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松井 裕樹(桐光学園)投手 174/74 左/左
 




                   「やっぱり最後は松井」




この一年間いろいろな選手を見てきたが、やっぱり 松井 裕樹 が一番だという結論に至った。昨年甲子園で22奪三振を記録したときは、これから注目される中、そのプレッシャーをハネてのけて行けるのか? これ以上、投手としての伸び代は残っているのか? 速球とスライダーだけという、一辺倒な投球を広げて行けるのか? そんな不安がよぎっていた。しかしこの一年 松井 裕樹 を見てきて、その不安を完全に払拭した一年だった。

(投球内容)

 松井のピークは、春季大会~夏の大会直前の練習試合までだったと言われます。夏の神奈川予選では、調子が落ちてしまい思い通りのピッチングができず。結局前年打ち破った横浜高校にリベンジされ、甲子園の舞台を踏めませんでした。そんな松井が春の投球を彷彿させるピッチングを魅せたのは、U-18のワールドカップ決勝のアメリカ戦。ここぞという場面で最高のピッチングを見せるあたりに、松井という男の底力を感じずにはいられません。

ストレート 常時140キロ台~MAX149キロ

 今年に入り先発するときでも殆どの球速が、140キロ台を刻むようになりました。力を入れて決めに行くストレートは、コンスタントに145キロを越えてきます。何より変わったのが、高めに抜ける球が多かった球筋が、低めやコーナーに集まることが増え、球筋が安定してきたこと。このことは、球速のアップ以上に大きかったといえるでしょう。これにより速球とスライダーのボールの威力で抑えるピッチングから、しっかりピッチングを組み立てて、相手と対峙できるように進化しました。いわゆる一辺倒な投球ではなく、しっかり考えてピッチングできるようになったのです。

 また球速よりも、球質にキレと球威が加わりました。変化球で三振を奪うイメージが強い投手だったのですが、ストレートでも好いところに決まれば空振りを奪えるように球質が向上。このことを触れる人は少ないのですが、この一年で大人の球質へと変わりつつあることを強く実感しました。

変化球 カーブ・スライダー・チェンジアップなど

 松井のスライダーは、一度カーブのように浮いて曲がりながら落ちる独特のもの。それをストレートと同じ腕の振り、それも130キロ前後でググッと尋常じゃない曲がりをするわけです。これは、プロの打者でも始めての対戦では対応できないのではないかと思います。またこのスライダーが、けしてボールゾーンに逃げて行くから空振りを誘えるのではなく、ストライクゾーンの枠の中に収まることが多いので、見逃したからボールになるとは限らないところに、今までの変化球投手と一線を画すところだと私は評価しています。ようはスライダーだとわかっても、見逃せばいいという単純な代物ではないということ。

 今年の春季大会で私を驚かしたのは、右打者の外角に逃げるチェンジアップでも空振りが奪えるようになっていたことでした。私が観戦した春季・横浜隼人高校戦では、序盤から面白いように、このチェンジアップが外角低めに決まり三振を奪って行きます。この球は日によって出来にバラつきがあるのですが、この球の存在が大きくピッチングを広げるのに貢献致しました。

 また松井には、115キロ前後のカーブ(遅いスライダー)もあります。100キロ前後のスローカーブも投げることがあると言いますが、これは殆ど使ってきませんし、私自身見たことがありません。むしろスライダーとは10キロ以上遅い、カーブ(遅いスライダー)を時々織り交ぜます。ただこの球もピッチングに余裕がないと、あまり使って来ないので、本当に苦しくなると速球とスライダーに頼ってしまう傾向にあるようです。チェンジアップ同様に、常に使える精度の向上が求められます。

 それでもカーブ・チェンジアップを磨くことをテーマに掲げ、この一年で単調で一辺倒な投球を大幅に改善できました。ストレートの進化だけでなく、この変化球の成長なしに、松井 裕樹 は語れません。

その他

 左投手にしては、それほど鋭い牽制はおりまぜません。クィックも1.1秒台で投げ込めることもあるのですが、これをやろうとすると、ピッチングに集中できなかったり、制球を乱すなどまだ不完全な部分があります。フィールディングもそれなりといった感じで、投球以外の部分はプロ入り後、かなり鍛えないといけないのではないのでしょうか。

