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井上 広輝(日大三3年)投手 181/81 右/右 | |
昨夏の時点では、「高校ビッグ4」に肉薄する存在として注目された 井上 広輝 。しかし昨夏の甲子園をピークに、その後はチームが早々破れたり、劣勢での登板で持ち味を活かせないままの最終学年だった。果たして最終学年の井上はどうだったのか? 改めて冷静にみてみたい。 (投球内容) ノーワインドアップから、淡々と投げ込んできます。特に大きく調子を崩しているとか、明らかに昨年に比べて悪くなったところはないように見えます。 ストレート 常時140キロ台~140キロ台中盤 ☆☆☆★ 3.5 2年時は春季大会の登板中に故障し、復帰したのは甲子園の舞台。そこで、150キロまで到達してビックリさせられました。破れた3年夏の桜美林戦でも、リリーフでの登場。しかし球速は140~140キロ台中盤ぐらいと、昨夏ほどの迫力・勢いは感じられなかった。それでもボールの勢い・走りは、高校からプロの入るレベルのボール。昨年まではもっとスピンの効いた回転のあるボールを投げていた印象だが、今年は少し重い球威のある球になっていたように感じる。 ボールを両サイドに散らせ、右打者の内角には厳しく突いて来る。しかし外角一杯に決めにいったボールが、微妙に外れたり高めに甘く入ることも少なくない。そういった要所での詰めが、最終学年ではイマイチだった気がするのだ。 変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブ・シンカーなど ☆☆☆ 3.0 カウントを取るスライダーと、ボールゾーンに切れ込むスライダーを使い分けます。カウントを取るスライダーが低めに決まっている時は好いのですが、時々高めに抜けて来るのが怖いところ。またボールになるスライダーは、曲がりが早すぎるのか手を出してもらえないことも多いです。その他には、チェンジアップ系が大きな武器。ただしこの球は、左打者に使うことが多く、右投手ながら左打者のほうが投げやすいのではないかと思えます。余裕があれば緩いカーブやシンカー系の沈む球も使ってきます。絶対的な変化球があるというよりも、変化球を速球と交えて討ち取って来るタイプだと言えるでしょう。現状はスライダーの精度に課題があり、チェンジアップはプロでも使えるレベルにあると考えられます。 その他 クィックは、1.05~1.15秒ぐらいとまずまず。牽制のターンも鋭いですし、フィールディングの動きも好いです。そういった投球以外の部分もしっかりしており、野球センスの高さが感じられます。 (投球のまとめ) 野球センスに加え、投手としての総合力も高い存在。高校生レベルならば、全国でも上位の力が健在なのは確かでしょう。しかし昨夏の甲子園が10とするならば、最終学年は8 ぐらいだったという印象で、ライバル達が技量を伸ばすなか、伸び悩んだことは否めません。またフォームや投球が素直な分、今後よほど全体の出力が上げられないと苦労するだろうなという気もします。そういった余力や伸び代が、何処まで素材として残されているとみるかで評価は別れるのではないのでしょうか。 (投球フォーム) 今度はフォームの観点から、今後の可能性について考えてみましょう。 <広がる可能性> ☆☆★ 2.5 お尻はバッテリーライン上に残りがちなフォームのために、カーブで緩急をつけたりフォークのような縦に鋭く落ちる球種には適さない投げ方です。ただし腕の振りは柔らかいので、多投しなければこういった球を使ってゆくのも手ではないかとは思います。 「着地」までの粘りは、昨夏よりは良くなっているようにも見えます。ただし投げ終わったあとに一塁側に重心が流れるので、これはステップの幅が適正ではないために力の逃げ道を横に求めてしまうからでしょう。まぁそれでも、身体を捻り出す時間は並であり、武器になるほどの変化球は習得し難いフォームではあります。こういった投手は、スライダーやチェンジアップ・カットボールやツーシーム・スプリットなどの小さな変化に活路を見出したほうが好いかと思います。 <ボールの支配> ☆☆☆ 3.0 グラブは最後まで身体の近くにはあるので、上半身のブレは少なく両サイドへのコントロールはつけやすいかと。足の甲での地面への押しつけが浅いので、力を入れて投げるとボールが抜けやすいこと。「球持ち」も良さそうに見えて意外に押し込めていないので、低めにあまりストレートが集まらない。