19dp-3





津森 宥紀(ソフトバンク)投手のルーキー回顧へ







津森 宥紀(東北福祉大4年)投手 177/78 右/右 (和歌山東出身) 





 「思ったほどでは・・・」 





 投げっぷりの良さと独特の下から浮き上がってくるような球筋が面白く、今年の大学・社会人の中では、最もリリーフとして即戦力になりえる素材ではないかとみていました。しかし春先の早稲田とのオープン戦ではピリッとしなかっただけでなく、大学選手権でも佛教大に打ち込まれるなど、こちらの期待ほどのパフォーマンスは見られなかった春でした。


(投球内容)

 大学選手権でも、創価大戦では3回を1安打に抑えるなど持ち味を発揮。しかし佛教大戦では、2回1/3イニングで8安打を浴び4失点と打ち込まれてしまった。

ストレート 常時140~MAX149キロ 
☆☆☆★ 3.5

 創価大戦では、コンスタントに145キロ前後を記録し最速で149キロまで到達していました。この投手、見た目ほど球速が出ない傾向にあったのですが、この試合では見た目どうりのボールを投げんでいて能力を片鱗を見せてくれました。ボール自体は、見た目のゴツさと違い、結構キレのある空振りを誘える球を投げます。サイド故に、左打者の外角の逆クロスへ投げ込もうとすると、ナチュラルシュートして、高めに抜けることがあります。全体的にストレートは大まかに両サイドに散らせる程度で、かなり暴れる傾向にあるのかと。しかし左打者からは見やすいのか? 右打者に比べると圧倒的に被安打が多い傾向が見られます。打ち込まれた佛教大打線は、まさに左打者が並ぶ打線でした。サイドハンドなのですが、ボールが下から浮き上がるように高めに決まるので、この球を振らせるのが最大の持ち味です。しかし追い込む前に、左打者には甘い球をことごとく狙い撃ちされていました。

変化球 スライダー・シンカーなど 
☆☆★ 2.5

 ストレートが暴れても、試合を壊さないで済むのは、スライダーでしっかりカウントを整えることができるから。しかしサイド特有の大きな曲がりをするというよりは、体の近くで小さく曲がるタイプのスライダーで空振りは誘えません。またシンカー系のボールもあるのですが、その頻度・精度は劣ります。投球の多くは、速球とスライダーという、単調なコンビネーションに陥りがち。何かカーブのような、緩い球もあれば良いのにと見ていて思います。

その他

 クィックは1.1秒前後とまずまずで、フィールディング・牽制なども悪くありません。マウンド度胸も良く、リリーフタイプだと思います。この春は、リリーフとしてチームを支えました。

(投球のまとめ)

 素晴らしい投球を魅せた創価大戦とは対照的に、左打者が並ぶ佛教大戦では自分のリズムを掴めませんでした。そういった危うさがある選手であり、まだまだ計算できる投手ではないことがわかります。良いときには、胸をすくような熱いマウンド捌きを魅せてくれます。私が抱いていた、リリーフならば即戦力 という概念は、少し厳しくみた方が良いと思うように感じます。特に、オープ戦で直にみた早稲田戦の内容も、ピリッとしませんでしたので。


(データから考える)

 オフシーズンにフォーム分析はしているので、今回はリーグ戦の成績を検証してみたいと思います。ちなみにこの春は

8試合 1勝0敗 20回 10安 9四死 29三振 防 1.80

1,被安打は投球回数の80%以下 ◎

 20イニングを投げて、被安打は10本(50%)と極端に少ない。しかし大学選手権の佛教大戦では2回1/3イニングで8安打と打ち込まれたように、クセ球でも左打者が並ぶような打線のときには結構打たれることがあるということ。当然相手がプロレベルの打線となれば、同様のことが頻繁に起きても不思議ではない。

2,四死球は投球回数の1/3以下 ✕

 四死球率は、精神的に余裕があったと考えられるリーグ戦でも 45% と、かなりアバウト。よりストライクゾーンが狭くなり、圧倒的な打力を誇るプロ野球の世界では、このコントロールの粗さがもっとハッキリして来る危険性もある。