(投球のまとめ)

 目に見えて昨年から、球速を伸ばしたわけではありません。しかし瞬間風速的なMAXは同じぐらいでも、アベレージの球速の向上・低めやコースへの球筋の安定、キレを増した球質の向上は見落とすわけには行きません。

 そして何よりチェンジアップとカーブをピッチングに織り交ぜることで、格段に幅が広がりました。課題だった一辺倒な投球の改善、素材としての伸びしろへの不安、一年間注目されるなか自分を見失うことなく成長を遂げてきた点は、高く評価できます。

 春先から松井を見てきて、一試合ごとにテーマを設けて試合に挑んできました。そういった目的意識の高さ・目標に向かって努力できる才能・それを実現できる野球センスを、この選手は兼ね備えていると評価します。

(投球フォーム)

<広がる可能性> ☆☆

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻は三塁側(左投手の場合)には落とせません。そういった意味では、カーブで緩急を利かしたり、フォークのような縦の変化球は適しません。

 また「着地」までの粘りがイマイチで、地面を早く捉えてしまいます。そのため充分に体を捻り出す時間が確保できず、無理に背中を傾けることでその時間を確保しようとしています。ただし尋常でない腕の振りとリリースの強さで、狂人的なスライダーの曲がりを得ることで、フォークのような縦の変化球がなくても、スライダーやチェンジアップが、その代わりを果たします。

<ボールの支配> ☆☆☆

 最後までしっかりグラブを抱えられているわけではないのですが、昨夏よりは体の近くにとどまるようになり、球筋は安定してきました。また足の甲の地面への押しつけも昨年よりできるようになり、ボールを低めに押し込めるようになってきました。またリリースを強く意識しているので「球持ち」や指先の感覚には優れ、その辺がある程度ボールをコントロールできる要因になっていると思います。動作の観点でも、昨年よりはだいぶマシになりました。

<故障のリスク> ☆☆

 お尻を落とせないフォームですが、カーブやフォークのような球種は多投しないので、肘への負担は少ないはず。

 ただし腕の角度をつけるために、かなり無理な腕の送り出しをしているので、肩への負担は大きいと考えます。意識の高い選手なので、アフターケアなどを怠ることはないと思いますが、充分注意してやって欲しいと思います。

<実戦的な術> ☆☆☆

 「着地」までの粘りが浅く、打者としては合わせにくいわけではありません。しかし背中を大きく反ることで、体の「開き」を隠すことができ、球筋を見破り難くできています。想像以上の腕の振りにより、ボールがキレて打者は差し込まれます。

 腕の振りが素晴らしいので、速球と変化球の見分けは難しいでしょう。逆にここまで腕を振るような選手は、あまり腕が緩まないと投げられない、スローカーブなどの球種は適しません。彼が本当に緩いカーブを投げないのは、そういった球を投げようとすると、どうしても腕が緩んで見極められてしまうからだと考えられます。

 ボールへの体重の乗せは、踏み込んだ足元が早く地面を捉えてしまい、踏み込んだ足がブロックしてしまっています。そのため下半身が上手く使えずに、まだ発展途上だと言えるでしょう。現時点では、上半身や腕を強く振って、キレを生み出すしかなくなるわけです。

(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」や「体重移動」に大きな課題を残します。これは、股関節の柔軟性を高めつつ、ステップをもう少し広げるフォームへ変えて行くことが求められます。それにより打者のタイミングも狂わすことができますし、ボールへも体重を乗せられるようになってきます。これは、かなり計画的に年数をかけてやって行くことが求められます。しかし彼が、下半身をもう少し上手く使えるようになったら、全く手がつけられない投手になるのではないのでしょうか。

 コントロールを司る動作にも改善が見られるようになっていますし、「着地」までの粘りがつくにしたがって背中の傾けも緩和させ、肩への負担の少ないフォームに移行して行けるのではないかと考えます。とにかくかなり長い目標を立てて、段階的にフォームを改善して行くことが求められます。彼ならば、そういったことが出来るのではないかと思っています。

(最後に)

