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高梨 雄平(24歳・JX-ENEOS)投手 175/80 左/左 (川越東-早大出身) |
「腕を下げていたよ」 早大時代はまとまったサウスポーという感じで正直あまり気にしたことがなかったが、JX-ENEOSに進んでからは常時140キロ台前後を投げられるサウスポーで、適度にまとまっている投手ということで密かにマークしていた1人。しかし社会人2年目の今年は、観戦運も悪くまともに彼の投球が見られないまま月日が経ってしまった。そんな彼のことを忘れかけていた頃に、楽天から指名されたのである。 (ここに注目!) あと一つ何か特徴を見出だせなかったのか? 今年に入り腕を下げてサイドハンドに。このフォームによって、左打者の背中来る感じの独特の球筋を生み出し、特徴のある左腕としてプロ入りを実現したのだという。 (投球内容) 僅かながらだが、サイドハンドからの投球が確認できたので、内容を修正してみたい。元々は140キロ前半の速球に、カーブ・スライダー・チェンジアップを一通り織り交ぜるピッチング。特に投球にメリハリは感じられず、淡々投げ込む印象に残り難い投球をしていた。 ストレート 130~135キロぐらいでは? ☆☆★ 2.5 左打者の背中越しから来る、独特の球筋が得られ特徴がでてきた。しかし腕が下げた分、球速は落ちた印象がある。正確な球速はわからないが、映像を観る限りは130キロ前後~出て130キロ台中盤ぐらいに見える。元々140キロ前後だったから、5キロ~10キロ程度は落ちているかもしれない。元々の球速が並だったので、こういった特徴を見出だせたのは正解ではないのだろうか。腕を下げなければ、指名されることはなかっただろうから。 気になるのは、球威・球速が落ちたことよりも、腕を下げて投げる割に、あまりコントロールがよろしくないように見える。あまりコントロールのよくない左サイドハンドというと、松井秀喜キラーとして存在感を示した、河原隆一(ベイスターズ)左腕を思い出す。まさに、そんな感じのピッチャーではないかと。そしてストレートは、左打者のインハイを厳しく突く。背中越しから来る感覚でありながら、インハイにかなりの確率で集められるならば、左打者としてはたまったものではない。通常こういう投手は、アウトコース中心に組み立てられるからだ。もしそうだとすると、少しおもしろいかなと思える部分があり、球速が落ちた分を充分補えそう。 変化球 スライダー・シンカーなど ☆☆☆ 3.0 腕を下げたことでスライダーが曲がり過ぎて、うまく制御できていないように見える。その分左打者の外角低めに、小さく沈むシンカーを投げてくる。むしろ、この球の精度の方が高く実戦的で面白い。とくに速球がインハイ・シンカーがアウトローという対角線の配球ができており、この2つのゾーンに安定して投げられれば、対左打者としての役割を果たせるのではないのだろうか。 (投球のまとめ) オーソドックスな正統派左腕から、いっきに腕を下げることで独特の球筋を得ることができた。その分、速球の球速、スライダーの精度を失った気はするが、左打者背中越しから来る恐怖感を植え付けつつ、インハイに投げ込める。アウトローにシンカーを落とせるという、面白い投球ができている。普通左サイドというのは、徹底的に腰を引かせつつ外角の速球と大きく逃げてゆくスライダーで勝負するのが常となっている。そういった意味では、今までにいない左サイドハンドが生まれる可能性も秘めている。プロで、どんな投球を魅せてくれるのか、非常に楽しみ。 (投球フォーム) 投球の詳細はよくわからないものの、投球フォームの映像は見つかったのでフォーム分析をしてみよう。 <広がる可能性> ☆☆ 2.0 引き上げた足は地面に向けて伸ばしており、背中を前に倒して投げ込むサイドハンド。そのためお尻は三塁側(左投手)には落ちず体を捻り出すスペースは確保できない。また腕を下げて投げることで、体を捻り出して投げるカーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種は厳しい。 「着地」までの粘りもさほどではなく、体を捻り出す時間もいまいち。ただしこれは、サイドハンドというフォームがそういう傾向になるので、彼が悪いわけではない。その分、独特の球筋を生み出すメリットもあるのだから。 <ボールの支配> ☆☆☆☆ 4.0 グラブは最後まで体の近くにあり、両サイドの投げ分けは安定しやすはず。足の甲でも地面をしっかり捉えており、ボールも高めに抜ける球は少ないのではないのだろうか。球持ちも悪くなさそうで、サイドでもコントロールが比較的安定したタイプだと考えられる。 <故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5 お尻を落とせないフォームだが、カーブやフォークを多投することはなさそうなので、肘への負担も心配しなくてもと。腕の送り出しには無理は感じず、肩の故障の可能性は低いように見える。ただし通常と異なるフォーム、そして今までと違う部分を使うフォームに変わると故障しやすいので注意してもらいたい。 <実戦的な術> ☆☆☆ 3.0 「着地」までの粘りはさほどなく、打者が合わせ難いということはなさそう。それでも体の「開き」は抑えられており、球の出どころは隠せている。また左打者にとっては、背中から越しから体にぶち当たりそうな感覚に陥る恐怖感があるので、それだけ大きなアドバンテージになっているはず。逆に右打者からは、ボールが長く見える傾向があり、打ちやすくなる。 腕の振りはさほど強くなく、コントロールを重視するあまり腕があまり振れていないのは気になった。またフォームの構造上どうしても前に体重が乗って行かないで横に流れてロスするので、打者の手元まで勢いのある球が投げにくいデメリットも生じている。こういった極端なフォームは、メリットが大きな反面、大きなデメリットも同時に生じるのである。 (フォームのまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」と「体重移動」がもう一つなのが気になるところ。しかし故障のリスクは少なく、コントロールを司る動作も悪くなさそうだ。 (最後に) 腕を下げたことで、独特の球筋を手にいれ特徴が出てきた。そのぶん球速、スライダーの精度は落ちたように見える。しかし背中越しに来る感覚でインハイを攻められること、アウトローにシンカーを落とせることで、対角線の投球の組み立てるができるという、今までにあまり例を見たことのない左サイドハンドが誕生した。 しかし左サイドが通用するためには、左打者外角低めにしっかりスライダーがコントロールできること。右打者の外角に、チェンジアップを沈ませることができることであり、それができているかが一つポイントになるのではないのだろうか。スケールよりも実戦派だろうから、オープン戦から積極的に起用されることになりそう。この異色の存在が、プロの世界でどのように生きるか注目してみたい。評価付けは、サンプルが少なかったのであえてしないことにする。 (2016年 日本選手権) |