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中田 惟斗(オリックス)投手のルーキー回顧へ







中田 惟斗(大阪桐蔭)投手  181/89 右/右 





 「肩痛からの回復」





 昨秋大阪桐蔭のエース 中田 惟斗 の投球をみて、エースがこのぐらいだと来年の大阪桐蔭は厳しいだろうなと正直思っていた。案の定、今年度の大阪桐蔭は、春・夏甲子園を逃すことになる。しかしその中田の投球は、最後の夏には劇的に変わっていた。一節には肩痛が癒えて、元来の投球の勢いを取り戻したという話もある。そのため、この選手の真の実力が何処にあるのかは正直掴みづらかった。


(投球内容)

ガッチリした体格の投手で、真上から投げ下ろしてくる勢いと角度がこの投手の持ち味。

ストレート 常時140キロ前後~140キロ台中盤 
☆☆☆ 3.0

 驚くような球威・球速ではないが、角度を感じさせる球がビシッとミットに突き刺さる。ボールも外角にしっかり集められるのだが、高めのボールゾーンに抜けてしまう球も少なくない。肩の状態にも左右されやすいのかもしれないが、全然ボールが走っていないときもあるので、良いボールを継続的に投げ続けられるかには不安が残る。

変化球 スライダー・スプリットなど 
☆☆☆★ 3.5

 カウントを整えるスライダーと、空振りを誘う縦のスライダーを使い分けて来る。他にもスプリットのような縦の変化球が確認できた。またチェンジアップやカーブなどもあるようだが、チェックした試合ではよくわからず。

 変化球でしっかりストライクが取れ、追い込むと縦の変化球で空振りも誘えるといった部分では、高校生としては一定の水準に達しているといえるであろう。ただしこの縦の変化が、プロレベルの打者が手を出してくれるほどのキレがあるかは微妙。

その他

 牽制自体の動きは悪くないが、ややモーションが大きいのは気になる。クィックは、1.15秒前後と平均的。ボール処理などもそれなりで、どれも特別優れているわけでも大きな欠点にもなっていない。プロ入り後さらに磨かれれば、問題はないだろう。

 微妙な駆け引きで勝負するタイプではないが、コース一杯にはズバッと決める爽快感はある。

(投球のまとめ)

 昨秋みたときは、高校からプロとなると厳しいという感じだった。しかしこの一年でだいぶ良くなり、指名ボーダーラインレベルまで引き上げてきたなと思っていたら、育成枠での指名となった。評価としては、妥当なのではないかと考えられる。投手としては、昨年ハムに入った先輩の 柿木 蓮 に近いタイプではないのだろうか。





(投球フォーム)

 問題は今のレベルからさらに成長し、プロで通用するだけの投手になれるのか? フォームを分析することで考えてみたい。

<広がる可能性> ☆☆☆ 3.0

 引き上げた足を空中でピンと伸ばすことなく抱えているので、お尻がバッテリーライン上に落ちてしまう。そのため身体を捻り出すスペースが確保できず、カーブやフォークといった捻り出して投げる球種を投げようとすると窮屈になりがち。

 前には多少ステップをすることができており、身体を捻り出す時間としては平均的。武器になるほどの変化球を習得できるかは微妙で、変化球の決め手に欠けるといったことは今後もありうるのかもしれない。特にプロに通用するような縦の変化球を習得できるのかは微妙だろう。


<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで内に抱えられ、外に逃げようとする力を内に抑え込めている。さらにフォームが直線的なのは、両サイドのブレは生じ難く、両サイドへのコントロールは安定しやすい。

 しかし足の甲の地面への押しつけは浅いので、浮き上がろうとする力を抑え込めない。そのためボールは、どうしても上吊りやすい。「球持ち」は悪くないように見えるが、まだボールを押し込める時と抜ける時とでリリースが不安定なので、良い球と悪い球の差が激しい。


<故障のリスク> 
☆☆★ 2.5

 お尻は落とせないフォームだが、現状カーブやフォーク系の割合はそれほどは多くない。また縦の変化も、負担の少ない縦のスライダーやスプリットなので、肘への負担はそれほど気にしなくても大丈夫だろう。

 気になるのは、腕の送り出しに無理がありグラブを抱えている肩が下がりボールを持っている方の肩がかなり上がっている点。そのため肩痛に悩まされてきたと言う理由も頷ける。そのため今後も、肩の状態と相談しながらといった野球人生になることは否定できない。また力投型なので、疲れを溜めやすいという欠点もある。


<実践的な術> 
☆☆★ 2.5

 「着地」までの粘りは平均的で、ボールの出どころは並ぐらい。ただしフォームが直線的な動きのために、それ以上に合わされやすい危険性は感じさせる。

 降り下ろした腕も身体に絡んで来ないなど、腕の振りに勢いは感じられるものの粘っこさがないところがどうだろうか? というのは、縦の変化球を見極めてしまう危険性もある。

 ボールへの体重の乗せ具合はそれなりにできており、打者の手元まで勢いの落ちないボールは投げられている。


(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特別悪いところはないが良いところも見当たらない。良く言えば伸び代を残しているし、悪く言えば特徴がない。

 制球を司る動作は、高低の制球が課題。故障のリスクが高いフォームであり、将来的に武器になる変化球を習得できるのかにも不安が残る。フォームの観点でみれば、リスクの高い素材という印象を受けてしまう。



(最後に)

 気になるのは、肩痛の部分で、今後も再発する危険性の高いフォームだということ。その他技術的にも課題は多く、実際の投球は指名ボーダーレベルだと見ていたが、将来的には不安要素の多い素材というのは確かだろう。投手として粗い部分は、リリーフで勢いで押すのが良いのだけれども、そうなると身体への負担も大きくなるというジレンマを抱えている。現時点で指名するかしないという観点で考えれば、私ならば指名リストには名前を残さなかっただろう。果たしてこのタイミングでのプロ入りが、数年後どうなっているのか見守りたい。


(2019年夏 大阪大会)