16kp-35


 








石川 達也(法政大4年)投手 178/73 左/左 (横浜高出身) 





「調整能力に不安」 





 横浜高校時代から、甲子園を舞台に活躍してきた 石川 達也 。最終学年までは、ロッテに1位指名された 鈴木 昭汰 とそれほど差がなかった記憶がある。かたやドラフト1位・かたや育成枠指名。この二人の違いは、何処にあったのか? 考えてみた。


(投球内容)

 石川は最終学年までの3年間に、17試合に登板し3勝をあげる実績を残していた。同じく鈴木も、3年間で17試合に登板。通算の勝利数はわずか1勝で、石川の方が勝っていたぐらいなのだ。石川は、4月に鉄棒をしていて骨折し8月の春季大会を棒に振る。さらに秋季リーグでも体調が整わず、わずか1試合・1/3イニングを投げただけで、最後のシーズンを終えた。

ストレート 常時140~140キロ台中盤 ☆☆☆ 3.0

 鈴木のように、150キロを記録するほどにはスピードアップできなかったが、130キロ台後半だった高校時代に比べると、球速は5キロ程度は上がった感じがする。実際の投球を観ていても、かなりストレートで押せるような力強さが出てきていた。怪我明けの今秋のリーグ戦でも143キロを記録するなど、ボールの勢いに陰りは見えていない。

 ただし、コントロールはかなりアバウトだ。唯一投げた秋季リーグ戦では、ワンアウトを簡単に取ったあとに四死で走者を出し、そこから3連打を浴びての降板だった。上下動の激しいフォームで、制球は定まり難い特徴がある。ただアバウトではあるが、4年間の通算では25回2/3イニングで9四死球なので、四死球率は 35.2% 。投球回数の1/3以下とはゆかないまでも、そこまでノーコンというほどではない。

変化球 スライダー・チェンジアップなど ☆☆☆ 3.0

 カーブのように、曲がりながら沈む120キロ台のスライダー。それに、130キロ台の小さく右打者外角に逃げるチェンジアップやツーシーム系の球を織リ混ぜてくる。特にスライダーの曲がりは悪くないが、打者の三振を狙うほどの威力はない。あくまでも相手の読みを外した時の見逃しの三振か、ストレートで奪うケースが三振では多い。それでも25回2/3イニングで22奪三振なので、1イニングあたり 0.86個 と、三振が取れていないわけではない。

 しかし、この数字はリリーフでの投球なので、0.9個以上は奪いたい。ましてプロの打者相手だと、なかなか三振を奪えるかどうにも疑問が残るのだ。

その他

 投球フォームと見分けの難しい、牽制に上手さがある。クィックは、高校時代は1.15秒前後で投げていた。しかし、この秋は1.3秒台前後だったので、あえて制球を乱さないように急いでは投げないようにしていたのではないのだろうか。高校時代は、投げない時にライトを守っていたように、フィールディングや各動作には優れるなど、そういった運動神経や野球センスの高さは持っている。

(投球のまとめ)

 自らの資質をグングン伸ばしていって、ドラフト1位に漕ぎ着けた 鈴木 昭汰 。その一方で、骨折やその後の体調不良により満足のゆく最終学年を送れなかった 石川達也。大差なかった二人の力量が、一年で見違えるほど立場の違いに現れるようになっている。果たして、プロ入り後、その差を縮めることができるのか? フォームなどを分析して考えてみたい。むしろマインド的には、野手的な選手だといった気がする。


(投球フォーム)

 ノーワインドアップから、足を引き上げる勢いはそれなり。しかし、軸足一本で立った時に、膝から上がピンと真上に伸びてしまって直立気味にたってしまっている。こうなると、バランスを保とうと無駄な力が生じやすかったり、「着地」が早くなりやすい。

<広がる可能性> ☆☆★ 2.5

 引き上げた足を地面に向けて伸ばしているので、完全にお尻がバッテリーライン上に落ちてしまっている。したがって身体を捻り出すスペースが確保できず、カーブやフォークなどを投げるのには無理がある。フォーム後半には深く三塁側(左投手の場合)にお尻は落ちてゆくのだが、それが遅すぎる構造になっている。

