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清宮幸太郎(日ハム)内野手のルーキー回顧へ







清宮 幸太郎(早実3年)一塁 184/101 右/左 
 




                        「松井秀喜級」





 私が今まで観てきたアマチュア選手の中でも、最高の打者だったと評価する、星稜高校時代の 松井 秀喜。それに匹敵すると言えるのが、この 清宮 幸太郎 である。圧倒的な威圧感や集中力で、他を凌駕してきた松井秀喜。それとは明らかにタイプは違うのだが、けしてガツガツしているわけでもないのに高校通算本塁打を塗り替えてしまった能力。そして高校時代の松井以上ではないかと思える 柔らかさが、この 清宮 幸太郎 にはある。まだ底を魅せていないことも加味すれば、高校時代の 松井 秀喜 と甲乙付け難い位置にいると言ってもけして大袈裟ではない。

 ということは、松井 秀喜が1年目に記録した 57試合(203打数) 11本 27打点 打率.223厘 ぐらいの成績は、清宮も一軍で残せるのではないかという期待が膨らむ。そして2年目からは、レギュラーとしてポジションに収まり、近い将来には球界を代表する打者へと駆け上がってゆくだろう。


(選抜以後が凄かった)

 3年春の選抜大会で、ホームランを放つことなく甲子園をあとにした清宮。しかし彼が凄かったのは、まさにここから。以後通算本塁打数を、どんどん積み上げてゆくことになる。それも通常の練習試合ではなく、毎週のように他県に招待されるような調整の難しい状況の中、各県のトップ校相手に数字を積み上げてきた。ある意味今年の早実は、選抜以後気の休まる期間もないまま、夏の大会に突入してしまったと言っても過言ではない。それでも夏の予選期間中には、高校通算本塁打記録に並ぶ107号にまで到達。更にU18の日本代表に入ってからも、新記録を更新し続けた。清宮幸太郎の凄いところは、

常に注目される中で、自分の能力を発揮できること

にある。特別大舞台だからといって能力が上がるとか凄みを増すこともないかわりに、好い状態を常にキープできる。この心身の安定感は、今までに見たことのないタイプの選手だった。


(松井秀喜との比較)

 松井秀喜は、なんとも言えぬ威圧感、打席での集中力、圧倒的な飛距離 においても、こんな高校生いるのかよという、大人のような成熟さをすでに兼ね備えていて驚かされた。3年生になった彼を見たときには、俺が探し求めていたモノはこれだった! のだという感動をうけたのは今でも忘れられない。

 それに比べると、清宮からはそういった凄みは感じられない。むしろこの選手は、本当にそこまで野球が好きなのだろうか? 何処まで野球というものに対し、情熱を傾けることができるのだろうか? という不安さえおぼえる。しかしそういった選手にも関わらず、ここまで残してきた実績、示してきたパフォーマンスで言えば、松井の高校時代と較べても勝るとも劣らないだけのものがある。もし彼が目の色を変えて本気になった時には、どんなになるのだろう? という、想像もできないところに彼の凄みがあると言えよう。日本人がメジャーリーグで30本を放ついう金字塔を打ち立てた松井秀喜以上のことを、この男ならば成し遂げてくれるかもしれない。そんな期待感が、彼にはある。そう、今まで誰も踏み入れていない領域まで到達する、そんな期待まで抱かせてくれるのが、清宮 幸太郎 という男なのだ。


(最後に)

 問題は日本のプロ野球が、この男を本気させるだけのものがあるのかということ。それを彼が日本にいる間に、NPBは引き出させてあげることができるのだろうか? しかし仮に引き出させてあげられなくても、NPBで一流と呼ばれる領域までは到達してしまうのではないのだろうか。ただ熱いものが通っていないプレーは、記録には残っても人々の記憶には深く刻まれるまでの感動をよびおこすようなプレーヤーにはなれない気がする。それゆえに彼がこの先進む球団には、彼の眠っている本能や熱いものを引き出させてあげられる環境であること願ってやまない。松井秀喜がそうであったように、誰もがメジャーでの活躍を観てみたい、そう皆から慕われる形で世界に羽ばたいていって頂きたい。私が 清宮 幸太郎 に求めるのは、ただそれだけである。


蔵の評価:
☆☆☆☆☆ (文句なしの目玉選手)


