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寺田 哲也(ヤクルト)投手のルーキー回顧へ







寺田 哲也(香川OG)投手 185/92 右/右 (作新学院-作新学院大-BC新潟) 
 




                      「まるで一軍投手」





 よく一軍で実績のある投手が、ファームで調整登板することがある。そこで一番実感するのは、球威・球速の差ではなく、圧倒的にコントロールとテンポの違い。一軍で実績のある投手は、ポンポンとストライクを先行させ、常に自分の有利な状況を作り出し、テンポよく相手を討ち取ってゆく。そんな投球ができるのが、この 寺田 哲也 なのだ。

 寺田は、これまでBCリーグの看板投手として活躍。BCで最もプロに近い男と言われ続けながら、指名されない年が続いた。しかし今年は、心機一転四国アイランドリーグに移籍。状態・成績自体はイマイチだったものの、悲願のプロ入りを実現した。


(投球内容)

 寺田のベストシーズンは、私が知る限り2012年度。独立リーグ日本一を争う、グランドチャンピオンシップでの投球は圧巻だった。その時は140キロ台中盤を連発し、それまでのイメージを一変。チームを日本一に導いたその時の監督が、ヤクルトの現ピッチングコーチである 高津 臣吾 だった。その縁もあって、ヤクルトから指名されたのではないのだろうか。

ストレート 常時130キロ台後半~140キロ台中盤

 今年の寺田は、アイランドリーグ選抜の一員として関東の遠征。そのときは、常時130キロ台後半~MAX89マイル(142.4キロ)と、球威・球速は少し物足りなかった。しかしソフトバンク三軍の交流戦の模様を見ると、キレのある140キロ前後~中盤ぐらいは出ていそうなボールは投げており、まだまだ球速に陰りが見えているわけではないことがわかった。

 先に述べた通り、ストライクを先行させる確かなコントロールと、自分のペースに引き込んでゆくピッチングの上手さが光ります。元々ボールがキレ型だけに、球速が出ていないと球威がないぶん見栄えがしません。その辺が、年間をとおしてみた時に、どうなのかな?という不安は残ります。しかしBC時代の実績は充分なので、それほど気にしなくても良いのかもしれませんが。

変化球 カーブ・スライダー・チェンジアップ・フォークなど

 球種はかなり多彩で、ひと通りものを持っています。今年の関東遠征では、緩いカーブを見せてアクセントにしていました。しかし普段は、横滑りする小さなスライダーを低めに集めたり、チェンジアップなどを織り交ぜて来るコンビネーション投手。それほど、何か絶対的な武器があるわけではありません。しかしボール球を振らせる技術はあるので、その辺で三振を取ることができます。

その他

 ピッチングの上手さ・コントロールの良さはありますが、クィックは1.2秒台とそれほど早くはありません。牽制はまずまず鋭いものはありますが、走者を刺すというほどではないような。

(投球のまとめ)

 27歳という年齢なだけに、今後の上積み云々ではなく、今ある能力でどのぐらいやれるのかという完成されたタイプ。私の見立てならば、今の力でも一軍でもソコソコやれるのではないかという気は致します。ただしプロの先発としては、やや球威・球速が物足りず、リリーフで大事なところを任せるのには少し決め手不足の感じも致します。

 しかし投手陣の崩壊したヤクルトならば、充分に出番が巡ってくるはずですし、経験豊富なマウンド捌きで、一年目から一リリーフとしての活躍は期待できそう。今年の独立リーガーの中では、この寺田が一番のオススメです。

(成績から考える)

 BC時代の圧倒的な成績に比べると、今季のアイランドリーグの成績は物足りない。それでも傾向はおおよそわかると思うので、参考にして欲しい。今季の成績は

43試合 6勝4敗6S 防御率 2.91(10位)

BC時代は先発で活躍した投手だが、アイランドリーグではリリーフとして新たな魅力を示すことができた。

1,被安打はイニングの80%以下 △

 148回1/3イニングで、被安打は125本。被安打率は、84.2% と基準を満たすまでには至らなかった。この辺は、シーズン序盤は調子が上がらなかったこともあるが、やはり球威という意味では物足りない部分があったことも影響しているのではないのだろうか。しかし彼のベストシーズンだと思えた2012年でも87.3%あるので、元もと被安打率は高い投手なのかもしれない。

