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松井 裕樹(桐光学園)投手 174/74 左/左 |
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松井 裕樹(桐光学園2年)投手 174/74 左/左 |
「碇肩は大成しない」 これは、某メジャースカウトが口にしていた言葉だ。もうこの言葉を聞いたのは10年以上昔だと思うのだが、その真意は未だによくわからない。ただ実際に 松井 裕樹 の投球を見ていると、不安になる要素も少なくないのは確かなのだ。2013年度のドラフト候補の中でも、話題性ではNO.1ではないかと思われる、この男の寸評を今年最後のレポートとしたい。 (投球内容) 肩幅の広い逆三角形で、水泳選手のような体型。ノーワインドアップから、高い位置まで足を引き上げてくる。もっと力んで投げているのかと思いきや、軸足一本で立った時に、膝から上にピンと伸びきることなく、適度に脱力しバランス良く立てているのは意外でもあった。 ストレート 常時130キロ台後半~MAX149キロ 初回こそ130キロ台後半だが、2イニング目ぐらいからはコンスタントに140キロ台を超えて来る。特に力を入れた時には、ほぼ145キロ~後半は叩きだすだけの、馬力があるのは間違いない。ボールは結構バラつくものの、ボールに勢いがあるので、思わせず高めの球でも振ってしまうし、低めならば手がでない。現状細かいコントロールはないが、ストライクゾーンの枠の中にボールが散っているといった感じ。 変化球 スライダー・チェンジアップ? 投球の殆どは、120キロ台後半~130キロ台前半の、大きく横滑りするスライダーとのコンビネーション。この球も決まったコースに決まるわけではないが、どうもカウントを取りに行く時と、低めのボールゾーンに切れ込む2つのパターンを使い分けている印象がある。ちょっとのこのスライダーのキレ・曲がりの大きさは、並の高校生では打てる代物ではない。勢いのあるストレートと抜群のスライダーのキレが、甲子園記録にもなった奪三振ショーを演じる原動力になっている。 他にもどうも、110キロ台で軽く沈む球があるようだ。この球がなんなのか正直よくわからないし、滅多に投げることもない。秋からは、フォークのような縦に落ちる球も習得したという話もあり、ピッチングの幅を広げようという試みは行なっているようだ。 その他 左投手だけあって、思わず走者が飛び出してしまうような牽制を投げることができる。クィックは1.2秒前後と平均レベル。フィールディングは、ボールに喰らいつく貪欲さがあり、打球への反応はかなり素早い。元々持っている野球センス・運動能力はかなり高いのだろう。 (投球のまとめ) 中学時代から揉まれていた選手だけに、マウンド捌き・度胸は優れたものを持っている。ただ「間」をうまく取ったり、微妙なコースの出し入れをするような、きめ細やかな投球で相手を翻弄するタイプではない。あくまでもボールの威力で、イケイケで押すのが、この選手のピッチングスタイル。 (ちょっと夏の復習) 松井は、夏の甲子園で4試合ほど登板。この間の成績をみてみたい。 36イニング 18安打 12四死球 65三振 防御率 2.25 特に際立つのは、イニングの半分しか打たれていない被安打の少なさと、奪三振率が脅威の1イニングあたり 1.81個という、見たことも数であるということ。被安打の少なさは、アバウトな制球やスライダーしかない単調な配球でも、これだけ圧倒的な数字を残しているということは、いかに彼のボールが高校生相手では優っていることを示している。奪三振の多さは、言うにおよばず。 アバウトなイメージの強い制球力でも、基準であるイニングの1/3に抑えており、極端に悪いわけではない。しいて言えば、これだけの圧倒的な数字を残しながら、防御率はそれほどでもないのかなという印象だろうか。それでも夏の大会、それも全国大会である甲子園でこの数字なのだから、やはり2年生としては破格だと言えよう。 (投球フォーム) では技術的にみて、上のレベルに通用するだけの技術を持っているのか考えてみたい。 <広がる可能性> ☆☆☆ 引き上げた足を地面に伸ばすフォームなので、お尻は三塁側に落とせていません。すなわち身体を捻り出すだけのスペースが確保できないので、カーブで緩急を利かしたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種には適しません。それでも秋からは、フォークような縦に落ちる球も投げていると考えると、身体のへの負担が気になります。 ただこの投手、下半身が使えていないように見えますが、着地までの粘りは思ったほど悪くありません。勿論まだまだの部分はあるのですが、「着地」までの時間としては平均的。ある程度、いろいろな変化球を投げられる下地は出来ています。スライダーという絶対的な武器がありますが、それ以外の球種もモノにして行ける可能性は残されています。 <ボールの支配> ☆☆ グラブは最後まで身体の近くにあるのですが、最後後ろに抜け気味です。そのため、両サイドの投げ分けはアバウト。更に足の甲での地面の押しつけは、完全に地面から浮いてしまっています。これでは、ボールが上吊って、低めに押し込めません。これだけフォームが暴れているのに、それなりの枠の中にコントロールできているのは、意外に「球持ち」が良いからでしょう。これにより、かなり手元の感覚でボールをコントロールできていることがわかります。ただ今のままだと、将来的にも細かいコントロールはまでは期待できないように思います。 <故障のリスク> ☆☆ 実際秋の投球を見ておりませんが、もしお尻が落とせないのにフォークを投げているとすると、故障の可能性は高まります。更にこの投手、テイクバックした時に、かなり肩が後ろに入り込みますし、腕の角度に無理があるので、肩への負担も少なくありません。更に力投派なので、消耗も激しいタイプ。こう考えると、いつか身体が悲鳴をあげるのではないかという不安はつきまといます。 <実戦的な術> ☆☆☆ 「着地」までの粘りは平均的でも、身体の「開き」は肩の可動域が広いので、ボールは中々見えてきません。その辺も、非凡な奪三振を奪える大きな要素となっています。 更に上体や腕の振りが非常に強いので、速球と変化球の見極めは困難。ただ前の足が突っ張って、「体重移動」 を阻害したりしています。 (投球フォームのまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」と「開き」は良く、この点は評価できます。「着地」は平均的で、「体重移動」が一番の課題でしょうか。この辺がもう少し改善すると、更にストレートに磨きがかかることになりそうです。あとは、負担が大きなフォームなので、故障しないことが求められます。 (最後に) あまりに夏のインパクトが強すぎて、求められるものが高くなりすぎたきらいがあります。またイケイケで怖いもの知らずで行っていた下級生の時と違い、最終学年では自分にかかるプレッシャーも相当なものがあるに違いありません。その辺の不安は、秋に早くも現れ、結果として選抜行きを逃すことになりました。 ひょっとすると来年は伸び悩み、世間の抱くほどの期待には応えられないかもしれない。それどころか、2年夏の甲子園が、野球人生のピークかもしれない。そんな危険性も、感じなくはありません。果たしてこの冬の間に、投球の幅を広げたりすることができるのか、春季大会での投球が注目されます。少なくても春までは、この選手が2013年度の目玉であることは間違いありません。果たしてドラフトの時まで、そうあり続けることが出来るのか、地元の選手だけにより注視して見届けたいと思います。 (2012年 夏) |