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菊地 翔太(23歳・JR九州)投手の個別寸評へ










菊地 翔太(21歳・JR九州)投手 185/82 右/右 (一関学院出身) 
 




                 「ミット音が違う!」





スポニチ大会で、ぜひその成長を確認したいと思っていたのが、この 菊地 翔太 。その機会は、諦めかけていた最終回に突然訪れた。投球練習の時に、球場に響き渡る「バシーン」という乾いたミット音が、明らかに他の投手のそれとは違っていた。ルーキーイヤーに、いきなり都市対抗で149キロを誇った男の片鱗は、このミット音だけでも充分だった。

(投球内容)

 この日の菊地は、すべてストレートだけしか投げ込まなかった。その球速は、常時140キロを越え、MAX90マイル(144キロ)。ボールの球威・球速には確かに非凡があったのだが、フォーム自体合わされやすいのか、ストレートしか来ないのも相まって、打者から思いの外気持ち良く振り切れてしまっている。いくら球威・球速があっても、これでは打者を抑え込むことができない。またそのストレートの球質も、打者を詰まらせることは出来ても、打者の空振りを誘うといった手元での伸びやキレに欠けていた。また気持ちを込めて、前には飛ばさせないという程の圧倒的なものはなく、僅か1イニングの投球でも2本のクリーンヒットを打たれた。

 元々、スライダーやフォークといった変化球は持っているが、その精度が低かった投手。そのため余裕がない時は、ストレートに頼らざるえないという、素材型の域を脱していなかった。この日の投球も、そんなルーキーイヤーからの成長を、残念ながら感じることは出来なかった。ただ唯一の成長した部分をあげるとすれば、1.1秒台だったクィックが、0.9秒台にまで縮まる超高速クィックになっていたことぐらいだろうか。あえて一辺倒にならないためにも、じっくり間合いを意識しても良いのではないのだろうか。






(投球フォーム)

 ただ実際の投球には、成長の跡は感じられませんでした。しかし欠点だらけだった高校時代のフォームに比べると、相当技術的には成長していることがわかります。

<広がる可能性>

 引き上げた足を、比較的高い位置で伸ばします。そのためお尻の一塁側への落としは少し甘いものの、一塁側への落としも出来ています。これにより腕の振りの緩まないカーブや縦に鋭く落ちるフォークなどの修得も期待できます。ただお尻の落としが甘い分、まだフォークの精度・落差には課題を残しているように思います。それでも動画の投球練習では、良いカーブが投げられているのがわかります。

 また「着地」までの粘りも以前よりも良くなり、以前よりも下半身が使え、身体を捻り出す時間も確保できつつあります。そのため今は、良い変化球投げられる下地は出来ているのではないのでしょうか。

<ボールの支配>

 グラブは最後まで内に抱えられ、足の甲でも地面を押しつけられています。これならば、かなり安定した制球が期待できそうなのですが、「球持ち」が浅く、指先の感覚が悪いには相変わらずな気が致します。この辺が、制球がまとまらない大きな要因ではないのでしょうか。

<故障のリスク>

 お尻は落とせるので、身体の捻り出しに無理がありません。そのため、身体への負担は少ないはず。また腕の角度にも無理はないので、肩への負担も少なそうです。故障のリスクが少なくタフな活躍が期待できますし、積極的に投げ込み新たな球種やフォーム作りにも励めそう。

<実戦的な術>

 「着地」までの粘りは平均的ですが、身体の「開き」は遅くまでボールが隠れており悪くありません。また腕の振りはよく、投げ終わったあとにシッカリ絡んできます。これにより、球種による腕の振りの見分けも難しいことが期待できます。体重移動も出来ており、ボールにしっかり体重を乗せられます。速球派投手としての非凡な資質は、この体重移動の良さに現れています。

(投球フォームのまとめ)

 「球持ち」の浅さには課題を残しますが、以前ほど「開き」の早さがなくなり、成長の跡が感じられます。「着地」までの粘りも悪くなく、「体重移動」を含むフィニッシュの形は素晴らしいです。フォーム的な成長は、社会人入り後めざましいものがあります。

(今後は)

