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奥川 恭伸(ヤクルト)投手のルーキー回顧へ







奥川 恭伸(星稜3年)投手 183/84 右/右 





 「佐々木にないもの」





 歴史的な素材である 佐々木 朗希(大船渡)がいてもなお、ドラフトで人気を二分するであろう存在が、この 奥川 恭伸 。それだけスカウト達を惹き付けるものが、奥川にはあるのだろう。そこで今回は、奥川にあって 佐々木にはないもの。それが、何なのか考えてゆきたい。


(投球内容)

ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。

ストレート 140キロ台後半~154キロ 
☆☆☆☆★ 4.5

 昨秋~選抜での一冬での成長は、球速よりも球威を増すことで成長を感じさせてくれた。しかしこの夏は、選抜以上に安定して速い球速を投げ込めるまでにパワーアップ。それも高めではなく低めやコース一杯に集められるコマンド能力は、ややアバウトで真ん中~高めのゾーンに集まりやすい佐々木のストレートよりも制御できている。球速では佐々木よりも劣るものの、球威と勢いを感じさせるストレートの質は、高校時代の松坂大輔や田中将大と似た球質だと感じた。

奥川も選抜では、力んで高めに抜けがちだったり、左打者へのコントロールがアバウトになる甘さがあった。しかしこの夏は、そういった部分も解消され、精度という点ではかなりの成長が見られた。

変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブ・フォーク 
☆☆☆☆★ 4.5

 奥川の素晴らしいのは、ストレートと同じぐらいに変化球も高い次元にあること。U-18のカナダ戦では、曲がりながら落ちるスライダーのキレが尋常じゃなく(ボールも違っていたのだろう)、18奪三振を奪い改めてその凄さみを実感させられた。そのスライダーも、右打者外角低めのボールゾーンに振らせるだけでなく、左打者の内角にも臆することなく使って来る。スライダーでカウントを整えることも、空振りを誘うこともでき、このへんは高校時代の 松坂大輔 や 田中将大 と通ずるようなスライダーの使い手ではないのだろうか。

 左打者の時には、チェンジアップを使ってカウントを整えて来る。またそれほど依存度は高くないが、時々140キロを超えるフォークで空振りを奪うこともある。その日の好い変化球を、状態に応じて使い分けるだけの技術も持っている。松坂が全ての球で三振が奪えたように、奥川にもそれに近いものを持っている。フォークはあまり投げないが、精度が低いわけではなく、むしろプロではこの球で三振を奪うケースが増えてゆくのではないのだろうか。

その他

 クィックは、1.15~1.25秒ぐらいと平均から少し遅いぐらい。牽制もそれほど鋭いものは見られず、フィールディングも焦って送球を乱すことがある。そういった意味では、投球以外の部分は思ったほどレベルは高くない。このへんは、プロでもう少し鍛えないといけない部分ではないのだろうか。それでもピンチでもボールを長く持つなど冷静で、修羅場を多く経験してきている投手といった感じがする。

(投球のまとめ)

 平均して質の好いボールを投げられる体力・筋力があるといった意味では、現時点では佐々木よりも奥川だろう。またボールのコマンド・質という意味では、奥川の方が大人のピッチングをしている感じがする。淡々と凄い球速を叩き出してしまう佐々木に比べ、奥川は身体が絞り出すように魂のこもったボールを投げ込んでくる。この辺は、佐々木は大谷型、奥川は松坂大輔や田中将大の系統だと実感させられる。


(最後に)

 ただしその奥川でも、夏の甲子園大会決勝戦では、万全の状況で登板しながら思ったよりギアが入らなかった。また大会終了後、調子が回復するのに戸惑いU-18の予選ラウンドに登板できないなど、見た目のイメージほどは体力がまだないのではと思える部分もある。あとここで踏ん張ってくれというところで踏ん張れるという意味では、高校時代の松坂大輔や田中将大よりはワンランク劣る印象を受ける。

 それでも奥川が将来、松坂大輔や田中将大級の未来像が描けるのに比べ、佐々木朗希は比較できる対象がいない領域にまで到達するのではないかという器の違いはどうしても感じてしまう。しかし現時点での完成度で言えば、高卒ルーキーでも1年目から藤浪晋太郎以来の二桁勝利を意識できる素材であり、春からも着実に課題をクリアしてきた点も高く評価できる。

