13dy-4



 
amanatu.com




 陽川 尚将(東農大)内野手 178/79 右/右 
 




                      「完全に一皮むけた」





これまでの3年間は、何か高校時代の能力だけでプレーしている感じで、何か変わったなぁという印象は受けなかった 陽川 尚将。金光大阪時代には、育成枠ながら巨人に指名されるも、入団を拒否して東農大に進学。1年春からレギュラーとして活躍するものの3割5分を超えるような成績を残せず、本塁打ばかりが通算17本と積みあがっていた。何処か脆い選手そんな印象が否めなかったが、この春は一味違っていた。

(その違いとは)

 春季リーグ戦・国士舘大戦を観戦。低めの厳しい球にも喰らいつき、センター前に二本はじき返して魅せた。今までは、ツボにハマればスタンドインのパンチ力はあっても、何処か淡白な印象が強かった選手。しかしこの試合で、そんなイメージを払拭させてくれた。今シーズンは、何か今までと違う。この直感は間違っていなく、今春のリーグ戦では

11試合 4本 8打点 3盗塁 打率.450厘(1位)

これまでの3年間での最高打率が、1年秋の.333厘(3位)が最高だったのが、一気に.450厘と跳ねあげた。更に2位の選手の打率が、.375厘だったことを考えると、ダントツの首位打者だったことがわかる。今や大学球界を代表する強打者であることは、数字の上からも間違いない。

(守備) ☆☆☆

 高校時代から大型遊撃手として注目されていましたが、それほど上手い選手ではありませんでした。今でもそれほどスピード感を感じさせるとか、柔らかさのあるグラブ捌きをするとかいうこともなく、可も不可もなしといった感じの遊撃手で、プロにアピールするほどではありません。将来的には、三塁もしくは外野などにコンバートされるのではないのでしょうか。

 元々地肩は強い選手なので、将来的に三塁や外野は問題はなさそう。細かさはないが動ける身体能力は持っているので、コンバートに大きな弊害はない。

(走塁面) ☆☆

 3年秋までの盗塁数は、僅か1個。それが、この春は3盗塁を決めるなど、走塁への意識も変わったことを示している。ただし絶対的な走力がある選手ではないので、足でアピールするタイプではないだろう。スマートなアスリートタイプに見えるが、正直走力は期待できない。

(打撃内容)

 あえてオフの寸評では、ドラフト指名を目指すならば 二部なら 3割5分・5本・10打点を目指せといったが、それにかなり近い数字を残して魅せた。ホームランと打点は僅かに足りなかったものの、想像以上の対応力を示した。そういった意味では、この春の内容は合格点を与えられる。

(打撃フォーム)

 では具体的に、技術的に変化があったのか考察してみたい。ただし打撃フォームは撮影できたのだが、審判の陰で結構見えない部分が多く完全解析はできなかったことをご了承願いたい。オフのレポートを参考に、主だった違いについて触れて行く。

構えや仕掛けのタイミングには、大きな変化は感じられなかった。良くなった点は次の4つ。

1,スイングがシンプルで無駄がない。

 元々ボールを捉えるまでには、ロスなくミートポイントまで振り下ろせていました。ただしボールを捉える時にバットの先端であるヘッドが下り、フォーム後半の軌道に課題が多く、打ち損じが少なくありませんでした。

 しかしその辺を強く意識したのでしょう。以前ほどスイングの孤が小さくなったり、フォロースルーを取るような大きなスイングではなくなったりしたのですが、打ち損じの少ない無駄のないフォームになっています。この辺は、素直に打率の向上になって現れています。その割に、長打力も落ちていない点も評価したいポイント。

2,軸のブレが小さくなった

 足を大きく上げ下ろすフォームなので、目線の動きは平均的でした。しかし今シーズンは、頭の動きが小さくなり、軸が実に安定していたように思います。単に調子が良かったのか、あえて軸の安定を強く意識したのかはわかりませんが。

3,ステップが変わっている

 昨秋フォーム分析したときは、ベース側にインステップする外角を強く意識したスタイル。しかし今春は、真逆のアウトステップを採用しインコースを強く意識した踏み込みに変わっている。元来腰の開きが早く、巻き込みたいタイプの彼にとっては、この方が板についていたということなのだろうか。

