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山口 翔(広島)投手のルーキー回顧へ







山口 翔(熊本工業3年)投手 181/75 右/右 
 




                    「根本的には変わっておらず」





 選抜の智辯学園戦では、9回を投げて11安打・8四死球で5失点。期待された登板だったたが、結果は伴わなかった。しかし最後の夏はどうだろうと注目してみると、私にはあまリ変わったようには見えなかったのである。その理由について、今回も考えてみたい。


(投球内容)

 高校球界屈指の球速を誇る選手だが、けしてスケールで魅力するとかそういったタイプではない。スリークォーターから投げ込むタイプで、上背もさほどないのも相まってボールに角度が感じられない。確かに勢いはあるが、打ち損じる確率が低いのがその理由かもしれない。

ストレート 常時145キロ前後~150キロ強 
☆☆☆☆ 4.0

 コンスタントに145キロ前後を叩き出し、最速では150キロ前後をどの試合でも刻むことができる。そのスピード能力は、全国でも屈指といっても過言ではないだろう。選抜では高めに抜けて制御できない投球が目立ったが、夏もその傾向は変らなかった。敗れた夏の菊地戦でも、満塁の場面で登板。押し出し・死球で失点し、試合を決定づけてしまった。

 むしろこの投手、先発をしても中盤ぐらいから力が抜け出して良い球が決まってくる。そういった力の抜き加減を最初からできるようになると、投球内容もグッと変わってはきそう。今は、力むとみんな高めに抜けてしまうという投球を繰り返している。

変化球 スライダー・カット・カーブ・チェンジアップなど 
☆☆☆ 3.0

 スライダーやカットボールなど、少し力の抜けた球ではしっかりカウントを整えてくる。驚くようなキレはないが、打者の身体の近くで小さく曲がる実戦的な球種。他にもスライダーに対し、チェンジアップ・フォーク系の球を使うが、まだ精度は不安定で信頼できるほどではない。結局打者を仕留めきれるほどの球がないので、最後は何処にゆくかわからないストレートに頼らざるえないということ。この辺が、もう少し何か空振りを奪える変化球が覚えられると変わってくるかもしれない。

その他

 クィックは、1.0~1.1秒とまずまず。フィールディングの動きも良いが、鋭い牽制は入れてこない。マウンド捌き自体は悪くないが、力でねじ伏せようという意識が強いとボールが上吊って制御できなくなる。

(投球のまとめ)

 非常に肩関節の柔らかいという素材としての魅力は感じられるし、野球への取り組み・姿勢も悪い選手だとは思わない。その一方で、根本的にボールを上手く制御できない不器用なところがあるのと、どうすれば良くなるというものをイメージする想像力が欠如しているのが気になる。

 この辺は場数をこなすとか、何か良い変化球を覚えて精神的に余裕が生まれくれば補えるのかは気になる材料。今後爆発的に球速が伸びるとかそういった上積みが残されているかも微妙だが、ひたすらパワーアップを追求すれば155キロ級の球速ぐらいまで到達しても不思議ではない。ただしコントロールなどを重視し実戦的な投球を追求する過程で方向性を間違うと、非常に中途半端な投手になってしまう危険性も潜んでいる。そのためどっちに転ぶかは、非常に想像が難しい危ういタイプではないのだろうか。

(投球フォーム)

 昨年~選抜にかけては、フォームはほとんど変わっていなく課題を克服しているようには見えなかった。最後の夏はどうだったのか? 改めて検証してみたい。

<広がる可能性> 
☆☆☆ 3.0

 お尻の落としは、甘さは残すものの一塁側に落ち気味。そういった意味では、身体を捻り出すスペースが全く確保できていないとはいえない。カーブやフォークを投げるのに窮屈ということはないものの、むしろ腕の振りが下がって出て来るスリークォーターで、上から叩け無いことが変化球の曲がりを中途半端にしている可能性がある。

