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吉田 輝星(金足農3年)投手 176/81 右/右 | |
夏の甲子園で、一躍野スーパースターに躍り出た 吉田 輝星 。昨夏から秋田では目立っていた存在だったが、正直ここまで世の中を騒がすまでの存在になるとは思ってもみなかった。その最大の理由は、この一年で全国で最も伸びた選手だったからではないかと思うのだ。 (投球内容) 「桑田真澄2世」とも呼ばれる、抜群の野球センスが最大の魅力。むしろ私には、一世代前の「ハンカチ王子」こと斎藤佑樹の活躍とだぶるものがある。 ストレート 130キロ~MAX150キロ ☆☆☆☆ 4.0 普段の吉田のストレートは、140キロ前後とコントロール重視で驚くほどのものはない。しかし得点圏にランナーを置いたりする場面では、140キロ台後半を記録するなど明らかにギアチェンジしてくる。特にこの投手が優れているのが、ストレートのコントロールに非常に優れていること。普段から注意して投げれば、ストレートを思い通りのところに投げ込むことができる。また力を入れたときの球は、実にスピンが効いて浮き上がるような感じで高めで空振りを誘える。特に力を入れたときのボールの回転は、藤川球児というよりも与田剛(元中日)を彷彿とさせる。いずれにしてもこの2つの優れた資質により、この投手の真っ直ぐは異彩を放つことができている。 変化球 スライダー・スプリット・カーブなど ☆☆☆ 3.0 小さな横滑りするスライダーでカウントを整えたり緩いカーブで緩急を、時には小さく沈むスプリットで相手の的を絞らせない。ただし変化球一つ一つの曲がりはそれほど大きいわけではないので、どうしても打者を仕留めにゆく時はストレートを使うことが多くなる。それでも連戦でストレートの走りが鈍ってくると、右打者にはストライクゾーン~ボールゾーンに逃げてゆくスライダーで、左打者には外角低めにスプリット沈めてボール球を振らせるセンスがある。また決勝の大阪桐蔭戦では、右打者の膝下にスライダーを投げ込んで空振りを誘っていた。そういった球の精度が、プロ入り後さらに高まって来ると球数が減りピッチングも楽になってゆくのではないのだろうか。特に大会の序盤戦よりも、中盤~後半戦にかけて変化球の活かし方がうまくなり大会の中でも成長が感じられた。 気になるのは、追い込むまでの変化球が甘く入ることが多く、その球を痛打される場面が多かったということ。そういった普段の変化球の精度やコントロールというのが、これからの課題ではないのだろうか。 その他 クィックは、1.15秒~1.20秒ぐらいと平均的。それでも牽制は鋭いし、フィールディングもうまい。何よりランナーを背負うと、ボールを長く持って相手を焦らしたり、間が悪いとみるやパッとマウンドを外すなど天性の投球センスを身につけている。 (投球のまとめ) すでにかなり形のできあがっている投手なので、今後の伸び代がどのぐらい残されているのか?という不安は残る。それでも2年夏~3年夏にかけての成長は、私が知る限り今年の高校生の中でも一番。そういった努力できる才能を持ち、それを元にさらなる広がりを魅せるのであれば、プロでも早い段階から通用しても不思議ではなさそうだ。 しかし甲子園の状態からは落ちていたU18では、ピリッとしない投球が続いた。そのため良い状態をキープできないと、プロの打者を抑え込むのは厳しいと感じる部分も。現在の能力から、さらに全体を引き上げられかに未来は懸っている。今はあくまでも、ファームレベルの好投手といった印象は否めない。 (投球フォーム) 今度は、フォームの観点から彼の可能性を模索してみたい。 <広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5 お尻はややバッテリーライン上に残りがちではあるが、ある程度は一塁側には落ちている。そのためカーブで緩急をつけたり、フォークのような縦の変化球を投げても、肘への負担は大きくないのではないのだろうか。