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杉山 一樹(ソフトバンク)投手のルーキー回顧へ







杉山 一樹(21歳・三菱重工広島)投手 192/90 右/右 (駿河総合出身) 





 「1位指名もあるかもね」





 杉山 一樹 の高校最後の夏の投球を、静岡まで観に行った。その時は、190センチを超える体格を、実にスムーズに体重移動させる素材に驚かされた。ただし投球は、ひたすらストレートだけを投げ込むという極端なスタイル。球速は140キロ前後(MAX89マイル・143キロ)ほどだったが、まさに 原石 という言葉がぴったりだった。

 高校からjはプロ入りせずに、社会人の三菱重工広島に進む。あの素材型だった杉山が、中国地区でも話題の投手になっているという話は入社1年目から耳には入ってきた。社会人3年目、補強選手として都市対抗に出場する。そして大きく成長した姿を、JR東日本戦で魅せてくれたのである。


(投球内容)

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。

ストレート 140キロ台後半~MAX153キロ 
☆☆☆☆ 4.0

 7回2死からリリーフで登場しますが、いきなり153キロを記録し、150キロ台を連発します。高校時代は140キロ前後でしたから10キロぐらい速くなっていました。特に手元でグ~ンと伸びるとか、ピュッとキレるとかいうことはないのですが、名門・JR東日本の打者がその速さに圧倒されている姿には驚かされました。高校時代同様に、勢いと球威のある球質です。

 高校時代に見た時は、球筋がバラバラで四球を連発。しかしこの試合では、ストライクゾーンの枠の中にバシバシと投げ込んでいました。意図しているかはわかりませんが、ボールも適度に両サイドに散っていました。指にうまくかかった球では、膝下にも決まることもあるなど素材としての魅力は桁違いです。

変化球 スライダー 
☆☆☆ 3.0

 高校時代も、投球練習時以外はストレートばかり投げていました。この都市対抗でも同様だったのですが、1球だけスライダーを投げ込みます。そのスライダーは、曲がりながら沈む感じの軌道で、けしてキレ・ブレーキも悪くない球。この投手、もっと投げれば好い変化球も投げられるのかもという期待は抱きます。

(投球のまとめ)

 とにかく 192/90 という破格の体格で、これだけ滑らかになフォームで投げ込んでくる投手は滅多にいません。一昔前ならばダルビッシュ有・最近では 大谷翔平 に近いスペックの持ち主です。

 しかしその投球内容は、まさに素材型の粋を脱していません。ストライクゾーンの枠の中に収まれば、そうそう打たれないと思いますが、それがいつもできるのかという不安はよぎります。今年の都市対抗予選では、5回2/3イニングで、4安打・3四死球・3奪三振で、防御率 7.92 と実戦的とはいえない成績です。

 それでも補強されるぐらいですから、素材としての魅力は同地区でも図抜けているのでしょう。これだけのスケールは、今年のドラフト戦線でも、梅津 晃大(東洋大)ぐらいしかいないでしょう。そういった意味では、才能を高く評価する球団がハズレ1位ぐらいで指名してきても、リスクは大きいですがありえない話ではないでしょう。





(投球フォーム)

 都市対抗での投球は短かったので、その本質を探るためにフォーム分析をして近づいてみましょう。

<広がる可能性> 
☆☆☆ 3.0

 引き上げた足は地面に向けて伸びており、お尻はバッテリーライン上に残ってしまっています。そのためカーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球を投げるのには適していません。

 「着地」までの粘りもまだ平均的で、身体を捻り出す時間も並。そういった意味では、武器になる変化球が習得できず、伸び悩む可能性はあります。しかし唯一投げたスライダーのキレは良かったですし、腕の振りは好いのでチェンジアップも有効な武器になるかも。ましてカットボールやツーシーム・スプリットなどの球速のある小さな変化を中心に、ピッチングの幅を広げてゆくことは期待できそうです。

<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで内に抱えられており、両サイドの投げ分けはつけやすい。足の甲の押し付けが遅れがちで、地面を捉えている時間が短い。そのためうまくフォームがハマらないと、高めに抜けてしまうことも少なくないのだろう。それでも「球持ち」もかなり良くなっており、前でボールを放せるようにはなったのは成長の証。