 実際の投球を観る限り、まだまだ素材型で大事なところを任せるのは厳しいかなといった印象を持ちました。しかし投球練習を観る限り、変化球の改善も期待できますし、投球フォームの欠点も大幅に改善されつつあります。

 あとは、投球における「間」や配球に工夫をすれば、淡泊な投球の改善も期待できるのではないのでしょうか。都市対抗に向けて、どのぐらい重要な役割を担って行けるのかで、指名の有無が決まって来ると思います。このまま素材型で終わるのならば、都市対抗予選での登板もままならないでしょう。ぜひ指名解禁の今年は、数字や内容にこだわって欲しいですね。現時点で指名の有無を決めるつもりはありませんが、この日の投球を見る限りは指名はかなり厳しいかなといった印象は否めません。夏までに、何処まで実戦的な投球を魅せてくれるのか、楽しみにその時を待ちたいと思います。

(2012年・スポニチ大会)






菊地 翔太(19歳・JR九州)投手 186/90 右/右 (一関学院出身)


(どんな選手?)

 甲子園を湧かせ速球派投手で、高卒ルーキーながら都市対抗の舞台を踏みました。体も立派になり東京ドームでも、MAX149キロを記録するまでに成長。


(投球内容)

 テイクバックは小さめでも、恵まれた体格を生かし、コンスタントに145キロ前後(MAX149キロ)のストレートを披露。ボールには、非常に勢いと力強さを感じます。変化球は、スライダーとフォークと言う、球速のある変化球が中心。

 どうしても投球が速い球中心で、緩急に欠ける一辺倒なところと、ストライクゾーンに投げ込むだけといった感じの投球です。クィックは、1.1秒台と高速ですが、まだまだ素材型の域は脱しません。ただ球の勢いは本物で、一冬超えて更にどのような進化を遂げているのか楽しみです。

(投球フォーム)

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込みます。お尻を一塁側に落とせるフォームなので、見分けの難しいカーブや縦の変化にも期待できる土台があります。ただし「着地」までの充分な間が確保できていないので、身体を捻り出すのに必要な時間が足りません。緩い球や見分けの難しい落差のあるフォームを修得するのには、着地までの粘りを作る下半身と股関節の鍛錬が欠かせません。

 グラブもある程度体の近くに抱えられておりますしので、両サイドの制球も安定しやすいはず。速球派らしく、足の甲の押し付けの深さ・粘りも素晴らしいです。あとは、指先の感覚を意識して、もっと「球持ち」を磨くと制球も好い投手になれそうです。

 投球の4大動作においては「着地」までの粘り、体の「開き」などに課題を抱えます。「球持ち」自体は悪いとは思いませんし、「体重移動」は理想的です。速い球を投げるメカニズムには非常に優れておりますが、相手に嫌がられる技術を身につけられるのかが課題。もっと投げ終わったあとに、体に腕が絡むような強い腕の振りも求められます。

(今後は)

 土台となるフォームは素晴らしく、速球派でありながら、好い変化球を修得できる可能性と制球力を兼ね備えた素材になれる可能性を感じます。ただ現状は、まだまだといった部分もあります。

 ただ実戦力に欠ける投球フォームのため、その球の勢いの割に、効果は薄いかもしれません。ただ更にこの冬の間に、球威・球速UPをしていたら、多少フォームに欠点があっても、力で押せる投球ができるかもしれません。

 順調に伸びていればスポニチ大会でも、クローザーなど大事場面での投球が任されるかもしれません。まだ高卒2年目の投手ですが、来年のドラフト候補として大いに期待したい選手です。


(2010年 都市対抗)








菊地 翔太(岩手・一関学院)投手 185/80 右/右





               「その成長が、すげぇ楽しみ!」





 昨春、センバツの舞台で登板した 菊地 翔太の投球を見て、私はびっくりした。とても新2年生の投手が繰り出すような、球の勢い・伸びの速球ではなかったからだ。すでに昨春の時点で、この選手は、ドラフト候補に入るのが決定的だったのである。

 しかし秋の大会、彼の登板は極めて少なかった。それでもチームは、東北大会のベスト4まで勝ち進む。センバツ出場は、極めて微妙ではあるが、一冬超えて立て直してくれる彼の姿を、期待せずにはいられない。残念ながら、夏の岩手大会での勇姿は確認出来なかったので、今回は、改めてセンバツの映像を見ながら、彼の可能性を模索してみたい。




