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上原 健太(明治大4年)投手 190/85 左/左 (広陵出身) |
「そんなに変わっていなかった」 ラストシーズンの 上原 健太 の投球を観ても、好い意味でも悪い意味でもあまり変わった印象を受けなかった。下級生時代の150キロ級のストレートは影を潜め、どこかこじんまりしてしまった最近の上原がそこにはいた。 (投球内容) 190センチ台の大きな体を、持て余すでも活かしきるでもなく、淡々と投げ込んでくる。この秋チェックしたのは、シーズン緒戦の立教大との2回戦。スピードはよくわからなかったので、あくまでも目測での印象で書きたいと思う。 ストレート 130キロ台後半~140キロ台中盤ぐらいまでか ストライクゾーンの枠の中に、安定して投げ込もうという意識が感じられた。球速は、130キロ台後半~出ても140キロ台中盤ぐらいまでだったように見えた。力まずに落ち着いて投げている時の彼の球は、驚くような球威・伸び・勢いは感じられず、両コーナーに角度のある球を投げ分けて来る。打者の空振りを誘うような威力はなかったが、190センチの長身から投げ込んでくる角度は、打者からとっては芯で捉えきれず、微妙に打ち損じることが少なくない。 恐らくリミッターを外して速い球を投げようとすると、フォームがバラついて制球を制御できなくなるのだろう。それを彼は恐れて、こういったピッチングを意図的に行っていると考えられる。特に大きな怪我をしたという話もなく、知り合いのスカウトの話では、夏のオープン戦では150キロ級のボールも投げていたという。そのため今でも、投げようと思えばそのぐらいの球はいつでも投げられる力はあるようだ。 変化球 スライダー・カーブ・カットボール・チェンジアップ・フォークなど かなり球種は多彩で、どれを投げているかはわかりずらい。投球の中心は、曲がりながら沈むスライダーが中心。この立教大戦では、この球が真ん中低めに集まることが多く、効果的に使えていた。とにかくこの角度なので、変化球が低めに決まると左打者はたまらない。 その他カーブ・チェンジアップ系の球、それにカットボールのような小さな変化球も結構使っているのではないのか? それに時々フォークなのか? 縦に落差のある球を投げることがある。この球の精度はまだ低いが、将来的にもっと投球の中で重要な地位を占めて来るかもしれない。上原が安定した防御率を残せるのは、この変化球が低めに決まりだすと、相手が的を絞れなくなるからだろう。逆に悪い時は、スライダーなどが高めに浮いて打たれうケースが多い。 その他 牽制もそれなりに鋭いし、フィールディングも大型の割には下手ではない。クィックも1.1秒台で投げることができ、特に大きな欠陥は見当たらない。特に走者が出たからといって、投球がバタつくこともなく投げられていた。 (投球のまとめ) リリースが安定している時は、両サイドの投げ分けも安定し、変化球も低めに集まってくる。この選手の成績を見てみても、リリーフでの実績が中心とはいえ、最優秀防御率1回、2位が2回あるなど、実戦力もあるということ。ある意味、器用貧乏みたいところがある選手ではないのだろうか。 冒頭にも述べたように、何か最終学年になって良くなったという感じはしない。これまでどおりの上原で、安定していた最終学年そういった印象を受ける。彼の潜在能力が引き出されるのは、プロの世界へと持ち越しとなった。 (成績から考える) 4年春と秋のシーズンを合算して、改めてこの選手の特徴を考えてみたい。 4年春 8試合 3勝2敗 24回2/3 22安打 13四死球 28三振 防 1.46(2位) 4年秋 7試合 2勝1敗 34回1/3 25安打 13四死球 28三振 防 3.15(7位) 1、被安打はイニングの80%以下 ◯ 六大学・東都の選手なので、ファクターは他のリーグと違い80%に設定した。59イニングで被安打は47本、被安打率は79.7%と、なんとかファクターを満たすことができた。悪い時は、カンカンカ~んと集中打を浴びることがあるが、変化球が低めに集まり、ストレートも両サイドに散っている時は、そうは連打を許さない。この数字は、好不調の波を表しており、平均してこのぐらい打たれる投手ではない。 2、四死球はイニングの1/3以下 ✕ 四死球は26個であり、四死球率は44.1%。