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山崎 伊織(巨人)投手のルーキー回顧へ







山崎 伊織(東海大4年)投手 181/72 右/左 (明石商出身) 
 




 「登板はなし」





 2020年度のドラフト戦線において、即戦力NO.1候補と目されていた 山崎 伊織 。しかし、春季リーグはコロナで中止に。そして懸念されていた右肘の手術に、6月には踏み切った。そのため一時は、社会人に進んで復活を目指すとしていた。しかし、ドラフト直前に一転してプロ入りを宣言。そのため、慶大進学が濃厚と見られた 高橋 宏斗(中京大中京)のプロ入リ宣言ともに、各球団はドラフト戦略を根本から見直さなければいけなくなった。

 しかし山崎の登板は、最終学年では一切なし。あくまでも、3年時までの内容で判断するしかなかった。しかし完成度の高い投手だったので、すでに前年の時点で1位指名が濃厚なレベル。それが、元に回復するのか? そして、復帰するまでに一年近く要する選手を、上位で指名できるのか?というのが、大きな争点となった。そこで今回は、彼が3年時までに残した成績から、改めてその能力を確認し、その価値があったのか検証してみたい。


(成績から考える)

リーグ戦に登場したのは、2年春のシーズンから。

通算17試合 11勝1敗 107回2/3 75安打 17四死 91三 防 1.09

1,被安打は投球回数の80%以下 ◎ 

 被安打率は、70.0% 。基準が80%以下であり、充分に合格点だと言える。ボールの威力・配球・打ち難さなど含めて、総合力でリーグでは圧倒していたことが伺われる。しかし、3年春に出場した全日本大学選手権では、15イニングで14安打ということで、それほど打ち難いといった投手ではないことが伺われる。

2、四死球は投球回数の1/3以下 ◎

 四死球率は、15.8%。四死球率の目安は、投球回数の1/3(33.3%)以下なので文句なしに条件を満たしている。投球回数の1/3以下どころか、1/6以下になっている。ただし3年春の大学選手権では、15イニング6四死球と基準を少しオーバーしていることも覚えてはおきたい。相手打者のレベルが上がる全国大会において、被安打率に続き四死球率が上昇している。

3、奪三振は、1イニングあたり0.8個以上 ◯

 1イニングあたりの奪三振数は、0.85個。先発投手の基準である0.8個は越えているものの、リリーフ投手の基準である0.9個は満たしていない。基準を満たすだけの奪三振能力はあっても、絶対的な領域ではないことが伺われる。

4、防御率は1点台以内 ◯

 防御率は、基準の1点台どころか通算で1.09と、僅かに0点台に届かない程度と申し分がない。2年春には0.68(3位)、3年秋には0.20(1位)と文句なしの実績を残している。ただし気になるのは 2年秋には 3.38、3年春には2.17(8位)とシーズンによって差が激しいこと。この頃から、肘の調子が悪かったのかもしれない。

 問題は、手術を行ったことで、そういった不安が払拭できたのか。あるいは、この成績のムラの要因が他にあるのか?といったところは見極める必要があるだろう。ただし、誰よりも厳しい攻めやハイレベルな投球ができていた選手なので、精神的なムラによるところではないとは思うのだが・・・。

(成績からわかること)

 さすがに下級生までの出来では、今年の新人の中でも屈指の総合力を誇っていた。全てのファクターを、余裕を持ってクリアできている。ただし、相手レベルが格段に上がった大学選手権では、その数字が怪しくなるのは気になる材料。大学生と比べ遥かに打力が高いプロの打者を相手にした時に、意外に脆さが出てしまう可能性も否定できない。確かに優秀な成績ではあるが、地方リーグの成績としては図抜けているわけではないこともわかった。


(最後に)

 元々圧倒的な球威・球速でねじ伏せるわけではなく、質に優れたキレの良い真っ直ぐや変化球を駆使して、厳しいところに投げ手も足も出させないといったタイプの投手だった。それ故に甘く入ると長打を食らうとか、プレッシャーのかかる相手だと自分の持ち味が発揮しにくい恐れがある。

 この高度なピッチングは、相手を見下ろして投げられる精神的な余裕があるからこそといった可能性も無きにしもあらずなのだ。まして肘を手術したことで、元通りの球がゆかない時に何処までかわす術を持っているのか? 自分の持ち味を貫けるのかといった不安は拭えない。ただし、この選手の能力を疑いはじめたら、ほとんどの選手の可能性を疑わなければならなくなってしまう。

 個人的には、3年生の時点で最もご贔屓球団に指名して欲しかったというほどだった。順調に行っていれば、1位で競合していても不思議ではなかった選手であり、3年時までの評価ならば ☆☆☆☆(1位指名級) は付けても良かったと思っている。そして最終学年に他を圧倒するような凄みを増していたら、文句なし ☆☆☆☆☆(目玉級) の評価にしていたであろう。それ故、手術後の回復具合やそれまでの期間を考えると、2位指名のいの一番でジャイアンツが指名したのは懸命な判断だったと評価したい。それにしても、これほどの選手の最終評価を、くだせないで終わったのは本当に残念でならなかった。









山崎 伊織(東海大3年)投手 181/71 右/左 (明石商出身) 
 




 「総合力NO.1」





 現時点で、今年の高校~社会人含めて全ての候補の中で、総合力NO.1といえるのは、この 山崎 伊織 ではないかとみている。彼の何処が優れているのか? 今回は考えて行きたい。


(投球内容)

 公称・181/71 という体格からも、ドラフト候補としてはけして身体が大きいわけではない。実際の投球も、スケール感溢れる投球というよりは、球のキレとコントロールなどを含めた総合力で勝負して行くタイプ。

