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鈴木 翔太(25歳・中日)投手の藁をも掴むへ







鈴木 翔太(聖隷クリストファー)投手 183/71 右/右 
 




                    「上積みがなかった」



秋の時点では、全国NO.1の右腕であり、ドラフト1位の可能性も充分考えられた 鈴木 翔太 。しかし最終学年では、春から調子が上がらず殆ど登板なし。なんとか、最後の夏に間に合わせた、そんな印象は拭えなかった。

 滑らかな体重移動・しなやか腕の振り、糸を引くような球筋、マウンドでの所作などは、まさに投手をするために生まれてきたような男。イメージとしては、マエケンこと 前田 健太(PL学園-広島)投手を彷彿とさせる。

(投球内容)

 ワインドアップで振りかぶるが、足の引き上げの勢いが大人しく、引き上げる高さも低く静かにゆったりと投げ込んでくる。

ストレート 常時135~140キロ台前半

 ストレートの伸び、球速は、かなり昨夏に近いレベルまで回復していたように思う。ただし昨夏は、もう少し低めでボールが伸びていた感じだが、全体的にボールが高かったのは投げ込み不足がたたったのだろうか?それでも球速以上に感じさせる、独特の糸を引くような球筋は健在。この夏のMAXは141キロだった(彼のMAXは143キロ)だが、実際見ていると常時140キロ前後はでているような感覚に陥る。

 ただし昨夏の好い時期を知っているので、そのときより良くなっているかと言われれば、まだそこまではゆかない。少なくても不調などもあり、昨年より成長したとか、凄みを増した印象は全くない。あくまでも昨年の調子に9割程度戻りつつあった、そんな最後の夏だった。

変化球 スライダー・チェンジアップ

 昨夏は、ブレーキの効いたカーブが緩急のアクセントになっていたが、今年はそういったボールは見られなかった。スライダーも結構高めに抜けることが多く、精度としてはもうひとつ。むしろ、左打者の外角に沈むチェンジアップが非常に効果的。彼の場合速球に勢いがあるので、スライダーもチェンジアップも見極めが困難で、打者としては思わず振ってしまう勢いがある。曲がり自体極端に大きいわけではないのだが、変化球の威力は充分だった。

その他

 牽制は、殆ど投げません。パッとマウンドを外すのに使ったり、投げても軽いもので走者を刺そうという感じのものではありません。しかし昨年あたりは、たまに鋭い牽制を魅せていたので、そういったことができないわけではなさそう。

 クィックも1.0~1.2秒ぐらいでまとめられ、フィールディング自体も上手く、そういった投球以外のセンスにも優れ、総合力の高さを感じます。

(投球のまとめ)

 春先からの実戦不足が影響してか? 変化球の精度・微妙な制球・本当の意味でのストレートの勢いは、完全に回復したとまでは言えません。

 それでも「間」を意識したり、パッとマウンドを外し危険を回避させるあたりは、天性のセンスを感じます。打者を圧倒するような凄みは感じませんが、投手としての筋の良さはピカイチで、初めてこの試合を見た人でも、その素質の片鱗は伺うことができたのではないのでしょうか。投手としての伸び代を、感じずにはいられないでしょう。

(投球フォーム)

 惚れ惚れするような投球フォームではあるのですが、実戦では結構打たれていました。では、技術的にどのへんに問題があるのか? 投球フォームを見ながら考えてみたいと思います。

<広がる可能性> ☆☆☆

 引き上げた足を高い位置で伸ばせるので、お尻を一塁側に落とせます。そのため体を捻り出すスペースは確保できているので、カーブで緩急を効かしたり、フォークのような縦の変化の修得にも無理がありません。

 ただし昨夏より悪くなったのは、「着地」までの粘りがなくなったこと。これにより体を捻り出す時間が、確保できなくなりました。そのため変化球が曲がりきらない事態に陥り、昨夏まで魅せていたカーブやフォークといった変化球が見られなくなった要因かもしれません。いずれにしても「着地」の粘りは、投球フォームの核だけに、ここを改善しないかぎり彼の復活はありえません。