2,四死球は、イニングの1/3以下 ◯

 四死球は45個であり、四死球率は30.3%であり、基準を満たすことができている。元来調子が良ければ、もっと精度が高い数字も期待できるのではないのだろうか。ちなみに2012年度は、24.1%であるから、やはり調子が悪かったことが影響していたのだろう。

3,奪三振は、1イニングあたり0.9個以上 ◯

 リリーフでの登板も多かったので、リリーフでの基準を当てはめてみた。奪三振は145個で、1イニングあたり 0.98個 とほぼイニング数と同等の数を奪っている。2012年度との一番の違いはここで、0.87個だった奪三振が更に三振が奪えるようになっている。

4、防御率は1点台 ✕

 防御率は 2.91 とかなりファクターからは離れている。しかも2012年度も 14勝4敗 と活躍しながら、2.60 ということで、それなりに失点する投手なのではないのだろうか。この年のBCには、1点台の投手が3人いたようなので、けして不可能な数字ではないのだろう。ちなみに年のアイランドリーグ1位は、元NPB の 正田 樹 (愛媛)左腕の 1.02 であり、他に元マイナーリーガーの 河本 ロバート(徳島) も 1.70 qを記録している。

(データからわかること)

 こうやって2,012年度のBC時代の成績とくらべても、被安打が多いのと、防御率がいまいちなのは、同様の傾向が観られる。変わった点は、リリーフ登板が多くなり、より三振が多く奪えるようになったことではないのだろうか。

(フォームから考える)

2012年度もフォーム分析をしているので、そのときと比較しながら考えてみたい。

<広がる可能性> 
☆☆☆

 比較的高い位置で足をピンと伸ばすので、割合お尻は一塁側に落とせます。そういった意味では、カーブで緩急をつけたり、フォークのような縦の変化球を投げるのにも無理は感じません。

 しかし「着地」までの粘りは平均的で、それほど嫌らしさあるわけではありません。体を捻り出す時間が充分ではないので、絶対的な変化球を習得し難い要因ではないのでしょうか。

<ボールの支配> 
☆☆☆☆

 グラブは最後まで内に抱えられており、両サイドの投げ分けは安定。足の甲の押し付けも深く、ボールも低めに集まりやすいはず。「球持ち」は並ですが、指先の感覚はまずまず。優れたコントロールの持ち主であると、フォームの上からも言えます。以前は膝小僧に土が着くぐらい深く、返ってそれがボールを上吊る要因でした。その辺は、多少緩和されているのではないのでしょうか。

<故障のリスク> 
☆☆☆☆

 お尻はある程度落とせるので、カーブやフォークといった体を捻り出して投げる球種でも、肘への負担は少ないはず。腕の角度にも無理がないので、肩への負担も少なそう。そういった意味では、故障の可能性は低そう。

<実戦的な術> 
☆☆☆☆

 「着地」までの粘りは平均的なので、それほど打者としては苦にならないフォーム。そのため、体の「開き」も平均的でしょうか。

 振り下ろした腕は体に絡み、速球と変化球の見極めは困難。ボールにも適度に体重を乗せられ、打者の手元まで勢いは落ちません。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「体重移動」はともかく、その他の部分に欠点はありません。しかしながら、その辺が嫌らしさにも欠ける部分でもあり、被安打の多い理由ではないのでしょうか。

 故障のリスクが少ないのと、コントロールを司る動作に優れている点が、推せる材料。フォームではなく、投球術やコントロールに優れ、相手を抑えるタイプ。


(最後に)

 凄み・嫌らしさよりも、ピッチングの上手さ・テンポの良さ・制球力で投球を組み立てて来る好投手。それだけに、コントロールを乱すと、球威・球速は抜けたものがなく、ちょっと怖いかなと思える部分もあります。しかしリリーフならば、140キロ台中盤を叩き出し、その部分の物足りなさは薄れます。