(2017年)









 清宮 幸太郎(早稲田実3年)一塁 184/97 右/左
 




                     「清宮幸太郎は本物」





 選抜では0本塁打終わったものの、春季東京大会決勝戦では、土壇場で2本の本塁打を放ちチームを優勝に導いた 清宮 幸太郎 。やはり打って欲しい場面で結果を残す、そういった星の下に生まれた男なのかもしれない。


(清宮幸太郎とは)

 彼の良さは、プレッシャーのかかる場面でも、素直に自分の持っている力を打席で出せる平常心にあると思います。これは、彼が小さい頃から人に観られる環境で育ち、その中で結果を残し続けてきたことで育んできた、彼ならではの精神構造だと思われます。物凄く勝負強いだとか、チャンスで燃えるタイプではありません。普段の並外れ能力を、そのまま出すことができるわけです。


(選抜での清宮幸太郎)

 緒戦の明徳義塾戦では、初球から手を出し強烈なセンター前ヒットで火蓋をきった。2打席目には滞空時間が異常に長いセンターフライで、その能力の片鱗を魅せる。さらに同点のチャンスの場面では、打ち気にはやらずに我慢して四球を選ぶなど、並の精神力ではないところを魅せた。結局清宮は、次の試合でもヒットを放ったものの、甲子園でアーチをかけることなく甲子園をあとにした。彼の甲子園での爆発は、夏の大会へと持ち越しとなった。


(技術的な変化は?)

 秋の清宮は、踏み込んだ足元がインパクトの際にブレてしまっていた。そのため体の開きが抑えられず、壁を作れずに外に逃げてゆく球に対応できずにいた。しかしこの選抜では、踏み込んだ足元は閉じられたままで、ボールを手元まで呼び込んで打てるように修正されていた。1年生の頃に魅せていた打撃を、今は取り戻しつつある。

 また以前は、どちらかというとインサイドアウトのスイング軌道で、真ん中~内側の球を巻き込むのに適したスイングだった。その分、バットのしなりを活かしたプロ仕様のスイングではなく、木製バットでプロの球を打ち返すのには適していなかった。しかしこの選抜では、外の球をきっちり叩けるスイングにかわりつつある。この一冬の間に、スイングが変わりつつあることを実感した。以前ほど、並外れたパワーだけで飛ばす選手ではなくなりつつあるのだ。

 一塁手としてのグラブさばきもよくなり、ことファーストならばプロでもやって行けるのではないかと感じられるまでになってきた。選抜では観られなかったが、中堅を守ることもあったように、将来的には他のポジションも視野に入れていることは間違いない。


(新チーム結成以来の成績)

新チーム結成以来の秋の成績は、

39試合(137打数) 25本 76点 1盗塁 打率.489厘

 まずこの数字がどんなものかイメージするのには、プロのレギュラー選手並の500打席で、この数字を換算してみたい。

 500打席 91本 277点 4盗 という凄まじいシーズン成績になってしまった(笑)。ただ昔同じように秋の成績を元に中田翔(大阪桐蔭-日ハム)でやった時に、当時のプロ規定打席である446打席で換算しても、中田は100本以上のペースでホームランを放っていてビックリしたことがあった。それに比べると、清宮のホームランペースはそこまで破格ではない。それでもこの数字は、尋常ではない。ちなみに西の筆頭・安田憲(履正社)は、92打席で5本塁打なので、27本ペースにしかならない。その3倍強のペースで、清宮はホームランを量産していることがわかる。例年の甲子園に出てくる強打者のホームランペースは安田並なので、清宮が異常なだけなのだが。

 もう少し細かく数字をみてみると、137打数で17三振であり、三振比率は12.4%とそれほど優れていないことがわかる。しかしこのうち5三振は、日大三高戦で桜井周斗から5打席連続三振を食らうなど明らかに状態も悪かった。そのため、今もこの数字が当てはまるかは疑問が残る。

 さらに四死球比率は、33.6%に昇り10%を超えれば優れていると言われる世界において、破格の数字を誇っている。1年夏の時点で、当時バリバリの速球を投げていた田中正義(創価大-ソフトバンク)の速球を打ち返していた動体視力と反射神経の高さは尋常ではなかったことを物語っている。


(最後に)