<ボールの支配> ☆☆

 昨夏までは、グラブを最後まで内に抱えられていました。しかし今年は、投げ終わったあとにグラブが後ろに抜けてしまいがちでした。これでは外に逃げる遠心力を充分に抑えきれず、球筋が安定しません。また足の甲での地面への押し付けも甘くなり、ボールを低く抑え込めなくなっていました。これだけ上体がブレてしまえば、指先の感覚に優れた彼でも、細かいコントロールに苦しんだのは当然でしょう。昨夏までは出来ていたので、今後元に戻すことができると期待します。

<故障のリスク> ☆☆☆☆

 お尻も落とせますし腕の振り下ろしにも無理がなかったので、故障の可能性は低いと判断していました。今回の不調が、何処かを痛めてのものか、フォームの狂いからきたものかは定かではありません。アフターケアには充分意識して、体の手入れを行って欲しいと思います。

<実戦的な術> ☆☆☆

 「着地」までの粘りが悪くなり、打者としては合わせやすくなっていました。そのため体の「開き」も早くなり、打者としてはいち早く球筋を読むことができたはず。その辺が、打者を圧倒できなかった大きな要因かと。

 腕の振りも、昨年はもっと体に絡んで来ていたように思います。ボールへの体重の乗せは悪くなかったので、ウエートが増してくれば更に球威のある球も期待はできるでしょう。

(投球フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」と「開き」が悪くなり、打者からは打ちやすくなっていたはず。更に制球を司る動作にも狂いが生じ、微妙なコントロールにも影響していました。やはり故障による影響で、投球フォームにも大きく影響していたことがわかります。

(最後に)

 ボールの勢いや投球フォームの狂いは、充分に立て直しが可能だと思います。あとは、故障などの問題がなければ、持っている素材は素晴らしいので、大いに期待して好いのではないのでしょうか。狂ったフォームをしっかり修正・指導してくれるチーム・指導者に恵まれることを祈ります。

 昨夏からの成長分はないのですが、大きく素材を損なったわけではないので、依然高い評価をしても好いと思います。だからといって上位指名となると厳しいので、3位・4位ぐらいの指名にとどまる可能性は充分あります。少し戦力的に余裕のあるチームが、獲得すべき選手ではないのでしょうか。それでも高校からプロに進むべき素材であり、近い将来どんな選手に育つのか、期待して見守って行きたいと思います。この一年の上積みはなくても、全国の高校生右腕ではNO.1の投手だと評価します。

蔵の評価:☆☆☆

(2013年夏 静岡大会)









 鈴木 翔太(聖隷クリストファー2年)投手 183/71 右/右
 




                  「1位で消えるじゃないの」





スラッとした投手体型から、まさに正統派といった感じのクセのない綺麗なフォーム。一筋に伸びてくる球筋の良さ、ひと目みれば、この投手が只者ではないことはわかる。ただフォームが綺麗、ストレートが速い、そいった素材型なのかとおもいきや、いや中々それだけの投手ではなかったのだ。


(投球内容)

ストレート常時140キロ前後(MAX143キロ)

ストレートは、グワーンと伸びてくるので、その球速以上に打者の手元まで来る感じで空振りを誘える。特に力を入れた時のボールは、すでに140キロ台中盤は出ているのではないかという勢い。まだボールは低め膝下に決まったり、高めに行ったりとバラつきはあるが、ピンチになると右打者の内角を厳しく突いて来るのがこの投手の投球スタイル。

ただ左打者に対しては、指にボールが引っ掛かり過ぎて内角低めのボールゾーンに行ったりする。また全体的に、左打者への制球はアバウトで、右打者ほど思い通りのコントロールできないようだ。

変化球 スライダー・チェンジアップ、フォーク、カーブ など

カーブを除く変化球は、非常にスピードがあり、速球との見分けが困難な球ばかり。右打者の外角や左打者の外角に決まるスライダーは、身体の近くで小さく鋭く曲がる実戦型。また意識的だと思うのだが、シュート回転して沈むチェンジアップのような球も。投球に余裕があると、小さくブレーキの効いたカーブを、右打者外角低めに集めて、ゴロの山を築く。最大の武器は、高速で沈むスピリット気味のフォークボール。私は観戦出来なかったが、夏の静岡高校戦では、そのフォークが素晴らしかったという。その次の浜松工業戦では、フォークの精度はもう一つだった。まだまだ日によってこの球の精度にもバラつきがあるようだ。

投球は、ストレート中心に組み立てているのだが、思いのほか変化球の制球力・キレが実戦的で驚いた。ストレートはバラついても、変化球の多くは低めやコースに決まるなど精度は高い。

