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西舘 勇陽(中央大4年)投手 185/79 右/右 (花巻東出身) 
 




「ボールの威力はさすがだけれど」





 不調だった今シーズンも、けしてボールが走ってなかったわけではなかった 西舘 勇陽 。 ただし、試合をトータルでまとめるといった意味では、まだまだ課題が多いところを露呈したシーズンだったのではないのだろうか。


(投球内容)

 ランナーがいなくてもクィック投法で投げ込む独特のスタイルで、それ自身が問題があるとはみていません。ただし、彼独特の投球だけに、中々バランスを崩すと修正するのが難しい。そのため、
微妙なバランスの上で成り立っている投球であるように思えます。シーズン序盤は冴えませんでしたが、リーグ戦終盤ではだいぶ調子を上げた形で終了しました。

ストレート 140キロ台後半~150キロ台中盤 ☆☆☆☆ 4.0

 コンスタントに、140キロ台後半~150キロ台中盤を記録できる
スピード能力は、今年の大学でも1,2を争う存在です。そういったボールの勢いには見るべきものがあるのですが、ボールのバラツキが顕著だということ。特に高めに抜けてしまうことが多く、、決まって欲しい時に決められないところがあり、この選手の投球の物足りなさにも繋がります。ちなみに平塚合宿では、マイガンで92マイル・148キロぐらいでした。

変化球 スライダー・カット・カーブ・スプリットなど ☆☆☆★ 3.5

 スライダー・カット系のボールを中心に織り交ぜてくるのですが、平塚合宿ではカーブを結構使っていました。また落差は大きくないのですが、チェンジアップやスプリットなどの沈む球も織り交ぜます。空振りをバシバシ誘うというよりも、球速のある小さな変化で芯をズラしたり、カウントを整えたりといった役割だと考えられます。

その他

 クィックは、1.05~1.15秒とそれなり。
牽制は非常に鋭いものを混ぜてくるが、ちょっと神経質過ぎるのではないかと思うぐらいに入れてくるので、もう少し投球に集中した方がと思うことも。細かい出し入れや、駆け引きができるというよりは、やはりボールの勢いや力で勝負するタイプだと言えそうだ。

(投球のまとめ)

 プロで一年目から大活躍といったイメージは湧き難く、そういった意味では
短いイニングで勝負して行くタイプではないのだろうか。ボールの勢いは、プロに混ぜてもトップクラスだろう。まだ持っている能力を上手く投球に活かし切れていないので、その能力を素直にマウンドで発揮できるようだと、プロでも異彩を放つ可能性を秘めている。そういった素材としての凄みこそ、この選手の最大の魅力となる。


(成績から考える)

 この春のリーグ戦の成績は、
2勝4敗 57回2/3 53安 19四死 59三 防 3.43(9位) といった内容に。昨年の春・秋のシーズンは、いずれも1点台だったことを考えると、物足りないシーズンとなりました。

1、被安打は投球回数の80%以下 △

 被安打率は、91.9% と、基準を満たすまでには行きませんでした。
ストライクゾーンの枠の中での甘さや、一辺倒になって集中打を浴びてしまうなど、まだまだ実戦的だとは言えません。ただし、通算では66.3% と圧倒的なので、今シーズンが調子悪かったという見方もできます。

2、四死球は投球回数の1/3(33.3%)以下 ◯

 四死球率は、33.0%であり、基準を満たすなど、極端に制球が悪かったわけではありません。むしろ通算では 47.9% と、
大幅に制球力は改善したシーズンとも言えます。逆に制球を気にしすぎて、大胆さが薄れてしまっていたのかもしれません。

3、奪三振は1イニングあたり 0.8個以上 ◎

 奪三振は投球を回数を上回るなど文句なしで、通算でも同様の傾向がみられます。この部分に関しては、普段のリーグ戦並の数字をキープできていました。

4、防御率は1点台以内 △

 今シーズンは 3.43 と、完全に基準からはかけ離れています。しかし、3年春・秋のシーズンでは1点台の数字を残しており、けして残せる能力がないわけではありません。ただし今シーズンは、四死球こそ減ったものの、そのぶん被安打が増えてしまい、その結果防御率を悪化させてしまったのかもしれません。

(成績からわかること)

 目に見えて悪化したのは被安打率で、それが防御率の悪化にも繋がっていたのかもしれません。その一方で、四死球率の低下など制球力の改善が見られ、奪三振は普段のシーズン並みには奪えていました。立て直しを図れれば、充分に普段並の成績への回復も期待できそうです。


(最後に)

 今シーズンは、確かにピリッとしないシーズンではありました。しかし、ボールが走らないから打たれていたわけでも無さそうですし、微妙な狂いを改善できれば、元のパフォーマンスを取り戻すのには、それほど時間はかからなそう。しかし、いずれにしても不安定さがつきまとう選手であり、現状はリリーフの人材とみておくのが妥当ではないかと思います。不安定さと起用が限定されそうなことを考えると、ボールの威力は図抜けていても、ハズレ1位~2位の最初のあたりの評価になるのではないかとみています。ただし、秋のシーズンの最初に、一味違う投球を印象づけられれば、単独1位指名の話しも出てくるかもしれませんね。


蔵の評価:
☆☆☆ (上位指名級)


(2023年 平塚合宿)