3,三振は1イニングあたり 0.9個以上 ◎

 20イニングで奪三振は29個に及び、1イニングあたり 1.45個 と右投手としては驚異的。上記のレポートにも書いたが、ストレートが結構なキレ型で、高めに浮き上がるようなストレートで空振りが取れる。

4,防御率は1点台 ◯

 防御率 1.80 は確かに合格点なのだが、役割がリリーフであったことや、プロで1年目からということを考えると、1.50位内には留めて欲しかった。ただし3年秋には、0.71 で最優秀防御率を獲得したこともあるので、この数字はそれほど気にしなくても良いだろう。

(成績から考える)

 リーグ戦の実績としては、四死球が多い以外は文句なしの成績。実は全国大会でも失点したのは、今年の佛教大での4失点のみで、通算では 1.26 と実績も充分なのだ。そう考えると、この春はかなり状態が悪かったという見方もできるのであって、今大会をもって極端に評価を下げる必要はないのだろうと。むしろ良かった、創価大戦の内容の方を重視した方がいいのかもしれない。


(最後に)

 佛教大戦の内容は気になるが、そういった一面があるということは頭の片隅に留めておいた方が良ささそう。そのためリリーフならば1年目からガンガン活躍できるかに関しては、多少懐疑的な見方をした方がいいだろう。左打者への投球、本当のコントロールがないところがあり、このへんは疑った方が良いのではないかと。特にこの春は発熱したりと、なかなか体調が上がらなかったと訊いている。そういった調整能力などを訊くと、若干プロ向きなのには不安が残る。良いとき悪い時のムラは、結構激しいタイプなのかもしれない。

 それでも独特のクセ球と浮き上がる球筋は、プロでもなかなかいないタイプ。投げっぷりもよく、ファームで少し漬け込めばグッと良くなるかもしれない。そういった意味では、やはり中位(3位~5位)ぐらいの中では指名される可能性はあると評価して良いのではないのだろうか。今後投球の幅をもっと広げられるか? 秋まで追いかけてみたい。


蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


(2019年 大学選手権)









津森 宥紀(東北福祉大3年)投手 177/78 右/右 (和歌山東出身) 
 




 「あまり速くない」





 津森 宥紀 は、サイドハンドからグイグイ押してくるイメージが強いのだが、実は球速的にはあまり速くないのではないかと思っている。先発している時などは140キロ前後~中盤ぐらいだし、リリーフでも140キロ台後半を連発するわけではない。こと球速という意味では、イメージよりも速くない投手なのである。


(投球内容)

ストレート 130キロ台後半~140キロ台中盤 
☆☆☆ 3.0

 冒頭にも書いたように、津森投手の球速に特筆すべきものはありません。しかしこのあ投手、横手なのですが、少し下から浮き上がって来るような独特の球筋。さらに左打者外角に投げる逆クロスの球筋は、ナチュラルシュートするクセ球。この浮き上がったり、逃げていったりとするクセ球が、非常に厄介だといった印象を受けます。そのためこここまでの3年間の全国大会では、23回1/3イニングを投げて7安打しか打たれていません。被安打率にすると、30.0% と驚異的な数字です。

変化球 スライダー・シンカー  
☆☆★ 2.5

 ストレートが暴れるぶん、横滑りスライダーでしっかりカウントを整えます。シンカーもあり、相手の的を絞らせない働きはあるのですが、それほど空振りを誘うといった球種ではありません。それでも全国大会の通算である23回1/3イニングで19奪三振ですから、1イニングあたり 0.82個 。先発投手ならば0.8個以上(リリーフならば0.9個以上)が、決め手になる球がある目安だと位置づけているので、けして低い数字ではありません。ただし、プロの打者相手だと、さほど三振は取れないのではないかとみています。

(投球のまとめ)

