14sp-30
山本 雅士(20歳・徳島ID)投手 173/78 右/左 (安芸南出身) |
「秋口から評価急上昇」 ドラフトが近づいてきた秋口ぐらいから、指名に向けて彼の名前を訊く機会が増えてきた。彼が、関東にアイランドリーグ選抜の一員としてやってきた7月初旬には、まだ名前すら良くしらない存在だった。しかしそこで見せた活きの良いピッチングで、育成枠あたりなら指名されるかもしれない、そう思ったのを思い出す。 (投球内容) 上背はないのだが、ガッチリした体格から力強いボールを投げ込んでくる。 ストレート 常時140キロ前後~MAX90マイル(144キロ) 馬力で押して来るタイプで、ストレートの力強さには目を見張るものがある。NPBのスカウトの目に留まったのは、やはりボールそのものの力がプロを意識できるレベルにあったからだろう。荒れ荒れという投球ではないが、細かいコントロールはあまりない。あくまでもストライクゾーンの枠の中に、力のあるボールをぶつけてくる。特に勝負どころで、甘く入ってくるところが気になるところ。 変化球 スライダー・スプリット 打者の手元で小さく曲がるスライダーと、高速で沈むスピリットのような球を投げてきます。緩急をつけたり、空振りを誘うというよりは、微妙に芯をズラすようなピッチングが持ち味。あくまでも三振を奪うのは、ストレートではないのだろうか。 その他 クィックは、1.05秒前後と素早く、特に問題はありません。ランナーを背負ってからも、長くボールを持って走者や打者を焦らすように、ピンチでも意外に冷静には対処出来ていた。そういった視野の広さ、センスは持っているのかもしれません。 (投球のまとめ) 高卒2年目の若さという魅力はあるものの、即戦力としては計算が出来ません。あくまでも、プロの育成で1,2年経過した時に、どのぐらいの投手に育っているのか、そういったタイプだと言えるでしょう。 (データから考える) では実際見た投球だけではよくわからない部分もあったので、データから考えてみましょう。 31試合 4勝5敗6S 防御率 2.54(リーグ5位) という成績でした。 1,被安打はイニングの80%以下 ✕ 即戦力を意識するのであれば、アイランドリーグレベルの打者相手ならば、70%以下の被安打率を求めたいところ。プロ入りの基準として考えた場合、80%以下で設定してみた。しかし被安打は、89.7% と高く、一辺倒な投球に課題があることがわかる。やはり緩急に欠ける部分があるのと、アバウトなコントロールが、被安打の多さにつながっているのだろう。それでも7月に遠征してきた時は、被安打がイニング数を上まっていたので、後半戦はかなり減らせていたことがわかる。 2、四死球はイニングの1/3以下 △ 四死球率は、38.0% で、基準である33.3%以下とは行かなかった。この辺も投球編で書いたように、四死球を連発するわけではないが、アバウトなところがあるといったところを裏付ける数字となっている。7月に来た時は、41.2%だったことを考えると、後半戦は若干良くなっていたことがわかる。 3,奪三振は1イニングあたり、0.9個以上 △ リリーフでの登板が多かった山本の場合、リリーフ投手の基準である0.9個以上をファクターとした。実際のところ、0.87個であったので、この基準は若干満たすことは出来なかった。しかし先発の基準である0.8個は上回っており、決め手があるというよりは、ボールの威力が勝っていたのだろう。 4、防御率は、1点台以内 ✕ 防御率は 2.54 であり、基準である1点台には遠く及ばない。しかし関東に来た時は、まだ 3.28 だったわけで、大幅に後半戦で防御率を下げていることがわかる。 (データからわかること) 各ファクターから考えると、過去アイランドリーグからNPBに進んだ選手たちとくらべても、特別なことはないことがわかる。特に基準を満たしていないファクターも多く、殆ど育成枠レベルだったということ。実際に中日でも8位指名だったことを考えると、評価的には殆ど育成枠に近かったことがわかる。それでも秋口に評価が上がってきたのは、春先よりも内容をかなり良化させたからに他ならない。 (投球フォームから考える) <広がる可能性> ☆☆☆ 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻は一塁側に落とせません。そのため体を捻り出すスペースは確保されず、カーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種に適しません。 しかし「着地」までの粘りは悪くないので、体を捻り出す時間は確保。そういった意味では、カーブやフォークといった球種以外ならば、もっといろいろな球種をモノに出来ても不思議ではありません。 <ボールの支配> ☆☆☆☆ グラブも最後まで体の近くにあるので、両サイドの投げ分けも安定。足の甲でも深く地面を捉えているので、ボールも低めに集まりやすい。しかし実際は、「球持ち」も悪くない割に、コントロールはアバウト。この辺が、もう少しフォームが固まって来ると、球筋が安定して来る可能性はあります。 <故障のリスク> ☆☆☆ お尻は一塁側に落とせませんが、カーブやフォークなど肘に負担の大きな球種は投げません。そういった意味では、それほど悲観しなくても良いでしょう。振り下ろすの腕の角度に無理はなく、肩への負担も少なそう。 <実戦的な術> ☆☆☆☆ 「着地」までの粘りはあるので、打者としては合わせやすいわけではないはず。体の開きも抑えられており、コースを突いていれば打ち返される心配は少ない。 腕も強く振れているので、速球と変化球の見極めも困難。ボールに体重が乗せられており、打者の手元まで生きた球が投げられます。 (フォームのまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点では、いずれも高いレベルでまとまっており、問題がありません。故障のリスクもそれほど高くはありませんし、フォームを司る動作も素晴らしい。フォームの観点でいえば、極めて将来明るいということが伺えます。 (最後に) 実際の投球や残した実績からすると、まだまだ即戦力を期待するのには時期尚早という厳しい評価に。しかしフォーム分析をしてみて、極めて実戦的かつ将来性を秘めたフォームだということがわかりました。 高卒2年目のまだまだ伸び盛りの年齢も考えると、育てがいのある素材だというこのがわかってきます。少し時間はかかると思いますが、この選手が今後どのように伸びて来るのか気になります。しかし現時点でプロに入るほどの力があるのか?と言われればNO.であり、指名リストには名前を載せるまでには至りませんでした。それでも今後の可能性は秘めているので、プロの指導や環境でどのぐらいの期間でモノになるのか、ぜひ観てみたいと思わせるものがあります。育成枠の選手だというぐらいの気持ちで、少し長い目で観て欲しいと思いました。 (2014年 アイランドリーグ選抜関東遠征) |