4,足元がブレなくなった

 秋は、踏み込んだ足元が早く地面から離れる引っ張りを重視したスイングだった。しかしこの春は、アウトステップ気味でも足元のブレを抑えることができている。これにより、外角でも腕を伸ばし切るような遠い球でなければ対応できるはず。

(打撃のまとめ)

 フォームからすると、かなり無駄を廃しスイングを高めてきたことがわかる。元々難しい球を捉えらる器用タイプではないのだが、甘い球を打ち損じないだけの「鋭さ」が磨かれた。また高い意識と集中力で、低めの球にも喰らいつくだけの貪欲さがスイングにも現れている。

 ヘッドスピードや打球の速さは十分プロ級だっただけに、ボールを捉える幅が広がり、甘い球を逃さない「鋭さ」が加わったことで、打撃レベルは飛躍的に向上。大学生では数少ない、打力でプロを意識できる技量を身につけつつある。そういった意味では、最終学年で開眼した、白崎 浩之(駒大-ベイスターズ)内野手の成長に良く似ている。

(最後に)

 これまでは、才能を持て余し消化不良のシーズンが続いてきた。しかしそのイメージを、今シーズンは完全払拭するだけのパフォーマンスを披露。大学生では、数少ない指名を確信できる素材だと言えるのではないのだろうか。

 また強打者タイプかと思ったら、意外に所作にキメ細やかさがあるのは驚き。細かい部分まで己を追求できる可能性を感じさせる一方、考えこまないのかちょっと心配な部分はある。それでも野球への意識・取り組みが変わって来ているようなので、更なる成長も期待できそう。

 プロでレギュラーを取るほどになれるかは、ここから更にワンランク・ツーランクを自分を高めて行けるかにもよるだろうが、それだけの精神力・ポテンシャルは備えつつある。今ならば育成枠ではなく、本会議でも中位ぐらいでの指名を期待できるのではないのだろうか。


蔵の評価:☆☆


(2013年 春季リーグ戦)









陽川 尚将(東農大3年)内野手 178/79 右/右 (金光大阪出身) 
 




                   「あんまり変わった感じはしない」





金光大阪時代、巨人から育成枠で指名されながら、東農大進んだ 陽川 尚将 。1年春からレギュラーとして出場し続けているが、どうも高校時代からあまり変わっていないように思える。それでもスラッとした均整の取れた体格と打球の鋭さは、目を惹くものがあるのだが・・・。


(3年間での成績は)

1年春から、レギュラーとして出場。これまで3年間・6シーズンの通算成績は

71試合 17本 39打点 1盗塁 打率.290厘


(守備・走塁面)

 大学に入っても遊撃を務めていることが多かったが、最近は三塁手として出場。元々遊撃手としては、キャッチング・フットワーク共さほど上手い遊撃手ではなく、可も不可もなしといった感じの選手だった。そのためプロでは、三塁手向きだろうと評価。三塁としては、強肩でもあり動ける身体能力はあるので、どのぐらいの安定感があるのかが、今後の観戦ポイントとなりそう。

 高校時代の計測タイムが、右打席から4.65秒前後。これを左打者に換算すると、4.4秒前後に相当し、かなり遅い。実際試合を見ていると、左打者換算で4.2秒前後ぐらいの標準的な脚力はありそうに見えるのだが、6シーズンほぼフルに出場し、通算で1盗塁であることからも、走力では期待できないことがわかる。

 三塁手としてならば基準レベルであろう守備力と、走力では期待できない。そう考えると、打撃への比重がどうしても高くなってしまう。


(打撃スタイル)

 二部通算17本塁打を放っているが、極端に狭い神宮第二を本拠地にしているので参考にならない。本質的には、ボールを運ぶというよりも強い打球で野手の間を抜けてゆく、中距離タイプだと言えよう。ただ二部通算、2割9分という対応力は、けして上のレベルを意識すると高い数字ではない。彼のように高校時代から、プロに指名されるほどの選手ならば、

3割5分・5本 10打点

以上は、最終学年でのアピールに不可欠だと言えよう。

(打撃フォーム)

今回は、高校時代もフォーム分析をしているので、その比較で考えてみたい。

<構え> 
☆☆☆☆

 前足を軽く引いて構えており、高校時代はスクエアスタンスだったことを考えると、ボールを見やすい形で構えられている。グリップの高さは極端に高くは引き上げておらず、平均的だと言えよう。この点では高校時代と殻わない。