西館 勇陽(中央大3年)投手の本当に凄いやつへ








西舘 勇陽(花巻東3年)投手 184/80 右/右 
 




 「本気になった時は凄い」





 下級生の時から見てきて、この 西舘 勇陽 のことを好いと思ったことがなかった。その印象は、最後の夏の大会に入っても同様だった。しかしこの夏、岩手大会準決勝・黒沢尻工戦のリリーフで登板した 西舘 の投球は、いつもとは一味違っていた。相手打者は、ドラフト候補の 石塚 綜一郎 。それも審判からは、不正投球と判定され彼の中のスイッチが入ったようなのだ。この直後の球は明らかに勢いが違い、この日最速の149キロに到達。以後も145~後半を連発し、私の評価は一変した。


(投球内容)

均整の取れた体格から、少し小さめなテイクバックから投げ込んできます。

ストレート 140~MAX149キロ ☆☆☆★ 3.5

 普段は、常時140キロ前後~140キロ台中盤ぐらいとドラフト候補としては平均的な球速。それほど、周りに訴えて来るような凄味は感じられない。むしろ両サイドや低めに、制球力重視で投げ込んでくる。甲子園ではやや制球を乱したが、岩手大会では23回1/3イニングを投げて6四死球とコントロールも安定していた。特に上記で記したように、リミッターを外した時には145~150キロ級のボールを投げ込みその迫力は一変する。

変化球 スライダー・チェンジアップ・フォークなどか ☆☆☆ 3.0

 右打者には、小さく横曲がりするスライダーを外角低めに集めカウントを稼ぐ。また左打者には、チェンジアップ系の球でカウントを整える。追い込むとフォークだかスプリット系の沈む球で空振りを誘うが、この球は見極められて振ってもらえないことが多い。今後は、この球の精度をいかに高めて行けるかではないのだろうか。

その他

 クィックは、1.20~1.25秒前後と若干遅い。牽制も軽いものを挟める感じで、走者を刺すような鋭いものは見られない。特に動作が緩慢には見えないものの、それほど素早く動くタイプではないのだろう。

(投球のまとめ)

 このリミッターを外した時の投球を見たことがあるのとないのとでは、この選手の印象が全然違うのではないかと思われる。これまでは指名もどうかなと思っていたが、この投球を見てからは指名は確実なのではないかと思うようになった。少なくても瞬間風速的には、凄いボールが投げられるということ。その割にコントロールや変化球も一定水準あり、けして素材型だとか荒れ荒れの選手ではない。あくまでもまだ、発展途上の段階だということ。


(投球フォーム)

今度はフォームの観点から、今後の可能性について考えてみたい。

<広がる可能性> ☆☆☆ 3.0

 サイドスローのように、身体を前に折りながら重心を下げて来るので、お尻はバッテリーライン上に落ちてしまう。したがって身体を捻り出すのに必要なスペースは確保できず、カーブで緩急をつけたりフォークのような縦の変化球には適さない投げ方。

 それでも足を大きく前にステップさせることで、「着地」までの粘りが作れている。身体を捻り出す時間は確保できているので、カーブやフォークといった球種以外ならば、キレや決め球になるような曲がりの大きな変化球を習得しても不思議ではないだろう。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内に抱えられているので、両サイドの投げ訳はつけやすい。足の甲での地面への押しつけが浅いのが気になるが、ボール自体はそれほど高めには抜けて来ない。「球持ち」も比較的ボールを前で放せており、指先の感覚も悪くないのだろう。四死球で自滅するような、危うさは感じない。

<故障のリスク> ☆☆★ 2.5

 お尻が落とせない割に、フォークだかスプリット気味の沈む球を結構使ってくる。そういった意味では、肘への負担は少なくないのでは? また腕の送り出しも、ボールを持っている肩が上がりグラブを持っている肩が下がる傾向が見られるので、肩への負担も少なくは無さそう。肘・肩への負担が極端というほどではないが、それほど力投派ではないので疲労を溜めやすいということは無さそうだ。

<実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りもまずまずの上に、ボールの出どころも隠せている。テイクバックも小さめで、ピュッと見えないところから一瞬でミットに収まるような感覚に陥るのではないのだろうか。

 腕も振りは平均的だが、将来的にはもっと強くなると空振りが誘えそう。夏の岩手大会では、23回1/3イニングで25奪三振なので三振が奪えないわけではない。またボールに適度に体重を乗せてからリリースはできているので、力を入れて投げた時などのボールの勢い・迫力には見るべきものを持っている。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、大きな欠点は見当たらない。比較的各場所まで、神経の行き届いたフォームではないのだろうか。足の甲の押し付けの浅さは見えるが、それほどボールは上吊っていない。制球を司る動作にも優れているが、若干故障のリスクが高いのをどう見るか? 将来的には、縦系の変化球ではないかもしれないが、武器になる球を習得できる下地は持っている。技術的にはしっかりしており、肉体の成長が積めれば常時140キロ台後半~150キロ台前半ぐらいの投球は充分に期待しても良さそうだ。


(最後に)

 土台となるフォーム、投球にも大きな欠点は見当たらない。逆に これは! という決め手に欠けるところがあり、能力には疑問を持っていた。しかし黒沢尻工業戦で魅せたボールは本物で、こういった球が安定して投げられたら、プロでも充分通用するのではないかと確信した。比較的コントロール・変化球も好いので、素直に全体にパワーアップが図れれば一軍でも活躍できる可能性があるのではないかとみている。やや評価は落ち気味だが、個人的には意外に面白いのではないかと、最後の夏に評価を高めた選手だった。指名としては育成あたりであるかないかぐらいかもしれないが、そのぐらいで穫れたならば美味しい指名になるかもしれない。


蔵の評価: (下位指名級)


(2019年夏 甲子園)