 被安打率が少ないもう一つの理由は、ボール自体に球威があり最後まで勢いが落ちないこと。このことが、三振の決め手にも繋がっているように思います。全国大会での四死球は12個ですから、四死球率は 51.5% に及びます。通常投球回数の1/3(33.3%)以下がコントロールの目安としているので、この数字はかなりアバウトだとわかります。アマレベルでこれだけアバウトだと、プロの世界ではさらに悪化することが予想されます。ただしこの選手、全国大会でここまで8試合に登板しているのですが、自責点は0。四死球で余計なランナーを出しても、踏ん張りの効く強い精神力があることが伺われます。そのへんは、実際の攻めの姿勢をみていても感じられます。


(投球フォーム)

 サイドスローなので、オーバースローの価値観が、そのまま当てはまるわけではないことをご了承くださいませ。

<広がる可能性> 
☆☆ 2.0

 背中を前に折って投げるタイプのサイドハンドなので、お尻は完全にバッテリーライン上に残ります。したがってカーブで緩急をつけたりフォークのような縦に鋭く落ちる球種には適さない投げ方です。

 気になるのは「着地」までの粘りがなく、すぐに地面を捉えてしまう点です。そのため体を捻り出す時間は確保できず、キレや曲がりの大きな変化球は生み出し難い。すなわち今後も、決め手に欠ける危険性があるということです。

<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは両サイドに最後まで抱えられているので、両サイドへの投げ分けは安定しやすそう。まあ実際は、左打者に対し、かなりアバウトな傾向が観られますが。足の甲での地面への押しつけは浮きがちで、球筋が高めに集まりやすい傾向があります。この選手の技術的に優れている点は、球持ちが良いことがあげられます。元来ならば指先まで力が伝えられて制球も安定しそうなものなのですが、指先の感覚が悪いのか? 球筋は、思いのほか荒れ球です。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻は落とせないフォームなのですが、カーブやフォークといった球種は観られない。ましてサイドであることも考えると、このこと自体悲観する必要はないでしょう。

 腕の送り出しにも無理は感じないので、肩への負担も少なめ。意外に力投派に見えて、フォームは体全体を使って投げてくるという感じでもありません。そういった意味では疲労を溜め難そうに見えますが、この選手時々故障をしているので、フォームの負担以外に何か原因があるのかもしれません。

<実戦的な術> 
☆☆★ 2.5

 「着地」までの粘りがなく、打者としては苦になく合わせやすい感じがします。ましてサイドゆえに、球の出どころが見やすく「開き」が特に早いフォームです。それでも被安打が少ないのは、浮き上がったり、逃げていったりとする極めて稀なクセ球に理由があるのではないかと考えています。

 例えば左腕の場合早く地面を捉えてしまっても、見えないところからピュッとボールがでてくるようなギャップを活かす投手が多いのですが、彼の場合そういったタイプではないように思います。早くからボールが見えているのに、手元でボールが大きく動く。そういったとことでウチ難いのが、彼の特徴だと言えるでしょう。

 腕の振りが悪いとは思いませんし、「球持ち」もかなり良い。それなのに腕が体に絡んで来ないのは、腕が短い体型だと考えられます。そのへんも しなり が腕の振りにさほどないので、空振りは誘い難い可能性があります。ボールには適度に体重が乗せられてからリリースできており、打者の手元まで球威は落ちません。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」においおては、「球持ち」に優れています。その反面、「着地」と「開き」に課題はあるのですが、サイドの上にクセ球で勝負しているので、あまり気にしなくても良いのでは?

 足の甲の押し付けと指先の感覚の悪さから制球が不安定な点に、将来的に決め手のある変化球を習得できるのかは心配な要素。故障のリスクは、フォームの観点からすれば大きくはありません。それでも怪我が多いとなると、何か別の要因も考えられます。


(最後に)

 これまでのピッチングを見る限り、プロで活躍するとしても現状はリリーフなのではないかという気がします。投球にそれほど奥行きが感じられないので、短いイニングで勢いで押した方が強気な性格も生きるのではないかと。

 問題は、この1年の間に投球の幅を広げられるかという部分。それができれば、中位指名どころか上位指名への可能性も充分感じさせます。最終学年にどのようなパフォーマンスを魅せてくれるのか? 期待して見守りたい一人です。


(2018年 大学選手権)