 腰を深く沈めるというよりは、軽く沈めて背筋をシッカリ伸ばして構える。両目で前を見据える姿勢は、高校時代幾分クローズ気味で良くなかった構えを、今はシッカリ前を見据えられている。以前はクローズスタンス気味の癖のある構えを、今は非常にオーソドックスでバランスの取れた構えになっている。

<仕掛け> 平均的な仕掛け

 高校時代は、投手の重心が下るときに始動する「早めの仕掛け」を行なって対応力を重視していたが、今は重心が沈みきったあたりで始動する「平均的な仕掛け」に変わっている。

 この仕掛けは、ある程度の対応力と長打力をバランスよく兼ね備えたスタイルで、中距離打者・ポイントゲッタータイプが多く採用する。そういった意味では、より彼に求められるポジションを実行するのに優れた仕掛けだと言えよう。ただこの仕掛けで気をつけないといけないのは、アベレージヒッターなのか、長距離ヒッターなのか中途半端な位置づけになるので、特徴を見出しにくいというデメリットも存在する。

<足の運び> 
☆☆☆

 足を上げてから下ろすまでの「間」はある程度取れているので、比較的速球でも変化球にも対応できる、打撃の幅は持っている。

 ボールを強く叩くために、ベース側にインステップして来る。これは、外の球を強く意識した打撃を行なっている証。高校時代は、真っ直ぐ踏み出して内角でも外角でも捌きたいという万能型だった。しかし今は、より得意の球を逃さないで叩く、強打者タイプへと移行している。

 踏み込んだ足元は、地面から早く離れる巻き込み型になっている。高校時代は、センターから右方向を強く意識、踏み込んだ足元は長く地面を捉えブレなかった。そのため右方向への打球も目立っていて、コースへの対応はむしろ広かった。

今は引っ張って長打を意識しているので、その分内角への対応が窮屈になったり、右方向への打球は減ってきている。率よりも長打を意識したスタイルだと言えよう。

<リストワーク> 
☆☆☆

 早めに、打撃の準備段階である「トップ」は作れている。強打者ながら、バットの振り出しはよく、ボールを捉えるまでにロスがない。高校時代からスイング軌道が良いのは、彼の優れた資質。

 ただ高校時代同様に、バットの先端であるヘッドが下がる傾向なのも変わっていない。よりフェアゾーンにボールを落とすためには、ヘッドを立てるイメージでバットとボールの接地面を広く取れるようにスイングすべきだろう。それが結果、スイング後半のスイング軌道の無駄も減らすことができる。

 ただスイングの弧自体は大きく取れており、打球の勢いは確か。元々フォロースルーを上手く使ってボールを運ぶタイプではないので、ボールを上げるというよりは強い打球で抜けてゆくタイプなのだろう。上半身の使い方は、殆ど高校時代から変わっていない。

<軸> 
☆☆☆

 高校時代よりも、頭の動きは小さくなり、目線のブレは小さい気がする。ただ身体の開きが我慢できなくなっており、その点ではマイナスポイント。軸足の内モモの筋肉は発達しており、ボールを強く遠くに運べるのは、この部分の筋力の高さが大きく影響しているようだ。

(打撃のまとめ)

 高校時代は、強打者の割に対応力重視のスタイルだった。しかし今は、多少粗っぽくても長打を重視した強打者スタイルに移行。その辺が、相変わらず粗いなぁと感じられる要因ではないのだろうか。

 彼に求められるものが長打なので、このスタイルを採用するのは悪いとは思わない。ただ打球の幅・右打ちなども状況に応じては使い分ける幅が欲しい。元々高校時代は出来ていたのだから、それが出来ない選手ではないだろう。

 高校時代から大きく変わっていないと思われた打撃だが、構え・仕掛け・下半身の使い方には変化が見られた。全く考えないで、プレーをしているわけではなささそうだ。彼自身、いろいろ思考錯誤しながら、自分の理想系を模索している姿が伺われる。

(最後に)

 タイプ的には、ジャイアンツの 矢野 謙次 の大学時代を彷彿とさせる。ただ 矢野 の場合は、素材としてはそれほどでもなかったのだが、それ以上に現状を打破してゆく 精神的な強さがあった選手。