(投球スタイル)

 ややテイクバックの小ささが、この投手のスケールを殺している印象はある。しかしそこから繰り出される速球は、一級品。彼の登板した日の甲子園のスピードガンは壊れていたが、その球の勢いからしても、常時135~140キロは充分出ていただろうと考える。

 何より、ビシッとミットに突き刺さるストレートの勢い・伸びが素晴らしい。変化球は、縦・横2種類のスライダーがある。ただ現状は、横のスライダーで、それほどカウントを稼いだり投球の幅を広げることは少なく、また縦のスライダーも、打者の空振りを誘う程ではない。そのため圧倒的に、速球のウエートが大きなピッチングスタイルとなっている。

 牽制も鋭く・フィールディングも素早い。クィックも1.0秒を切るような高速で、非常に運動神経に優れた野手のような選手だ。またマウンドでも中々冷静であるように感じられる。ただ投球自体に、もう少しセンスなり、工夫が見られると良いのだが。

<右打者に対して> 
☆☆

 投球のすべてが、アウトコースで構成されている。また、たまに縦・横のスライダーを織り交ぜているが、殆どは速球のみの投球になっている。またその速球も高めに抜け気味で、コントロールもイマイチだった。

 内角・緩急・決め球と、攻めのバリエーション・制球力が不足している。これでは、非凡な速球をもってしても、全国レベルの打者を抑え込むのは厳しいだろう。

<左打者に対して> 
☆☆

 左打者に対しては内角にも球は行くが、ただストライクゾーンの枠の中に投げ込んでいるだけと云う印象が強い。たまにカーブ・スライダー・縦スラなどを投げ込んで来るが、投球の多くは速球で構成されている。

 緩急・決め球・制球力と云う課題を左打者にも抱えており、まだまだ速球の勢いのみで押すだけのピッチングになっている。

(データから考える)

 昨年の新チーム結成以来の成績が、選抜の時に残っているので記してみたい。

42回2/3 32被安打 27奪三振 21四死球 防御率1.28

 この中で気になる数字は、これだけ非凡な速球を持ってしても、奪三振率は0.63と少なめ。また四死球21個も、イニングに対して1/2個の割合になり、やはり制球に課題があることが伺われる。

 データの上からも、制球力・決めて不足が証明されたことになる。この問題を解決するためには、やはりフォームを分析して、将来的に決め手となる変化球を習得出来るか考えてみたい。



(投球フォーム)

 いつものように「野球兼」の
2008年12月13日更新分に、彼の投球フォーム連続写真が掲載されているので、そちらを参照して頂きたい。

<踏みだし> 
☆☆☆☆

 写真1を見ると、両足の広げは肩幅程度、足も特に引いていなく制球重視なのかスピード重視なのかは、分かり難い立ち方になっている。

 ただ写真2までの足を引き上げる勢い・高さはまずまずで、フォーム序盤から高いエネルギー捻出をする、どちらかと云うとリリーフタイプの踏みだしとなっている。

<軸足への乗せとバランス> 
☆☆☆

 写真2の軸足の膝から上に注目して欲しい。膝から上がピンと真っ直ぐ伸びておらず、膝に余裕があるのがわかる。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。その点では、この選手の立ち方は悪くない。ただ全体的には、少々背中も丸まり気味で、特別良い立ち方には見えてこない。

<お尻の落としと着地> 
☆☆

 写真3では、やや地面に向かって足が伸びているものの、お尻の落とし自体は悪くない。ただ引き上げた足をもう少し二塁側(見ている我々の方向)に送り込まないとバランスが上手く取れないので、着地が早くなってしまう。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながる。

 問題なのは、やはり写真4の着地までの粘りの無さにある。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

着地は、投球フォーム全体の核となる部分で、ここに粘りのない投手は大成出来ない。通常フォームと言うのは、上半身の回転と下半身の回転が一致し、最大限のエネルギーが発揮出来る箇所がある(ボクシングのストーレートを打つとイメージしやすい)。野球の場合、その回転の一致を見つけることが、最も理想的なフォームであるように思える。