ストレート 常時145~150キロ強 ☆☆☆☆ 4.0

 ボールの球威・球速で圧倒するというよりも、キレとコントロールで勝負するタイプです。それでも先発をすれば、常時145~150キロを安定して叩き出し、その球も空振りを誘えるキレがあります。キレ型投手なので甘く入ると怖いという側面がありそうですが、この選手はストレートの投げミスが非常に少ない。臭いところを突いてボールになることはあっても、甘いところに入って打たれるケースは非常に少ないと言えるでしょう。普段は外角中心に投球を組み立てるのですが、高校ジャパンの壮行試合でも魅せたように、左打者の内角をガンガン攻める厳しさも併せ持っています。

変化球 スライダー・カットボール・チェンジアップなど 
☆☆☆☆ 4.0

 速球の能力だけでなく、変化球のレベルも高いのが特徴。小さく横にズレるカットボールのような球でカウントを整えてきます。スライダーは縦に鋭く落ちるフォークのような役割を果たす球があり、この球が決め球に。逆に左打者にはチェンジアップ系の球を結構使ってきますが、この球の精度・キレは並みなので、チェンジアップなどの左打者に対する変化球が、今後課題になってくるのではないのでしょうか。変化球をしっかりカウントを整えられて、縦の変化球で空振りを奪えるという投球を、すでに確立できています。

その他

 クィックは、1.1秒前後と基準以上でなげこみ、フィールディングの動きも落ち着いていて安定しています。牽制はかなり鋭く、本人も自信を持っているのではないのでしょうか。

 特に「間」を意識するとか言うことはないのですが、外角ギリギリのところを突いて来るなど、そういった繊細さはあります。


(投球のまとめ)

 凄みを感じる投手ではないのですが、技術的に非常に高いレベルでまとまっている。そして、攻めの厳しさというものを持っているということ。そういった意味では、4年春の上茶谷(DeNA)や森下(明治大)と、同ランク~それ以上の能力はすでにあるのではないのでしょうか。プロの先発投手としても、一年目から二桁前後。リリーフならば、いきなりセットアッパーやクローザー級を務められる可能性は感じます。





(投球フォーム)

今度は、フォームの観点から考えてみましょう。

<広がる可能性> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻の一塁側の落としに甘さはあるものの、身体を捻り出すスペースが確保できていないわけではありません。そのため、カーブやフォークの効果は別にして負担が大きいということは無さそう。

 「着地」までの前への足の逃しは良く、適度に身体を捻り出す時間は確保できています。キレや曲がりの大きな変化球を習得することは、期待できるでしょう。実際縦スラに関しては、フォークの代わりに使えられる落差があります。


<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで身体の近くに留まり、外に逃げようとする遠心力は抑え込めています。したがってブレは少なく、両サイドへのコントロールはつけやすいと考えられます。

 気になるのは、足の甲が地面から浮いてしまっている点。そのため浮き上がろうとする力を抑え込めない可能性があるのですが、リリース際にボールを押し込めているのか? 高めに抜ける球はほとんど見られません。したがって、あまり気にしなくても良いのではないのでしょうか。


<故障のリスク> 
☆☆☆☆ 4.0

 お尻はある程度一塁側に落とせているので、カーブやフォークを投げても窮屈になるということは少なそう。実際にはカーブやフォークを投げて来ない投手なので、肘への負担は少ないだろうと考えている。しかし秋のシーズンは抜群の内容だったものの、神宮大会を賭けた関東選手権で肘を痛め、神宮大会では登板できずに終わっている。

 腕の送り出しにも無理は感じないので、肩への負担は少ないのでは?とは見ている。それほど力投派でもないので、消耗も少なくフォームを崩す心配も少ないのではと。ただし肘痛が慢性的にならないのかは? 今後見極める意味で大事な要素になりそうだ。


<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りはあるので、打者としては合わせやすいフォームではないのだろう。身体の「開き」も平均的で、球の出どころは見やすいわけでは無さそうだ。

 腕はしっかり振れて勢いがあるので、速球でも変化球でも空振りが誘える。しかし足の甲が地面から浮いてしまっているので、下半身のエネルギー伝達は充分とは言えないのは気になる材料。上半身や腕の振りでキレを生み出すことができるが、下半身のエネルギー伝達が遮断されてしまっているので、球威のある球を生み出すのは難しいのかもしれない。


(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」こそ粘れているが、「球持ち」「開き」「体重移動」は平均的な気がする。このへんは、まだフォームに伸び代があると前向きに捉えたい。

 制球を司る動作は足の甲が浮いている点、故障のリスクは実際に肘を痛めているのは気になる部分ではある。将来的に武器になる変化球の習得という部分では、すでに武器になる縦の変化球を持っているので特に気にしなくても良さそうだ。フォーム技術としては平均的であり、まだ良くなる要素は残されている。そのため完成度の高い投手に見えるが、技術的には発展途上の投手なのだ。



(最後に)

 ボールの威力、制球力・変化球・攻めの厳しさなど、総合力は今年の候補の中で屈指の存在ではないかと位置づけている。しいて心配の点をあげるとすれば、昨秋に痛めた肘の状態だ。これが、2020年度のシーズンに影響しないのか?という部分。今シーズン彼が欠けるような事態になれば、ドラフト戦線に与える影響力は計り知れない。順調にゆけば、上茶谷(東洋大)や森下(明大)ランクからそれ以上が期待でき、1位指名が有力視される一人だから。いずれにしても今後の成り行きを、注意深く見守って行きたい。


(2019年 大学選手権)