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小笠原 慎之介(中日)投手のルーキー回顧へ







 小笠原 慎之介(東海大相模3年)投手 180/83 左/左
 




                     「開かれた引き出し」





 春季大会では、一冬越えて身体つきが見違えるようになったと述べた 小笠原慎之介 。夏の神奈川大会では、140キロ台後半~150キロを初回から出す、圧倒的なパワーを身につけるまでになっていた。しかし甲子園では調子を崩し、明らかに調子を落とす中での投球。その不調は、さらにU18のワールドカップでもハッキリと現れていた。元来ならば、この小笠原慎之介や高橋純平(県岐阜商)あたりが、JAPANのエースにならなければならなかったのに、その期待に応えられる状態ではなかったのである。しかしそんな中、夏の神奈川予選で観られなかった、新たな小笠原の姿を垣間見ることができた。


(投球内容)

 神奈川予選に比べると、甲子園・そしてU18での小笠原は、バランスが悪く体が突っ込むことが多かった。そして何より甲子園では、みるみる体が小さくなっていたことに驚かされた。明らかに、消耗していたのだ。ピークを神奈川大会に持ってきており、甲子園では下り坂だったとしか考えられない。

ストレート 常時140~MAX152キロ

 甲子園でMAX152キロまで記録したものの、好い球が持続しない。予選で常時140キロ台後半~150キロ級の素晴らしいボールを投げていた小笠原は、甲子園では瞬間的にしか現れなかった。能力の片鱗を感じ取ることはできても、トータルできっちり投げられない、それが甲子園後の小笠原の投球だと言える。

 夏の神奈川予選を見ていると、ボールの勢いが素晴らしかったという以上に、ボールがコーナーに散ったり低めに集まったりと、コントロールも安定していた。フォーム自体が崩れてしまった甲子園では、コントロールもイマイチでまとまりも悪く、どこかピリッとしなかった。それでもカウントが悪くなければ140キロぐらいのストレートでカウントを稼ぎ、勝負どころでは150キロ近いボールを投げて仕留めに来る。そういった使い分けは、悪い時でもできている。

変化球 スライダー・カットボール・チェンジアップ・カーブ・ツーシームなど

 6月ぐらいまでの小笠原は、高めに抜けてあまり曲がりきらないスライダー、更に緩いカーブ・それに右打者外角に決まるチェンジアップがソコソコといった感じの投手で、絶対的な変化球がなかった。そのため追い込んでも変化球で仕留めきれず、結局ストレートで押すしかないという、単調な配球しかできなかった。

 しかし夏の甲子園以降は、いろいろ変化球を増やし、投球の引き出しを増やそうという意識が感じられる。これこそが、甲子園以降の小笠原の評価できる部分ではないかと。変化球も130キロ台の小さく変化するカットボール、今まで使っていた高めであまり変化しないスライダーでカウントを稼ぎつつ、更に110キロ台のカーブとスライダーの中間のスラーブのような、大きく曲がりながら落ちる球を甲子園でも披露。そして唯一信頼できる武器、チェンジアップを甲子園では織り交ぜていた。

 更にU18に向けて、右打者外角にツーシーム(ほとんど速球との区別がつかない)。それに120キロ台のスライダー回転するチェンジアップという特殊なボールを使っている。この球は、上手くストライクゾーンから低めのボールゾーンに切れ込み、空振りを誘うことができてきた。この球に関しては、かなり彼自身も手応えを感じているのではないのだろうか。

(投球のまとめ)

 甲子園~U18の期間での一番の成長は、カーブとスライダーの中間球らしき、曲がりの大きな変化球でカウントが整えられるようになったこと。そしてスライダー回転して沈むチェンジアップで、打者の空振りを誘えるという新たな武器を手に入れたことにあるのではないのだろうか。

 もしこの2つの変化球に、150キロ近いスピードを取り戻せたとしたら、これは全く打者も印象が変わっていたに違いない。それまでの変化球はイマイチという小笠原への先入観は、捨てなければならないのではないのか? そういった認識を持たざるえなかった。