 一冬越えた選抜と、先日の東京都春季大会の模様を絡めてみると、この選手がやはり只者ではないことを改めて実感する。私が観てきた中でも、中田や筒香といった現役屈指のスラッガー達というよりも、球史に名を刻んだ 清原和博 や 松井秀喜 と匹敵する選手ではないかと思えてくる。もう夏の予選を待たずして、最高評価を下しても良いだろう。


蔵の評価:
☆☆☆☆☆ (目玉級)


(2017年 春季東京大会)










清宮 幸太郎(早稲田実2年)一塁 184/97 右/左 
 




                       「清宮幸太郎は本物か」





 1年夏に全国大会を経験し、甲子園では 5試合 2本 8打点 打率.474厘 の活躍を魅せ、2学年上の選手達相手にしても大活躍だった。あれから1年半、清宮幸太郎は高校通算本塁打を78本までのばし、文字通り2017年度のドラフトの目玉になろうとしている。そこで改めて清宮のプレーをみて、彼が本物なのか考えてみたい。


(守備・走塁面)

 走塁に関しては、文句なしの当たりが多く一塁までの塁間を計る機会は中々ない。たまにあっても全力で走り抜けることは少なくだいたい5秒台に到達するなど参考になりない。現在のプレー、身のこなしを観る限りは、足に関しては正直期待はできないだろう。

 一塁手としてもミスが多かった守備も、だいぶ動きは良くなってきた。身のこなし、ボールさばきもうまくなり、一塁手としては違和感なくプレーできるレベルになってきている。そのため、守備で足を引っ張る場面も減りつつある。他のポジションがプロできるのか?と言われると疑問だが、一塁手としてならばプロでもやって行ける資質はありそうだ。


(打撃内容)

 秋季東京大会では、左投手の外角低めのボールになるスライダーが見極められず5打席連続三振をきした。しかし神宮大会では、身体の開きを修正して見事結果に残して見せた。打席は、神宮大会でのフォームを参考にした。

<構え> 
☆☆☆ 3.0

 前足を引いた左オープンスタンスで、グリップは高く身体の近くで添えられている。腰は座らず背筋を伸ばし、全体のバランス・両目で前を見据える姿勢は並ぐらい。一年前と構えは、大きくは変わっていない。

<仕掛け> 早め

 投手の重心が下がっている段階で動き出す、「早めの仕掛け」を採用。これは典型的アベレージヒッターに多く観られる仕掛けであり、対応力を重視していることがわかる。

<足の運び> 
☆☆★ 2.5

 足をほとんど引き上げず、地面をなぞるように回し込んでから真っ直ぐ~ベース側に踏み込んで来る。始動~着地までの「間」は取れているので、速球でも変化球でもスピードの変化には対応しやすい。真っ直ぐ~インステップを採用しているように、真ん中~外角寄りの球への意識が強い。

 残念なのは、踏み込んだ足元がブレてしまっていて、外角に逃げる球や低めの球に対し「開き」が我慢できない。これでは秋の日大三戦に5三振をきしたのも頷ける内容であり、今のままだとこのコースを見極める「眼」を持つか、当ててカットする術を身につけないと苦しいだろう。そのため外角でも甘めの球や高めの球を拾うことしか、秋の状態では難しかったことがわかる。

 1年夏の頃は、踏み込んだ足元がブレずに我慢できていたので、外角の厳しい球でもレフト方向へも打つことができていた。今は、上手く引っ張り込める球ではないと打てない打ち方になっている。

<リストワーク> 
☆☆☆ 3.0

 あらかじめトップに近い位置までグリップを引いているので、速い球に立ち遅れる心配は少ない。その分前の肩が後ろに引っ張られて力みやすく、リストワークには遊びがなく柔軟性は損なわれる。

 バットの振り出し自身は、上からダウンスイングでありインパクトまでの軌道にはロスは少ない。これだと内角寄りの球を引っ張るのには適しているが、外角寄りの球を強く叩くのには優れていない。いわゆるプロ仕様の、しなりを活かしたスイングではなく、あくまでも強靭のパワー、引き手の強さ、金属バットの反発力を活かした引っ張るスイングに特化されている。

 バットの先端であるヘッドも下がり気味であり、ボールを捉える面積が少ないので打ち損じも多くなりがち。スイングの弧自体は小さくないのだが、けしてフォロースルーを活かして運べているわけではない。今のスイングだと、木製バットでは苦労することが良さそうされる。

