕なのではある。


(投球内容)

 2年春に肘を出術した影響なのか? 3年春は僅か2試合。3年秋のシーズンは登板無し。さらに4年春は、コロナでリーグ戦中止など下級生の頃から存在感を示していましたが、上級生でのアピールは薄かったのでは確かです。しかし4年秋のリーグ戦では、5試合に登板して自責点0と復調ぶりをアピールできていました。

ストレート 常時130キロ前後 ☆☆☆ 3.0

 球威・球速という意味では、130キロ前後ぐらいなので、プロ云々のレベルではありません。しかし上記に記したように、大きくクロスステップして、さらにサイドから投げ込むという変則。そのため、この選手の球速を考える時は、アンダースローの投手と同じような感覚で考えるのが良いのだと思います。

 元々クロスステップすることで、左打者にとっては背中にぶつけられそうな恐怖感を抱きます。さらにそこから横から腕が出てくるという、なかなかいないタイプの超左打者には厄介な球筋なのです。確かにタイミングがあってしまうとひとたまりもないのですが、彼の球筋を良く知っているリーグの打者達でさえ、95回1/3イニングで70安打しか打てておらず、被安打率は 73.5% と極めて低いのが特徴です。さらに四死球も少なく、実際の投球を観ていても投げミスもなかなか観られません

変化球 スライダー・ツーシームなど ☆☆☆★ 3.5

 スライダーを両サイドにしっかり投げ分けるコントロールがあり、そのスライダーの球速・曲がり幅を投げるたびに変えて投げるという芸当ができます。さらにツーシームなのかシンカーなのかわかりませんが、シュート系の球もあり、右打者に関しては外角いっぱいにボールを集めることができています。変化球が、それほど空振りを誘うというほどの曲がりではないので、打ち損じを誘ったりカウントを整えるためのものといった位置づけになりますが。

その他

 クィックも 1.05~1.30秒台 と投げるたびにタイミングを変えています。牽制は適度に鋭く、時々走者も刺されるのではないのでしょうか。球種をいたずらに増やすよりも、持っている球のスピードや変化を変えて使い分け、その球をしっかりコントロールできることに力が注がれているいます。

(投球のまとめ)

 球威・球速がない分、繊細なコントロールと使い分けによって相手を幻惑します。横の角度で幻惑しつつ、配球でも相手に的を絞らせない工夫がみられます。さらに投げるタイミングも一球ずつ変えるなど、もうこれでもとかというぐらいの引き出しを持っています。育成枠での獲得ですが、使えるか使えないかの結果が明らかになるのは早いのではないかとみています。





(投球フォーム)

 通常のフォームではあてはまらない変則フォームなのですが、一応フォーム分析を。足を勢いよく高い位置まで引き上げるなど、リリーフタイプの入り方をします。軸足一本立った時には、比較的バランス良くは立てています。

<広がる可能性> ☆☆★ 2.5

 軸足一本で立ったあとに、大きく一塁側に踏み出すため、お尻はバッテリーライン上に残ってしまいます。そのため身体を捻り出すスペースは確保できないので、カーブやフォークといった球種には適しません。また腕の振りもサイドなので、なおさらだと言えるでしょう。

 「着地」までの粘りは平均的で、特別身体を捻り出す時間にも粘りがあるわけではありません。スライダーやチェンジアップ、速球に近い球速で小さく変化するボールで投球の幅を広げてゆくことになりそうです。実際そういった投球なのですが、同じ球種でも変化の大きさや球速を変えて様々なバリエーションで投げることで、単調さを防ぐことができています。しかし、変化球で空振りをバシバシ奪うとか、そういったタイプではないのでしょう。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5

 グラブは内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力は抑え込めています。そのせいかはわかりませんが、両サイドへの投げ訳はしっかりできています。足の甲の地面への押しつけは浅いのですが、腕の振りがサイドなのと「球持ち」の良さで、ボールが高めに集まるといったことはありません。「指先」の感覚にも優れ、繊細なコントロールの持ち主です。

<故障のリスク> ☆☆☆ 3.0

 お尻は落とせていませんが、カーブやフォークといった捻り出して投げる球は観られません。ただし過去にも肘を手術しているように、サイドでなおかつクロスステップさせるという大変特殊なフォームのため、肘に大きな負荷が懸かっているようにも見えます。今後そのへんはどうなのか? 気になるところではあります。

 腕の送り出しを観ていると、肩に負担がかかるフォームには見えません。しかしサイドゆえに、通常のフォームではわからないところに負荷が懸かっている可能性があります。意外に全身を使って投げているので、疲労は溜めやすい恐れはあります。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは平均的で、球威・球速がないだけに、タイミングが合ってしまうとスコーンと打ち返されてしまうところはあります。過去の全国大会での成績では、26回1/3イニングで26安打と、投球回数とほぼ同じことからも伺えます。しかしボールの出どころは隠せているので、投げミスをしなければ大丈夫だと思いますし、そういった球は少ないと言えます。

 腕は適度に振れていますが、空振りを誘うというよりも打ち損じを誘ってアウトを稼ぐタイプかと。どうしても大きく一塁側に踏み出すので、真っ直ぐ投げ込むフォームに比べると、どうしてもダイレクトに力を伝えきれる部分があります。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」と「開き」に優れ打ち難さを演出。変則故に故障のリスクは拭いきれないのですが、投球の幅を広げてゆくことに関してはいろいろなバリエーションで使うことで補えています。またコントロールに関しても、かなり精度の高い投手と言えるのではないのでしょうか。やはりそういった意味では、特殊なだけではなく実戦的なフォームだとは評価できるのではないのでしょうか。

(最後に)

 変則で相手を幻惑させるだけでなく、同じ球種でも曲がり幅や球速を変化させたり、投げるタイミングを変えたりと相手に的を絞らせない工夫が観られます。また球威・球速の無さを、繊細なコントロールで補うことができ、なかなか大崩れするイメージが湧きません。

 投手としての完成度も高く、育成枠指名ですが早い段階で結論がでる投手だと言えるでしょう。むしその実力よりも心配なのは、再び故障しないのか?という方に不安を感じます。個人的には、レベルの高い阪神投手陣の中に入っても、一年目から一軍で重宝される存在になるのではないかとみていますが、果たしてどうなることでしょうか? 私ならば、指名リストに名前を残し本会議で指名するという判断をしたのではないかと思います。特に秋の映像を見る限り、実力が以前より低下した感じもしませんので。個人的には、非常に興味深い指名だと評価します。


蔵の評価:  (下位指名級)


(2020年 秋季リーグ戦)