 二人の比較としては、大阪桐蔭時代の 藤浪晋太郎 と 花巻東時代の 大谷翔平 に近いのだが、それをさらにスケールアップ・レベルアップしたようなのが、今年の 奥川恭伸 と 佐々木朗希 との関係ではないのだろうか。個人的には甲乙つけ難いと思うのだが、純粋に凄いという意味では 佐々木 だと思う。しかし何か心を揺さぶられるものを、奥川 の方が持っている。もうこれは、好みや球団の考え方次第であり、獲れるものならどちらでも構わないといった気にもなってくるのである。奥川にあって佐々木にないもの、それは 身体の内から湧き上がって来るような底力 を感じられるかの違いではないのだろうか。そう感じられるのは、奥川の方がとことん自分を追い込んで取り組み、ギリギリの修羅場を数多く経験してきたからではないかと思うのだ。佐々木にはまだ、そこまで自分を追い込んできた時間や追い込まれた経験に乏しい、そこに二人の違いがあるように思えてならない。


蔵の評価:
☆☆☆☆☆(目玉級)


(2019年夏 U-18ワールドカップ) 









奥川 恭伸(星稜3年)投手 183/82 右/右 





「やっぱり凄い」 
                      





 センバツの 奥川 恭伸 の投球を見直して、改めてこの選手の凄さを実感させられた。力と技それに内面の強さ、投手に必要な要素をハイレベルに兼ね備えた高校生は、そう簡単には出てこない。藤浪晋太郎(大阪桐蔭-阪神)以来の、高卒ルーキーの二桁勝利投手が誕生するのではないかという、今からワクワク感が止まらない。


(投球内容)

ランナーがいなくても、セットポジションから静かに入ってゆくフォーム。

ストレート 145~151キロ 
☆☆☆☆ 4.0

 球速こそ昨秋とあまり変わっていませんが、ボールの勢いそれに球威がワンランク引き上がった感じがしました。そのため並の高校生では、容易に打ち返せるような球威ではないように思えます。その一方で、履正社戦では力みもあってストレートは高めに抜けるなど、制御に苦労している部分があったのも確かです。ボールの質には磨きがかかっていましたが、ボールを制御するということに関してはまだ若さというか未熟なところを残している印象です。特に右打者外角に集められるのですが、左打者にはアバウトになり高めに抜ける球も少なくなかったと言えるでしょう。

変化球 スライダー・フォークなど 
☆☆☆☆ 4.0

 この選手は、やはりスライダーの曲がりが半端ではないように思えます。腕の振りが強すぎるために、大きく曲がり過ぎるきらいはあります。またスライダーが変化球の中心ですが、フォークもかなり確率で低めに落とすことができます。他にもツーシームようなチェンジアップや緩いカーブなども持っていますが、変化球の多くはスライダーとフォークで構成されています。特にスライダーは、右打者外角のボールゾーンに空振りを狙う大きな曲がりのものと、外角でキッチリカウントを稼ぐ二種類のものを使い分けてきます。変化球でしっかりカウントを整えられので、暴れるストレートでも試合を壊さないで投球することができるのだと思います。

その他

 クィックは、1.15~1.25秒と平均的。フィールディングの動きは悪くないのですが、焦って送球を乱していたのは若干気になりました。またそれほど、鋭い牽制は見られません。投球レベルの割には、投球以外の能力は並なのかなといった印象を受けます。

(投球のまとめ)

 ストレートもA級ですが、変化球でカウントをしっかり整えられ、スライダーとフォークという二種類の変化球で仕留められる威力があるのは彼の強味です。相手をみてしっかり投球を組み立てられるクレバーな点もありますし、ここぞの時には底から沸き上がるのような熱いものがあり、心技体のバランスが非常にハイレベル投手だと言えるでしょう。まだまだ完成されてはいませんが、しっかり要所を締めることができるのが、この選手の最大の魅力です。


(投球フォーム)

 オフシーズンに作成した「本当に凄いやつ」でもフォーム分析をしましたが、一冬越えて何か変化があったのか見てみましょう。

<広がる可能性> 
☆☆☆ 3.0

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻はバッテリーライン上に残ります。したがって身体を捻り出すスペースは確保できず、カーブやフォークといった球種には適しません。

 しかし前にステップすることで、ある程度「着地」のタイミングを遅らせることはできています。そのため身体を捻り出す時間はそれなりに確保できており、カーブやフォークといった球種以外ならば、武器になる球を身につけても不思議ではありません。このへんは現時点でも、尋常じゃないスライダーの曲がりにも現れています。