<軸> 
☆☆☆ 3.0

 足の上げ下げは少ないので、目線の上下動は並ぐらいに。しかし身体の開きが我慢できておらず、軸足の形もそれほど地面から真っ直ぐ伸びて回転できているわけではない。ただし軸足の内モモの筋肉には強さが感じられ、ボールを飛ばせる潜在能力の片鱗は感じられる。

(打撃のまとめ)

 スイング軌道からして、内角寄りの球を捌くのにはそれほど苦手意識はないのだろう。それでも踏み込むことも多いので、開かずに綺麗に振り抜けてフェアゾーンに落とせるのかというと、必ずしもそうとは言えない。また外角は踏み込む割には、足元がブレてしまい開きが我慢できていない。こうなると現在は、内角寄りでも甘め~真ん中~外角でも甘め の限られた狭いゾーンの球を、腕っぷしとパワーと金属バットの反発力で巻き込んでいるわけで、けして確実性が高い打ち方ではないということ。

 外角の球をもっと確実に打ち、レフト方向へも飛ばすことができた1年夏の頃の方が、打撃技術としては良いことがわかる。この辺は、結果を求めすぎて打撃が粗くなっているだけで、元々はできていたことなので修正は充分可能ではないかと思うのだが。ようは、上半身と下半身のバランスが取れていないスイングをしているということ。


(野球への意識)

 打席に入る時には、首をまわしたあと素振りをするという自分なりのルーティンは持っているようだ。そして強打者らしく、バッターボックスのラインを気にせず踏んで打席に入る(ポジション的に問題ではない)。ただし気になるのが、足場の馴らしが実にあっさりしていて、自分の打撃へのこだわりとか野球への愛情が薄いのかと正直思う。強打者というのは、自分の足元を深く掘ったり、自分のやりやすいように馴らして打席に入るものであり、その辺が何かギラギラしたものは感じられないなというのが率直な感想。


(最後に)

 まぁ技術的に問題があったり、意識がけして高くなくても、これだけのパフォーマンスができてしまうのは、彼の才能が並大抵ではないからなのだと思う。清原和博 や 中田翔 、同じ左打ちであれば 筒香嘉智 の高校時代と比較検証されるレベルの選手であるのは間違いないない。

 高校からプロにゆくのであれば、何処かのんびりした意識・眼の色が変わってくるのか注目したい。持っているものは超A級かもしれないが、ドラフトの目玉選手にふさわしい選手なのかは、秋の時点では疑問が残る。何が問題なのか、何が必要なのか嗅ぎ分ける嗅覚があれば、自ずと最終学年に形となって現れる。そういう男こそ、ドラフトの目玉 にふさわしい男なのだ。


(2016年秋 神宮大会)









清宮 幸太郎(早稲田実業1年)一塁 184/97 右/左 
 




                    「史上最強レベルの1年生」





 マスコミ主導で盛り上がってきた 清宮幸太郎ブームに対し、私は懐疑的な見方をしてきた。またその思いは、今も変わらない。しかし彼がこの夏甲子園で残した 4試合 2本塁打 8打点 打率.500厘 という成績は、100年の歴史のある甲
子園でも、屈指のものだった。そのことは紛れもない事実として、受け止めなければならないだろう。


(清宮幸太郎の優れた資質)

 中学1年の時に、リトル世界大会で 5試合で 3本塁打・6打点の大活躍で、世界大会優勝に貢献し一躍注目される。リトル通算本塁打は、実に132本。そして彼が注目される最大の理由は、日本ラグビー界の歴史的プレーヤー 清宮克幸氏の息子だったということ。数年に一度レベルのスラッガーの才能に加え、そういった血筋の良さから、彼は常に注目されて育ってきた。

 彼の素晴らしさは、何より注目されるなか、常に平常心で自分のバッティングに徹していられる精神面にある。まさにこれは、生まれもって注目されてきた環境によって、作り出されたと言っても過言ではない。彼が特別勝負強いとか、物凄く技術が高いとかいうのではなく、この平常心で常に打席の立てることを、まず稀に見る優れた資質としてあげておきたい。


(技術的に考えてみる)

