13sp-35





阿知羅 拓馬(27歳・中日)投手の藁をも掴むへ







阿知羅 拓馬(21歳・JR東日本)投手 190/95 右/右 
 






                    「高校以来見ていないような?」





JR東日本の試合は、毎年5試合以上は見ていると思う。しかしこの投手を、JR東日本入社以来見たことがあるのか?と言われると、私の記憶には全くない。そこで動画では幾つか彼の投球が確認できたので、高校時代の寸評と合わせてレポートを作成してみたい。もちろん今年度確認出来ていないので、評価づけはできないことをご了承願いたい。





(投球内容)

190/95 という恵まれた体格から投げ込まれる、正統派の本格右腕。

ストレート 135~140キロ台前半

 すでに高校時代からこのぐらいの球速で投げていたのですが、社会人での動画を見ても大体このぐらいの球速であり、特に大幅に球威・球速が伸びたわけではないようだ。ドラフト指名後に行われた、日本選手権に向けての練習試合でも、MAX141キロだったという記事があることからも、その傾向に変わりはない。

 高校時代の寸評を読むと、球速ほど球威・勢いが感じられない球であり、コースを突いた球でも打ち返されてしまうとの記述が残っている。しかし社会人での動画を観る限りは、以前よりも球威は加わってきた印象はある。今年の公式戦では、24イニングを投げて被安打15本と、被安打率62.5%であり、基準である70%割るなど以前ほど合わせやすくはなくなっているのではないのだろうか。

変化球 カーブ・スライダー・フォークなど

 動画を観る限り、横滑りするスライダーとのコンビネーション。これにカーブをたまに混ぜたり、フォークような縦の変化球もあるが、それほど絶対的な威力は感じない。特に相手を仕留められるような球種があるのか疑問だったが、今シーズンの公式戦24イニングで奪三振は22個。奪三振率は、1イニングあたり0.92個と、リリーフ投手としても基準を満たすレベルに達しており、最近は三振が取れる投手になりつつあるようだ。

(投球のまとめ)

 動画を観る限りは、ストライクゾーンの枠の中にはボールを集められるものの、細かいコントロールはなさそう。今シーズンも24イニングで四死球は14イニングあり、四死球率は 63.6%(基準は33.3%以下)と極めて高く、コントロールに大きな不安があることがわかる。投球を組み立てる云々以前に、このレベルだとストライクを取るのにも四苦八苦するレベルであり、プロの打者相手では尚更苦労する可能性が。

 以前よりも、ボールの威力・決め手という部分での成長は感じられるものの、まともに投球ができるのかという不安は否めない。あくまでも素材型の域を脱しておらず、数年はファームでの育成が求められるのではないのだろうか。



(投球フォーム)

 動画の部分的な映像だけでは厳しいので、今年の投球フォームの映像を元にフォーム分析をして、少しでも本質に近づければと思います。

<広がる可能性> ☆☆☆☆

 引き上げた足を高い位置でピンと伸ばせており、お尻は一塁側に落とせます。すなわち体を捻り出すスペースは確保出来ているので、カーブで緩急をつけたりフォークのような縦の変化球を投げるのにも無理はありません。

 「着地」までの粘りも悪くないので、体を捻り出す時間もまずまず。そういった意味では、カーブで緩急、フォークなどの縦の変化球だけでなく、いろいろな球種を武器にもっとピッチングの幅を広げて行けるのではないのでしょうか。

<ボールの支配> ☆☆

 抱えているグラブが、最後後ろに抜けてしまっています。これだと、両サイドへのコントロールも不安定になりがち。足の甲では地面を捉えられているように見えるので、ボールが上吊らないように見えるのですが、実際には結構高めに行くケースが目立ちます。その最大の理由は、「球持ち」が浅く、ボールを押し込めていないからでは? この辺の指先の感覚の悪さが、コントロールのアバウトさにつながっていると考えられます。

<故障のリスク> ☆☆

 高校時代もエースだったわけでもないですし、社会人に入っても大きな大会では投げていないなど、無理をさせられたことはありません。お尻を落とせる投手なので、カーブやフォークなどを投げても、肘への負担は少ないのでは? しかし振り下ろす腕の角度を見ていると、執拗に角度をつけすぎており、腕の送り出しがスムーズではありません。高校時代故障して伸び悩んだように、今でも肩への負担が大きなフォームで投げているのは、プロの環境を考えると不安です。

<実戦的な術> ☆☆☆☆

 「着地」までの粘りはあり、体の「開き」も抑えられているのは評価できます。高校時代は、コースを突いても合わせられやすかったのを考えると、ここは大きく成長した部分ではないのでしょうか。

 気になるのは、手足の長い体型でありながら「球持ち」の浅さからか振り下ろし腕が身体に絡んできません。もう少し腕を振れるようにならないと、変化球が生きて来ないのではないのでしょうか。

 下半身の体重移動は見事で、ボールにも体重が乗せられており球威のある球が投げられています。フィニッシュの段階でも地面を力強く蹴り上げられており、大型ですが下半身が使えるのは魅力。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」以外の部分では優れているのがわかります。大型ですが、結構実戦的なフォームなのは評価できるポイント。