 陽川にも、そういったものがあるようならば、再び指名される可能性はあると思う。現状ドラフト候補ではあるが、指名確実といった位置づけではない。まずは、文句なしの成績を示し、その存在感を再認識させることではないのだろうか。


(2012年 秋)








陽川 尚将(大阪・金光大阪)遊撃 179/78 右/右 






             「まるで中島裕之(西武)みたいな選手だね。」





 中島裕之(西武)は、日本人では稀な、クローズスタンス気味に構え、インステップして踏み込んで来る、最も外国人プレーヤーに近い打撃を行っている選手。だからこそ、国際試合でも大活躍することの出来るプレーヤーでもある。そんな中島に、かなり近い打撃フォームなのが、この陽川尚将である。今回は、中島との類似点と違いなどを考えながら、この陽川の可能性について模索してみたい。

(センバツでは)

 一回戦で姿を消すこととなった金光大阪。今大会でも、最もその打棒が期待されたのが、この陽川尚将選手だった。しかし試合後の彼の印象は、ポテンシャルは高そうなものの、攻守に荒削りな素材。そういった印象を受けたのは、私だけではなかったようだ。そのため大会前に比べると、陽川への期待度はトーンダウンしているように思える。

(プレースタイル)

 強肩・強打の遊撃手。けして強打者でも、上のレベルを意識すると、スラッガータイプではないのだろう。どちらかと言うと、強い打球が野手の間を抜けて行く、中距離タイプの強打者といった印象を受ける。その割に、打撃・守備に関しては粗く、実際プロに混ぜた時に、何を売りにして行けるのか?と聞かれると悩んでしまう。近年でも、こういったタイプの高校生野手を高く評価して、プロ入り後伸び悩んでいるケースは少なくない。そういった意味では、かなりリスキーな素材と言う印象は否めない。


(守備・走塁面)

 一塁までの塁間は、4.65秒強ぐらい。これを左打者換算で直すと、4.35秒強ぐらい。通常塁間の目安となるのは、

3.9秒弱  プロで足を売りに出来るレベル

4.0秒前後 足を売りに出来るのかは走塁センスにもよるが、プロでも俊足の部類

4.2秒前後 スカウトが、プロの基準と判断するタイム

4.3秒以下 プロの基準以下となり、割り引いて考える

と、彼は赤字のレベルに入る。ただ実際には、新チーム結成以来49試合で12盗塁を決めているように、悲観するほど遅くはないのかもしれない。もっと早く走れる能力があるのかもしれない。ただその能力を試合で生かしていないとなると、別の意味で不満が残る。ただプロレベルで、足を売りにすることはないだろう。

 遊撃手としても、キャッチング・フットワークなどは、あまり上手いとは言えない。上のレベルの野球を意識するのならば、将来的に三塁か外野あたりに落ち着くのではないのだろうか。ただ地肩に関しては、プロに混ぜても強肩の部類であり、三塁&右翼手あたりで期待してみたい素材ではある。


楽天


(打撃スタイル)

<対応>  積極的に1,2球目から振って来るタイプ

<狙い球> 球種に関係なく真ん中~外角よりの球を好むようだ

<打球>  打球の多くは、三塁・レフト方向へ引っ張る打球が目立つ

 新チーム結成以来、49試合で10本塁打。これをプロ野球の規定打席、446打席で計算すると25.9本ペースでシーズンの本塁打を放つような打者と言う想定になる。プロと高校生ではレベルの差が歴然あるわけだが、これを見る限り中距離打者であることが伺われる。

 三振率は、172打数で三振16個の9.3%と10%を割っており、もの凄く粗いと言う程ではないようだ。ただ打率も.384厘と高校生の逸材ならば、4割台は欲しいところを見ると、三振する程の穴はないが、対応力はけして高くないことも伺われる。ただ公式戦では、その打率が5割台まで引き上がっていることからも、気持ちが乗って注目される方が力を発揮する、プロ向きな性格の持ち主なのかもしれない。


(打撃フォーム)


 では実際に技術的にはどうなのか、今度はフォーム分析の観点から考えてみよう。いつものように「野球兼」の
2009年3月30日更新分に、彼の打撃フォーム連続写真が掲載されているので、そちらを参照して頂きたい。