 実力的には一軍半ぐらいの投手、そんな気も致します。しかしここまでの高齢での指名だけに、開き直ってピッチングができれば、一年目から一軍の戦力になっても全然不思議ではありません。10年プロで飯を食ってきたような投球術に期待して、指名リストに名前を残してみたいと思います。


蔵の評価:
☆☆


(2014年 アイランドリーグ選抜関東遠征)














寺田 哲也(25歳・BC新潟)投手 184/87 右/右 (作新学院-作新大出身) 
 




                  「何故指名されない?」





2012年度のBCリーグにおいて、最もプロに近い存在だと言われていた 寺田 哲也 。リーグ最多の14勝をあげるなど存在感を示したが、結局ドラフトでの指名がないまま終わってしまった。そこで、寺田 哲也 に何が足りなかったのか? 今回は、考えてみたい。

(その変化)

作新学院大時代から、チームの不動のエースとして活躍。非常に綺麗なフォームから、キレのある135~後半ぐらいの球を投げ込む好投手とのイメージが強かった。今年BCリーグで最もプロに近い存在と言われるようになっただけあって、球速はコンスタントに140キロ台を越え、先発でもMAX146キロを記録するなどストレートに磨きがかかったことは間違いない。それでも、指名されなかったのは何故なのか?

(投球内容)

ノーワインドアップで、マウンドでは落ち着いており、自分の間を持ってゆったり構えます。しかし一端フォームに入ると、勢いよく足を引き上げてきます。

ストレート 常時140キロ~MAX146キロ

球威はないのですが、いわゆるキレで勝負する快速球タイプ。そのため打者は、ストレートが来るとわかっていても、思いの他空振りをしたり差し込まれたりします。アイランドリーグとのチャンピオンシップでは、香川の強力打線の打者達が、軒並み差し込まれていたのは印象的でした。ただ球威はないので、甘く入ると怖い印象はあります。また少し「開き」が早いので、甘くない球を痛打されることもあります。

変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブなど

身体の近くで鋭く曲がる実戦的なスライダー、左の外角に沈むチェンジアップ、たまにカーブなどで緩急も織り交ぜます。そのため球種はひと通りありますが、それほど変化球で空振りを誘えるような大きな変化はありません。

その他

牽制はそれなりに鋭く、クィックは1.2秒ぐらいと平均的。特に特別そういった部分での野球センスの高さは感じませんが、それなりに熟せるといった印象は受けます。

(投球のまとめ)

先発完投を見越して、トータルで試合を組み立てて行くことができます。速球でも変化球でもある程度のレベルにあり、試合を適度に作ることができます。ボールを適度に両サイドに散らし、外角高めのストレートで空振りを誘います。球威がない分、甘くない球を打たれるのが気になるところ。

NPBに育成枠で指名されるぐらいの力は十分あったと思いますが、それを何処の球団にもされなかったのは何故でしょうか?私が考えるに、NPBの一軍を意識するのには、ボールに球威がなく、その辺がプロのパワーと対峙した時に心配だったのではないか? あるいは、25歳という年齢の割には、即戦力で一軍を見込めるという絶対的なものを感じなかったことなどが考えられます。 ではどのへんが物足りなかったのか、彼が残した成績から考えてみたいと思います。





(成績から考える)

今年、寺田投手が残した成績は

24試合 14勝4敗 防御率 2.60。

14勝は、リーグの最多勝であり、防御率 2.60は、リーグ8位の成績でした。もう少し詳しく数字を見てみると

166回 145安打 四死球40 奪三振145

この数字を、いつものようにファクター別にして考えてみましょう。

1、被安打はイニングの80%以下 ✕

被安打率は、87.3%。実際のところ、このデータはNPBの二軍の選手が、一軍を意識する時に使用するファクターなので、BCリーグのレベルが二軍と三軍の間ぐらいなことを考えると、むしろ設定を70%以下に設定したいぐらい。そう考えると、やはりコンビネーションやボールの見やすさなど、ヒットを浴びやすい要因が大きかったことがわかる。

2、四死球は、イニングの1/3以下 ◯

四死球率は、24.1%と、基準である33.3%以下に抑えられており、ある程度思い通り投球を組み立てられていたようだ。四死球で自滅するような危うさは、その投球からは感じられない。