 しかしコントロールを司る動作や故障のリスクが高いことを考えると、充分に推すことはできません。



(最後に)

 アバウトなコントロールと故障のリスクが高いという2つの大きな不安要素が、彼の将来に暗い影を落とします。いずれにしても即一軍でというタイプではないでしょうし、高卒3年目の21歳ということを考えると、1,2年ファームでという形でも致し方ないのではないのでしょうか。

 この辺は、中日の育成力の高さを信じ、これらの不安を払拭する成長を期待するしかありません。実際に見たわけではありませんので評価付けは出来ませんが、恐らく見ていても「旬の時期」と評価したかは疑問です。ただし数年後にどんな投手になっているのか、大変興味深い投手でした。

 







阿知羅 拓馬(岐阜・大垣日大)投手 187/85 右/右 


(どんな選手?)

 中学時代から話題の大器だったそうですが、故障などもあり伸び悩んでいる本格派です。神宮大会では、試合の最後に少しだけ出てきただけなので、正直よくわかりませんでした。今回少しじっくり見られたことは、大いに参考になりました。

(投球内容)

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。その速球は、常時135~MAXで140キロを超える程度。その球速以上に、ボールに球威・球速がなく、やや物足りないものに見えました。変化球は、少し押し出すように投げるカーブ・スライダー・フォークなどがあるようですが、まだまだ絶対的な球種ではないようです。

 制球は、外角中心に球は集められるのですが、ボールが見やすいのか、それほど甘くない球でも痛打される傾向にあります。フィールディングなどは悪くありませんが、試合を作ったりするセンスは並みで、それほど際立つものは感じられませんでした。

 投球フォームは、お尻を一塁側にある程度落とせますし、着地も少し前への逃がしがあるので、早すぎることはありません。そういった意味では、将来的にも見分けの難しいカーブや縦の変化も期待できます。

 グラブもしっかり内に抱えられているのですが、足の甲の押し付けが浅いので、ボールは高めに抜けやすいです。それを無理に高い位置から腕を振り下ろすことで、抑えようとしているところに、この選手の腕の振り滑らかさを損なっております。

 フォームが直線的で、球が見やすいので「開き」も自然と速くなります。腕を無理に高い位置から投げ下ろすので、体への負担が大きく、故障に泣かされてきたことも頷けます。「球持ち」自体は良いですし、腕もしっかり振れるところは魅力です。あとは、「体重移動」が上手く行っていないので、これが上手くできると、もっとウエートがボールに乗って、手元まで勢いのある球が行くのではないのでしょうか。

(今後に向けて)

 正直、秋から春に向けては伸びてきませんでした。この冬も順調ではなかったのかもしれませんんが、もう少し腕の振りを緩和して、自然体の角度を身につけたいですね。そうすれば体への負担も減り、フォーム全体にも良い循環が生まれそうです。

 あとは、球威・球質が物足りないので、速球のレベルアップを期待したいです。腕の振りもお尻の落としも悪くない選手なので、速球が良ければ、変化球も振ってくれるようになると思います。持っている素材は悪くないので、それを活かす術が身につけば、まだまだ期待が持てます。ただそれは、大学などに進んで、良い指導者に恵まれたり、高い志があってのこと。3,4年後の将来を期待して、今後も見守って行きたいと思います。


(2010年・選抜)



(どんな選手?)

 神宮大会では、故障明けのため背番号10を付けていた選手です。右の本格派で、将来性豊かな投手です。ただ神宮大会では、決勝戦の最後の最後で登場するなど、まだまだ万全の状態ではなかったようです。

(投球内容)

 右の正当派右腕で、悪い癖がないフォームです。ストレートは、135~140キロ前半ぐらいでしょうか。他にスライダーやチェンジアップのような球があるようです。ズバッとコーナーに決まる大胆さが魅力の投手なのですが、まだまだスライダーなど変化球の精度に課題がありそうです。

 物凄いスケール・ポテンシャルを秘めている素材かと言われると微妙ですが、破綻のない成長が期待出来る選手で、安心してその成長が見守れる選手です。そのためこの一冬で、何処まで変化球や細かい制球力も兼ね備えた成長が出来るか注目したいですね。選抜では、140キロ台の速球で、全国のファンにその存在感をアピールしてくれそうです。

(今後は)

 一学年下に、非常に実戦派の葛西と言う左腕がおります。神宮大会でもほぼ一人で大会を投げ抜き、経験と自信を付けたはずです。その彼に比べるとまだ阿知羅は、経験・実績では劣る部分があるはずです。ポテンシャルでは葛西を上回る球の威力がありますが、総合力ではまだ彼に劣る印象です。

 まずは、一冬超えて丈夫な身体をつくり、チームのエースになることを期待したいところです。神宮大会では、まだまだ万全と言う状態ではなかったでしょうから、ぜひ良い状態の彼を観てみたいですね。神宮大会組では、一冬超えた上積みを期待出来る数少ない素材でした。その将来像に触れるのは、選抜までの楽しみにとっておきたいと思います。

(2009年・神宮大会)