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大塚 椋司(24歳・JX-ENEOS)投手の最新寸評へ






大塚 椋司(23歳・JX-ENEOS)投手 178/78 右/右 (聖望学園出身) 

(どんな選手?)

 昨年の選抜準優勝投手です。しかし夏は、完全にフォームを崩し、埼玉大会の一回戦で敗れました。しかし3月のスポニチ大会では、いきなりMAX149キロの速球で、我々の度肝を抜きました。今や新日本石油の守護神的な役割を担い、社会人を代表するクローザーの1人です。

(投球内容)

 上背はないのですが、ガッチリした体格から繰り出す、ウエートの乗ったストレートは特筆ものです。球速も常時144~MAX149キロを球速表示の厳しい東京ドームで記録し、実に馬力のある投球をする選手です。

 さすがに全国大会で実績のある投手だけに、実に堂々としておりますし、けして無理をしなくても速い球を投げ込めるあたりはさすがです。変化球は、スライダーと縦スラ?でしょうか。多少制球がアバウトで、特にカウントを取るスライダーが高めに浮くところが怖いです。

 クィックも1.0秒台前後で投げ込める超高速クィックの持ち主であり、牽制なども鋭く、力と技を持った選手です。多少アバウトではありますが、物凄く荒削りといった程ではありません。

(今後は)

 春のスポニチ大会では、短いイニングで圧倒していたので、正直よくわからない部分ありました。今回は、もう少し落ち着いて見ることがデキ、課題もわかりましたし、また縦の変化も悪くないこともわかりました。

 今は、ルーキーと言うこともあり、伸び伸び投げ込んで行ける若さ故の特権があります。しかしこれから、チームの重要なところを任されるプレッシャーや相手のマークも増して来るでしょう。そんな時に、どんな力を発揮出来るのか、2年後まで注目したいと思います。

 すでに社会人でも屈指の剛球投手です。更に己を高めて行けるのか、大いに期待して見守って行きたい投手でした。

(2009年・都市対抗)



 






大塚 椋司(埼玉・聖望学園)投手 178/78 右/右 
 




                     「馬力全快!」





 センバツ大会の前から、関東を代表する右腕として注目を浴びていた 大塚 椋司 。その馬力溢れる投球で、多くのファンを魅了した。プロのスカウト達からも、熱い視線を集めるパワー溢れる投球を、今回は分析してみる。

(投球スタイル)

 お世辞にも、スラッと投手体型ではない。手足が短く、野手が力一杯投げているのに似ている。実際、その投球を細かく観てみると、制球にムラがあったり、精神的にも結構起伏が激しい印象を受ける。それでも、ここ一番の勝負度胸でピンチを乗り切ることが出来る。それが、この大塚の最大の魅力ではないのだろうか。

ストレート 130キロ台後半~MAX143キロ

 非常に球威があり、ボリューム感のある球が捕手のミットに突き刺さる。それでいて、棒球のような印象は受けない。球威・質を兼ね備えた、プロ仕様の球を投げ込んでいる。勝負どころで、コース一杯にズバッと見逃しの三振を誘う大胆さもいい。

カットボール 130キロ前半

 投球の多くは、この球と速球とのコンビネーションで構成されている。大きく曲がるわけではないが、速球との見分けが困難で、アウトコースのボールゾーンに逃げて行く、この球を打者は思わず振ってしまう。空振りの多くは、この球で奪うことが多い。

縦のスライダー 125~130キロぐらい

 結構縦の落差もある投手だ。高速で沈むので、一見フォークなのかと思うのだが、彼の三種類あるスライダーの一つ。この球でも、狙って空振りが取れるのが、この投手の良さである。

スライダー 115~120キロぐらい

 カットボールを多様するので、それほど多く織り交ぜてこない。むしろどろんとしたカーブあたりを修得した方が、投球においては効果的ではないかと思えて来る。ただ球速差は、カットよりも15キロ前後あり、投球の幅を広げる役割を果たしている。

