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古川 侑利(有田工)投手 178/77 右/右






                      「収まりが悪い」





この夏の甲子園で最も見たかったのが、この 古川 侑利 投手。実際に佐賀まで観戦に行こうか悩んだが、あと少しで甲子園というところまで来ていたので、それに賭けて見に行くのをやめた選手だった。そんななか甲子園緒戦の大垣日大戦で魅せた MAX147キロのストレートは素晴らしかったものの、まだまだ好い球が滅多に見られない未完成さと、ボールが抜け気味なことが多く収まりの悪い投球に、指先の感覚の悪さが気になった。

(投球内容)

 普段は、130キロ台後半~140キロ台前半ぐらい。しかし肩が温まってきたり、勝負どころでは140キロ台中盤のボールを連発できる、余力を秘めた投球が魅力。

ストレート 130キロ台後半~MAX147キロ

 普段は、130キロ台後半~140キロ台前半の球速であり、ややもっさりとしたダルい投球に見えます。実際そう感じさせるのは、ストレートがあまりキレない球質なのと、思い通りのコースに収まらないコントロールの無さからなのでしょう。

 それでも要所で魅せる140キロ台中盤の速球には、球威と勢いが感じさせる厚みのあるボールであり、これはプロを意識できるだけのストレートだと言えます。しかしそういった素晴らしい球が、なかなか良い所に決まらないしコンスタントに投げられないところに、この投手の物足りなさと可能性を感じます。

変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブなど

 甲子園緒戦の大垣日大戦よりも、打ち込まれた常葉菊川戦の方が、変化球はキレていました。特にチェンジアップは、空振りを誘える代物。タイミングを狂わすというよりも、落差があり空振りが誘えます。スライダーも曲がりながら落ちる軌道で、けして打ち込まれる球ではありません。カーブは、たまに隠し味程度に投げるので、それほど投球において大きなウエートを占めていません。

その他 

 牽制は平均レベルであり、フィールディングも特別動きが好いようには見えません。彼を野手として評価するのならば、内野手よりも外野手ということになるでしょう。クィックは、1.05秒前後~1.25秒前後と、結構動きに波があります。動作全般に見て思ったのは、野球センスに優れたタイプというよりも、肉体のポテンシャルが秀でた選手だということ。

 特にマウンド捌き、コントロール、制球力に光るものはなく、むしろ力で相手をねじ伏せるタイプ。

(投球のまとめ)

 ここぞと言う時に魅せるボールと馬力の良さは、まだまだ高い将来性を秘めていると感じます。ただしその一方で、投手としてのセンス・指先の感覚の悪さなどをみると、素材型で終わるか短いイニングで圧倒するリリーフタイプなのかと思います。

 実際調べてみると、右打者には高めに浮いたストレートを、左打者には落ちの悪いチェンジアップを打たれているケースが目立ちます。コントロールミスが多いのと、ボールに見やすいフォームに原因があるのではないのでしょうか。

(投球フォーム)

その辺の事情がフォームによるところなのか、実際に分析してみてみましょう。

<広がる可能性> ☆☆☆

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、腕の振りの緩まないカーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に大きく落ちる球種の修得には適さないように思います。

 しかし「着地」までの時間は稼げているので、カーブやフォークといった球種以外ならば、無理なく身につけられるでしょう。実際にチェンジアップなどのキレはよく、速球派の割に変化球も悪く無い投手ではあります。そういった意味では、まだまだピッチングの幅を広げて行ける可能性は感じます。

<ボールの支配> ☆☆☆☆

 グラブは最後まで内に抱えられ、両サイドの投げ分けは安定。足の甲でも地面を捉えており、ボールがもっと低めに集まっても良さそう。「球持ち」も悪いように見えませんが、実際にはまだボールがばらつきリリースが安定していません。もう少しリリースが安定して来ると、球筋も安定して来るのではないのでしょうか。

 一つ制球を乱す要因を他に探れば、結構反動をつけて投げるフォームなので軸がブレやすいフォームなのと、まだ少し腰高な部分が影響しているのではないかと。その辺が、もう少し改善できるようになると、コントロールの問題は変わって来る可能性は充分あります。この選手ストライクゾーンでのコントロールはアバウトですが、あまり四球を連発して崩れる、そういった制球難ではありません。

<故障のリスク> ☆☆☆

 お尻を落とせないフォームですが、無理にカーブやフォークを投げるわけではないので、それほど悲観しなくて好いでしょう。腕の角度がありますが、それほど大きな負担はかかっていないように思います。ただし回旋の際に、少し腕を縦から無理に押し出しているようにも見えるので、この辺がスムーズに送り出せない要因で制球を乱す可能性として考えられます。負担がかかっているとすれば、この部分が気がかりです。

<実戦的な術> ☆☆☆

 「着地」までの時間は稼げているので、それほど合わせやすいフォームではないのでは。ただし「開き」自体は早いので、いち早く球筋を読まれてしまい、コースを突いたはずのストレートを打たれたり、速球と変化球の見極めがついて甘くなったチェンジアップを打たれる要因になっている可能性があります。

 腕の振り自体は悪くありませんし、下半身の体重移動も思ったほど悪くありません。もう少し上手く下を使えるようになれば、ウエートの乗ったボールをバシバシ投げ込めそうです。