<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは比較的最後まで身体の近くにはあり、両コーナーへの投げ分けはつけやすい。しかし足の甲の押し付けは地面から浮いてしまっており、力を入れて投げるとボールが上吊ってしまいがち。それでも「球持ち」の良さで、ある程度ボールを制御できているのがこの投手良さではないのだろうか。

<故障のリスク> 
☆☆☆ 3.0

 お尻を落とせない割に、フォークなどを使って来るので窮屈になりがち。今ぐらいの頻度であればそれほど気にすることはないと思うが、今後縦の変化を増やしてゆくようだと肘への負担は大きなフォームなのではないのだろうか。

 この選手が好いのは、腕の送り出しに無理はなく肩への負担が少ないところ。それほど力投派ではないので、疲労は溜め難いとは考えられる。ただし癖のあるフォームではあるので、登板過多になると思わぬところに障害が出てくるのかもしれない。

<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは平均的な上に、フォームが直線的で球の出どころもそれほど隠せていない。そういった意味では、比較的合わされやすいフォームではないかと考えられる。そのへんの欠点は、圧倒的なボールの威力と尋常じゃない変化球の曲がりで、的を絞らせないことで補っている。ただしそれが、イコールプロの打者に通用するのかには疑問が残る。

 腕の振りは尋常じゃなく強いので、勢いがあり変化球も思わずつられて振ってしまう。ボールに体重を乗せてからリリースはできるようになり、打者の手元まで球威と勢いがある球は投げられている。それでもフォームが流れてしまっている部分があり、作り出したエネルギーを充分にはボールに伝えきれていないことも否めない。


(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」に昨秋よりも粘りが出てきたところが明るい材料か。そのほかの部分ではまだまだ発展途上であり、課題でもあるが良くなる余地があるという見方もできる。

 足の甲を押し付けられないので、ボールが上吊りやすいこと、肘への負担が、懸念されるフォームであること。将来的に緩急や縦の変化はどうなのか?という不安な要素はあるものの、理屈でなく確かなパフォーマンスでその疑念を払拭してくれている。しかしその投球レベルの高さに比べると、フォームの技術的には課題も少なくない。そういった部分では、まだ良くなる余地もあると言えるし、プロレベルだと未熟だったり伸び悩む危険性も潜んでいると言えるであろう。技術的には、昨秋からほとんどいじっていなく、肉体の成長によってパフォーマンスを引き上げてきたと言えるのではないのだろうか。


(最後に)

 秋の時点に描いた期待どおりの成長を、このセンバツでは魅せてくれた。プロの世界においても、年間で今のパフォーマンスを安定して出せるだけの体力・筋力があるのならば、高卒1年目から二桁勝利を意識できる素材なのは間違いない。そういった意味では、文句なしの最高評価を春の時点からつけられるのではないのだろうか。ただし彼の場合は、夏に不安要素を魅せた時にワンランク評価が下がる、そういった可能性があるタイプ。そのへんは、絶対的な存在である 佐々木 朗希(大船渡)との差なのかもしれない。


蔵の評価:
☆☆☆☆☆ (目玉級)


(2019年 センバツ)


 








奥川 恭伸(星稜2年)投手 183/82 右/右 





                    「松坂大輔に匹敵する」





 奥川 恭伸 が、明治神宮大会を制したピッチングをみていると、同じく神宮大会から翌年の春・夏連覇を果たした時の、松坂 大輔 の横浜高校時代を思い出す。高卒一年目から16勝をあげ、メジャーリーグでも 18勝3敗 という圧倒的なパフォーマンスを魅せた、彼と比べることができるレベルに奥川はある。


(投球内容)

 ノーワインドアップから投げ込むフォームで、上半身主導であまり下半身が使えないフォームなのも高校時代松坂とダブるものがある。

ストレート 常時145キロ~150キロ 
☆☆☆☆ 4.0

 先発でもコンスタントに、145キロ~150キロ級の球速を無理なく叩き出す馬力があります。球筋は、真ん中~高めのゾーンに多く集まり、打者の外角中心に決めてきます。まだボールの質という意味ではまだ高校生の球質だが、球威は一定ものがある。この秋の成績は、60回1/3イニングで四死球は僅か5個。それほど細かいコースの投げ分けは見られないが、四死球で自滅するような危うさはない。このへんが、全国大会で結果を残せる要因だろう。

変化球 スライダー・フォーク・ツーシーム? 
☆☆☆☆ 4.0

 曲がりながら沈むカーブのようなスライダーのキレは一級品で、それでいて120キロ台の縦スラのような沈む球も持っている。また130キロ台中盤は出ているような、フォークボールの落差や精度も悪くない。その他にも140キロ台前半でツーシーム的な球も、時々使ってきているように見える。むしろ現時点では、ストレート以上に変化球レベルが高いことに驚かされる。そのためこの秋は、60回1/3イニングで実に82個の三振を奪えている。

