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森田 駿哉(26歳・HONDA鈴鹿)投手 185/87 左/左 (富山商出身) 
 




「ついに旬を迎えた」





 富山商業時代「富山の至宝」として、その才能を絶賛されてきた 森田 駿哉 。当時は確かに素晴らしい素材ではあったが、何かギラギラものが感じられず、プロで飯を食ってゆこうというものが感じられなかった。本人も進学を希望し法大に進むも、4年間で満足のゆく結果を残せず。卒業後は、社会人のHONDA鈴鹿に進む。いろいろ試行錯誤する中、ドラフト適齢期には内容が伴わず。しかし、社会人5年目迎えた今年、森田 が指名されそうだという話を耳にはしていた。確かに今の彼は、プロでやって行けるレベルに到達したと言えるのではないのだろうか。


(投球内容)

 所属チームでは、今年先発で起用されています。都市対抗では、トヨタの補強選手として2試合に先発を任されました。骨太の分厚い体型から投げ込んでくる、
まさに正統派左腕です。

ストレート 常時140キロ台後半 
☆☆☆★ 3.5

 都市対抗の投球を見る限り、変化球が多く、時々真っ直ぐを織り交ぜてくるというスタイルになっていました。たまに投げる真っすぐは、コンスタントに145キロ~後半を記録し、
非常に重い球質で球威を感じます。それほど細かいコントロールはないものの、両サイドに散らすことはできていました。

変化球 カットボール・スライダー・チェンジアップなど 
☆☆☆★ 3.5

 130キロ台後半のカットボールを多く使ってきて、左打者内角に食い込ませます。社会人に入ってチェンジアップが良くなった印象ですが、今はツーシームように小さく逃げる感じで、それほど空振りが取れる変化ではありません。投球の多くが、このカットボールとツーシーム的なボールで、
真っ直ぐと見分けのつき難い腕の振りをしているのが特徴なのでは? 以前ほど明確に変化するスライダーやチェンジアップを使って来なくなりました。そのためバットの芯をズラす投球で、三振をバシバシ奪うスタイルではありません

その他

 ベースカバーの入りも早く、フィールディングの動きは悪くありません。クィックも1.1秒台ぐらいで、問題ありませんでした。高校時代は、気持ちが弱そうな感じでした。しかし、そのへんも年齢を重ね、だいぶ変わってきたのかもしれません。

(投球のまとめ)

 良い真っ直ぐを持ちながら、それに依存しすぎない投球スタイルを確立しました。カットボール・ツーシーム中心に投球を組み立て、
時々真っ直ぐを織り交ぜてくるスタイル。ピンチでも、力でねじ伏せようといった投球には走りません。そういった力みが消えたぶん、相手にとっては厄介に感じられるのではないのでしょうか。このへんは、社会人で5年間揉まれてきた経験が生きているように思います。





(成績から考える)

 今年になってからの直近の10試合では、全て先発での登板。
69回 48安 19四死 50三 防 1.83 といった安定した内容を魅せています。

1,被安打は投球回数の80%以下 ◎

 激戦の東海地区にありながら、被安打率は 69.6% と、高い数字を残しています。ボールの芯を外したり、球威のある真っすぐで詰まらせることができているのではないのでしょうか。

2,四死球は、投球回数の1/3(33.3%)以下 ◯

 四死球率も 27.5% とまずまずで、それほどストライクゾーンの枠の中での細かさはないものの、安定してゾーン内に投げ込んでこられる制球力はありそうです。

3,三振は1イニングあたり0.8個以上 △

 1イニングあたりの奪三振は、0.72個 と、さほど大きくはありません。このへんは、無理に三振を取りにゆかないという、割り切りができているからではないかと感じられます。ドラフト適齢期ならば、良いところを魅せてやろうと三振を奪いにゆきそうなものですが。

4,防御率は 2.50以内 ◯

 先発投手であれば、社会人ならば 2.50以内。リリーフならば、1点台の安定感が欲しいところ。そういった意味では、先発でも1点台を記録するなど、
今の安定感には見るべきものがありました。

5,左打者に強い左腕か? ◯

 直近10試合での数字ではあるものの、左打者への被打率は .190厘 。右打者には、.238厘 と、極端に左打者を得意としているわけではないものの、
ある程度は左投手としての有難味はあると言える数字ではないのだろうか。

(成績からわかること)

 ハイレベルな東海地区や全国大会でも、ファクターを満たす内容を示している。奪三振率は平凡ではあるものの、これは無理にボールの力で抑え込むようなスタイルから脱却したためで、それが返って今の投球に生かされているので問題は無さそうだ。