基準である33.3%以下に比べると、やや多い。これもリリースが安定しているか、その日のできに左右され、好い時はもっと四死球も少ない。ただし基本的に、本当のコントロールはなく、自分のペースで投げられていない時は、脆い部分がある。 3、奪三振は、1イニングあたり0.8個以上 ◯ 1イニングあたりの奪三振は、0.95個であり、リリーフの基準も満たしている。変化球が低めに決まっている時は、左打者を中心に多くの三振が奪える。またボールに勢いがあった大学下級生時代は、150キロ級のストレートでも空振りを誘えていた。 4、防御率は、1点台以内 ✕ 最終学年での防御率は、2.44 。4年間でも 2.14 であり、基準を満たすまでには至っていない。この防御率はわかりやすく、先発を務めたシーズンはいまいちで、リリーフに徹したシーズンは、防御率の上位の数字を残しているということ。現状は、リリーフでないとプロでは厳しいのかもしれない。 (データからわかること) 彼の成績は、普段の彼の特徴を示している数字ではない。そのため好い時と悪い時での差は激しい。まぁハッキリしたことは、最終学年も、それまでと数字的には大差なかったということ。これは、実際の投球を見た時の印象と変わっていない。 (最後に) 今まで散々書いてきたことだが、2015年度の候補の中で持っている器の大きさ・秘めたるポテンシャルは、この投手がNO.1だという評価に変わりはない。しかしその能力を、結局最終学年も発揮することができないまま終わったということ。 プロを想定するのならば、最初の数年はリリーフで場慣れして自信を付けてゆく方法が一番なのでは。まさに昨年の松井裕樹(楽天)のような方法だ。現在の内容だけでみれば、☆☆~☆☆☆ ぐらいの投球でしかない。しかしこの投手の将来性・潜在能力を考えれば、更にそれに上積みする評価はしたくなる。彼の本当の能力が示されるのは、まさにプロの舞台まで持ち越しとなった。プロではやっぱり凄かったんだという、上原 健太 を、ぜひ観てみたい! 蔵の評価:☆☆☆☆ (2015年 秋季リーグ戦) |
上原 健太(明治大3年)投手 190/86 左/左 (広陵出身) |
「2015年度最大の器」 2015年度のドラフト候補の中でも、最もスケールが大きな選手は誰かと訊かれた、この 上原 健太 だと即答するだろう。 190/86 という恵まれた体格を活かし、150キロ近いボールを連発でき、かつ角度をつけて投げてくるフォームは、今までの日本人左腕にはいなかった投手。 (投球内容) 足をスッと勢いよく引き上げて来る、典型的なリリーフ投手の投げ方です。先発投手にありがちな、ゆったりという「間」は、フォームからは感じられません。 ストレート 常時130キロ台後半~150キロ前後 リリーフだと140キロ台後半~150キロの球を連発しますが、先発だと140キロ~140キロ台中盤ぐらいの球速になります。カウントが悪い時は、130キロ台にまで球速を落とし、コントロール重視にも。最大の特徴は、ボールに非常に角度があり、低めにストレートが集まるということ。得てして体格の大きな投手は、スリークオーター気味に腕を下げてコントロールしようとするのですが、この投手には全くそういうことがありません。まして投げ下ろす球が高めではなく、角度よく低めに決まってくる。こういった投手は、今まで観たことがありません。 また内角を厳しく突くというよりも、外角でピッチングを組み立てます。しかしながら、どうもリリースポイントや力の加減が掴めていないようで、日によっての調子の波が激しい傾向に。また指にかかり過ぎて、ボールがワンバウンドするようなことも少なくありません。高めに抜けることよりも、地面にワンバウンドそういったコントロールミスが多いと言えるでしょう。 変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップなど 主な変化球は、カウントを稼ぐ横滑りするスライダーと、低めにボールゾーンに沈んで行くスライダーがあります。カウントを稼ぐスライダーは、比較的高めに決まるのでヒヤッとする時があります。低めのボールゾーンに沈んでゆくスライダーを上手くコントロールできているときは、この投手のペースになってきます。 その他に大きなカーブ、それに右打者外角にチェンジアップ系の球を使ってきます。その他フォークのような球もありますが、まだまだモノには出来てはいない模様。