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土肥 星也(ロッテ)投手のルーキー回顧へ







 土肥 星也(21歳・大阪ガス)投手 186/82 左/左 (尽誠学園出身)





                    「存在感を維持できず」





 春先のスポニチ大会では、社会人での実績が殆どなかった土肥が140キロ台中盤の速球を連発し、一躍ドラフト戦線にニュースターが誕生を予感させてくれたと大いに盛り上がった。しかしシーズンが進むにつれ、彼の名前を訊く機会は極端に減ってゆく。ようやく彼の姿を再び見られたのは、社会人・日本選手権でのヤマハ戦だった。しかし日本選手権では、1回を持たずに降板している。


(ここに注目!)

 スポニチ大会では、恵まれた体格から癖のないフォーム。それていてコンスタントに140キロ台~MAX147キロを記録するなど、速球派若手サウスポーが出てきたと大変盛り上がった。変化球も制球も危うさはあったものの、許容範囲の範疇。しかしその部分が、シーズンが進むにつれて許容範囲では収まりつかなくなり、チームの信頼を得るまでには至らなかったと考えられる。まだまだ、素材型の域を脱していないということなのだろう。


(投球内容)

 まだリラックスして投げているというよりも、力を入れて投げきれていないという感じがします。

ストレート 130キロ台後半 
☆☆★ 2.5

 3月の寒い時期に行われたスポニチ大会でも、MAX147キロに到達。しかしこの日本選手権では、屋内のドーム球場にもかかわらず130キロ台後半を投げるのがやっとという感じだった。球筋も定まらず、カウントを取りにいったストレートをことごとくはじき返された。できれば1回を切り抜けた時にどんなボールを投げるのか見たかったものの、この日の投球を観る限り速球は並、コントロールはイマイチとの印象しか残らない。

 スポニチ大会の時に感じたのは、球速の割にボールが手元まで来ない球質。そのため140キロ台中盤以上は投げないと、打者が苦にならない球ではないかと記した。実際にはそれ以前の内容ではあったものの、130キロ台後半程度ではなおさらそう感じたに違いない。

変化球 スライダーなど 
☆☆★ 2.5

 左打者の外角低めのボールゾーンに切れ込むスライダーを、いかに振らせるかが生命線。この曲がりながら沈むスライダーと、カウントを稼ぐ横滑りするスライダーの二種類がある。スポニチ大会では、右打者外角にチェンジアップを使っていた。しかしこの球は抜け気味で、ほとんど使えるほどの球種ではなかったように感じられる。

 ようは変化球にも頼れず、苦し紛れで投げたストレートを狙い打たれるという悪循環を、スポニチ大会以降繰り返してきたのではないのだろうか。

その他

 クィックは、1.05秒前後とまずまず。牽制は平均的だが、フィールディングの動きは素早い。送球のコントロールには不安を残すものの、動き自体は非常にいい。

(投球のまとめ)

 高卒3年目にして全日本に招集されるなど、期待の大きな投手だった。秋は日本選手権予選でも好投したり、前年の日本選手権本戦でも2試合ほど投げている。ただし肝心の都市対抗本戦では、その危うさゆえか登板することなく3年間終わった。

 ストレートが決まって押し切れる時は良いが、うまくゆかなかった時に修正できるだけの技術、経験、精神力が欠けている気がする。あくまでも現時点では、ストライクゾーンの枠の中に威力のある球を投げ込んでいるだけといった現状。まだまだプロの一軍で、活躍できる未来像が見えて来ない。


(投球フォーム)

 春先のスポニチ大会でもフォーム分析しているので、その時の変化や何か気がついたことについて触れてみたい。

 春よりも足の甲での地面への押しつけも深くなり、「球持ち」もよくなり前でボールが放せるように感じた。しかしそれでも、まだコントロールが定まって来ないのは気になる材料。

 春のフォーム分析の時に書いたが、振り下ろした腕が身体に絡んで来ないので空振りを誘い難いのが気になる。そのため速球も、何処か置きに来る感じで威力を感じない。またボールへの体重の乗せ具合も発展途上であり、打者の手元までにグッと来る感じがしてこない。

 良いところは、身体に負担の少ない無理のないフォームだということ。お尻が落とせるフォームなので、今後着地までの粘りが作れ身体を捻り出す時間が確保できれば、質の良い変化球を加えてゆく可能性は感じる。


(最後に)

 高卒3年目のブレイク候補と期待されたが、その後が続かなかった。元来は大型投手の割に、制球も変化球も許容範囲内というのが彼の良さ。しかしシーズンが進むにつれ、それが怪しくなり結果を残せないできた。プロ入り後、その微妙な部分がどのように改善されてゆくか? 社会人出身といっても高卒3年目の年齢なので、フォームで育成する覚悟で指名したのだろう。そのファームでの育成が済んだ時に、どのような投手に変貌しているのかが楽しみ。

 あくまでも現時点では素材型の域を脱しておらず、当初の期待ほどの成長・活躍を魅せられず危うさだけが残った。ということで最終的な評価は、春よりもワンランク下げたものとさせて頂く。少し長い目で、彼の成長を見守って頂きたい。


蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


(2016年 日本選手権) 










土肥 星也(21歳・大阪ガス)投手 184/70 左/左 (尽誠学園出身) 





                     「ニュースター誕生」





 スポニチ大会の大阪ガスの試合、ここでのお目当ては、ドラフト上位候補の 酒居 知史 の投球だった。しかしこの試合に先発したのは、高卒3年目の左腕・土肥 星也 。しかし想像以上のピッチングを見せつけ、ドラフト戦線に新星が誕生した瞬間だった。


