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山下 亜文(小松大谷)投手 170/64 左/左 |
「ひっくり返されたのもわかる」 この夏の石川大会決勝戦・星稜戦で、8回まで8-0でリードしながら、一挙9点取られて逆転負けを食らった 小松大谷 。そのマウンドに立っていたのが、この 山下 亜文 。春季大会の頃から、県下屈指のサウスポーと注目され、存在感を示してきました。それだけの投手でありながら、なぜ一挙に大量失点したのか? 今考えれば、なんとなくその理由もわかる気がします。 (投球内容) ゆったりしたモーションから、ピュッと鋭く腕を振ることでキレのある球を投げ込んできます。このワンテンポ差し込まれるギャップこそ、この投手の真骨頂といえます。 ストレート 常時130~140キロ強 結構状況によって、力加減を変えてきます。そのためカウントを整えるときの球なんかは、130キロぐらいしか出ていないのではないのでしょうか。しかし相手を仕留めに来るときのボールは、140キロ前後はコンスタントに出ており、ボールに非常にキレと勢いを感じます。元々気持ちを込めて投げるタイプだけに、気合が入っている時のボールは見栄えがします。 その一方で、ストレートのコントロールはかなりバラつきが激しいのも確か。一端気持ちがキレてしまうと、ボールも無気力になって威力が半減します。そういった起伏の浮き沈みを、モロにマウンドで出してしまう選手です。この気持んの浮き沈みとアバウトな制球が、火のついた相手打線を抑えられなくなった要因でしょう。 変化球 スライダー・カーブなど 大きく曲がりながら落ちるスラーブ的なスライダーには威力があり、それよりも更に緩いカーブもあります。逆に、右打者外角に逃げて行く球がよくわかりません。球種としてあるのでしょうが、投球においては大きなウエートを占めているわけではないようです。あくまでもスライダーとのコンビネーション、それがこの投手のピッチングスタイル。 その他 クィックは1.2秒台と、けして素早くはありません。むしろランナーを背負っても、しっかりクィックができません。しかしフィールディングの判断・マウンドから駆け下りなどは素晴らしく、この選手は外野手としてだけでなく、内野手として育ててみたい、そう思わせる動きを魅せます。牽制は、モーション自体が大きく、その辺で走者に見極められてしまうのではないかと感じました。元々マウンド経験は豊富なのか、堂々とはピッチング出来ています。 (投球のまとめ) コントロールはアバウトなものの、真ん中近辺の甘いゾーンには集まってきません。上手くボールが散って、的を絞り難いのも彼の良さではないかと。しかし星稜戦では、完全に気持ちがキレてボールが上手く散ってくれなかったのではないのでしょうか。 平常時ならばボールは散りますし、マウンド捌きも悪くありません。しかしちょっとしたことで気持ちが動くので、そこから大きくパフォーマンスが狂い出します。その辺を今後改善して行けるのか、それとも野手的な思考と考えて、野手一本で勝負してゆくのか気になります。 (投球フォーム) では今度は、投球フォームの観点から考えてみましょう。 <広がる可能性> ☆☆☆ 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻は三塁側(左投手の場合は)には落とせません。すなわち体を捻り出すスペースは確保出来ていないので、体を捻り出して投げるカーブやフォークなどの球種には適しません。 しかしながら、「着地」までの粘りはそれなりで、体を捻り出す時間を確保。そういった意味では、カーブやフォークといった球種以外ならば、今後もピッチングの幅を広げて行くことが期待できます。 <ボールの支配> ☆☆☆☆ グラブは最後まで体の近くにあり、両サイドの投げ分けは安定。足の甲でもしっかり地面を捉えており、浮き上がろうとする上体の力を抑え込めます。すなわち力を入れても、ボールが上吊り難いわけです。また「球持ち」も良いので、本当は凄くコントロールが良さそうに見えるのですが、平常心を失うと力が入り過ぎるのか?ボールが制御できなくなります。その点で現状では、かなりコントロールは悪くなっています。 <故障のリスク> ☆☆☆ お尻は落とせないフォームですが、カーブをそれほど投げるわけでもありませんし、フォークは見られません。そういった意味では、肘への負担は悲観することはなさそう。 腕の送り出しを見ていても無理は感じられず、肩への負担も感じません。それほど頑強そうな体には見えませんが、故障の可能性は低いのでは。 <実戦的な術> ☆☆☆☆ 「着地」までの粘りも悪くないので、打者としては合わせやすくありません。更に体の「開き」も抑えられ、見えないところからピュッと来る嫌らしさがあるはず。 腕もしっかり振れているので、速球と変化球の見極めも困難。ボールへの体重の乗せ悪くなく、打者の手元まで生きた球が投げられます。 (フォームのまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、いずれの部分にも優れ、かなり実戦的なフォームだと言えますし、特に大きく直すところはなさそう。 故障のリスクも高くないですし、普通に投げていればコントロールも乱れる要素は少ないはず。あとは、セルフコントロールを意識し余計な力みを起こさなければ、実戦派左腕として期待できます。 (最後に) ただし思考回路的には、野手的な選手なのかなと思います。体格にも恵まれておらず、投手としての上積みはそれほど残されていないのでは? 今後球威・球速を増すということよりも、実戦的な術を身につけることで成績をあげるしかないでしょう。 最初の数年で目処がたたないようなら、早く野手にコンバートした方が良いと思います。というよりも、最初から野手として育てるかもしれません。残念ながら投手としては、指名リストに名前を残すほどの選手ではありませんでした。 (2014年夏 石川大会) |