あるいは、無理して集めようとすると引っかかったりして安定していません。 指先の感覚が良さそうというイメージを抱きがちですが、意外にこの辺の部分では苦労していました。逆にリリースが定まってくれば、コントロールも安定してくるのかもしれません。ただしこの選手、どちらかというと外に外にボールが外れるというよりも、中に中にと集まってきそうなタイプなので、その点は気になります。 <故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5 お尻は一塁側に落とせていないものの、ひねり出して投げるカーブは滅多に投げませんし、フォークのような縦のに鋭く落ちる球種も見られません。そういった意味では、肘への負担は気にしなくても好いのでは? 腕の送り出しを見ていても、肩への負担も少ないのではないかと思います。むしろスリークォーター気味の腕の振りになるので、肘を立ててしっかり振ることを意識しても好いのではと。 腕の送り出しを見ていても、肩への負担も少なそう。それほど力投派でもないので、疲労を貯めてそこから故障に繋がるというリスクは、あまり高くないのではないのでしょうか。 <実戦的な術> ☆☆☆ 3.0 「着地」までの粘りは平均的ですが、ボールの出どころは早すぎることはありません。苦になるフォームではないのですが、コントロールを間違わなければ痛手はそれほど喰らわないのでは。 腕は強く振れていて勢いがあるのは好いのですが、投げ終わったあとに上体が一塁に流れるように、打者にまっすぐエネルギーを伝えきれていません。もう少し股関節の柔軟性を養いつつ下半身を強化できると、「球持ち」もよくなりボールにしっかり体重を乗せて投げられるようになるのではないのでしょうか。 (フォームのまとめ) 昨夏のフォーム分析でも述べましたが、完成度が高そうで意外にフォーム技術には課題が多いと指摘しました。それが、この一年の伸び悩みにも影響したのではないかとも考えられます。フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」でも、「体重移動」を中心に、まだ発展途上というか改善の余地は多く残されています。完成度の高そうな素材ですが、裏返せば伸び代は多く残されているとも考えられます。 故障のリスクが低いのは明るい材料ですが、制球を司る動作や将来的に武器になる変化球をモノにできるのかといった不安は依然残ります。そういった意味では、球速が劇的に今後伸びない限り伸び悩む可能性は否定できません。 (最後に) 最終学年の井上は、悪くはないのだけれどもピリッとしない詰めの甘さを痛感しました。これが一時的な成長期に見られる伸び悩みなのか? それとも素材として壁を迎えつつあるかの判断は難しいところです。1つ間違えれば、中途半端にまとまっている投手で終わってしまう可能性もありますし、逆に出力を上げることができれば総合力の高い投手へと変貌する可能性も秘めています。そのへんは、各球団によって判断は別れそうです。 個人的な見解では、ドラフトでは3位前後の指名ぐらいになるのではないかと考えています。上手く育てば、3年ぐらいで一軍のローテーションに入ってきても不思議ではありません。どちらに転ぶかは、個人的には大変興味深い選手です。ただし私は、現時点では少々心配だなぁと考える方が強いというのが現状の判断です。 蔵の評価:☆☆ (中位指名級) (2019年夏 西東京大会) |
井上 広輝(日大三2年)投手 180/80 右/右 |
「ビッグ4に肉薄する存在」 佐々木朗希(大船渡)・奥川恭伸(星稜)・西鉄矢(創志学園)・及川雅貴(横浜)の高校ビッグ4に肉薄する存在なのが、この 井上 広輝 。春の都大会で、私の見ている前で肘痛で降板。以後試合でで投げることはなかったが、夏の甲子園・奈良大付戦で実戦復帰した。その試合では、最速150キロまで到達するなど、高い能力があることを改めて実証した。 (投球内容) 腕の振りの強さ・柔らかさが、この投手の持ち味。 ストレート 常時140キロ前後~MAX150キロ ☆☆☆☆ 4.0 打者の手元まで、しっかり伸びてくる質の良い真っ直ぐが武器。やや高めに抜ける傾向はあるが、ボールに勢いがあるのでそこで空振りが誘える。夏の奈良大付属戦をみると、久々の実戦登板ということで、ストレートが結構ばらついていた。イニングが進んで来ると制球も落ち着いて来る投手で、四死球で自滅するような危うさはない。 