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百瀬 大騎(DeNA)内野手のルーキー回顧へ








百瀬 大騎(松本第一3年)遊撃 176/70 右/左 
 




                    「とっさの判断力に優れる」





 富山で開催された、春季北信越大会。空港から着いた私は、この日お目当ての試合が桃山球場の第二試合からということで、その前にアルペンスタジアムで試合を観戦。第一試合途中で球場を出て、魚津にある桃山球場に向かう。魚津の駅から桃山球場までは、路線バスがない。そこで駅前でレンタサイクルを借り、ひたすら桃山球場への4キロ以上の道のりを目指す。電動アシストとはいえ、普段自転車を漕がない人間からすると、ひたすら昇り坂をを漕ぎ続けるのは堪える。ようや、く30~40分かけて桃山球場に到着。着いた時は、この日の第一試合・富山第一VS松本第一の試合がやっていた。確かこの試合で、ドラフトでソフトバンクから育成枠で指名されることになる 幸山 一大(富山第一)外野手や DeNAに6位指名されることになる この 百瀬 大騎 が出場し注目選手であることは事前にわかっていたが、まさかプロにかかるような選手だとは思っていなかったので、観戦を注視していなかった。

 試合中盤に会場入りしたものの、自転車で一気に坂を駆け上がってきたので、汗は止まらないし、スタンドについても気分が悪い。壮絶な打撃戦を展開していたのは覚えているが、私はこの第一試合をスタンドで見るのをやめ、球場横の丘の上から眺めていた。当然、細かい試合内容など気にもせずに。そんな状況だから、幸山の強打も、この百瀬のプレーも全く覚えていない。幸山にスカウトが集結していると訊いたのは随分あとだし、百瀬は今回指名されるまで、そこまでのプレーヤーだったのかと改めて驚いたぐらいだった。そのぐらいこの百瀬は、高校野球では好選手として知られていても、ドラフト戦線では話題になる選手ではなかったのである。


(守備・走塁面)

 前置きは少し長くなってしまったが、この夏の長野大会の模様と春季大会の動画とをドラフト後見直して、この選手について考えてみた。この選手で一番話題になるのは、真っ先に走力だといえる。しかし何度かの計測機会があったのだが、一塁までの塁間は、4.0~4.15秒ぐらいと、プロに混ぜると中の上レベルでしかない。このタイムだけ見ていると、プロで足を売りにできる程なのか?と言う疑問は残る。しかし相手のミスに漬け込み次の塁を陥れる判断力、打球が抜けてゆけば素晴らしい加速を魅せ、もうこんなところまで到達しているのかという驚きの脚力は、確かに高校球界トップクラスと言われる走力の片鱗を魅せてくれた。彼の走塁の良さは、一塁ベースを過ぎたところから始まると言っても過言でないだろう。プロでも、確かに足を売りにして行ける可能性は感じられる。

 こちらはあまり話題にならないが、高校生の遊撃手としてはかなり肩が強い。特に一塁まで一直線にブレない球筋の強さは、中々高校生では見られない。深いところからでも踏ん張れるし、守備範囲自体はかなり広いと言える。まだ多少バウンドの合わせ方など、キャッチングの方に課題があるようだが、プロで鍛えればその辺も充分改善可能な範囲。

 素晴らしいのは、難しい体勢からの送球で、無理に一塁まで投げても間に合わないと判断して、とっさに別の塁の走者の動きを観て送球できる判断力の良さ。これは、先走る高校生が多い中、中々できるプレーではない。走塁にしろ、守備にしろ、この瞬時の判断力の素晴らしさは、高校生離れしている。それに加え確かな走力と地肩の持ち主であり、プロで鍛えれば、守備・足を売りにして行けるのではないかという期待が持てる。





(打撃内容)

 一番心配なのは、打力の部分。この夏の長野大会では、打率6割を記録したという。しかし私が見る限り、ドラフト候補として少々物足りない。基本的に体を動かして線でボールを捉えてゆくアベレージヒッターだと思うのだが、この手のタイプにしては打球の殆どが一・二塁間への引っ張りに集中している。レフト方向への打球は、強く叩けず弱々しいレフトフライなど。ボールを捉えるセンスはあるが、強く叩ける・いろいろな方向にはじき返すという部分では物足りない。

<構え> 
☆☆☆

 前足を引いた左オープンスタンスから、グリップの高さは平均的で、腕を前に伸ばして構える。背筋を伸ばし、全体のバランスとしては並ぐらいだが、両目での前の見据えとアゴを引いてグッと集中出来ているのはいい。

<仕掛け> 早めの仕掛け

 投手の重心が沈み始める時に、地面から足を軽くあげてまわしこんでくる「早めの仕掛け」を採用。典型的なアベレージヒッターの打ち方であり、プレースタイルから言ってもこれと合致します。

<足の運び> 
☆☆☆

 始動~着地までの「間」があるので、速球でも変化球でもスピードの変化には幅広く対応。軽くベースから離れたアウトステップを採用しており、内角を意識しているのがわかります。気になるのは、踏み込んだ足元がブレてしまうので、インパクトが弱いのと、外の球に対し踏ん張りが効かず強く叩けない部分があること。外角中心に、プロレベルの球を投げられたら、現時点では厳しいだろうなという印象は否めません。

<リストワーク> 
☆☆☆

 打撃の準備である「トップ」を作るのは自然体で、特に速い球に遅れる心配はありません。またリストワークに力みがないので、柔軟にボールに合わせることは期待できます。バットの振り出しも悪くないのですが、けしてインサイド・アウトのスイング軌道ではなく、大きな弧で振りぬいてきます。そのため内角の球を巻き込んで引っ張りたいわりに、ヘッドが上手く抜けて来ない傾向にあります。バットの先端であるヘッドは下がらないので、大きな綺麗な弧でスイング出来ています。

<軸> 
☆☆☆

 足の上げ下げはそれほど大きくないので、目線は大きく動きません。しかし足元が踏ん張れないので、体の開きが我慢できず。軸足も前に崩れてしまうなど、軸は安定していません。むしろ型を崩して、当ててゆくタイプなのだとは思いますが。

(打撃のまとめ)

 足元が踏ん張れず、外角の球に対する対処、足が速いのに三遊間に転がすことが出来ない打撃は気になります。ボールを捉えるセンス自体は悪くないと思いますが、スイング・打球の強さなどは、高校からプロに入る選手にしては物足りません。

 こうやって見てみると、打撃では相当苦労すると思いますし、時間はかかるように思います。特に私の場合、打撃がレベルに到達しない選手は評価しないというスカウティングなので、この点ではプロのそれではありません。


(最後に)

 やはりドラフト戦線で話題にならなかったのは、プロを想定すると打撃が弱いからなのに他なりません。肩・走力は間違いなくプロの素材だと思いますが、この打撃が将来的に改善できるのかがネックだと言えるでしょう。

 凄みのある素材というよりは、センスがあり野球が上手い子といった大学タイプの選手。もし球場で見ても、その存在に注目したかどうかは疑問だったかと。今のベイスターズのチーム事情に即した選手だとは思いますが、私ならば指名リストには名前を入れなかっただろうなという選手でした。5年以上かかって頭角を現すようならば、大学などに進学してからの方が良かったという私の判断が正しかったことになりますが、果たしてプロでどんな選手に育つのか見守って行きたいと思います。


(2014年夏 長野大会)