 フィールディングや牽制も、平均レベル以上のものがありそうだ。またクィックに関しても、1.0秒前後と極めて高速である。ただの剛球投手と思いきや、こういった投球以外の技術や、勝負どころで強く、試合をまとめるセンスもある程度兼ね備えているところに、この選手の魅力がある。

<右打者に対して> ☆☆☆

 投球に関しては、内外角に完全に投げ別けることが出来ている。特に内角を厳しく突く制球力・度胸もあるし、アウトコースへの制球力にも狂いがない。そのため真ん中近辺に甘く入って来る球は殆どないのだ。

 ただそれほど甘くない、アウトコース高めの球を苦もなく打ち返されることが多い。打者が思いきって自分のスイングが出来てしまうように、彼の身体の開きは早く、タイミングも取りやすいのだろう。

 ヒットの多くが、右打者から打たれるケースが多い。内外角きっちり投げ別けられて、追い込めば縦の変化が打たれる割に、相手打者に自分のバッティングをさせてしまうのは、今後の大いなる課題だと云えよう。

<左打者に対して> ☆☆☆

 左打者に対しても、アウトコース高めを中心に球を集めて来る。インコースに速球やカットボールを魅せて踏みこみを封じつつ、追い込むと縦のスライダーを使って空振りを誘う。やや左打者の方が、左右の投げ別けの際に、コントロールはアバウトになる。それでも私のチェックしたイニングでは、一度も左打者からヒットを打たれたことはなかった。

 左打者にとって、右投手の投球は身体の陰になり中々開いて見えてこない。その辺も、右打者と左打者との結果の差なのかもしれない。特に左打者には、アウトステップ打者が多く、彼ほどの球威・球速の球をアウトコースに決められると容易に打てないかもしれない。

(投球のまとめ)

 球威と質を兼ね備えた速球を、勝負どころでズバッと決められる典型的な好い投手の投球が出来るのが魅力。またこの手の剛球タイプの投手にしては、内外角の投げ別け・縦の変化も使え、かつ試合をまとめるセンスも兼ね備える。一見荒削りそうでラフに見えるフォームだが、その投球内容は、かなり実戦的なものを持っている。力+技を兼ね備えた、貴重な存在だと云えよう。





(投球フォーム)

 いつものように「野球兼」の
2008年4月7日更新分に、彼の投球フォーム連続写真が掲載されているので、そちらを参照して頂きたい。


<踏みだし> ☆☆☆

 写真1を観ると、足を殆ど引いていないが、足の横幅を大きく取りバランスを重視した立ち方になっている。すなわち球の勢いよりも、制球を重視している印象が強い。ランナーがいないと、ノーワインドアップからゆっくりと写真2の位置まで足を引き上げて来る。一見ポンポンと投げ込んで来ているイメージがあるが、実はかなり自分の間を大切にして投げている投手なのだ。

 足を引き上げる勢いは極めてないが、足を引き上げる高さはそれなりで、ジワ~とエネルギーが捻出出来ている。

<軸足への乗せとバランス> ☆☆☆☆

 写真2を観ると、膝から上がピンと真上に伸びきってはいないが、それでいて膝に余裕があると云う程ではない。それでもフォームに力みは感じられないし、少し突っ立ち気味ではあるが、全体のバランス・体重の乗せ具合は好い方なのではないのだろうか。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。その点彼は、まずまずだと云えそうだ。

<お尻の落としと着地> ☆☆☆

 写真3では、引き上げた足を比較的高い位置で、三塁方向にピンと伸ばせている。そのためお尻の一塁側への落としは悪くない。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながるからだ。

 ただむしろ大切なのは、写真4の着地までの粘りである。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

 彼の場合、引き上げた足を観ている我々の方に殆ど送り込んでいないので、軸足一本で立ったときのバランスが悪くなり、いち早く地面に足を降ろしてしまうことになる。もう少しこの時にバランス好く立てれば、着地をもっと遅く、粘りのあるものに出来るであろう。これでは、せっかくお尻を一塁側に落とした意味も半減してしまう。

<グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆

 写真6を観ると、グラブがあまり最後までしっかり内に抱えられていないことがわかる。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。もう少しこの辺の動作が安定してくると、制球力もワンランク安定してくるかもしれない。

 また写真5の右足スパイクに注目して頂けるとわかると思うが、足の甲でしっかり地面を押しつけられているように見える。しかしこの時間が極めて短く粘りに欠けるのだ。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。もう少し、この姿勢を長く粘りのあるものにしたい。

<球の行方> ☆☆☆

 写真3の時点では、グラブをある程度斜め前に突きだし、ボールを隠せている。ただ全体に速く打者に向かって正対してしまい、前の肩と後ろの肩が真っ直ぐ打者に向かうのが早い。こうなると、打者からは球の出所が観やすくなる。写真4の着地の段階では、すでにボールを持った腕は、打者から見え始めている。すなわち、開きの早いフォームになっているのだ。

 写真5の腕の角度に関しては、それほど無理はないように見える。ただテイクバックした際に肘が、前の肩と後ろの肩を結ぶラインより下がってしまっていて、少々球を押しだし球を置きに来るようなフォームになっているのが気になる。身体への負担や球質の観点からも、肘をもう少し引き上げる意識を持ちたいものだ。

 またこの写真を見る限り、球持ち自体は悪くなさそうだ。これに着地までの粘りが加われば、もっとその効果が期待出来よう。ボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい

などがあげられる。グラブの抱えが甘い割に制球が安定している選手の多くは、球持ちがよく前でボールが離せている。また重い球を投げる割には、棒球になっていないのも、このせいかもいだと云えそうだ。

<フィニッシュ> ☆☆

 写真6を観ると、意外に振り下ろした腕が身体に絡んでこない。元々手足が短い野手体型をしているからではないのだろうか。また体重移動が不充分で、まだまだ前に体重が乗っていっているとは言い難い。この辺は、ステップの位置などにも影響していると思われるが、なにより股関節が堅いのが影響しているのかもしれない。体重移動が不充分なため、投げ終わったあと一塁側に重心が流れることが多い。フィニッシュの形を観ていると、まだまだフォームが未完成なのがわかる。

(フォームのまとめ)

 投球動作の三大要素は、「開き」・「着地」・「球持ち」の三つに集約される。この三つが出来ることが、実戦的なフォームと云うことになる。彼の場合、このうち「開き」と「着地」までに大きな課題を抱えている。この部分を改善して行かないと、上のレベルでは通用して行かないだろう。結局アウトコースに素晴らしい球を投げ込んでも、打者が意図も簡単に振り切って打たれてしまうのは、この部分の未熟さ故である。レベルが高い野球では、よりその傾向は顕著になるはずだ。将来的に150キロ台を連発出来たとしても、この部分が未熟なままならば、プロでは活躍出来ない。





(最後に)

 現状実績なフォーム技術に欠ける部分が気になる。その割に投球レベルが高いのは、この投手の投手としてのポテンシャルの高さだと云えそうだ。彼をスカウティング6原則に当てはめて考えて観ると「強さ」の部分が優れている。それは、身体の強さ・精神的な強さといった観点である。

 一方不足している要素としては、相手に嫌がられるフォームなど打者を意識した「イヤらしさ」の部分。あるいは身体の硬さから来ると、身のこなしの柔軟性などの「柔らかさ」の部分ではないのだろうか。この部分を意識し、最低限の破綻のないレベルまで引き上げて行きたい。

 現時点では、ドラフトボーダーライン上の投手だと私はみている。指名の有無は、夏までに、もうワンランク上の投球と技術的な改善の見込みが観られるかだと考える。夏までの時間は短いが、その成長の一端を垣間見てみたい。


この記事が参考になったという方は、ぜひ!



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(2008年・センバツ)