<構え> 
☆☆☆

 写真1を見て頂けると、両足の揃えたスクエアスタンスで立っていることがわかる。構えには、大まかな分け方で三つに分類される

1,スクエアスタンス 前の足と後ろの足が、真っ直ぐ平行に立つ構え

2,オープンスタンス 前の足を後ろに引いた構え

3,クローズスタンス 前の足をベース側に持って行く構え

 ただここでは長くなるので、その効果・意味合いには触れないので、そういったモノに別れているとだけ覚えておいて頂きたい。

 次にグリップの高さに注目して欲しい。肩のラインと、そこから伸びる腕の高さが水平の場合、ほぼ平均的な高さとなる。通常このポジションを、バットの重さを最も感じにくい0ポジションと呼ぶ。グリップを高く添える選手には、強打者タイプが多く、グリップを下げると力みが消え、リラックスして構えられるメリットがある。彼の場合は、グリップを高く引き上げた、
強打者タイプの構えとなっている。

グリップを引いた構え 

 あらかじめグリップを捕手方向に引くことで、構え~トップまでのグリップの移動距離を少なくし、ロスを軽減出来る。ただその反面、前の腕があらかじめ捕手方向に引かれるので、構えが固くなりやすい。そうなると柔らかくリストワークを動かす妨げになる危険性が生じる。このようにロスを軽減するスタイルは、ボールを当てに行くことを重視する、アベレージヒッターが多く採用するスタイルだ。

 一見あらかじめバットを引いて構える方が、無駄がなく良いように思える。しかし上記にあげたデメリットも存在するため、もしこういった打撃をするのなら、リストを柔らかく使うタイプではなく、
膝を柔らかく使いミートする打撃が出来る選手に限られる。ただ彼の場合は、そういったタイプではない

しっかり腰が据わっているか?

 次にチェックするポイントは、腰の沈み具合だ。特に下半身を使った安定感のあるスイングをするためには、腰がしっかり据わっていることが大事になる。彼の場合、腰の据わり自体は悪くない。もの凄くしっかり座っているわけではないが、適度に立てている印象がある。

バランス良く構えられているか?

 
次に注目して欲しいのが、極端な癖のある構えではなく、バランス良く構えられているかと云うことに注意したい。どの方向からポンと押されても、倒れないような構えが、良い構えだと云えよう。これは野球に限らず、すべてのスポーツにおいての「構え」の本質になる。何か見た目に違和感を感じられる構えは、私は良くない構えだと考える。彼の場合、センターカメラから見て、背番号がハッキリ読み取れるなど、少し前の肩が内に入ったクローズスタンス気味な構えになっている。意識的に、真ん中~外側の球を強く意識したスタイルになっている。

両目で前を見据えられているのか?

 次に注意したいのが、顔がしっかり正面を向き、両目で前を見据えられているかと云うことに注目したい。どうしても片目でボールを追ってしまうと、ボールを捉える時に錯覚が生じ、正確にボールを捉えられない。彼の場合、
充分顔が正面に向いておらず、的確にボールを追いにくい構えになっている。

身体を動かし、自分のリズムで打席に立てているか?

 あとは、身体を動かし自分のリズムで打席に立てているのかと云うことに注意したい。得てして何処も動かさないで構えている選手は、脆い・固い選手が多い。常に身体を動かすことで、投手とのリズムを計り、次の動作にも素早く移行する意味合いがある。彼の場合、
グリップ付近に軽い揺らぎが見受けられる。

相手に自分の存在を示すことが出来ているか?

 最後は、相手に与える雰囲気。凄く威圧感があるとか、何か集中力が感じられるとか、イヤらしそうだとか、何か打撃の意図やその選手の特徴が、他に伝わって来るような構えがいい。彼の場合、グリップを高く引き上げて相手を威圧し、
打席では強打者としての雰囲気を伝えることが出来ている

何より、脱力して構えられているか?