まさに彼の変化球などは、二階から降り注いで来るような感覚に陥るのではないのでしょうか。 その他 牽制は、平均的。クィックは、1.1秒前後とそれなり。フィールディング等、ピッチング以外の部分は、特別上手くはないものの、基準レベルには収まっている感じはします。 むしろ、投球の間や微妙な出し入れなど、ピッチング技術やセンスという部分に、まだ未熟さを感じます。この投手の実績は、殆どリリーフだったのも、こういった事情があったからでしょう。 (投球のまとめ) 最終学年になり、チームのエースとしての活躍が期待され、先発を任される時が多くなるでしょう。そういった時に、先発で実績を残せるのか?エースという重圧のなか、求められる期待に応えられるのか、そういった疑問は残ります。その期待に応えられるような活躍を魅せた時、まさに 2015年度の目玉 となるのではないのでしょうか。 (投球フォーム) では次は、技術的な観点で、今後の可能性について考えてみましょう。 <広がる可能性> ☆☆ 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻は三塁側(左投手の場合)に落ちません。したがって、体を捻り出すスペースは確保できないので、カーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種には適しません。 「着地」までの足の逃がしにも甘さがあり、まだ充分体を捻り出す時間は確保出来ていません。カーブやフォークなどの球種以外でも、まだ絶対的な武器がないのは、この辺の動作の甘さが原因ではないのでしょうか。将来的にも、この部分を改善して行かないと、伸び悩む危険性は感じます。 <ボールの支配> ☆☆☆ グラブは最後まで体の近くにあり、両サイドにボールが散ります。しかし足の甲での地面への押し付けが完全に浮いてしまい、浮き上がろうとする上体の力を抑えこむことができません。そのため小手先のリリースでボールをコントロールしようとするので、安定した投球が中々出来ないのではないのでしょうか? <故障のリスク> ☆☆ お尻が落とせないフォームですが、体を捻り出して投げる、カーブ・フォーク・シュートなどはあまり投げないので、肘を痛める可能性はそれほどでも。 しかし腕の送り出しを見ると、かなり無理して高い位置から降り下ろしており、肩への負担は大きいでしょう。ただしこの投手は、この角度こそ身上なので、腕の送り出しを変えてしまうと持ち味を失いかねないのが悩ましいところ。 <実戦的な術> ☆☆☆ 「着地」までの粘りはイマイチなので、打者としてはそれほどタイミングは苦にならないのではないのでしょうか。それでも体の「開き」は抑えられており、球筋がいち早く読まれる心配はありません。またボールの角度とボール自体の威力があるので、タイミングは簡単に合わせられないかもしれません。 腕は強く振れており、速球と変化球の見極めは困難。しかしボールにしっかり体重が乗り切る前にリリースを迎えてしまっており、まだまだ打者の手元までの勢い・球威は良くなるはず。 (フォームのまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」や「体重移動」に課題があり、下半身の使い方に問題があることがわかります。 故障のリスクが高いフォームなのは気になる材料で、コントロールを司る動作に関しても、けしてレベルが高いとは言えません。持っているものは素晴らしいけれど、素材型のまま伸び悩む危険性は否定できません。 (最後に) 持っているポテンシャルは素晴らしいし、野球に向かう姿勢も悪くありません。しかしあくまでもまだ素材型の域を脱しておらず、プロで今の力でどの程度通用するのかは疑問が残ります。その辺は、持ちえる能力を遺憾なく発揮している 今永 昇太(駒大)とは、対照的な存在だと言えます。タイプ的には、菊池雄星(西武)に、近い傾向がある投手だと言えます。 この一年で、先発で満足の行く結果を残す、エースとしての重圧を跳ね除けるような成長を魅せられれば良いのですが、それに裏打ちされるだけの技術に欠けるので、期待に応えきれないのではないかという不安の方が大きいです。しかしその期待に応えられた時、間違いなく2015年度のドラフトの目玉は、この男ということになるでしょう。 (2014年 神宮大会) |