 更に夏の神奈川大会で見せた、145~150キロ級をコンスタントに投げ込んでいた馬力も加味すれば、大学・社会人含めてNO.1の左腕は、この投手であるのは間違いないという評価に至るのである。

(その一方で)

これだけの変化球を身につけておきながら、甲子園でもU18でも小笠原の内容は悪かった。結局は現在の小笠原は、ストレートが走ってなんぼという投手であり、悪い時に悪いなりの投球ができる。そういったレベルにはまだ達していないということなのだろう。

神奈川予選 4試合 27回 13安打 10四死球 30奪三振  0.33
夏の甲子園 5試合 25回 21安打  7四死球 20奪三振  3.24


 相手レベルの差はあるとはいえ、数字の上からも神奈川予選と甲子園ではデキに大きな差があったことがわかる。しかしデータをみて驚いたのは、四死球に関しては甲子園の方が安定していたということ。むしろ神奈川予選では、力でねじ伏せようとしてコントロールを乱していた可能性が考えられる。

(気になることが)

 状態を取り戻せば、小笠原は凄いストレートと新たに身につけた変化球がリンクし、凄い投球を魅せてくれるのではないかという、期待感を抱く。しかしその一方で、私には気になることがあった。

 一冬越えて見違えるような体を手に入れた小笠原が、夏の大会をするごとに、みるみる体が萎んでいった消耗度の速さだ。見た目は凄く鍛えあげられているように見えて、実は体力的な部分では、まだまだ非常に未熟なのではないかと。

 そのことを裏付ける話を、知り合いから訊いた。そう小笠原は、ランニングを非常にきらう傾向があるということ。そのためウエートトレや瞬発力系のトレーニングを積んでここまで強靭な体を作り出してきたが、有酸素系のトレーニングや下半身の充実を図って来なかったので、本当のスタミナが備わっていないのではないかという危惧である。それが、甲子園での失速、上半身と下半身のバランスを崩した最大の要因ではないかと。ようは、好きなトレーニングはとことんやる一方で、苦手なことに対してはあまり取り組んで来ない性格ではないかという不安。その辺は、彼の投球フォームが極めて下半身の使い方が下手なことからも伺える。股関節の鍛錬や走り込みをしっかりやっている選手ならば、あのような下半身の使い方にはならないからだ。その辺の疑問を、知人の言葉を訊いて強く実感することになった。


(最後に)

 そのため小笠原が早い時期から活躍するためには、これからプロ入りするまでの間、あるいはプロ入り後もいかに自分の嫌いな下半身を中心としたメニューをこなしたり、走り込みのような有酸素運動をできるだけ取り入れ、プロの長いシーズンに耐え得る体づくりができるかにかかっている。

 すでに150キロ級の速球も手に入れており、変化球の問題もクリアしつつある。あとは、プロの舞台でも戦える、確かな土台を構築することができるか、そこを貪欲に追求できるかにかかっていると言っても過言ではない。そこに若干の甘さを感じたこともあり、最高評価とまでは高校の時点では至らなかった。しかし更に引き出しを増やそうという姿勢と、その可能性を垣間見せたことで、春よりもワンランク上の評価で、高校時代の最終評価とさせて頂く。


蔵の評価:
☆☆☆☆


(2015年 U18ワールドカップ)











小笠原 慎之介(東海大相模3年)投手 178/82 左/左 
 





                      「パツンパツン」





 春季神奈川大会で東海大相模の試合を観に行った時に、キャッチボールをしている 小笠原 慎之介 のユニフォームが、パツンパツンではちきれそうだったのが印象的だった。それだけ 小笠原 の体つきは立派になり、充実していたのに驚かされる。


(投球内容)

 イメージ的には、森中 聖雄(元大洋)左腕を、もう少し重心を低くした感じのサウスポー。ずんぐりむっくりした体型で、けして投手らしい しなやかさ があるタイプではありません。

ストレート 130キロ台後半~140キロ台中盤ぐらい

 春季神奈川大会決勝戦の登板を見る限り、昨年と較べて目に見えて球威・球速が変わった気は致しません。ただしこの投手、力を入れて投げてしまうとボールが高めに抜けてしまう傾向が強く、普段から8分程度の力でコントロール重視で投げています。そのためこれだけ体が立派になったことを考えると、本気で投げたら140キロ台後半ぐらいは連発できるのかもしれません。