 この一年で、私の想像を遥かに超える形へと進化した 松井 裕樹 。この問題点を嗅ぎ分ける嗅覚、それを改善できるセンス、目標に向かって努力して行ける忍耐力は、特筆すべきポイント。

 そして何が素晴らしいかといえば、やはり注目される場面や状況の中、U-18の決勝戦のように最高のパフォーマンスを示せる爆発力は、この選手にしかできない特別な星の下に生まれた選手だと思うわけです。確かにコントロール・癖のある投球フォームなど不安要素は少なくありません。しかしその課題を一歩一歩時間をかけて改善して行ける資質があると私は見ており、まだその道程は志半ばの段階にあると考えています。

 それでいて、すでにこれだけのパフォーマンスを示せるのですから、それが完成へと近づいたら、どのぐらいの投手になれるのか計り知れません。この選手の進化の過程を見守ってみたい、そういった衝動にかられる選手は、2013年度においてこの選手ほど大きな選手はいませんでした。そういった意味でも私はこの選手が、2013年度のNO.1だと結論づけます。


蔵の評価:☆☆☆☆☆


(2013年 U-18ワールドカップ)












松井 裕樹(桐光学園2年)投手 174/74 左/左 
 




                   「碇肩は大成しない」





これは、某メジャースカウトが口にしていた言葉だ。もうこの言葉を聞いたのは10年以上昔だと思うのだが、その真意は未だによくわからない。ただ実際に 松井 裕樹 の投球を見ていると、不安になる要素も少なくないのは確かなのだ。2013年度のドラフト候補の中でも、話題性ではNO.1ではないかと思われる、この男の寸評を今年最後のレポートとしたい。


(投球内容)

 肩幅の広い逆三角形で、水泳選手のような体型。ノーワインドアップから、高い位置まで足を引き上げてくる。もっと力んで投げているのかと思いきや、軸足一本で立った時に、膝から上にピンと伸びきることなく、適度に脱力しバランス良く立てているのは意外でもあった。

ストレート 常時130キロ台後半~MAX149キロ

 初回こそ130キロ台後半だが、2イニング目ぐらいからはコンスタントに140キロ台を超えて来る。特に力を入れた時には、ほぼ145キロ~後半は叩きだすだけの、馬力があるのは間違いない。ボールは結構バラつくものの、ボールに勢いがあるので、思わせず高めの球でも振ってしまうし、低めならば手がでない。現状細かいコントロールはないが、ストライクゾーンの枠の中にボールが散っているといった感じ。

変化球 スライダー・チェンジアップ?

 投球の殆どは、120キロ台後半~130キロ台前半の、大きく横滑りするスライダーとのコンビネーション。この球も決まったコースに決まるわけではないが、どうもカウントを取りに行く時と、低めのボールゾーンに切れ込む2つのパターンを使い分けている印象がある。ちょっとのこのスライダーのキレ・曲がりの大きさは、並の高校生では打てる代物ではない。勢いのあるストレートと抜群のスライダーのキレが、甲子園記録にもなった奪三振ショーを演じる原動力になっている。

 他にもどうも、110キロ台で軽く沈む球があるようだ。この球がなんなのか正直よくわからないし、滅多に投げることもない。秋からは、フォークのような縦に落ちる球も習得したという話もあり、ピッチングの幅を広げようという試みは行なっているようだ。

その他

 左投手だけあって、思わず走者が飛び出してしまうような牽制を投げることができる。クィックは1.2秒前後と平均レベル。フィールディングは、ボールに喰らいつく貪欲さがあり、打球への反応はかなり素早い。元々持っている野球センス・運動能力はかなり高いのだろう。

(投球のまとめ)

 中学時代から揉まれていた選手だけに、マウンド捌き・度胸は優れたものを持っている。ただ「間」をうまく取ったり、微妙なコースの出し入れをするような、きめ細やかな投球で相手を翻弄するタイプではない。あくまでもボールの威力で、イケイケで押すのが、この選手のピッチングスタイル。

(ちょっと夏の復習)