(投球のまとめ)

 ツーアウトだと、走者を気にせず投球に集中する。そのためクィックも1.3秒台と遅く、簡単に盗塁を許すような場面も見られた。それでも、走者を返さない自信があるのだろう。1つ1つのボールの威力もさることながら、ランナーを背負えばじっくりボールを持ってなかなか投げないなど、間を使って走者や打者を焦らすような術も持ち合わせている。

 そして松坂との最大の違いは、すでにこの時期からスライダーのみならず縦の変化球の精度・落差がかなり高いということ。それでいて、スライダーの曲がりも凄いのだから、ある意味松坂以上に的を絞らせない投球ができているとも言えるのではないのだろうか。2年秋の時点では、同時期の松坂以上の完成度・ボールの威力を持っていると評価しても過言ではないのかもしれない。


(投球フォーム)

今度は、投球フォームの観点から将来像を考えてみたい。

<広がる可能性> 
☆☆☆ 3.0

 引き上げた足を地面に向けて伸ばしており、お尻は一塁側への落とせません。したがって体を捻り出すスペースが確保できず、カーブやフォークといった球種を投げようとすると無理があり適しません。

 しかし前に足を大きくステップさせることで、「着地」までの時間はある程度確保。カーブやフォークといった捻り出して投げる球種以外ならば、好い変化球を習得できる可能性はあります。実際には、スライダーのキレは一級品です。


<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで体の近くにはあり、両サイドへの投げ分けは安定しやすいはず。足の甲の押し付けは浅いので、ボールは真ん中~高めに集まりやすい。「球持ち」も現状は並ぐらいであり、それほどボールを押し込めておらず低めには集まって来ない。四死球を出すような不安定さはないが、それほど細かいコントロールはないように思われる。

<故障のリスク> 
☆☆☆ 3.0

 お尻は落とせない割にフォークを使っても来るので、肘への負担は心配。しかし現状ぐらいの頻度での使用ならば、それほどナーバスになるほどではないのかもしれない。

 腕の送り出しには無理は感じないので、肩への負担は少なめ。腕の振り自体は強いものの、けして力投派でもないので疲労は貯め難いのではないのだろうか。今後フォークへの依存度が大きくなって、フォークばかりを投げなるようにならない限りは、それほど心配しなくても好いとみている。


<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは悪くないので、それほど合わされやすいということは無さそう。体の「開き」も平均的であり、コントロールミスをしなければ痛手は少ないだろう。

 腕は強く振れており、勢いがあるので空振りは誘いやすい。しかしボールへの体重乗せができる前にリリースを迎えているので、まだグッと打者の手元まで来るような勢いは感じられない。このへんが一冬超えてできてくると、手がつけられなくなりそうだ。


(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」「開き」は並で「体重移動」には課題があると言える。このへんは、今後股関節の柔軟性を養いつつ下半身を強化して、良くしてゆくことが求められる。動作自体には、「着地」以外にそれほど粘りは感じられない発展途上の段階。

 お尻が落とせないことでのフォークの使用による肘への負担、足の甲の押し付けの浅さから来る球筋が高い点、カーブやフォークといった球種に不向きなフォームなだけに、緩急と縦の変化をいかにして生み出して行けるのかがポイントとなりそうだ。



(最後に)

 2年秋の時点では、ボールの力、変化球レベル、投球術、野球センスなど、かなりハイレベルなところまで来ている。とは言ってもまだまだ高校生レベルであり、この一冬の間にどのぐらい資質を伸ばすことができるかだろう。過去の一流選手たちは、やはり2年秋~3年夏までの成長力がみな素晴らしかった。

 神宮大会の時点では、松坂大輔と匹敵するレベルにあると言える。このまま順調に資質を伸ばして行ければ、久々に高卒1年目から、一軍で二桁勝てるような高校生が誕生するのではないかとみている。佐々木朗希(大船渡)と共に、このまま行ければ1位で競合するレベルになることを充分期待して好いだろう。「素材の佐々木・実戦力の奥川」、この関係は藤浪晋太郎(阪神)と大谷翔平(エンゼルス)のライバル関係と良く似ている。果たして今年一年、彼らがどんな成長を遂げてゆくのか歴史的目撃者となる。


(2018年秋 神宮大会)