 彼の場合、身体を揺らぐことで脆さみたいなものは抑えることが出来ているが、あらかじめ捕手方向にグリップを引きすぎることで、幾分力みが感じられる。

 トータルとしては、癖が強いフォームで、メリットとデメリットがはっきりしている構えだと言えよう。ただそのことを本人が充分認識して行っているのであれば、それは個性だと捉えたい。


<仕掛け> 
早めの仕掛け

 仕掛けには大きく分けて、5つの種類に分かれる。単純に云えば、始動が早いほど、アベレージ打者の傾向が強く、遅く始動し出来るだけボールを引きつけて叩くタイプほど長距離打者の傾向が強いことを覚えておいて欲しい。この始動タイミングで殆どの打者は、打撃スタイルが決まって来る。

2,早めの仕掛け  投手が足を降ろし初めて~一番底に到達する間に始動

 彼の場合は、この「早めの仕掛け」に属するタイミングで始動して来る。この仕掛けは、打者が足を地面から浮かし~着地するまでの時間(間)が長いほど、打者はいろいろな変化に対応出来る可能性が広がる。そのためアベレージ打者は、この仕掛けを採用するケースが多い。一見強打者スタイルに見える彼の打撃も、本質的にはかなり
アベレージ傾向が強い打撃スタイルなのだ。よりレベルが上がるにつれ、その傾向が強くなると考えられる。

<下半身> ☆☆☆☆

 写真2のように、早めに足を引き上げ回し込んで来るスタイル。足の引き上げに関しては、足を引き上げるのか、摺り足にするのかの議論になることが多い。しかし私としては、それほどそれは大きな問題ではないと考える。むしろ大事なのは、足を地面から浮かし~着地までの時間が長い程打てるポイントが広がり、幅のある打撃が出来る。そのことが、打撃の本質だと考えからだ。足を早めに高く引き上げ一本足打法で打つ王貞治も、地面に「の」の字を描くように動かす落合博満も、この足を長く浮かしている「間」の長さで、その非凡な能力を説明することが出来るのだ。彼の場合、
足を長く浮かすことで、打撃の幅を広げるこに成功している。

 次に注目したいのが、ステップして着地する位置である。「構え」のところで、オープンだろうとクローズだろうと、あまり詳しく書かなかった。それは、むしろ重要なのはこの着地する位置にあると私は考えるからだ。

スクエアステップ 軸足に対し真っ直ぐ踏み出すスタイル

 
彼の場合は、写真3のように真っ直ぐ踏み出すことが多い。これは、最もオーソドックスなスタイルで、内角の球でも外角の球も捌きたいと云う万能型のスタイルだ。ただこれも、どっちとも着かずのスタイルで、中途半端なスタイルに陥りやすい。

インパクトの際に足下がブレていないか?

 ただしこれは、あくまでもセンターから右方向への打撃を行っている時、あるいは外角球を捌く時のことで、内角の球を巻き込み引っ張るような時は、足下を解放してあげて、腰の回転を促した方が好い。足下がブレるのは、上半身と下半身のバランスが悪いスイングをしているからだ。彼の場合、この点では問題がない

1,ボールがしっかり見えているのか?

2,的確にミートポイントで捉えられているのか?

 ただ打撃で重要なのは、実は技術そのものよりも、ボールがしっかり見えているのかの眼と、ボールを的確にミートポイントで捉えられるかの二点に集中する。技術論の一番の欠点は、決定的にこの最も重要な二点について、みないで論じることだと私は考える。これは、ちょっと動画や連続写真を見ただけではわからない。実際にそのプレーを何度か見ないと、この打撃の本質を感じ取ることは出来ないからだ。

 そういった意味では、130キロ台の投手だけに参考にはならないが、すべての打席で三振をせずに対応出来ていた。ただ選抜では4打席目、5打席目でヒットを放ったが、確実にミートポイントに当てられると言うセンスは、それほど優れていない気がしてくる。その辺が、彼の打撃の粗さにもつながっているのだ。このことからも、
ボールを見る動体視力には大きな問題はないが、ボールを捉えるセンスにはやや不安が残る

<リストワーク> ☆☆☆☆

 今度は、トップの位置に注目して欲しい。トップとは、構えた時に最もグリップが高い位置に来た時を云うのだと思うのだが、このトップが作れた時に、打撃の準備が完了したことを意味する。この準備がしっかり出来ないまま打ちに行くような選手は、消化不良の中途半端な打撃することが多い。ただ私の場合のトップの認識は、グリップを最も引いた時の形、すなわちバットを振り出し始める位置だと考えている。