 丁寧に投げれば低めにボールが集まるのが彼の良いところなのですが、この試合や春の成績を見る限り、ボールのバラつきが目立ったり、四死球が多いのが気になります。ボールはコースに散っているものの、以前のような低めにあまり来なくなっています。この辺は、調整や状態の問題なのか、何か根本的な問題が発生しているのかは定かではありません。こんなにコントロールアバウトな投手だったけ? というのが率直な感想。

 この投手はビシッとはボールは決まりますが、それほど体重がグッと乗っているわけではありません。この辺は、松井裕樹(桐光学園-楽天)などの高校時代と比べると、かなり落ちる感じがします。

変化球 カーブ・スライダー・チェンジアップ

 変化球でカウントを稼ぐコントロールはありますが、相手を仕留めるという意味ではまだまだ未熟。ボールになるスライダーを低めに集めるコントロール、チェンジアップを活かす技術もまだ発展途上。変化球も、全体的に曲がりが早く見極められやすいのも気になります。左打者にはスライダーとのコンビネーションで組み立てられるのですが、昨夏までは右打者に対する変化球が課題でした。この辺は、チェンジアップを右打者外角低めに投げられるようになり、多少成長した部分は感じます。

その他

 走者が出ても、冷静に目配せをして投球できます。昨夏同様、あまり鋭い牽制が見られないので、どこまで課題が克服できているかはわかりません。クィックは、1.0秒~1.05秒ぐらいで投げ込めるようになっており、昨夏よりもワンランク上手くなっています。

(投球のまとめ)

 春季神奈川大会での登板は極端に少なく、状態がまだあまり良くないのか、調整段階なのかな?という印象もあります。そのため現段階では、昨夏よりも投球の繊細さは薄れているように感じました。

 それでいて、ボールの威力を増したとか投球に何か加わったという印象もなく、やや淡白な印象は否めません。ただしあの体ですから、夏にはピークを持ってきて、最高のパフォーマンスを魅せてくれるのではないかという期待は持っています。

(投球フォーム)

 投球フォームについては、昨夏フォーム分析をした時と基本的には変わっていません。技術的に何いじった形跡はなく、肉体的なパワーアップを積んで一冬越えてきたことがわかります。そのため課題は改善されていませんし、まだその成果が投球では観られていません。

課題としてあげられる点は、主に2つ。

足の甲で地面をしっかり押し付けられていないので、ボールが上吊りやすい。

前に体重が乗らず、打者の手元までグッと来るようなボールがなげられない。

この辺が今後改善されてゆくか、見極めるポイントではないのでしょうか。



(最後に)

 目に見えて何か変わった印象は、この春の投球を見る限りありません。しかし明らかに夏を意識した調整をしており、冬場のトレーニングの成果が確認できるのは、夏の大会ではないのでしょうか。その時に、どんなパフォーマンスを魅せるかにかかっています。

 それでも現状の投球でも、今年の高校生左腕では全国屈指の位置づけ。恐らくドラフトでも2位前後での指名になるものと予想されます。更に夏に上積みが期待できれば、上位12名(1位)の中に入ってきても不思議ではありません。しかし上位指名というには、まだ個人的には物足りない部分が目立ちます。現状は、夏への成長を期待しつつも、評価としては控えめに留めたいと思います。何かもう一つ、欲しいなぁというのが率直な印象です。


蔵の評価:
☆☆☆


(2015年 春季神奈川大会)











小笠原 慎之介(東海大相模2年)投手 178/82 左/左 
 




                     「粘っこさが身上」





 いわゆる、スカウトが好むような柔らかい身のこなしもなければ、驚くような球威・球速を誇るわけでもない。むしろ完成度の高さや総合力で勝負するタイプで、夏までにどのぐらいの伸び代が残されているのかも計りかねる。しかし現時点では、世代でも1,2を争うレベルにある左腕、それがこの 小笠原 慎之介 ではないのだろうか。


(投球内容)

