18kp-3
引地 秀一郎(倉敷商3年)投手 188/84 右/右 | |
今年の高校生投手の中でも、スケールが一番デカイのはと訊かれたら、この 引地 秀一郎 と応えるだろう。まだ荒削りなところはあるが、持っているエンジンは他の選手とは一味違う。 (投球内容) ノーワインドアップから、腕を思っきり振って投げ下ろしてきます。 ストレート 常時140キロ台~MAX150キロ ☆☆☆☆ 4.0 普段は140キロ台の速球を、両サイドに投げ分けてきます。そして勝負どころになって力を入れると、指にかかったときには150キロ前後まで到達します。そういったMAXで投げたときのボールの迫力は、全国の高校生の中でも一番ではないかと感じます。 また昨年まではコントロールもアバウトでまとまりの悪さが目立ったのですが、最後の夏は非常に球筋が安定していました。その証に、破れた倉敷商戦前までの2試合・16イニングでは僅か3四死球と少ない。また左打者には、厳しく内角を突いてきます。 変化球 スライダー・フォーク・カーブなど ☆☆☆ 3.0 スライダーの精度も高く、安心してストライクが取れます。また右打者の外角だけでなく、左打者への内角にもスライダーを食い込ませることができていました。その他にはフォークのような縦の変化も観られるのですが、この球は変化が早いのか? 見極められて見逃されることが多いこと。緩いカーブも結構使ってきますが、腕の振りが明らかに緩むので上のレベルでは使えないのではないのでしょうか。 その他 クィックは1.05秒前後とまずまずで、牽制は一息入れるように軽く投げる程度で。しかしストレートで最後まで押してくるように見せかけて、スッと最後はスライダーに切り替えたりとクレバーな駆け引きもできます。単なる力で押すだけの投手では、けしてありません。 (投球のまとめ) 力投派でありながら、ストレートのコマンドが高いのは評価できます。またスライダーでも、しっかりカウント整えることができるなど四死球で自滅する心配はありません。縦の変化の精度・カーブの際に腕が緩むなど、未完成の部分も目立ちます。しかしそれを補って余りあるほどの、伸び代・スケールを感じさせる素材は魅力です。 またクレバーな一面も垣間見られるなど、それまで抱いていた力任せの素材型というものを完全に払拭してくれた夏でした。この夏の内容が本物ならば、充分に上位指名を意識できる投手ではないのでしょうか。 (投球フォーム) 昨年はそうとう荒削りな投手でしたが、この一年で何が起こったのか? 昨年のフォームと比較して考えてみましょう。 <広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5 お尻は最初バッテリーライン上に残りがちかなと思えるのだが、フォーム後半にはしっかり一塁側に落ちている。そのため身体を捻り出すスペースは確保でき、カーブで緩急をつけたりフォークのような縦の変化球を投げるのには無理はない。 前にステップさせて、「着地」までの粘りを作れている。このことにより、身体を捻り出す時間を確保でき、キレや曲がりの大きな変化球を投げられる下地はできている。昨年までは、クロスに踏み出すことで「着地」までの時間を確保。しかし今年は、大きく前にステップすることで粘りを作ることができている。この方が推進運動になり、コントロールは乱れ難いと考えられる。 <ボールの支配> ☆☆☆☆ 4.0 グラブは最後まで内にしっかり抱えられており、両サイドへのコントロールは安定しやすい。足の甲の地面への押しつけが短いのは気になるが、ボールが高めに抜けるようなことは少ない。「球持ち」がまだ並なので、この辺が改善されてくるともっと低めに集まりそう。気になるのは、顔が外を向いて投げるので、どうしても腕と顔の距離が開いてブンと肩で投げてしまい球筋が乱れやすい。もう少し内から腕が出てくるようになると、さらにコントロールは良くなるのではないのだろうか。昨年よりも足の甲の地面への押しつけが僅かでもできるようになったことが、大きな成長ではないのだろうか。 <故障のリスク> ☆☆★ 2.5 お尻は落とせるので、カーブやフォークを投げても窮屈にはなり難く、肘への負担は少ないのでは。気になるのは、ボールを持っている肩が上がり、グラブを持っている肩が下がってしまっていること。また顔と腕の振りとも距離があり、肩で投げている印象が強い。こうなると肩への負担が大きく、将来的に痛める可能性は高い。