今後そういった球への依存が大きくなりすぎない限りは、それほど気にすることはないだろう。 前に大きくステップして足を逃がすことができており、「着地」までの時間も稼げている。そのため体を捻り出す時間も確保でき、変化球のキレ・曲がりも悪くはない。 <ボールの支配> ☆☆☆☆★ 4..5 グラブは最後まで内に抱えられており、両サイドへのコントロールはつけやすい。足の甲での地面への押しつけも、膝小僧に土が付いてしまうぐらい深いのでボールは上吊り難い。また「球持ち」が素晴らしいので、指先まで力を伝えられ細かいコントロールをつけやすい。この夏の甲子園でも50イニングで14四死球と、四死球率は28%。投球回数の1/3以下の条件を満たしており、コントロールに大きな破綻はないことがわかる。 <故障のリスク> ☆☆☆☆ 4.0 この夏の大会を、予選から甲子園決勝までほぼ一人で投げぬいてきた。その投球を支えるのは、負担の少ないフォームにある。お尻の落としには甘さは残すものの、カーブもさほど投げないので肘への負担は少なめ。さらに縦の変化もスプリットで握りを浅くすることで、負担の軽減ができている。 肘をしっかり立てて投げているが、肩への負担は少なく無理のない送り出しができている。元来それほど力投派でもないので、疲労も溜め難いタイプ。そういった意味では、夏の激闘を乗り越えられた理由も充分頷ける。 <実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5 「着地」までの粘りはとれており、けして合わせやすいフォームでもない。しかし体の「開き」は平均的で、上背の無さから力を入れた球ではないと苦になく打ち返されてしまうことも少なくない。それを人並み外れた回転数により、選手の持つ常識とのギャップにより空振りを誘えている。 腕の振りは体には絡んできているが、力入れて投げないときはさほど強くは振れていない。このへんが、変化球で空振りを誘い難い要因かもしれない。ボールへの体重の乗せ具合はリリースまで良いのだが、膝小僧に土が付いてしまうほど重心を沈み込ませているために、前に体重が乗り難いという弊害も生まれている。将来的には、もう少し重心の沈みを緩和させた方がいいかもしれない。 (フォームのまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」と「球持ち」には優れている。その反面「開き」と「体重移動」には改善の余地がまだ残されている。 制球を司る動作には優れ、故障のリスクも少ない。またもっと良い変化球を習得しても、不思議ではないフォームでもある。今後も飽くなき探究心を持って取り組めれば、今の肉体のポテンシャルでもワンランク上のパフォーマンスは期待できるのではないのだろうか。 (最後に) ここから先は、本人がどのぐらい貪欲に自分を高めようと考え追求して行けるかに懸っているのではないのだろうか。桑田真澄のようなプロでも一流の投手として名を刻む可能性がある一方で、斎藤佑樹のように伸び悩む危険性も潜んでいる。高校時点でのパフォーマンスや野球センスに関しては、正直現時点では二人と大差はないと思う。 ただしこの一年での成長や、まだまだ改善できる余地が残されていることを考えると、短期間の間にワンランク上のパフォーマンスを実現できるようになっても不思議ではない。もしそうなれば、プロでも1年目から一軍で活躍できるぐらいの投球を見せる可能性は充分に秘めている。松坂大輔が最後の夏~1年目の春のキャンプまでに劇的に成長したように、吉田にもそういった期待を抱きたくなる。 プロで毎年二桁を勝つような大投手になれるかには不安は残るが、ローテーションの一角として長くやって行けるだけの資質は充分秘めている。我々が思い描く彼の理想系は、則本昂大(楽天)のような存在になってくれるのではないかという期待だろう。そのことは、この夏のパフォーマンスをみた誰もが思い描く未来像ではないのだろうか。そんな将来を思い描く球団から、1位指名されることになるだろう。 蔵の評価:☆☆☆(上位指名級) (2018年夏 甲子園) |