その他

牽制は、マウンドを外して投げるフリまではするが実際投げる場面は少ない。ただ鋭く牽制できないわけではない。むしろ走者を刺そうというよりは、マウンドを外して「間」をとっている意味合いが強い。クィックは、1.0秒前後~1.1秒ぐらいで、かなりの高速クィックも身につけている。フィールディングの動きもよく、フライでも自分から取りに行く。肉体の資質に頼ったタイプではなく、野球センスに秀でたタイプ。

(投球内容)

昨年の武田 翔太(日南学園-ソフトバンク)のような圧倒的なポテンシャルで押して来るタイプではない。各所作にセンスの良さが感じれる選手で、力と技を組み合わせて来るタイプ。むしろピッチングスタイルは、釜田 佳直(金沢-楽天)の方が、むしろ近いタイプではないのだろうか。釜田よりも体格に恵まれているだけ、1位指名の期待が高まる。

投球のチェックポイントとしては、左打者への制球。カウントが悪くなると、立て直すことが出来ず四球を出してしまう。そういった、本当のコントロールがまだこと。またストライクだと思っていた球が、審判にボールだと判定されてしまうと、その後踏ん張りきれずに四球を出してしますセルフコントロール。この辺が、今年は改善されているかみてみたい。

あとは、自分の資質を伸ばして行こうとするだけの、貪欲さと新しいものを身につけて行ける器用さがあるかではないのだろうか。すでに夏の時点で、一学年上の選手に混ぜても上位指名されるぐらいの素質の高さを示していた。更に一冬超えて資質を伸ばすことができれば、1位指名で消える可能性は高いと言えよう。武田翔太のように、全国の舞台を踏まなくても「高校NO.1」と言われる存在になるかもしれない。





(投球フォーム)

今度は、投球フォームの観点から、今後の可能性を模索してみたい。

<広がる可能性> ☆☆☆☆

引き上げた足を高い位置でピンと伸ばせており、お尻は一塁側に落とせます。そのため無理なくカーブで緩急を利かしたり、フォークのような縦の変化を投げることができます。

「着地」までの粘りも悪くないので、今後もいろいろな変化球を身につけ、コンビネーションに組み込んで行くことが期待できます。

<ボールの支配> ☆☆☆☆

グラブは最後まで身体の近くにあるので、両サイドへの投げ分けは安定。足の甲での地面への押しつけも悪くないので、低めにボールが行くこともあります。「球持ち」も良く見えるのですが、まだリリースにバラつきがあるのか、速球の球筋が安定しないことがあります。一冬超えて来ると、だいぶ変わって来るのではないのでしょうか。

<故障のリスク> ☆☆☆☆

お尻も落とせますし、腕の振り下ろしにも無理がありません。それにそれほど力投派でもないので、身体への負担も大きいタイプではないでしょう。フォームにクセがないので、故障の可能性は低そうです。

<実戦的な術> ☆☆☆

「着地」までの粘りは平均的で、身体の「開き」も並でしょう。極端に打ち難いような粘っこいフォームではありませんが、合わせすいといったほどのタンパクさもありません。

腕も身体に絡んできますが、更にオフの間に腕の振りの鋭さが磨かれると更に厄介です。ボールへの体重の乗せも悪くないので、打者の手元まで勢いが落ちません。ただ球威で詰まらせる、そういった球は投げ込んでいません。

(投球フォームのまとめ)

投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動では、「球持ち」がよく、「着地」「開き」「体重移動」が、現時点では平均的でしょうか。もう少し下半身の鍛錬と股関節の可動域が広がると、この辺の部分も更に良くなりそうです。特に悪い部分は見つからず、更によくなる可能性を感じます。

(最後に)

持っている投手としての器、そして2年夏の時点で示したパフォーマンスは、全国の2年生右腕の中でも、私が知る限りNO.1だと思います。あとは、その高い資質を活かすだけの器用さ。その能力を広げて行ける感性と野球頭脳。何より一番求められるのが、現状に満足することなく、自分の才能を伸ばして行こうとする努力できる資質があるかということ。それさえ兼ね備えていれば、文句なしの1位候補として推せる投手だと思います。あえて、過度な期待してみたい、そんな男でした。


(2012年 夏)