元々腕を強く振って来る力投派だけに、疲労も溜まりやすい傾向にある。肩への負担という部分では、昨年から変わっていなかった。 <実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5 「着地」までの粘りはある程度あるので、けして合わされやすいフォームではないのだろう。しかし肩の「開き」はさほど隠せていないので、甘くない球でも踏み込まれて打たれてしまう危険性は少なくない。恐らくそのせいで球筋がいち早く読まれてしまい、フォークも見極められてしまうのだと考えられる。 腕の振り自体は素晴らしいので、勢いがあり空振りは誘いやすいはず。しかし「開き」が早いことや腕の振りが緩むことで、速球と変化球の見極めはつきやすくなってしまっているのでは?ボールには適度に体重を乗せてからリリースできており、打者の手元まで厚みのあるボールを投げ込むことができている。昨年よりも「体重移動」がよくなり、ボールの質が向上している。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」や「体重移動」などが良くなりストレートの質に改善がみられた一方で、「球持ち」「開き」など打たれ難さへの対策に課題があることがわかった。 コントロールを司る動作には優れている一方で、故障のリスクが高いのは気になる材料。今後ピッチングの幅を広げて行ける可能性はあり、その点はまだまだよくなる余地が残されている。優れている部分と劣っている部分が存在し、どちらがピッチングの全面に現れてくるのかで、結果は大いに変わってきそうだ。 (最後に) この一年でコントロールが大幅に改善され、ボールの質も球速に見合うものになってきた。まだまだ課題も少なくない荒々しさは残るものの、クレバーな一面もあり、投球を観ていても気持ちの不安定さは観られなかった。そういった意味では、こちらが思っていたよりも、かなり実戦的な投手であるということに驚かされた。 最上位でゆくには、ちょっと怖さ・リスクは残すものの、本格化したときのリターンは相当大きいであろう大器。ただし伸び悩む要素や故障のリスクも高いことを考えると、あまり入れ込み過ぎるのはどうだろうか? ハズレ1位や2位の間で指名される可能性は充分あると思うが、いの一番で指名するのには勇気がいる。そういった意味では2位あたりで、将来のエース候補として指名できるのが一番美味しい指名ではないかとみている。 蔵の評価:☆☆☆ (上位指名級) (2018年夏 岡山大会) |
引地 秀一郎(倉敷商2年)投手 186/82 右/右 |
「ボールの力はトップクラス」 まだまだ何処にゆくかわからない粗っぽさはあるが、純粋にボールの力だけならば全国トップクラスの力量があるであろう 引地 秀一郎 。ズシリと重い速球は、豪腕の名にふさわしいボールを投げている。 (投球内容) ランナーがいなくてもセットポジションから投げ込み、かなりアウトステップして来るフォームをしている。 ストレート 140~後半ぐらい ☆☆☆☆ 4.0 すでにMAXでは、151キロまで到達したと言われる投手です。実際試合を観ていても、勝負どころでは145キロ前後は出ていそうな球威と勢いを感じます。球質自体もズシリとミットに収まる重さがあり、少々甘かろうと長打に持ってゆくのは難しい球質ではないかと思います。しかし1球1球がバラバラで、正直何処にゆくかわからない不安定さがあります。現時点ではリリースが定まっておらず、ストレートのコマンドはかなり低いと言わざるえないでしょう。 変化球 カーブ・スライダー・フォークなど ☆☆★ 2.5 曲がりながら沈む球が、カーブなのかスライダーなのか見極めが難しいです。この球がしっかり曲がってストライクになれば良いのですが、その精度も半々程度といった感じで不安定。追い込むとフォークらしき沈む球もあるのですが、ストンと落ちるというよりはスプリットのように落差の小さな沈み方をしていますし、その精度はまだ低いと言わざるえません。 その他 クィックは1.1秒台で大方投げられており、ほぼ平均レベル。牽制はそれほど鋭いものは見られないものの、入れるタイミングは悪くありません。そういった意味では、投球で見る荒々しさに比べると野球センス自体はあるのかな?という印象は持ちました。 (投球のまとめ) この時期の高校生としてはA級の球威・球速があります。