3、奪三振は、先発なら0.8個以上 ◯

1イニングあたりの奪三振数は、0.87個 と先発としての基準を満たしている。NPBの打者ならば、彼のストレートをそこまで空振りするとは思えないし、変化球も絶対的な球があるようには見えない。その辺の疑問は残るが、リーグでかなりの奪三振を奪えており、球の威力が優っていることを裏付ける。

4、防御率なら 1点台以下に ✕

独立リーグの打力を考えれば、防御率は1点台以内は抑えていて欲しかった。現にBCリーグには、1点台の投手が3人いたわけで、けして不可能な数字ではなかったはず。

(データからわかること)

条件を満たすファクターと満たさないファクターが混在し、仮に指名してNPBに混ぜた場合は、やはりファームレベルの投手に留まる可能性が高いのではないかという気はして来る。そう考えると25歳の年齢がネックになり、育成枠で獲得するのはどうだろうか?という疑問は、各球団持っても不思議ではない。

しかし彼は来年もNPBを目指すのだろうから、何処を改善してゆけば良いのか、フォームの観点から考えてみたい。

(投球フォームを考える)

<広がる可能性> ☆☆☆

引き上げた足を、比較的高い位置でピンと伸ばします。そのため、お尻の一塁側へ落とすスペースは確保出来ています。そういった意味では、無理なくカーブで緩急を利かしたり、フォークのような鋭い縦の変化も期待できます。

しかし現時点で絶対的な変化球のキレを生み出せないのは、「着地」までの粘りが足りず、十分身体を捻り出すだけの時間が確保できないからでしょう。そのため変化球のキレや曲がりの大きな球が投げられないと考えられます。もう少し「着地」を意識することで、フォームにも粘りが出てきて、淡泊さも薄れるとも考えられます。

<ボールの支配> ☆☆☆

グラブは最後まで内にシッカリ抱えられているというタイプではなく、結果的に身体の近くに留まっているといった感じ。まぁもう少し胸元あたりで抱えられれば、ボールのバラつきも減るのかなという印象は受けます。

足の甲の地面への押しつけも、膝小僧が着くほどですが、逆にスパイクのエッジは上手く効かせられておらず、ストレートの多くは真ん中~高めに浮きがち。これは彼のストレートのキレで生きているも確かですが、痛打を浴びる危険性も否定できません。「球持ち」は悪くないので、指先の感覚は悪くはないのでしょう。その辺が、四球の少なさにつながっているのだと思います。

<故障のリスク> ☆☆☆☆

元々お尻が落とせる割に、カーブやフォークといった球種を多くは投げないので、負担は少ないはず。更に振り下ろす腕の角度にも無理がないので、肩への負担も少なそうです。そういった意味では、故障の可能性が低いのは彼の強みではないのでしょうか。

<実戦的な術> ☆☆☆

「着地」までの粘りがあっさりしていて、自然と「開き」も早くなり、比較的合わせやすいフォーム。これは、上のレベルの打者相手ならば、より顕著に実感することになるのではないのでしょうか。

振り下ろした腕は身体に絡むだけのものがありますが、「体重移動」はもうひとつ。そのためボールに体重が乗せられず、打者の手元まで球威のある球が投げられません。彼のボールが軽いのは、このウエートの乗せ方に課題があると考えられます。

(投球フォームのまとめ)

投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点でみると、「球持ち」は悪くありませんが、「「着地」「開き」「体重移動」に、さらなる工夫が求められます。

(最後に)

落ち着いたマウンド捌き、試合をトータルで作れる能力、ボールの球速・キレはドラフトレベルです。あとは、相手に合わされにくいフォームの追求と、ボールに球威をつける力強さが、彼の課題ではないかと考えられます。

その辺が備われば、プロの一軍でも即戦力が見込めると評価され、昨今の高齢指名の傾向を考えれば、まだまだ指名される可能性は捨て切れません。ここは、最後の勝負とばかり、来年は大胆な改善を期待したいですね。この年齢にして、球速を伸ばしてきた努力できる才能は、高く評価したいと思いますので。


(2012年 独立リーグチャンピオンシップ)