山下 亜文(小松大谷)投手 170/64 左/左 |
「打者としてならと思ったが」 抜群のフィールディングとインパクトの強い打撃で、サウスポーの魅力よりも野手として育ててみたい、そんなイメージを持っていた 山下 亜文 。しかし夏の石川大会を何試合か見ていると、意外に脆い部分もあり、対応力はどうなのか?と野手としての部分でも不安を感じるようになってきた。 (守備・走塁面) 投手としては、マウンドに駆け下りる反応良さ・捕ってから素早い送球で、再三二塁でアウトする場面が目立ちました。そういった反応の良さ・素軽い動きを見ていると、ニ遊間で育ててみたい素材、そんな気はしてきます。しかしクィックや牽制などの動作を見ていると、それほど器用なタイプには見えてきません。投げない時には中堅を守るのですが、打球への目測など落下点への入りは危なかっしい部分もあり、ちょっとディフェンス面も心配になってきました。当然投手として140キロ前後のボールを連発できるだけに、地肩は相当強いのでしょうが。 一塁までの塁間は、4.15秒前後と、際立つ走力があるわけではありません。確かに中の上レベルの脚力はありますが、途中で走る勢いを緩めてしまったり、出塁しても次の塁への貪欲さはなく、その辺も気になる材料。走力はあっても、現状それを活かすプレースタイルではありません。 (打撃内容) 勝負どころでの無類の強さが自慢ですが、その分普段はそれほどでもないことがわかってきました。特に対応力に関しては、意外に脆い・淡白な部分がある選手。しかし低めの球にチョコンと合わせてヒットしたりと、センスの片鱗を魅せる時があります。ピッチング同様に、気持ちを常に持続できないのではないかと感じます。 <構え> ☆☆☆ 前足を引いて、グリップの高さは平均的。腰の据わり・バランス・両目で前を見据える姿勢もよく、力みなく自分のリズムで立てています。 <仕掛け> 遅めの仕掛け 打撃のタイプとしては、それほど長打で魅了するタイプに見えません。しかしボールできるだけ引きつけてから動き出す「遅めの仕掛け」を採用。天性の長距離打者か生粋の二番タイプに多く観られる仕掛けであり、後者である可能性を感じます。 <足の運び> ☆☆☆ 始動が遅い割に、足を引き上げて打ちに来るので忙しい印象は受けます。始動~着地までの「間」は短く、あらかじめ狙い球を絞り、その球を逃さず叩くことが求められます。ベースから離れたアウトステップを採用するように、内角を強く意識したスタイル。それでも踏み込んだ足元はブレないので、甘めの外角や高めの球ならば、開きを我慢して対応できます。低めの球に対しても、キッチリ叩け無いまでも、ちょんとバットを出してヒットゾーンに落とす上手さを見せていました。 <リストワーク> ☆☆☆ 打撃の準備である「トップ」の形を作るのは、自然体で柔らかくリストを使えています。バットの振り出しは、けしてインサイド・アウトではないものの、大きなロスは感じません。すなわち内角を綺麗に捌くというよりも、外の球を捌く方が巧そうということ。またバットの先端であるヘッドが下がらないので、ボールをフェアゾーンに落とせる確率が高まります。 <軸> ☆☆☆ 足の上げ下げはあるので、目線の上下動は並ぐらい。体の開きは我慢できますが、軸足の形は崩れます。というより、あえて型を崩してもミートできる器用さ柔らかさはあるので、それこそがこの選手の最大の特徴かもしれません。 (打撃のまとめ) インパクトの強い打撃が印象的な一方、型を崩してでもボールを捉える柔らかさも兼ね備えます。それでいて甘い球をなんなく打ち損じてしまったりと、あれ?と思う部分も少なくありません。まだまだ、打撃でもプロという圧倒的な領域には達していないと考えます。 (最後に) 将来性では、野手のあるのかなと思っていました。しかし守備・走塁の能力も現状怪しく、打者としてもまだ絶対的なレベルではありません。これならば、左腕としても140キロ台を叩き出せる能力・ピッチングセンスもあり、まずはそこで数年様子を観てからでも、野手への可能性を模索するのは遅くはないように思います。 特に投手としては、素材としてそれほど上積みを期待できるタイプでもなさそうなので、数年で将来像は見えて来るでしょう。それならば2,3年やって目処がつかないようなら打者への道を模索しても遅くはないと考えます。いずれにしても、精神的にもう少し成長しないと、大人の世界では難しいのではないのか? そういった部分で対応するまでに、数年かかるかもしれません。いずれにしても、指名リストに名前を載せるほどの魅力は感じませんでした。 (2014年 夏) |