(投球フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、思った以上に「着地」までの粘りがあり、「開き」を除いた部分では、大きな欠点はありません。

 故障の可能性もそれほど高くありませんし、制球を司る動作も土台は悪くないので、将来的に今の制球力が改善される可能性は充分あると考えています。土台となるフォームは、想像以上の投手でした。

(最後に)

 そういった意味では、まだ未完成な投球が今後大きく改善される可能性は充分秘めていると言えるでしょう。時々オッと唸るようなボールを投げますが、その割合が今後グッと増すのではないのでしょうか。

 それでも高校からプロにと考えると、現状の収まりの悪さを考えると悩みます。個人的には、強豪社会人チームあたりで、実戦力を磨いてからでもと思いますが、今年の選手タマの少なさを考えるとプロはほっとかない気も致します。プロの間では打者としての可能性を推す声も強いのですが、これに関しては別のスペースでまた取り上げたいと考えます。ただし私は、あくまでも現時点では投手として彼の可能性を考えています。今後大化けする可能性もあるとは思いますが、現時点では彼を指名リストからは外そうと思います。少なくても大成には4年以上はかかりそうなので、大学・社会人に進む方が好いと判断します。


(2013年夏・甲子園)



 








 古川 侑利(有田工3年)投手 178/77 右/右
 




                     「感性を感じない」





スカウトの中には、古川 侑利 を野手として評価しているものも少なくないという。確かに馬力のある投手だけに、体幹の強さは尋常じゃないので、まともに捉えればビックリするような打球は飛んで行く。しかし彼の打撃を見ていると、ボールを捉える感覚に特別なものが感じられないのだ。高校からプロに入る選手には、何か図抜けた資質を求めたい。


(守備・走塁面)

残念ながら、一塁までの到達タイムは計測できず。投手というポジション柄、佐賀予選の5試合でも盗塁はなし。実際プレーを観るかぎり、足でアピールするようなプレーヤーには見えなかった。

投手としての、牽制・フィールディング・クィックなどの動作を見ていても、切り返しに鋭さは感じられず、打球への反応にも特別なものは感じられなかった。その身のこなしからも、内野手よりは外野手向きなのではないのだろうか。ただ投手として140キロ台中盤を連発できるように、強肩であるのは間違いない。

(打撃内容)

甲子園では、緒戦の大垣日大戦が3打数1安打。次の常葉菊川戦が、4打数1安打だった。打球の多くは、センターから三遊間方向へ引っ張る打球が多かった。

<構え> ☆☆☆

スクエアスタンスで足を揃え、グリップの高さは平均的。腰はあまり据わらず、背筋を伸ばして構えます。両目で前を見据える姿勢や全体のバランスも平均的で、可も不可もなしといった感じです。

<仕掛け> 遅めの仕掛け

投手の重心が下る時に、揃えた足をベース側に持ってきてつま先立ちします。そこから本格的に始動するのは「遅めの仕掛け」。これは、典型的な長距離打者が採用する仕掛けだと言えるでしょう。

<足の運び> ☆☆☆

始動が遅い分、足を引き上げてから下ろすまでの「間」が取れません。そのためあらかじめ狙い球を絞り、その球を逃さない「鋭さ」が求められます。現状は、それほど「鋭さ」は感じられません。

それでもベース側にインステップして、踏み込んだ足元もブレません。そのため外角の球を上手く捉えることができ、体の「開き」を我慢出来ています。内角の捌きが窮屈になる危険性はありますが、打撃の基本である外角球を打つ基本的な形はできています。

<リストワーク> ☆☆☆

打撃の準備である「トップ」の形を作るのが遅れがちで、しっかり作って振り出せません。そのため、中途半端な消化不良のスイングをすることも少なくないのでは?

それでも振り出しには癖がなく、ボールを捉えるまでに大きなロスがありません。更に大きな孤を描き、フォロースルーでも最後には高い位置までグリップを引き上げられているので、ボールを遠くに運ぶことができるスイングです。

<軸> ☆☆☆

足の上げ下げが大きくない割に、目線は結構動いています。それでも、体の「開き」は我慢できています。軸足も少し前に傾くなどツッコミがちで、安定した打撃が望めるかは疑問。ただ軸足の内太もも筋肉は発達しており、ボールを遠くに運べる資質を持っています。

(打撃のまとめ)

ボールを捉える技術や感覚には、疑問を感じます。しかしその半面、始動の遅さ、スイングの孤の大きさ、フォロースルーの生かし方、内太もも筋肉の強さなどが感じられ、ただ体幹が強いだけの選手ではなく、真に長距離砲になれる資質の持ち主だと言えるでしょう。スカウトが特別なものを感じるとすれば、このボールを飛ばせる才能を見出しているのではないかと思います。


(最後に)

個人的には、守備・走塁に光るものは感じられず、ボールを捉える感性にも疑問を感じます。しかし今回細かく見てきて、ボールを遠くに飛ばせる才能の持ち主であることがわかってきました。そういった意味では、高校からプロに入る特別な資質があるのかもしれません。ただ現状は、まず投手をやってダメならば、次の選択肢として野手としての可能性がという、順番で好いのではないのでしょうか。いずれにしても時間はかかりそうで、個人的には高校から指名リストに載せることはないと判断致します。


(2013年夏 甲子園)