 「着地」までの粘りも平均的で、身体を捻り出す時間も並。そのため曲がりの大きな変化球の習得は厳しく、スライダー・チェンジアップに、球速のある小さく動かす変化を中心にピッチングを広げてゆくことになるのではないのだろうか。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで身体の近くにあり、外に逃げようとする遠心力を抑え込めている。そのため、両サイドへの投げ訳はある程度できている。また足の甲での地面への押しつけも深く、ボールが高めに抜けるのも防げている。「球持ち」もけして悪くないように見え、これでどうして制球がアバウトなのかという問題が出てくる。

 私が考えるに、テイクバックの時には前の肩と後ろの肩を結ぶラインが後ろの肩側に大きく下がって、前の肩の方がやり投げのような感じで大きく上がっている。それを今度は、リリース時には角度を付けて投げるので、真逆の形になっている。それだけボールを持っている肩が上下に大きく動いているのだ。これでは、フォームにブレが生じてしまうのは致し方ないのではないかと思えてくる。

<故障のリスク> ☆☆ 2.0

 お尻が落とせないフォームではあるものの、カーブやフォークといった球種は殆ど観られない。そういった意味では、窮屈になる機会は少なく、肘への負担という意味ではそうでもないのでは?

 しかし、腕の送り出しには無理が感じられるので、肩への負担は非常に大きく見える。また、それなりに力投派でもあるので、無理に速い球を投げるような環境下で登板過多になった場合は、疲れが溜まりやすく故障のリスクも高い選手だと考えている。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは並で、打者からすればタイミング自体はそれほど苦になるものではない。ただし、ボールの出どころは大きく隠せているので、この点では予測し難い分打ち難い。したがってコントロールミスをしなければ大丈夫だとは思うが、そのコントロールがアバウトな点は気になるところ。

 腕は適度に振れているので勢いがあり、空振りは誘いやすいと考えられる。しかし、リリースが悪いというわけではないが、ボールへの体重の乗り具合はあまり良くない。その要因は、重心が深く沈み過ぎて後ろに体重が残りがちであり、前にグッと体重が移ってゆかないからだと考えられる。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「開き」には良さがあるが、「体重移動」に課題を残している。

 制球を司る動作は、上下動の激しさで不安定に。また故障のリスクが高く、将来的にも武器になるような変化球を習得できるかにも疑問が残る。かなり体重移動などフォームの根幹に関わる部分に課題があり、容易には改善が望み難いフォームだということ。それだけに、かなりリスキーな素材だと言えるのではないのだろうか。


(最後に)

 左腕から投げっぷりの良いマウンドさばきは魅力も、かなり微妙なところで成り立っている投手であり、大成させるのは難しいのではないかとみる。ただし、コントロールのアバウトさに関しては、許容範囲ぐらいには収めることも可能であり、そのベースの上で個性を伸ばすことができれば、実戦的な投手に育っても不思議ではない。かなり難しいとは思うが、その僅かな可能性を感じなくもはないということ。ただし、個人的には  を付けようとか、そういった魅力までは感じられなかった。


(2020年 秋季リーグ戦)










石川 達也(横浜3年)投手 178/72 左/右 
 




 「速球で押せるようになってきたけど」





 これまで、典型的な大学進学タイプに見えた 石川 達也 。 しかし夏の大会を見ていると、球速も140キロに到達し力で押す投球もできるよういなってきた。秋のドラフトに向け、プロ志望届けを提出。果たして、高校からプロに指名されるほどの投手なのか?


(ここに注目!)

 元々上位指名候補の 藤平尚真 よりも、ゲームメイクできるまとまりがあり、安定感では上でした。そんな投手が、ここに来て力で押すピッチングを魅せ始めた、その変化を見落としてはいけない。

(投球内容)

かなり投げる時に、背中を反って角度をつけて投げ下ろしてきます。

ストレート 135~MAX142キロ 
☆☆★ 2.5

 驚くような球威・球速はないのですが、手元までのボールの勢い、適度な球威も感じられるようになってきました。ただし元々がドラフト候補としては劣っていたので、ようやく標準レベルに近づいてきた印象。あまり細かいコントロールはないのですが、ポンポンとストラクゾーンに集められる制球力はあり、四死球で自滅するイメージはありません。高校生レベルで細かいコントロールがないことを考えると、プロのストライクゾーンには苦しむ危険性もありますが。