 ただし一つ気になったのが、腕の軌道と顔との開きが通常よりも広いので、どうしても上半身がブレてコントロールを乱しやすいということ。もう少し腕の振りが、身体の近くを通るようになるとコントロールが良くなるのではないのだろうか。

<故障のリスク> 
☆☆☆ 3.0

 お尻は落とせないフォームなものの、カーブやフォークといった捻り出して投げる球を投げないだけに、悲観することはないだろう。そのため窮屈にもなることなく、肘への負担は少ないのでは。

 腕の送り出しにも適度な角度はあるものの、無理な感じはあまりしない。そういった意味では、負荷を掛けすぎることがなければ肩への負担も少ないのでは? ただし尋常ではないスピード投手なので、日頃から身体のケアには充分注意してもらいたい。

<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りはさほどではないので、打者としては苦になるフォームではないだろう。それでも「開き」はそれなりに抑えられており、コントロールを間違わなければ痛手は喰らい難い。ただしそのコントロールに、最大の課題があると言える。

 振り下ろした腕は身体に絡んでくるなど、勢いがあるので打者の空振りは誘いやすい。ある程度体重を乗せてからリリースはできているようなので、もっと「着地」までの粘りが出てくればグッとボールに勢いが出てくる可能性は秘めている。現状はまだ、球速ほどの質という点では物足りない部分も残るので。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、まだ「着地」「体重移動」は発展途上であり、股関節の柔軟性と下半身の強化で、もっともっと良くなる可能性を秘めている。すなわち更なる球速UPも、球質の向上も期待できる余地が残されている。

 腕の回旋が少し遠回りのために、ボールが暴れやすいこと。今後好い変化球を習得できるかどうかは、まだ未知数といった部分も残る。そういった意味では箸にも棒にもといった素材ではないが、未来像は描きにくいフォームではある。


(最後に)

 192/90 の体格の選手が、これほど滑らかなフォームで、身体を使いこなしているという意味では破格の素材であるのは間違いない。指導力・育成力がある球団ならば、ものすごい投手に化けても不思議ではないだろう。ただしハイリスクである一方で、ハイリターンの素材なだけに、あまり過度な入れ込みをしない方が無難だとは思う。

 しかしポテンシャルの高い投手が好きな球団ならば、破格な評価をしても不思議ではない。そういった意味で、ハズレ1位ぐらいに指名して来る球団も出てくるかもしれないと書いておく。ただし常識的な範疇ならば、3位以降での指名が現実的ではないのだろうか。個人的にもその才能は認めるが、上位でゆくのには相当な勇気が求められると思う。


蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


(2018年 都市対抗) 









杉山 一樹(静岡・駿河総合)投手 191/65 右/右 

 杉山は191センチの大型右腕で、スラッとした投手体型から、惚れ惚れするようなスケールのあるフォームで投げ込んで来る大器。立ち上がりこそ130キロ台後半でしたが、2回からはコンスタントに140キロを越えてきて、私が計測した中では89マイル(142.4キロ)を5球以上投げており、140キロ台をコンスタントに投げ込むスピード能力があります。もし2イニングで球場を移動しなければ、90マイル(144キロ)ぐらいまでは計測できたかもしれません。しかしその球質は、けして空振り取れるような伸びやキレがあるものではなく、勢いと球の力で詰まらせてものでしかありません。

 また球筋が不安定で、この日も四球を連発。変化球も投球練習時には投げますが、実戦では殆ど使えません。まさに素材型としか言いようのない投球で、磐田南に試合の主導権を握られます。磐田南の先発の広川という左腕は、テンポの良い実戦派で、これは厳しい戦いになるなぁと思ったら、やはり杉山にとって最後の夏になってしまいました。

 杉山は、どこと無く雰囲気は、かつての西武の1位指名になった 長見 賢司(伊丹西出身)右腕を彷彿とさせる素材。そりゃ25年ぐらい前のスカウティングだったら、ものすごい大器だと言って上位指名されたと思います。しかし現在のスカウティングは、総合力評価。そういった意味では、こういったタイプは育成で指名があるかないかではないのでしょうか。

 しかし最近、下位指名~育成レベルぐらいの位置づけられる素材を結構見ました。そういった中でも、最もスケールを感じさせる大器ではあるのは間違いありません。現時点ではまだまだですが、ソフトバンクあたりが指名してきそうな素材でしたね。