(最後に)

 富山商時代から随分と時間は経った気はするが、社会人5年目にようやく、プロ入りの「旬」と呼べる時期が到来したように思える。今の内容ならば、一年目から一軍のローテーションに加われる、そんなことも期待できそうだ。さすがに内容的は上位指名級だと評価したいところだが、年齢も重ねているのでワンランク下げての総合評価としたい。ぜひ、プロの世界で花開いて頂きたい。今年一番、嬉しい変化だった。


蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


(2023年 都市対抗)









森田 駿哉(22歳・HONDA鈴鹿)投手 186/86 左/左 (富山商出身) 





 「このへんが落としどころなのか?」





 富山商時代、ドラフト上位候補の左腕とも言われた 森田 駿哉 。しかしプロ志望届けを提出せずに法大に進むも、思うような成績を残せないで4年間が過ぎていった。HONDA鈴鹿に入社してからは、大学時代の鬱憤を晴らすがごとく積極的に登板。そして11月のアジアウインターリーグにも招集され、再びドラフトの年を迎えようとしている。高校時代を知るものからすれば、今の森田のピッチングは物足りなく見えるかもしれない。しかし安定した投球をするためには、今ぐらいの力加減が落としどころなのではないのだろうか。


(投球内容)

ノーワインドアップから投げ込んで来る、正統派のサウスポーといった気がします。

ストレート 140キロ前後 ☆☆☆ 3.0

 高校時代から、コンスタントに140キロ前後~中盤まで投げられる投手でした。社会人では、ベーブルース杯で150キロを記録。しかしこのウインターリーグの登板を見る限り、常時140キロ前後といった感じで、出ても140キロ台中盤ぐらいまでかといった投球でした。むしろ以前よりも、ボールが見えてからミットに収まるまでが一瞬で、ピュッと差し込む感じのフォームになっていたのは印象的。23回1/3イニングで18安打ですから、社会人で被安打率77.3%と優秀です。けして、合わされやすいフォームではないのでしょう。

 ボールも両サイドに散っていて、コントロールに不安があるようには見えません。昨年の公式戦の成績が、23回1/3イニングで7四死球ですから、基準である投球回数の1/3以下に収められており、そのへんは確かのようです。ドラフト候補の左腕としては、平均的なレベルのストレートではないのでしょうか。

変化球 スライダー・チェンジアップなど ☆☆☆ 3.0

 以前はカーブやスライダーの投手との印象で、ストライクからボールゾーンに切れ込むスライダーを振らせるのがうまい投手でした。逆にチェンジアップはあるものの、キレ・精度ともイマイチな印象。しかし今はチェンジアップが有効で、この球の精度・キレに磨きがかかっています。このへんが、大学時代との一番の違いではないかと。奪三振も25個奪えており、投球回数を上回る決め手があります。なかなか社会人で、投球回数を上回る奪三振を奪うのは大変ですので。

その他

 牽制は適度に鋭く、クィックも1.1秒台前半と素早いです。あとは、フォームが盗まれないことに注意したいところ。高校時代に指名に反対したのは、あまりに精神面が弱そうに見えたから。それでも法大で4年間野球を続け、社会人でも頑張っているところをみると、だいぶ揉まれてきたのかなと思える部分があり、気弱さは薄れてきた感じはします。

(投球のまとめ)

 高校時代のスケールの大きいそうな左腕という感じではなくなっていますが、上手く社会人でもやれる術を掴みつつあるのかなといった印象を受けました。いたずらに球速を求めず、どうしたら抑えられるのか追求した跡が伺えます。そのため社会人でも、防御率 2.31 と安定し、国際大会のメンバーにも選出されるなど期待の高さが伺えます。


(投球フォーム)

 ノーワインドアップからゆったり足を上げるものの、高い位置まで引き上げられている。軸足一本で立った時に、膝から上がピンと伸びがちで余裕がない。それでも高く引き上げた足とで、バランスは適度に取れている。

<広がる可能性> ☆☆ 2.0

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻はバッテリーライン上に落ちてしまいます。そのため身体を捻り出すスペースは確保できず、カーブやフォークといった捻り出して投げるには窮屈な形に。

 軽く前にはステップしますが、身体を捻り出す時間も充分という感じではありません。そのため大きな曲がりの変化球というよりも、小さな変化を中心にピッチングを組み立てることになりそうです。

<ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を抑え込めている。そのため軸はブレ難く、両サイドへのコントロールはつけやすい。しかし足の甲での地面の捉えが浮いてしまいがちで、浮き上がろうとする力は充分に抑え込めています。それでも高めに抜けることが少ないのは、力をセーブしつつも「球持ち」の良さを生かして、ある程度ボールを制御することができているからではないのだろうか。できれば、もう少し肘を立ててなげたいものである。

<故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5

 お尻は落とせないものの、カーブやフォークといった球種はあまり観られないので、窮屈になって肘に負担がかかる機会は少ないのでは?腕の送り出しにも無理は感じられず、肩への負担も少なめ。けして力投派ではないので、疲労も溜め難いのではないのだろうか。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」まで早く地面を捉えがちで粘りはないものの、球の出どころが隠せているので、ボールが見えてから一瞬で到達する感じ。左腕に良くいる、ピュッと差し込まるようなフォームを実現できている。そのため「着地」までの粘りが足りなくても、打ち難さを演出している。不思議とこういったフォームは、左腕に多い。

 腕の振りはけして強いとは思わないものの、チェンジアップとの見極めは困難。残念なのは、球持ちが良い割に前に体重が移って行かないフォームで、打者の手元まであまり勢いが感じられないところ。「体重移動」に、物足りなさを残している。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」と「体重移動」に課題を残すフォームだということがわかった。故障のリスクや制球を司る動作はそれなりなのだが、将来的に武器になるほどの変化球を習得できるかは微妙。ただし低めの変化球を振らせるのはうまいので、変化が小さくても活かす術を心得ている。体重が前に乗って来ないので、ストレートに訴えかけるものに欠けるのが物足りなさの要因ではないのだろうか。


(最後に)

 現状高校時代の輝きを取り戻せている印象はないものの、上手く花より実をとっている感じで実戦で通用する術を身につけつつあるように思う。社会人でやってゆくにはこれでも良いと思うのだが、プロに入るためには物足りなさが残るのも確か。そういったところも加味しつつ、投球全体の質を上げてゆくことができれば、今度こそプロ入りの扉も開かれるのではないのでしょうか。


(2019年 アジアウィンターリーグ) 










森田 駿哉(法政大4年)投手 183/79 左/左 (富山商出身) 





「復活の兆し」 





 富山商3年生のときに、左の本格派として多くのスカウトを魅了した 森田 駿哉 。しかし素材は申し分なかったものの、まだまだプロのような大人の世界で競争させるのには性格時にも期尚早だと、あえて指名見送りの評価をした。彼もプロ志望届けを出すことなく大学の門を叩くことになるが、1年春のリーグ戦で7試合に登板した以降は一切登板のないまま最終学年を迎えてしまった。しかしようやく、この春のリーグ戦に復帰したのである。


(投球内容)

骨太な体格から、しっかり投げ込んで来る左の本格派。

ストレート 常時140キロ~MAX144キロ 
☆☆☆★ 3.5

 ビシッとミットに収まるストレートは、常時140キロ台~中盤を記録。ボールにも適度な勢いがあり、ボールの勢い・球速に陰りは感じない。まだまだ細かいコントロールはないものの、両サイドには散らすことはできている。

変化球 スライダー・チェンジアップ 
☆☆★ 2.5 

 変化球は、横滑りするスライダーとのコンビネーションで、右打者には外に逃げるチェンジアップ系のボールがあるのを確認。スライダーは、右打者のインローとアウトハイに散ってカウントを稼いで来る。スライダーのキレ・コントロールともに並といった感じで、チェンジアップの精度はさらに低そうな印象。現状は、困ったらストレートという感じの投球だった。

その他

 牽制は適度に鋭く、クィックも1.2秒台と左投手としては平均的。物凄く野球センスが高いとか運動神経が良いという感じはせず、とりあえず最低限のことはできているといった感じか。

(投球のまとめ)

 とりあえず今は、ストライクゾーンの中に投げ込んでいるだけという感じ。まだまだコントロールがどうだとか、駆け引きがという内容ではなかった。これからマウンド感覚を取り戻し、場馴れするようになればもっといろいろな側面が見られるのではないのだろうか。少なくてもこの春は、投げられるまで回復しましたという顔魅せの段階で、真価が問われるのは秋のシーズンとなるだろう。


(投球フォーム)

ではフォームの観点から、今後の可能性について考えてみたい。

<広がる可能性> 
☆☆★ 2.5

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻は三塁側(左投手の場合)にはしっかり落ちません。そのためカーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球を投げるのには適していません。