 「着地」までの粘りは平均的で、身体を捻り出す時間は並。特に悪いというほどではないが、武器になるほどの変化球を将来的に習得できるかは微妙だろう。


<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内に抱えられており、両サイドへは球が散りやすい。しかし依然足の甲が地面から浮いてしまっており、力を入れて投げるとボールが抜けてしまう傾向にある。「球持ち」は前で放せているのだが、もう少しリリースで縦に押し込めるようだと、低めに抜ける球も減りそうなのだが・・・。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻もある程度落とせているため、カーブやフォークなどを投げても窮屈さはない。そのため、肘を痛める危険性は少なそう。振り下ろす腕の送り出しにも無理は感じず、肩への負担も少ない。以前ほど腕の回旋も外回りではなくなっているので、負担も少なくなってきているのではないのだろうか。

<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは並で、身体の「開き」も早すぎることはないが直線的。そのため球速の割には、苦になく合わされやすいのではないのだろうか。

 その一方で振り下ろした腕は身体に絡むなど、腕の振りにも勢いがあり空振りを誘いやすい。ボールにも適度に体重は乗せられているので、打者の手元まで生きた球は投げられている。


(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に大きな欠点はない。しかしフォームが直線的な動きのため、「開き」は並でも合わされやすい傾向にある。

 故障のリスクが少ないのは良いが、足の甲の押し付けができないためボールが抜けやすい。将来的にもピッチングの幅を広げて行けるのかは微妙なところも、伸び悩む可能性を秘めている。


(最後に)

 以前ほど前に倒れ込むようなフォームではなくなっていることには好感が持てるが、技術的には昨夏から大きくは変わっていなかった。そのため欠点も大きくは改善できず、同じような失敗を繰り返している印象は否めない。こういった部分をプロの指導によって改善できたり、自らの発想力で克服できるのかがポイント。

 ある程度形はできていると思われる投手だが、球速・勢いという観点ではもうワンランク上の155キロ級を連発できる可能性は秘めていると言えるであろう。そういったレベルまで引き上げられれば、理屈ではなくプロの打者でも圧倒できる可能性は秘めている。しかし選抜からの大きな上積みは感じられなかったので、評価はそのまま据え置きにしたい。果たしてどこまでのスピードスターに育つのか、見届けてみたい。



蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


(2017年夏 熊本大会)









山口 翔(熊本工3年)投手 180/73 右/右 
 




                   「最後まで制御できなかったが」





 全国初登場となったプロ注目の 山口 翔で あったが、選抜の智弁学園戦では最後まで高めに浮くボールを制御仕切れないまま甲子園をあとにした。元々ボールが高めに抜けやすかったり、コントロールがアバウトな面はあったが、正直ここまで制御できない彼を見たのは初めて。それでもボール1つ1つには、見るべきものがあった。


(どんな選手?)

 MAX149キロを記録するスピード能力は、秋の時点では全国でも屈指の存在。さらに右打者の内角胸元を厳しく突いて攻める、強気なピッチングが持ち味。しかしボールが上手く制御できないことで、この得意なインハイへの攻めに徹しきれなかったことは残念。


(投球内容)

 少し肘の下がった、スリークォーターから投げ込んでくる。球速は破格ではあるが、「スケールで魅了する」そういった凄みのある素材ではない。

ストレート 常時145キロ~MAX148キロ 
☆☆☆☆ 4.0

 試合の最後まで、ボールが高めに抜けるのが修正できなかった。球質自体球威でねじ伏せるというよりも、キレで勝負するタイプ。しかし明らかなボール球が多く、高めに浮いた球を痛打される場面は少なかった。それだけストレートの勢いは一級品であり、この球がもう少しストライクゾーンに集められればという思いが強い。試合では8安打打たれたものの、ヒットの多くは高めに浮いたスライダーが多く、ストレートをアジャストされる場面は少なかったはず。

 元々高めに抜けることは多かったものの、両サイドに投げ分けるコントロールは持っている。そのため右打者のインハイを突いて、詰まらせるのを得意にしている。更に抜け球というだけでなく、ナチュラルシュートするようなクセ球でもあり、余計に右打者には内に食い込んで来る感覚に陥る厄介な球筋。