変化球 カーブ・スライダーなど 
☆☆☆ 3.0

 曲がりながら沈むスライダーとのコンビネーションで、この球でしっかりカウントを整えられます。またカーブのブレーキもよく、しっかりストライクゾーンに曲がってきます。しかしながら左投手の割に、右打者の外角に逃げてゆくチェンジアップ系のボールが見られません。この辺は、今後の課題ではないかと思います。カウントを取る変化球はありますが、打者を仕留めきるほどの球がありません。

その他

 最大の持ち味は、投球フォームと見分けの難しい牽制にあります。そのため走者はスタートが切り難く、ギャンブルスタートを仕掛けて来る確率が高まります。そこを読むことができれば、走者を頻繁に挟むことができるでしょう。クィックは、1.15秒前後と平均レベル。普段はライトなどを守るだけに、投球以外の動きにも優れます。

(投球のまとめ)

 物足りなかったストレートに、改善の兆しが見られたことは明るい材料。しかしながらレベルの高い相手を押し切るほどの威力はなく、それでいて交わしきれるほどの変化球や制球力などがないだけに、現状のままではかなり厳しいことが予想されます。


(投球フォーム)

今度は、技術的な部分から今後の可能性を模索してゆきます。

<広がる可能性> 
☆☆★ 2.5

 引き上げた足をなかなかピンと伸ばさないので、お尻の三塁側(左投手の場合は)への落としはバッテリーライン上に残ってしまっています。こうなると身体を捻り出すスペースが確保できず、カーブで緩急をつけたりフォークのような縦に鋭く落ちる球を投げるのには無理が生じます。

 「着地」までの粘りは、並ぐらいでしょうか? 身体を捻り出す時間は平均的で、今後武器になるほどの変化球を身につけられるかは微妙でしょう。

<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内にしっかり抱えられており、両サイドの投げ分けは安定しやすい(実際それほどでもないが)。足の甲の押しつけは、まだ少し浅い感じがするものの改善されつつある。かなり角度をつけてブンと腕を振ってくるので、球筋がバラツキやすい傾向にある。おおよそは狙ったところにボールは集まるものの、細かいコントロールがつかないのはそのせいではないのだろうか?

<故障のリスク> 
☆★ 1.5

 お尻が落とせないので腕の送り出しが窮屈になっているにもかかわらず、カーブを投げる頻度もけして少なくはない。そのため、肘を痛める可能性があるのは、注意したいところ。

 それ以上に心配なのが、背中を大きく反って腕を縦に振り下ろそうとしていること。これにより相当肩への負担が大きいことが想像され、将来的には非常に心配。日頃から身体のケアには、充分過ぎるぐらい注意してもらいたい。

<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りも平均的ぐらいになり、打者としては合わされやすいわけでも打ち難いわけでもない。また背中を大きく反ることで、ボールの出処は隠せている。甘く高めに入らなければ、それほど痛打を浴びる可能性はなさそうだ。

 腕がしっかり振れるようになり、速球と変化球の見極めがつき難い。更にボールにしっかり体重が乗せられるようになってきて、打者の手元までボールに勢いと球威が生まれたことは大きい。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち「開き」「体重移動」では、特筆すべきほど優れた点はないものの、大きな欠点はなくなりつつある。気になるのは、身体への負担が非常に大きなフォームだということ。良くなった点は、ボールにしっかり体重が乗せてから投げられるようになり、球質が大きく改善されたことではないのだろうか。


(最後に)

 横浜高校出身の左腕でいうと、土屋 健ニ(日ハム~DeNA)左腕の高校時代と力量はあまり変わらないだろう。ただし土屋は野手が投球をしているような選手だったのに比べると、石川は遥かに天性の投手といった匂いを醸し出す。更に 田原 啓吾(巨人)あたりと比べると、夏の石川は上回っていたように思う。

 実際ドラフトとなると、指名の最後の方から育成枠ドラフトあたりでの指名があるのではないか?という気はしている。しかしながら個人的には、やはり大学進学タイプだよなという認識は変わらない。しかし明確な意志を持ってプロ志望届けを提出したのだろうから、左腕だけに素材で劣ってもどうにかなっても不思議ではない。個人的には指名リストに載せることはしないが、指名して来る球団があっても驚くことはないだろう。


(2016年夏 甲子園)









石川 達也(横浜2年)投手の下級生レポートへ(無料)