けして完成された投手ではないというかむしろ未完成な選手なので、導き方次第ではまだまだ速くなっても不思議ではないです。球威もある選手なので、これで150~155キロ級になれば、理屈抜きに厄介な投手でしょう。 しかし速球が暴れるだけでなく、カウントを取れる変化球、決め手となる球も発展途上。そのため全国大会まで勝ち上がって来られるような投手にまで育つかは、現状微妙だと言わざるえません。実際にチェックしにゆく場合は、県大会の間に、観に行った方が良いタイプかもしれません。 (投球フォーム) 今後の可能性について、フォームから考えてみましょう。この選手普段から、クィックの投手のように軸足に体重を乗せる前に膝を折って投げてしまうフォームです。それでこれだけのボールを投げてしまうのですから、潜在能力はかなり高いとも言えます。 <広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5 引き上げた足を高い位置でピンと伸ばすので、お尻は一塁側にしっかり落とすことはできています。そのためカーブを投げたり、フォークを投げても、身体を捻り出すスペースは確保できていて無理はありません。 「着地」も早すぎるように見えるかと思ったら、斜めに大きくアウトステップさせることで身体を捻り出す時間は確保できていないわけではないようです。そのためカーブやフォーク以外にも、いろいろな球種をものにして行ける可能性は秘めています。 <ボールの支配> ☆☆ 2.0 グラブは最後まで身体の近くに抱えられており、両サイドにはボールが散りやすいはず。気になるのは、完全に足の甲が地面から浮いてしまっていて、上吊るボールを抑えきれないだろうということ。さらに腕を振る時に頭の位置と腕の位置が完全に離れており、ブンと外回りに軌道します。こうなると大きく軸はブレて、制球は安定しません。まして「球持ち」や「指先」の感覚も悪そうなので、手元でも修正できず制球は大変アバウトになってしまいます。これが、将来的に大きなネックになる危険性があります。 <故障のリスク> ☆☆★ 2.5 お尻はしっかり落とせているので、窮屈になることがないのでカーブやフォークを投げても肘への負担は少ないのでは? ただし腕の送り出しは、ボールを持っている肩が極端に上がり、グラブを持っている腕は極端に下る大変肩に負担のかかるフォームです。それも頭と腕が離れてブンと外旋するフォームのため、肩で投げている部分は否定できません。全体的にも力投派なので疲れも溜まりやすいなど、故障を起こす可能性が高いのではないかと考えられます。日頃から身体のケアには、充分ぐらい気をつけて頂きたい。 <実戦的な術> ☆☆★ 2.5 「着地」までの粘りは平均的で特に合わせやすいということはないと思いますが、アウトステップがより「開き」を助長しボールの出処がいち早くわかってしまうことは否定できません。それでも球筋が予測されていても、打ち損じてくれるほどのボールの球威・勢いがあるのが救いではないのでしょうか。 腕は強く振れているのは良いのですが、「開き」が早いことで縦の変化は見極められやすい可能性があります。ボールにはけして体重が乗せられていないわけではないのですが、身体アウトステップして斜めに向いているのに、腕やボールは捕手方向に向けて投げるという、向かっている力の矢印が矛盾しているフォームなのには、いろいろな意味でロスを多く感じます。それでも人並み外れた球威はあるので、並の高校生では容易にも捉え切れないボールを投げ込んできます。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に「開き」に大きな欠点があることは否めません。また制球を司る動作と負担の大きなフォームで故障のリスクも高いことは頭に入れておきたいポイント。ただし球種を増やし投球の幅は、今後も広げて行ける可能性は秘めています。 (最後に) かなりリスキーな素材であり、この一冬の間に劇的に技術的な課題が改善されるとは考え難いものがあります。となると課題が改善されないまま、肉体のスペックを引き上げて相手を黙らせるという方向で伸びてゆく可能性が考えられます。果たしてさらに球威・球速を増した時に、その技術でプロでも抑えられる球を投げているかどうかが、1つ見極めのポイントではないのでしょうか。何処までこの方向性で突き進むのか? 観てみたい気も致します。 (2017年夏 岡山大会) |