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田中 裕貴(慶応大4年)投手の個別寸評へ








田中 裕貴(芝3年)投手 188/87 左/左 
 




                     「将来楽しみ」





 188/87 の骨太な体型から投げ込まれる速球は、実際の球速よりも5キロは速く感じさせる勢いと球威がある。将来は、東大野球部に進んで野球を続けたいと明言する、進学の逸材に迫ってみる。


(投球内容)

ストレート 常時130キロ前後~MAX86マイル(137.6キロ)

 非常に重い感じのボールを投げ込んで来る投手で、それでいて球速表示よりも速く感じさせる勢いと迫力がある。そのため空振りを誘うというよりは、球威で詰まらせる球質。コントロールはおおまかに両サイドに散らすことはできるが、ボールが全体的に高く浮くことが多い。四球で自滅することはないが、かなりアバウトな印象は受ける。

 これだけの球威があれば、並の高校生に簡単に打ち返されることはなさそうに見える。しかし実際は、各打者に綺麗に振り抜かれることも少ない。その要因として考えられるのは、イチ・ニ・サンのタイミングで投げ下ろしてくるので、打者としては合わせやすいからではないのだろうか。

変化球 スライダー・カーブ

 小さく横滑りするスライダーと、曲がりながら落ちるカーブを使って来る。左腕らしいチェンジアップ系の球は、江戸川戦の投球を見るかぎりよくわからなかった。変化球でカウントを稼ぐこともできるが、それほど絶対的な球はない。特にコースを突いたはずのスライダーを痛打されるケースが目立つ。

その他

 左腕らしい見極めの難しい牽制はしてこないで、間合いを外すような軽い牽制。しかしクィックは、基準である1.2秒を切るような鋭さがあり、けして下手ではない。フィールディングも打球への反応・動きもよく、大型でも動作に緩慢さがないところに、この選手の今後の可能性を感じる。

(投球のまとめ)

 現状は、まだまだ球速・コントロール・変化球とも素材型の域を脱していない。しかしボールを速く感じさせる投手というのは、私の経験上その体感速度に見合った球速を、将来的に必ず叩き出す。そういった意味で彼は、常時135キロ前後~140キロ強ぐらいの球速は近い将来充分可能だろう。この恵まれた肉体のスペック・本格的な野球環境や指導者なども加われれば、今よりも常時10キロ~15キロ上積みをすることも十分期待できる。それが左腕だということを考えると、この選手の将来に期待しないわけには行かない。





(投球フォーム)

<広がる可能性> 
☆☆☆

 お尻は三塁側(左投手の場合は)に、それなりに落とすことが出来ている。そういった意味では、体を捻りだすスペースは確保できており、カーブで緩急を効かしたり縦の変化球を投げることは充分可能だろう。

 着地までの粘りはそれほどでもなく、体を捻り出す時間は充分とは言えない。この辺が、変化球の曲がり・キレに影響し、それほど特徴のある球を身につけていない要因かもしれない。それでも指導者や環境次第で、まだまだピッチングの幅を広げて行けるとは思うのだが。

<ボールの支配> 
☆☆☆

 グラブは最後まで体の近くにあり、両サイド投げ分けは安定しやすいはず。しかし足の甲の押し付けが短く、上体が浮きくボールを上吊る要因を作っている。けして「球持ち」が悪いようには見えないので、もう少しボールを押し込めるようになると、高低のコントロールも変わって来るのではないのだろうか。

<故障のリスク> 
☆☆☆☆

 お尻は落とせるフォームなので、カーブやフォークなどを投げても肘への負担は少ないはず。実際カーブを結構投げているが、これは問題ないと考えられる。

 腕に角度もあるが、腕の送り出しに違和感は感じない。そういった意味では、肩への負担も大きくはないだろう。今後も段階を踏んで鍛えてゆけば、タフな活躍が期待できるはず。

<実戦的な術> 
☆☆☆

 「着地」までの粘りがないので、打者としては合わせやすい。しかし体の「開き」は抑えられており、ボールの出処が見やすいというほどではない。

 腕は強く振れており、速球と変化球の見極めは困難(カーブを除く)。地面の蹴り上げも好いように、大型でも下半身を上手く使って、ボールにウエートを乗せて投げられている。非凡な球威と勢いは、ボールへの体重の乗せが上手く出来ているからだろう。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」までの粘りに工夫が欲しい。あとは、それほど大きな欠点は見当たらない。

 制球を司る動作においては、足の甲の押し付ける時間が短いため高めに浮いてしまう。しかし故障の可能性は低く、鍛えがいのある素材ではないのだろうか。

(意識づけ)

 高校からプロで飯を食おうとか、そういったギラギラものは感じられません。やはり野球強豪校の選手ではないので、何処かノンビリしたものを感じます。しかし投手らしく、打席に入るときはラインを踏まないようなきめ細やかさがあり、投手としての適性は感じられる。教えれば、それなりに吸収して行ける素養は充分ありそう。


(最後に)

 まぁ「東大野球部で野球をしたい」という、明確な目標を持っていることは好いこと。ただ野球人として技量を伸ばすということならば、京大や筑波大あたりで続けることも、充分意識してもらいたい。それだけの才能があるだけに、選手の資質を伸ばす実績や環境のある学校に進んで欲しいと思っている。

 将来プロになれるかどうかは、まさに上のレベルでの成長・進化次第としか言いようがない。しかしその可能性を秘めた選手であることは間違いなく、今後もアマ球界を大いに盛り上げてくれる候補生ではないのだろうか。期待して、今後も見守ってゆきたい。


(2014年夏 東東京大会)