 「着地」までの粘りも淡白で、あっさり地面を捉えてしまいます。身体を捻り出す時間は充分とは言えず、将来的にキレや曲がりの大きな変化球を習得できるのかには疑問が残ります。そのため球速のある、小さな変化を中心にピッチングの幅を広げてゆくことになるのではないのでしょうか。

<ボールの支配> 
☆☆☆☆ 4.0

 グラブは内に抱えられ、両サイドの投げ分けはつけやすい。足の甲でも地面を押し付けることができており、ボールは高めに抜け難いはず。しかし実際には結構高めに集まりやすいのは、少し肘が下がって押し出すような腕の振りであり、リリースの際にもボールを押し込めていない部分がある。このへんが改善されて来ると、もっと低めに集まるのではないのだろうか。

<故障のリスク> 
☆☆☆ 3.0

 お尻が落とせないものの、カーブやフォークといった球種はほとんど見られないので、肘への負担は大きくはないだろう。しかし肘を故障して長期低迷してきた選手だけに、充分注意したいところ。

 腕の送り出しを見る限り、肩への負担は少なめ。気になるのは、テイクバックをした際に、両肩を結ぶラインよりも肘が下がっており、そこから投げようとしているところに負担がかかっているのではないかと思われる。それでも無理にボールに角度をつけようとはしていないので、故障してからは角度をつけようとはしていないのかもしれない。

<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りに欠けるので、打者としては苦になり難いフォーム。それでも「開き」自体は抑えられているので、ボールの出処は隠せている。コントロールミスをしなければ、それほど痛手は食らわないのかもしれない。

 まだ故障の影響か、投げ終わったあと腕が身体に絡んで来ない。そのためフォームに勢いがなく、打者の空振りは誘い難い可能性がある。ボールへの体重乗せも発展途上であり、ここが改善されてくると打者の手元まで球威のある球がグッと迫ってくる感じになってくるだろう。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、特に「着地」を中心に動作に粘りが欲しいところ。制球を司る動作には優れているが、お尻が落とせないぶん肘への負担は気をつけたい。将来的に、投球の幅を広げて行けるのかには不安が残る。


(最後に)

 やはり空白の期間が長かっただけに、技術的に投球的にも発展途上の投手との印象が受けます。現時点では、高校時代の素材の良さは、損なわれていないということを確認できました。問題は、秋のシーズンにどれだけ投げられるのか? 大事なところを任されてゆくのか? という部分では。現状の実績・内容だと、素材を買って育成指名があるかどうかといった評価。しかし秋のシーズンに才能を開花させれば、貴重な本格派左腕だけに一気に評価が駆け上ってゆくことも期待できます。とりあえず、秋まで追いかけてみたいという気にさせてくれる内容でした。


蔵の評価:
追跡級!


(2018年 春季リーグ戦)
 









 森田 駿哉(富山商3年)投手 183/79 左/左





                      「何かが足りない」





 春季北信越大会を見に富山まで足を運んだのは、まだ見たことがなかった、森田 駿哉 がどの程度の投手なのか確認したかったのも大きかった。この男を見るために、高校NO.1捕手との呼び声高い 栗原 陵也(春江工・坂井3年)捕手の観戦を翌日にするというリスクまでとった。実際私の想像を上回る投球を見せてくれたのだが、何か引っかかる部分が残った。それは一体何だったのか? 考えてみたい。


(投球内容)

 183/79 の骨太の体格で、非常にオーソドックスな正統派サウスポー。しかし立ち上がりは制球も定まらず、テンポも悪く大型投手にありがちな、モッサリとしたのべ~とした投球に。この選手の調子が上がってきたのは、スカウトが 栗原を見に移動を始めた後の4回ぐらいだったと記憶している。

ストレート 常時130キロ台後半~MAX89マイル(142.4キロ)

 初回アルペンスタジアムのスピードガン表示はされていなかったが、私のガンでは140キロ前後をすでに連発しており、MAX89マイル(142.4キロ)まで到達。その球速表示に負けないだけの球威・勢いがあり、特に試合中盤ぐらいからは、右打者外角の逆クロスのゾーンに、勝負どころでビシッと好い球をが決まる場面が増えてくる。

 特に力を入れた時のストレートは、並の高校生では中々打ち返すことのできない。全国的に見ても左腕としては、指折りのボールを投げていたと言えるでしょう。中盤以降は、球筋も安定し始め、両サイド・低めへとボールが集まりだします。