 ワインドアップで振りかぶりながらも、静かに足を引き上げ、深い重心の沈みから投げ込む粘っこいフォーム。

ストレート 常時130キロ台後半~140キロ台中盤

 体に馬力があるので、それほど無理をしなくても140キロ前後のボールをコンスタントに刻んできます。特に力を入れて投げるとボールが高めに抜けてしまうので、現状は8分ぐらいの力で膝元やコーナー中心にボールを集めて来ようという意識が強いようです。それでも狙ってそのゾーンに集められるところが、この選手の素晴らしいところ。

 ボールの質は、ズシリと重いタイプ。高めのストレートにはそれなりの勢いは感じさせるものの、元来は低めやコースを突いて詰まらせて打ち取るのが持ち味ではないのでしょうか。

変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップ

 変化球の多くは、曲りながら沈むスライダーとのコンビネーション。更にそれより緩いカーブのような球に、たまにチェンジアップのような球も投げているようですが、それほど大きなウエートを占めていません。スライダーは、左投手の生命線である、左打者外角低めにコントロールされており、左打者には上手く使えています。問題は、右打者への変化球取得が、一つポイントになるのではないのでしょうか。

その他

 ランナーを背負っても、冷静に走者に目配せ。クィックも1.05~1.10秒とまずまずです。フィールディングの動きもまずまずですが、ベースカバーに遅れないこと、鋭い牽制を身につけられるかが、春までの課題ではないのでしょうか。

(投球のまとめ)

 夏までに上積みが感じられないようだと、系列の大学に進学することになるのではないのでしょうか。相模の不動のエースとして君臨するような成長を見せていると、全国屈指の左腕としてスカウトも上位指名を検討し、高校からのプロ入りも現実味を帯びてきそう。





(投球フォーム)

今後の可能性について、フォームを分析して考えてみましょう。

<広がる可能性> 
☆☆☆

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、カーブで緩急を効かせたり、フォークのような縦に鋭く落ちる変化球を投げるのには適しません。

 しかし「着地」までの粘りを作れているので、カーブやフォーク以外の球種ならば、良い変化球を習得してピッチングの幅を広げてゆくことが期待できます。

<ボールの支配> 
☆☆☆

 グラブは最後まで体の近くにあるので、両サイドへの投げ分けは安定しやすい。しかし足の甲での地面への押し付けが完全に浮いてしまい、力を入れて投げるとボールが上吊ってしまう。これでも低めに集められるのは、力を抜けば「球持ち」の良さで、ボールを低めにコントールできるから。この「球持ち」の良さは、この投手の大いなる武器。

<故障のリスク> 
☆☆☆

 お尻は三塁側に落とせないものの、カーブやフォークなど腕を捻り出して投げるボールを多投しないので、肘への負担は少なそう。

 振り下ろす腕の送り出し、角度にも無理は感じないので、肩への負担も小さいのではないのだろうか。体付きも頑強そうで、その点では使い減りし難いタフな活躍が期待できそう。

<実戦的な術> 
☆☆☆

 「着地」までの粘りが作れており、打者としては合わせ難い。また体の「開き」も抑えられている上、「球持ち」もよく中々ボールが出てこないなど、打者としては苦になるフォームではないのだろうか。

 振り下ろした腕は、適度に体には絡むものの、それほど力強さは感じられない。またボールへの体重の乗せも発展途上であり、もっと前に乗って来るようだと、ストレートも自己主張するような存在感 が出てくるのではないのだろうか。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」「球持ち」の良さが光り、「開き」も抑えられている。しいていえば足の甲の押し付けを行い、下半身のエネルギー伝達がしっかり出来るようになると、本物になるのではないのだろうか。

 力を入れるとボールを上吊る危険性があるものの、それを「「球持ち」の良さで補っている。また故障し難いフォームでもあり、その点は推せる材料。


(最後に)

 まだまだ発展途上だとはいえ、高校生でこれだけ粘っこいフォームを実践していることは高く評価をしたい。しかしその一方である程度完成されており、今後どのぐらいの伸び代が残されているのかには疑問が残る。

 指名の有無は、夏までに更に成長した姿を印象づけられるか、それにかかっているのではないのだろうか。


(2014年夏 甲子園)