(投球内容)

 それほど力感のあるフォームではありませんが、セットポジションからバランスの好く投げ込んできます。

ストレート 常時140キロ台~MAX92マイル(147.2キロ) 
☆☆☆★ 3.5

 けして腕を強く振れているわけでもないのに、寒さの中140キロ台を連発。力を入れれば145キロ前後を投げられるスピード能力があるのには驚きました。ボールも球速表示ほど、手元まで来ている感じはしません。しかし力を入れた140キロ台中盤以上の球には、確かな勢いが感じられました。逆にこのぐらいの球ではないと、打者は苦にならないのではないかということ。

 素晴らしいのは、両サイドを意図的に投げ分けられるコマンドの高さ。打者の内角へミットを構えれば、右打者でも左打者でもそこにおおよそ集めることができています。特にボール全体が高いわけでもなく、大きな問題はありません。

変化球 スライダー・チェンジアップなど 
☆☆☆ 3.0

 それほど曲がりが大きくない、横滑りするスライダーを使ってきます。この球は空振りを誘うようなキレはありませんが、カウントを整えるという意味では有効。右打者の外角に逃げるチェンジアップもありましたが、この試合ではやや抜け気味で、それほど機能していませんでした。別の試合で投げていた時はうまく抜けていたようなので、その精度は発展途上なのでしょう。

 変化球のキレも悪くなく、けしてストレートだけの投手ではないということ。まだ力で押し切るとか、このボールを投げれば仕留められるというものはありませんが、変化球にも大きな欠点はありません。

その他

 クィックは、1.05秒弱とまずまず。鋭い牽制は観られなかったものの、走者をしっかり観て落ち着いて投球できていました。

(投球のまとめ)

 高卒3年目の左腕としては、球速は上位レベル。変化球、投球術、制球力共に一定のレベルに到達しており評価できる内容だった。時々ランナーを背負うと、精神的に危うさを垣間見せるときもあるが、それでもなんとか抑えるなど合格点は与えられるだろう。





(投球フォーム)

 特にクセのない、それでいて力感も感じないオーソドックスなフォームという印象を受けました。

<広がる可能性> 
☆☆☆★ 3.5

 引き上げた足を高い位置で曲げ伸ばししてるので、お尻は三塁側(左投手の場合は)に落とすことができます。そのためカーブで緩急を利かしたり、フォークのような縦の変化球も無理なく投げられます。

 「着地」までのタイミングも、可も不可もなし。特に早過ぎる感じも、粘っこい感じもしません。そのため身体を捻り出す時間も平均的で、今後いろいろな球種を覚えられる下地はありますが、武器になるほどのボールを身につけられるかは微妙でしょう。

<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで内に抱えられ、両サイドの投げ分けは安定。実際の投球においても、両サイドのコントロールは安定しています。

 足の甲の地面への押し付けはまだ浅く、充分に浮き上がろうする力を押さえ込めているわけではありません。それでもボールが高めに抜けないので、気にするほどではありません。「球持ち」も並であり、指先の感覚の良さが絶妙という感じではありまませんが。

 ピンポイントで投げ分ける微妙なコントロールはなさそうですが、大方狙ったところに集められる制球力はあるのではないのでしょうか。

<故障のリスク> 
☆☆☆☆★ 4.5 

 お尻を落とせるフォームですし、カーブやフォークといった身体を捻り出して投げるボールもほとんど観られません。そのため、肘への負担は少ないと考えられます。

 腕の送り出しにも無理はないようで、肩への負担も少なそう。力投派でもないので、消耗も激しいタイプには見えません。肩・肘への負担も少なく、故障の可能性は低いのではないのでしょうか。

<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りが並なので、打者としては苦にはならないはず。しかし体の「開き」は抑えられているので、コントロールミスをしなければ、それほど痛手は喰らわないのでは?

 気になるのは、振り下ろした腕が身体に絡んで来ないこと。何より腕の振りが弱く、これでは変化球を振ってくれません。ボールへの体重の乗せ具合も平凡で、現状は発展途上の印象。だからこそ、打者の手元までグッと来るような勢いや球威が生まれ難いのではないのでしょうか。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に悪い部分はないが、特別優れているところもないということ。現状は発展途上なので、これからもう少し良くなる可能性は秘めている。

 コントロールを司る動作は、足の甲の押し付けが浅い。そのため強く腕を振ると、ボールの抑えが効かなる可能性が感じられる。肩・肘への負担は少なく、故障の可能性は低いはずで、この点では評価できるポイント。全体的にまだ筋力が不足しており、これからのトレーニングで、筋力のアップや柔軟性を養うことで、まだまだ上積みが期待できる。


(最後に)

 現状は、プロの即戦力としては心許ない。しかし高卒3年目の年齢を加味すれば、コントロールも変化球レベルも、ボールの勢いも悪くない。少しランナーを背負ってからの不安定さはあるものの、許容範囲内だろうということ。

 20歳ソコソコで、180センチ台半ばのサウスポー。このパフォーマンスを考えれば、プロ入りは現実味を帯びてくる。この1年での内容次第で、多少評価の上下動はあるが、☆☆☆ の評価を基本線に、この1年観てゆきたい。非常に楽しみな選手が、ドラフト戦線に現れたのではないのだろうか。


蔵の評価:
☆☆☆ (上位指名級)


(2016年 スポニチ大会)