いつものように今度は、技術的な観点で彼の打撃フォームを考察してみた。

<構え> 
☆☆☆

 前の足を後ろに引いて、左オープンスタンスで構えている。ボールを手元まで、呼び込んで打とういう姿勢が感じられる。グリップは高めに添えた強打者スタイル。腰はあまり座らずに、背筋を伸ばして立っている。全体のバランスや両目で前を見据える姿勢は並ぐらいで、構えとしては可もなく不可もなしといった印象をうける。

 彼の構えで一番素晴らしいのは、打席でも力みなく立てている点。この辺が、柔らかい打撃を可能にしていると言えるだろう。とてもリラックスして立てている、この点をまず評価したい。

<仕掛け> 早め~平均的

 一般的には、始動が早いほどアベレージヒッター(単打打ち)であり、遅いほど長距離ヒッター(ホームラン打者)という傾向が強い。外国人などの打撃を見て頂けるとわかると思うが、日本人よりも遥かに遅く動き出す。これも、日本人と外国人のパワーの差にも大きな影響を及ぼしていると考えられる。

 現在の清宮選手は、「早め」~「平均的」なタイミングで動き出している。始動の観点からみれば、これはアベレージヒッター~中距離ヒッターの打ち方であり、けしてホームラン打者のそれではない。彼の率が残ることは十分説明がつくが、ホームラン打者のそれではない。

 では何故、このタイミングでもホームランを量産できるのか? 一つは、金属バットの反発力が大きいということ。そのため木製バットの場合、現状の打ち方だと中々ホームランは出ないのではないかと考えられる。

 もう一つは、日本人離れした腕っ節の強さ・パワーを持っているということ。そのことにより、技術ではなく力で打球を運んでいると考えられる。これが可能なのは、やはり金属バットであることと、圧倒的に相手投手のレベルが低いことにも原因がある。

<足の運び> 
☆☆☆☆

 足を早めに浮かして回し込み、ベース側にインステップして踏み込んでくる。始動~着地までの「間」が作れており、速球でも変化球でも、いろいろなスピードの変化に対応しやすい。これは、典型的なアベレージヒッターに観られるタイミングの取り方。彼が、どんな球にも崩されない大きな理由は、このボールの合わせ方にあると言えるでしょう。

 ベース側に踏み込んで来るということは、外角の球に意識があることがわかります。投球の7割は外角球で構成されますから、外角の球をキッチリ叩けることが打撃の基本になります。その基本は、彼はできています。また踏み込んだ足元が、インパクトの際にもブレずに我慢できているので、体の開きも抑えられて外の球厳しい球にもついてゆくことができるのです。

 外角の球をキッチリ叩ける反面、踏み込むということは内角が窮屈になることを意味します。しかし彼ほどの強打者の内角を突くのには、相当な度胸と技術が求められます。内角を突くつもりが真ん中に甘く入って打たれる、そういったケースをこの夏はよく観ました。そういった意味では、本当に内角を厳しく突ける技量の投手との対戦を、ぜひ観てみたいところです。いずれにしても現状は、下半身の使い方に大きな欠点はありません。

<リストワーク> 
☆☆☆

 下半身の使い方が上手い反面、清宮選手は上半身の使い方に課題があります。その最たるものは、打撃の準備段階である「トップ」が非常に浅く、またしっかり作れないまま振り出してしまうところにあります。

 「トップ」を深く取るというのは、弓矢の弓をしっかり引いて構えることと同じわけです。しかし彼は、その弓をあまり引かないまま弓を放してしまう。またしっかり打つ形が作れないまま振り出してしまうので、非常に忙しなく余裕なくスイングをしているように見えます。強打者というのは、このトップがしっかり深く取れている選手であり、それをしないでも打ててしまうのは、金属バットだったり、相手レベルが低かったり、彼の天性の体の強さによるところが大きいわけです。技術的には、極めてこの部分は未熟です。

 素晴らしい点は、バットを振り出してからインパクトまでのスイング軌道にロスが少ない点。無駄なく動き出してからは、ボールを捉えるまで振れています。むしろこの点では、とってもコンパクトにさえ見えてきます。それだけでなく彼のスイングは、体の横で斬るような軌道であり、打球に角度がつけ難いスイングをしています。鋭い打球で野手の間を抜けてゆくことはあっても、打球が上がり難い傾向にあります。またボールを捉えてからのスイングの孤も小さく、フォロースルーも使えないのでボールを乗せて運ぶようなこともできず、打球を後押しできません。あくまでも、ライナーでスタンドまで突き刺さるという、極めてスラッガーらしくないスイングをしているわけです。