松井は、夏の甲子園で4試合ほど登板。この間の成績をみてみたい。

36イニング 18安打 12四死球 65三振 防御率 2.25

 特に際立つのは、イニングの半分しか打たれていない被安打の少なさと、奪三振率が脅威の1イニングあたり 1.81個という、見たことも数であるということ。被安打の少なさは、アバウトな制球やスライダーしかない単調な配球でも、これだけ圧倒的な数字を残しているということは、いかに彼のボールが高校生相手では優っていることを示している。奪三振の多さは、言うにおよばず。

 アバウトなイメージの強い制球力でも、基準であるイニングの1/3に抑えており、極端に悪いわけではない。しいて言えば、これだけの圧倒的な数字を残しながら、防御率はそれほどでもないのかなという印象だろうか。それでも夏の大会、それも全国大会である甲子園でこの数字なのだから、やはり2年生としては破格だと言えよう。





(投球フォーム)

では技術的にみて、上のレベルに通用するだけの技術を持っているのか考えてみたい。

<広がる可能性> 
☆☆☆

 引き上げた足を地面に伸ばすフォームなので、お尻は三塁側に落とせていません。すなわち身体を捻り出すだけのスペースが確保できないので、カーブで緩急を利かしたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種には適しません。それでも秋からは、フォークような縦に落ちる球も投げていると考えると、身体のへの負担が気になります。

 ただこの投手、下半身が使えていないように見えますが、着地までの粘りは思ったほど悪くありません。勿論まだまだの部分はあるのですが、「着地」までの時間としては平均的。ある程度、いろいろな変化球を投げられる下地は出来ています。スライダーという絶対的な武器がありますが、それ以外の球種もモノにして行ける可能性は残されています。

<ボールの支配> 
☆☆

 グラブは最後まで身体の近くにあるのですが、最後後ろに抜け気味です。そのため、両サイドの投げ分けはアバウト。更に足の甲での地面の押しつけは、完全に地面から浮いてしまっています。これでは、ボールが上吊って、低めに押し込めません。これだけフォームが暴れているのに、それなりの枠の中にコントロールできているのは、意外に「球持ち」が良いからでしょう。これにより、かなり手元の感覚でボールをコントロールできていることがわかります。ただ今のままだと、将来的にも細かいコントロールはまでは期待できないように思います。

<故障のリスク> 
☆☆

 実際秋の投球を見ておりませんが、もしお尻が落とせないのにフォークを投げているとすると、故障の可能性は高まります。更にこの投手、テイクバックした時に、かなり肩が後ろに入り込みますし、腕の角度に無理があるので、肩への負担も少なくありません。更に力投派なので、消耗も激しいタイプ。こう考えると、いつか身体が悲鳴をあげるのではないかという不安はつきまといます。

<実戦的な術> 
☆☆☆

 「着地」までの粘りは平均的でも、身体の「開き」は肩の可動域が広いので、ボールは中々見えてきません。その辺も、非凡な奪三振を奪える大きな要素となっています。

 更に上体や腕の振りが非常に強いので、速球と変化球の見極めは困難。ただ前の足が突っ張って、「体重移動」
を阻害したりしています。

(投球フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」と「開き」は良く、この点は評価できます。「着地」は平均的で、「体重移動」が一番の課題でしょうか。この辺がもう少し改善すると、更にストレートに磨きがかかることになりそうです。あとは、負担が大きなフォームなので、故障しないことが求められます。





(最後に)

 あまりに夏のインパクトが強すぎて、求められるものが高くなりすぎたきらいがあります。またイケイケで怖いもの知らずで行っていた下級生の時と違い、最終学年では自分にかかるプレッシャーも相当なものがあるに違いありません。その辺の不安は、秋に早くも現れ、結果として選抜行きを逃すことになりました。

 ひょっとすると来年は伸び悩み、世間の抱くほどの期待には応えられないかもしれない。それどころか、2年夏の甲子園が、野球人生のピークかもしれない。そんな危険性も、感じなくはありません。果たしてこの冬の間に、投球の幅を広げたりすることができるのか、春季大会での投球が注目されます。少なくても春までは、この選手が2013年度の目玉であることは間違いありません。果たしてドラフトの時まで、そうあり続けることが出来るのか、地元の選手だけにより注視して見届けたいと思います。


(2012年 夏)