変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブなど ☆☆☆ 3.0 立ち上がりはスライダーが高めに抜けてしまい、カウントを整えるのに苦労した。それでも二回以降は、右打者外角に小さく曲がるスライダーでしっかりカウントを整えきた。スライダーもカウントを整える横のスライダーと、ボールゾーンに切れ込む縦のスライダーを使い分けているのかもしれない。左打者には、腕の振りの良さを活かしたチェンジアップを多く使ってくる。また余裕があると、カーブを投げ込んでくる。特に腕の振りの良さから、見分けの難しいチェンジアップが効果的。 その他 クィックは、1.0~1.1秒とまずまず。フィールディングの動きもよく、野球センスに優れたタイプなのだろう。 (投球のまとめ) 短いイニングだと140キロ台後半を連発してくるが、先発とかだと140キロ前後とキャパを落として投げ込むことが多い。思ったよりもストレートが暴れること、左打者に対しボールが抜け制球がアバウトになる点は今後も気になるチェックポイント。 西鉄矢(創志学園)同様に、元来ならば球速で勝負するといったスケール型ではないだろう。あくまでも、変化球をうまく織り交ぜたコンビネーション・総合力で勝負するタイプだと考えられる。そのためそういった素材としての凄みは感じられないが、夏までに何処まで課題をクリアして実戦力を高めて来られるのか見てゆきたい。 (投球フォーム) 今後の可能性について、フォームを分析することで考えてみたいと思います。 <広がる可能性> ☆☆ 2.0 引き上げた足をピンと伸ばすことなく重心を落として来るので、お尻はバッテリーライン上に残ってしまいます。したがって体を捻り出すスペースが確保できず、カーブで緩急をつけたりフォークのような縦に鋭く落ちる球種には適しません。 「着地」までの粘りも平凡で、体を捻りだす時間も並。そういった意味では、何か武器になるような変化球を、今後習得して行けるのかには疑問です。スライダー・チェンジアップ、小さく動かすボールなどを中心に、ピッチングの幅を広げてゆくことになりそうです。 <ボールの支配> ☆☆☆ 3.0 グラブは最後まで内に抱えられており、両サイドの投げわけはつけやすいはず。足の甲ではつま先のみが地面を捉えている形で、ボールが上吊りやすいのも頷けるところ。指先の感覚や球持ちは悪いとは思わないのだが、ボールを押し込む前にリリースしてしまっているので、低めに球が集められない傾向にある。 <故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5 お尻は落とせないフォームなものの、カーブは滅多に投げないしフォークも見られない。それだけに、肘への負担はそれほど大きくないと考えられる。しかし春の試合中に肘を痛めており、充分に注意したいところ。 腕の送り出しを見ている限りは、肩への負担も少なめ。それほど力投派といった感じでもないので、疲労も溜め難いのではないのだろうか。しかし甲子園での登板を見る限り、明らかに投げ込み不足なのか? 投げていても辛そうな顔をしていたのは印象的だった。 <実戦的な術> ☆☆☆ 3.0 「着地までの粘りが充分とは言えない上に、ボールの出どころも見やすいのは気になる材料。そのため、甘くない球でも簡単にはじき返されてしまう危険性がある。 腕はしっかり振れており、投げ終わったあと体に絡むなど空振りは誘いやすい。ボールにも適度に体重を乗せてからリリーフできており、打者の手元まで活きた球が投げ込めている。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」や「開き」に課題があり合わされやすい。お尻が落とせないことでの肘の負担、足の甲の押し付けの浅さから来る高めに集まりやすい球筋、さらに今後投球の幅を広げて行けるのか?といった部分でも伸び悩む危険性をはらんでいる。意外に理想的なフォームのように見えて、課題が多いことがわかってきた。 (最後に) ビッグ4にも勝るにも劣らない素材ではあるのだが、投球やフォームを見る限り課題が多いことがわかってきた。さらに彼らに比べると、伸び悩むリスクがある点。さほどスケールで、魅了するようなタイプではないのも気になる材料。 夏までに、彼らとの距離を縮めることができるのか? それとも開いてしまうのか? 今後どうなってゆくのか、見極めてゆきたい。しかしこのまま順調にゆけば、中位~上位指名を意識できる存在になるのではないのだろうか。 (2018年夏 甲子園) |