<軸> 
☆☆☆

 足の上げ下げは平均的で、目線の上下動も普通だと言えるでしょう。体の開きは我慢できていますが、軸足を見ると重心が後ろに残ったままで、その場の回転で上手く巻き込めないと、ボールが飛んで行きません。通常打撃というのは、後ろの軸足~前の踏み込む足へと体重が移ることで、打球を飛ばすわけです。それが彼の場合は、その場で回転しているだけなのです。


(では何故打球が上がるようになったのか?)

 注目されるなか、ヒットは出るもののホームランが出ないことを本人も気にしていたのでしょう? 大会序盤と比べると、長打が出るようになってからは、若干フォームが変わっていたように思います。

1,仕掛けが少し遅くなった

 偶然なのか?意識的にやったのはわかりませんが、それまで早めに動き出していたのを、中距離打者のタイミングである「平均的な仕掛け」の段階へと始動が遅くなっていました。よりボールを引きつけて叩くために、意図的にやったのかは定かではありません。

2,ヘッドが立つようになってきた

 大会序盤のスイングを見ていると、ボールを捉える瞬間にバットの先端であるヘッドの部分が下がり気味だったのがわかります。どうしてもこうなると、ボールを捉える面積が小さくなり、打ち損じが多くなります。しかし大会が進むにつれ、ヘッドが下がらなくなり、打ち損じる確率が減りました。

3,スイングの孤が大きくなり、若干フォロースルーも取れるようになっていた

 より打球を飛ばすことを意識したのか? ボールを捉えてからのスイングが大きく取れるようになり、また若干ではあるが
フォロースルーも使えるようになり、打球を遠くに運ぶことができるようになってきました。すなわち今まではバチンと強く当てるだけのスイングから、当てたあとの押し込みをボールに伝えることで、より打球が遠くに上がりやすいスイングになってきたということ。

 もしこれらのことを意識的に行い、打球に角度をつけていたとなると、彼は相当自分の打撃を頭で理解していることになり、その将来性は計り知れないことがあります。状況に応じて、いろいろな打撃を使い分けていることになるからです。


(私を驚かせた一打)

 それまでの清宮の打撃は、引き手の力が強すぎて、引っ張ってばっかの限られた方向にしか打球が飛んでいませんでした。すなわち圧倒的に、一二塁間・ライト方向への打球が多かったわけです。上手く巻き込めた時しか打てないという、非常に限定された打撃に映っていました。すなわちそうさせないボールが来たら、打てないのではないかという心配があったわけです。

 しかし外角の球を、左中間方向にあわやホームランという打球を放ったのを見て、私の心配が杞憂だったことを知りました。けして流すことも、この選手はできないわけではないということ。それもレフト方向への打球は、結構上に角度よく上がってゆくことに驚かされました。こういった打撃をされては、投手も投げるところがなくなります。


(最後に)

 長々と書きましたが、大会が進むにすれ打球が上がるスイングにはなってきました。それでも全体的なメカニズムでいえば、木製バットを握り、レベルの高い投手と対峙すれば、打球はそれほど上がらないだろうなという疑問は残ります。残りの2年間で、こういったスイングをいかに改善されてゆくのか注視したいチェックポイント。

 もう一つは、平常心が保てるのは下級生ゆえなのかもしれないということ。これから学年が進むにつれ、背負うものが大きくなってゆきます。そういったプレッシャーの中でも、今と同じような形で打席に入れるのかという疑問は残ります。しかし彼が本物であれば、そういった問題もクリアしてくれることでしょう。

 現時点では、過去の歴史的なスラッガー達と比べても、それを上回るだけの結果を残してみせました。そのことは本当に素晴らしいことで、評価されるべきことです。しかし今がピークなのか? さらにここから凄みを増して行けるのか? それは、今後を観てみないと、私にもわかりません。見ている我々にも、これまでに経験のない領域へと、彼は誘ってくれているわけです。そしてその先に広がる光景が、また未知なるものであることを期待せずにはいられません。今はその時を、静かに待ちたいと思います。


(2015年夏 甲子園)