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前 佑囲斗(オリックス)投手のルーキー回顧へ







前 佑囲斗(津田学園3年)投手 182/87 右/右 





 「指先の感覚が素晴らしい」





 昨夏の時点では、大きな身体を持て余し、もっさりした感じの投手だった 前 佑囲斗 。しかし一冬越えて、そういったダルさは薄れ、実に投手らしい繊細さが感じられる投手に変貌していた。


(投球内容)

非常にゆったりと、静かな感じで入ってくる先発タイプ。

ストレート 135~140キロ台前半 
☆☆☆★ 3.5

 球速こそ130キロ台中盤~140キロ出るか出ないかと平凡だったのですが、しっかり手元まで伸びてくる球質に加え、素材としての奥行きや素材の良さが感じられます。実際かなり力をセーブして、コントロール重視で投げていたように感じます。それでもストレートは全体的に高めに集まることが多く、ボールの質が良いので打ち損じてくれていますが、この点が夏にむけてどうなのか?といった部分は若干気になりました。選抜の龍谷大平安戦では、11イニングを投げて5四死球。見た目ほどコントロールに、まだ絶対的なものがないのかもしれません。

変化球 スライダー・カーブ・フォーク・など 
☆☆☆★ 3.5

 身体の近くでキュッと曲がるスライダーで、しっかりカウントを整えられます。時々甘く高めに浮いて来るのは気になるのですが、この球があれば四死球で自滅する心配はありません。たまにもっと緩いカーブ・フォークなども織り交ぜます。フォークなどの落差にまだ絶対的なものがないのですが、これから精度を高めて行ければ面白いと思います。指先の感覚が想像以上に良く、体格の割に器用で繊細なタイプなのかもしれないと思いました。龍谷大平安戦では、11イニングで6三振ですから、現状は三振をバシバシ奪いに行くピッチングではなかったことがわかります。

その他

 クィックは、1.15~1.25秒ぐらいと、それほど素早くはない。フィールディングも平凡で、投球以外の部分は高校生レベルといった印象を受けた。まだまだ鍛えれば、改善できる部分なのだろう。

(投球のまとめ)

 実際のパフォーマンス以上に、素材としての奥行きが感じられ、まだまだ秘めたる能力はこんなものではないだろう。最速148キロとも言われる球速も、力を入れて投げればそのぐらい出せるだろうなと実感できる素材。

 細かい部分ではまだ発展途上だと実感するが、それが近い将来改善できそうだという青写真を描きやすい。具体的にどんな部分に、余力や可能性が感じられるのか?フォームを分析して考えてみたい。





(投球フォーム)

<広がる可能性> 
☆☆☆★ 3.5

 引き上げた足を二塁側にかなり送っているので、お尻はバッテリーライン上に残りがちで甘さが残っている。したがってカーブやフォークといった球種を投げられないことはないが、そのキレに影響して来る可能性がある。

 「着地」までの粘りも平均的で、身体を捻り出す時間も並ぐらい。そうなると変化球のキレや曲がりが小さくなり、打者の空振りを誘えるほどの球が習得できるのかは微妙だろろう。現状それほど奪三振が多くないのには、この辺の動作が発展途上なのに要因があると考えられる。

<ボールの支配> 
☆☆☆☆ 4.0

 グラブは最後までしっかり内に抱えられており、両サイドへのコントロールはつけやすい。足の甲でも地面をしっかり捉えており、ボールは低めに集まりやすいフォームになっている。「球持ち」自体も良いののだが、もっとボールを押し込めるようになれば低めに安定して集められるようになるのではないのだろうか。身体ができてくれば、もっと高い精度のコントロールが期待できそうだ。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻の落としに甘さは残すものの、カーブやフォークといった捻り出して投げる球種を投げて肘への負担は小さそう。現状は、それほど多く投げてくるわけでもないので。

 腕の送り出しを見ていても、肩への負担も大きくは無いだろう。まして力投派という感じではないので、疲労も溜め難いと考えられる。疲労からフォームを崩して、故障に繋がり難いのではないのだろうか。

<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りは平均的で、ボールの出処もやや見やすい「開き」の早さは感じられる。そのため打者としては、それほど苦にはならないのではないのだろうか。その辺をボールの質の良さで打ち損じを誘えているが、これから打力が上がる夏に向けて、制球力などを磨かないと簡単に攻略されてしまう恐れもある。

 振り下ろした腕はしっかり絡んで来るように、打者の空振りを誘いやすい勢いと粘りはある。ただし「開き」が早いことで、腕の振りの良さが活かせていないのは残念。ボールにも体重を乗せてからリリースできており、打者の手元まで活きた球が投げ込めている。このへんが、球速が並でも選抜でも抑えられた要因ではないのだろうか。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」と「開き」が平凡でこの辺を夏に向けて改善してゆきたい。股関節の柔軟性を養いつつ下半身の強化に取り組めれば、もっと粘っこい投球に身体の「開き」も自然と遅れて来るだろう。

 制球を司る動作や故障のリスクは低く素材の良さを感じさせる一方で、現在の身体を捻り出す時間が平凡なフォームのままだと、武器になる変化球の習得には苦労するかもしれない。そのへんで、伸び悩む不安が残る。全体的に、もう少し下半身がうまく使えるようになれればといった感じがするが、充分に改善可能なレベルにあると考えられる。


(最後に)

 現在の投球に絶対的なものは感じられないが、ボールの質・フォームの土台の良さ、余力を感じさせる身体の作りなどをみると、夏までにまだまだ良くなるのではないかという期待が持てる素材ではないのだろうか。

 試合の中でショートの小林 世直(2年)がエラーしたときでも、気にしないように声をかけるなど心配りができる選手。そういった精神面の余裕と、後輩にも気を遣えるきめ細やかがある。こういった性格はプロの先発投手には大事な要素であり、天性の先発タイプといった気がする。

 現状の位置づけは中位(3位~5位)級ぐらいの内容ではあったが、夏までにどんどん良くなって無理なく140キロ台~後半ぐらいを叩き出せる投球を見せてくれれば上位(2位以内)も視野に入れられる素材ではないのだろうか。いずれにしても高校からプロを狙える素材であり、近い将来プロのローテーション投手に育って行く選手ではないかと評価する。


蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


(2019年 センバツ