変化球 スライダー、カーブ、スプリットなど 
☆☆★ 2.5

 智辯学園戦では、速球が制御できないぶんスライダーでカウントを整える場面が目立った。このスライダーのキレは悪くなくカウントも稼げるのだが、時々高めに甘く浮いて打たれるケースがめだった。この他に緩いカーブ、130キロ台中盤のスプリットを使って来る。ただしこの球も、落差の割に見極められて見逃されることが多い。この球がもう少し打者の近くで沈むようだと、大きな武器になるのだが。

その他

 クィックは、1.0~1.1秒とまずまず。フィールディングの動きもまずまずだが、牽制に鋭いものは見られない。マウンド度胸・マウンド捌きは悪いとは思わないが、一度力んでしまうと修正がきかない脆さを露呈した。

(投球のまとめ)

 できればもう一試合、選抜で投げて欲しかった。1試合投げていれば、2試合目の投球ではかなり違っていたのではないかと残念でならない。実際のところ普段の投球はどうなのか? 秋の成績から考えてみたい。

16年秋 142回 107安打 58四死球 116奪三振 防御率 2.15

 142イニングで107安打ということで、被安打率は75.4% とそれほど高くはない。しかし高校からプロに入るような選手ならば、70%は切ってもらいたいところはある。四死球は58個であり、四死球率は40.8%。できればイニングの1/3以下に抑えてもらいたいものだが、やはりこの辺もややアバウトな傾向は普段からあることがわかる。奪三振は116個であり、1イニングあたりの奪三振率は8.17個。先発なので0.8個以上は奪えているが、やはり高校からプロを目指すならば0.9個以上はとって欲しい気がする。こういった微妙な物足りなさが、防御率 2.15 と、ドラフト候補としては絶対的な数字ではないところに現れている気がする。この数字はまさに昨夏から抱く、彼の姿を色濃く反映している。

(投球フォーム)

課題

 オフシーズンで更新した「本当に凄いやつ」で分析したときと、今のフォームは殆ど変わらない。「開き」が早いのと、足の甲が押し付けず、リリースも押し込めないので高めに抜けるという欠点は改善されていません。

改善点

 また腕の振りの良さは、健在でした。少し良くなったなと思えるのは、以前ほど腕が身体の遠くを回らなくなったこと。そのため外からブンと振る力任せなフォームでは無くなっている点は良かったのではないのでしょうか。

(最後に)

 選抜での投球で、前評判ほどではなかったとガックリされた方も少くなかったかと思います。しかし能力を出し切れていない部分はあったものの、元々上位指名確実な選手とか、そういったスケール感や総合力がある投手ではありません。もちろん今後の内容にも左右されますが、ドラフトでは中位ぐらいが彼の位置付けではないかと思います。

 今のままだと夏は秀岳館に勝つのは厳しいだけに、そこを打ち砕くだけの成長が望まれます。それがコントロールや技術的な部分なのか? さらなる球威・球速を増すことなのかはわかりませんが。そういった何かしらの工夫のあとを、ぜひ夏の大会でも実感したいものです。


蔵の印象:☆☆ (今後の成長次第では上位指名も)









山口 翔(熊本工2年)投手 180/70 右/右 
 




                   「選抜では注目集めるはず」





 選抜出場が有力な熊本工業に、楽しみな投手がいる。その男の名前は、山口 翔 。春・夏甲子園に出場した秀岳館相手に、ストレートで真っ向勝負を挑んだ速球派。秋には九州大会で、チームを準決勝まで導いた。その球速は、すでに149キロに到達したという。


(ここに注目!)