変化球 カーブ・スライダー・チェンジアップ

 変化球が課題の投手だと訊いていましたが、この投手の一番イイ球はスライダーです。特にストライクゾーンからボールゾーンに切れ込むスライダーで、多くの三振をこの球で奪います。他にもカーブがありますが、この球は上のレベルでは使えないのではないのでしょうか。チェンジアップもありますが、それほど大きな意味は持っていません。あくまでも速球とスライダー、この2つの球に大きなウエートは占められています。

その他

 軽い牽制が多く、走者を威嚇するというよりは自分の間を整えるものかと。しかしクィックは1.05秒前後と素早く、フィールディングも基準以上。そういった意味では、投球以外の部分も悪くありません。

(投球のまとめ)

 典型的な先発タイプの投手であり、将来のローテーション候補として期待したい。コントロールも立ち上がりを除けば悪くはありませんし、投球もある程度まとめられる能力はあります。微妙なコントロールや駆け引きができる高度さはありませんが、高校生左腕としては合格レベルではないのでしょうか。



(投球フォーム)

今度は投球フォームの観点から、考えてみましょう。

<広がる可能性> 
☆☆☆

 引き上げた足を地面に向けてピンと伸ばすので、お尻は三塁側(左投手の場合は)に落とせません。すなわち体を捻り出すスペースが充分確保できないので、腕を捻り出して投げるカーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種は身につけ難いと言えます。カーブが上手く投げられなかったのは、このフォームに原因があります。

しかし「着地」までの粘りは悪くなく、体を捻り出す時間は適度に確保出来ています。そういった意味では、カーブやフォークといった球種以外は、上手く扱える可能性があります。まだまだ投球の幅を広げてゆくことが、これから期待できるフォームです。

<ボールの支配> 
☆☆☆☆

 グラブは最後まで内に抱えられているので、両サイドの投げ分けは安定。実際に彼の投球は、内外角に上手く散らせています。

 足の甲でも地面を捉えている(ように見える)ので、ボールもそれほど上吊りません。ただし実際に観戦した試合では、立ち上がりは抜ける球や高めの甘いゾーンに浮く球も少なくありませんでした。イニングが進むにつれ、球筋が真ん中~低めのゾーンに下がってきました。「球持ち」は平均的で、指先の感覚に特別優れているようには感じません。ある程度おおまかに、狙った近辺に集められるというタイプでしょうか。けして立ち上がり以外は、四死球で自滅するような荒々しさはありません。

<故障のリスク> 
☆☆☆☆

 お尻は落とせないものの、カーブもそれほど多くは投げませんし、フォークも投げません。そういった意味では、肘を痛める可能性は低いのでは。

 腕を振り降ろしを見ても、角度はありますが送り出しに無理は感じません。そういった意味では、肩への負担も大きくはなさそう。無理をしなければ、故障の可能性は低いフォームではないのでしょうか。

<実戦的な術> 
☆☆☆☆

 着地までの粘りは悪くないので、打者としては合わせやすくはないはず。体の「開き」も抑えられ、ボールの出処が見やすいということもないでしょう。

 素晴らしいのは、腕をしっかり振れるので、速球と変化球の見極めは困難。そのため低めに切れ込むスライダーで、空振りが誘えます。ボールにも適度に体重が乗せられており、打者の手元まで球威や勢いのある球が投げられます。もっさりしている印象は受けますが、フィニッシュにおける地面の蹴り上げ、体重移動は悪くないと考えます。


(最後に)

 私が知る限り、全国でも5本の指に入る左腕だと思います。また将来的なことを含めると、プロのローテーションも期待したくなるような素材です。それならば、文句なしドラフト候補だと思うでしょう。

 しかし私には、何かこの選手から伝わって来るものを感じませんでした。投手らしくその所作にはきめ細やかさも感じますし、けして意識の低い選手ではないように思います。しかし彼を見ていると、本当に普通の高校生という感じの子で、高校からプロで飯を食って行こうというギラギラものが伝わってきません。試合後情報を集めたところ、彼は進学希望だと訊いてなるほどなと思いました。

 彼が最終的にどんな選択をするかはわかりませんが、私は素直に大学に進む方が彼のためには好いなと感じます。素材は素晴らしいので、プロ志望届けを提出すれば中位前後で指名されても不思議ではないでしょう。しかし私が見る限り、彼はまだプロ入りの「旬」ではない、そんな気がしてなりません。

 恐らく中央の大学もほっとかないと思いますので、六大学や東都あたりに進学して来ると思います。そういった中で、何か自覚が芽生えて来るようだと将来期待できます。もう少しアマで、その成長を見守ってみたい選手でした。


(2014年 春季北信越大会)