 ステップが広すぎず、狭すぎず。すなわち重心が立ち投げにならない程度で、それでいて深く沈みすぎない箇所と言うのが必ず存在する。そのため日本古来の指導だと、膝小僧に土が着く程の重心の沈み込みが良いとされたが、それに関しては私は沈み込み過ぎだと考える。どうしてもステップが広過ぎると、踏み込んだ足と軸足の間にお尻が沈んでしまい、前に体重が乗って行かないからだ。その辺は、フィニッシュの動作を見ていると、何処が適正だか見えて来る。ただ間違っても重心の沈み込み過ぎを回避するために、お尻を一塁側に落とさないで良いと言う、浅はかな指導だけは避けてもらいたい。お尻の一塁側への落としとは、その深さではなく、むしろ横のポジションニングを指しているからだ。





<グラブの抱えと軸足の粘り> 
☆☆☆

 写真6を見ると、グラブが身体から離れてしまっていることがわかる。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。

 今度は、写真5の右足スパイクに注目して欲しい。この点に関しては、足の甲で比較的深く地面を押しつけることが出来ている。あとは、もう少し長い時間押しつけられる粘りが欲しい!足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。

<球の行方> 


 写真3を見ると、前の肩と後ろの肩を結ぶラインが、打者に真っ直ぐ伸びてしまっている。これでは、ボールを隠すことが出来ない。一番手っ取り早く角度を付けたい場合は、リードするグラブを斜め前に差し出すようにすると、自然と前の肩と後ろの肩を結ぶラインに角度が出来、ボールの出所を隠すことが出来る。

 また写真4の着地の時点で、ボールを持った腕が、打者から見え始めている。すなわち身体の開きが早く、球の出所が早くなってしまうのだ。これでは、幾ら速い球を投げても、その効果は薄い。これは、着地までの時間を稼ぎ、身体を遅らせる意識と努力が必要になる。

 写真5のリリースに注目してみると、腕を無理に高い位置から振り下ろそうとし過ぎで、返って不自然な形になっている。これだと身体への負担も大きくなるし、身体の開きも助長する。

 この写真では、球持ちが良さそうに見えるが、実際はそれほどボールを長く持っている印象はない。ボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい

などがあげられる。この投手が、非凡な速球を投げ込む割に三振が少ないのは、実戦力を司る技術に欠けているからに他ならない。別な言い方をすれば、ここを改善して行かないと、これ以上先のレベルでは厳しいだろう。

<フィニッシュ> 
☆☆☆

 写真6を見ると、振り下ろした腕は、身体に絡んでいる。彼の非凡なところは、異常なぐらいの高速で腕振り下ろす回転力にある。ただ残念なのは、着地までの粘りがないので、前への体重移動が不十分な部分がある。ただ前へ体重が乗っていかないので、大きくバランスを崩す程ではない。

(投球フォームのまとめ)

 フォーム全体で見ると、非凡な身体と腕の振りと云う際だつ資質はあるのだが、実戦力に欠ける部分があり、実に課題の多いフォームなのだ。これを投球の4大動作である、着地・球持ち・開き・体重移動の観点から見ても、球持ちはともかく、それ以外の部分のレベルは相当低い。これらを改善して行かないと、このまま、ただの球の速い奴で終わることになるだろう。


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(最後に)

 速球以外の変化球レベルの低さ・制球力の甘さ・実戦的な術に欠けたフォームなど、課題は山積みである。素材としては、素晴らしいものを持っているA級の選手。しかし秋の大会でも登板数が少ないなど、すでに来年に向け暗雲が立ちこめている。

 これだけの課題を、僅か1年ばかりで改善するのは至難な技であり、このままドラフト候補のままで終わる可能性も高い。しかしその逆に、僅か春までの短い期間の間に、数多くの課題を改善出来たとしたら、その素材だけでなく、対応力と云う部分でもA級の素材として、上位候補に躍り出ることは間違いない。

 一冬超えてどんな進化を魅せてくれるのか、全国でも指折りの素材だけに今後も目が離せそうもない!新たなサプライズを期待している。


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2008年・春)