 右打者内角への速球が、ナチュラルシュートするのか? 食い込んで来るクセ球。そのため打者にとっては、恐怖感を植え付けられるボールになっている。この球には、全国屈指の猛者だった秀岳館の打者達もたじろいた。

(投球内容)

かなり肘の下がった、スリークォーターから投げ込んできます。

ストレート 130キロ台後半~140キロ台中盤 
☆☆☆★ 3.5

 夏の大会での球速表示を観ている限り、常時130キロ台後半~MAXで140キロ台中盤ぐらい。しかしキレのあるボールの勢いはそれ以上に感じさせる球質で、投球の多くが速球で構成されている。その速球は、逆クロスのボールが高めに抜けて来る傾向にある。それゆえコントロールはアバウトなものの、右打者にとっては当たりそうな怖さを抱くことになるのだろう。現にそれを活かして、右打者のインハイを厳しく突く場面も多かった。

変化球 スライダー・チェンジアップ 
☆☆ 2.0

 投球の8割は速球という感じで、たまにカットボールのような高速で小さく変化するスライダー。それにチェンジアップ系の、少し沈む球を投げて来る。それほど変化球の威力・精度は高くなく、まだまだ発展途上といった印象。そのため要所では、力を入れたストレートで勝負して来ることが多い。

その他

 ランナーを背負っても牽制はほとんど見られないが、クィックは1.05~1.10秒ぐらいと素早く、フィールディングの動きも悪くない。

 パッとランナーを背負うとマウンドを外したりするところに、投手としてのセンスを感じさせる。

(投球のまとめ)

 まだ細かいことができるコントロール、変化球、投球術は持ち合わせていない。あくまでもストライクゾーンの枠の中に、威力のある球を、ガンガン投げ込んでくるというスタイル。


(投球フォーム)

<広がる可能性> 
☆☆★ 2.5

 体重を落とす時に、前に倒れ気味に落としてくる。そのためお尻はバッテリーライン上に残り、身体を捻り出すスペースは充分確保できていない。すなわちカーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種には適さないし、腕の振りも縦振りでないので厳しい。

 「着地」までの粘りも平均的で、身体を捻り出す時間も並。そのためキレがあったり、曲がりの大きな変化球の習得は厳しいかもしれない。カットボール・ツーシーム・スプリットなど、球速のある小さな変化を中心にピッチングを広げてゆくことになりそう。

<ボールの支配> 
☆☆★ 2.5

 グラブは最後まで内に抱えられているので、両サイドの投げ分けは悪くない。しかし足の甲の押し付けは浅く、力を入れて投げるとボールが上吊りやすい。何より腕が身体から遠回りに軌道するので、軸がブレやすい。またボールをしっかり押し込んでリリースできないので、常に球が抜けがちになるということ。この辺が、細かいコントロールをつけられない要因になっている。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻は落とせないフォームだが、カーブやフォークといった球種は使って来ないので、肘への負担は少なそう。腕の送り出しにも無理がないので、肩への負担は大きくはないのではないのだろうか。

<実戦的な術> 
☆☆★ 2.5

 「着地」までの粘りは並で、打者としては合わせやすいわけでも合わせ難いわけでもない。しかしながら身体の「開き」は早いので、いち早く球筋が読まれやすく、コースに行った球でも打ち返される危険性はある。

 腕の振りは素晴らしく、速球と変化球の見極めは困難。ボールへの体重乗せ自体は悪くないものの、腕の振りが横ぶりでボールをしっかり押し込んでリリースできず、常に抜けた球になってしまう。できれば肘を立てて、しっかり腕を振りたい。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に「開き」とに大きな課題を抱えている。また肘を立ててリリースできないので、ボールが抜けてしまうことになる。

 故障のリスクはそれほど高くないが、グラブは抱えていてもコントロールはどうしてもアバウトに。お尻が落とせないこともあり、球速のある変化中心のピッチングになってしまう。


(最後に)

 スピード能力・ボールの威力は一級品で、ひと冬越えて150キロ級になっていても不思議ではないだろう。ただしスケールで魅了するとか、そういったタイプの速球派ではない。フォームは違うが、タイプ的には 小野 郁(西日本短大付-楽天2位)みたいな投手になるかもしれない。

 将来的に実戦的な投手になれるのか? ピッチングの幅を広げられるようになれるかは微妙だが、選抜でも3本の指に入る注目投手になるのは間違い無さそうだ。吉報が入ることを、今から楽しみにしている。


(2016年夏 熊本大会)