この時に注意したいポイントは、

1,写真2の段階のトップの形を作るのが遅れないこと

 どうしてもトップを作るのが遅れると、スイングが後手後手になってしまうからだ。彼の場合、あらかじめ捕手方向にグリップを添え始動も早いので、
トップを作るのは遅れていない

2,写真3のグリップを引いた時に、深くしっかり腕を引いて構えられていること

 トップとは、弓矢の弓を強く引くが如く、強く後ろに引くことが大事である。これによって強い打球を生み出す大きな原動力になる。彼の場合、
非常に深くトップを作れている

3,写真3の時に、グリップが身体の奥に入りすぎないこと

 グリップの位置は、顔に隠れ耳の後ろあたりにあるのが理想的。それ以上奥に入り込んでしまうと、どうしてもバットの振り出しが遅れ、差し込まれやすくなるのだ。彼の場合、深くトップを作れている反面は、ややグリップが内に入り込んでしまい、ヘッドの滑りだしの悪さが心配になる。

 次に注意したいのが、スイング軌道だ。写真3のように、バットの先端とグリップを結ぶラインが、頭の後ろではなく首の後ろより下に下がって振り出されるようなスイングは、外角の球を捌く際には、トップ~インパクトまでロスのあるスイングをすることになる。また肘が落ちてしまうと、腰の逃げを誘発し開きが早くなる。内角の球を捌く時以外は、これは評価出来ない。
彼は、その点では心配ない。真上からグリップをボールに叩きつけるように振り下ろされている。

ただこの際に、写真4のように、バットの先端まで下がってしまうと、完全にドアスイングのようなスイングになり、バットの先端が波打ってしまう。最低でもスイングの際には、ヘッドが下がらない意識が欲しい。

外角球を捌くスイングのポイントは

1,バットのラインが、肘を下げないで頭の後ろを通るように振り下ろす

2,ヘッドが下がらないように、バットの先端を立てる意識でスイングする


そして何より大事なのが、スイング軌道の際のヘッドスピードが速いことである。技術云々を超え、プロ仕様のスイングとは、速いボールに負けない確かなヘッドスピードの速さがあることなのだ。彼の場合、ヘッドスピードのキレが少々鈍い印象を受ける。それでも打球が強いのは、かなり身体に力があるからだろう。そういった意味では、
夏までにもっとバットを振り込み、ヘッドスピードを引き上げる必要がある。

3,ヘッドスピードがあることが、何より大事

 そして大きな弧を描きつつ、写真5のように、しっかりフォロースルーまで、バットを振り切ることが大事なのだ。
その点彼は素晴らしい。最後までしっかりバットを振り切ることが出来ている

4,バットが最後まで振り切れているか

 最後に注目して欲しいのが、写真5の際のグリップの位置である。このグリップの位置で、ボールを遠くに運ぶタイプなのか、打球が鋭く野手の間を抜けて行くのかは、おおかた見極めることが出来る。彼の場合は、それほどボールを遠くに運ぶタイプではないようだ。

5,フォロースルーの際の、グリップの位置に注目する


<軸> 
☆☆☆

まず体軸を見る時に、最も重視して欲しいのが、頭の動きが小さいことだ。その理由は、

1,綺麗な軸回転を描くため

2,目線のブレが少なく、錯覚を防ぐため

 彼の場合、
足を多少上げ降ろすことで、目線の高さが上下している印象はある。しかし頭の動きとしては、平均レベルだろう。

今度は、身体の開きに注目して

 基本的に、腰が早く開いてしまったり、外に逃げてしまう打者は、プロでは厳しい。それでも足下がブレないでスイング出来ると、腰の回転をある程度のところで止めることが出来、甘いアウトコースの球ぐらいならば、捌くことが可能なのだ。

1,腰の逃げは早くないか?

2,足下は踏ん張れているか?

の2点に絞って、身体の開きに注目して欲しい。彼の場合、
腰の開きは早すぎることはなく、足下もブレずにスイング出来ている

最後は、軸足に注目して欲しい。主なポイントは

1,打ち終わった時に、軸足が真っ直ぐ真上に伸びているのか?

 写真5を見ると、軸足の形が斜め前に倒れて、綺麗な軸回転が描けていないで、崩されているのがわかる。彼の場合、少し傾いていることからも、
あまり安定した打撃が望めるタイプではないのかもしれない

2,軸足自身に強さや粘りが感じられるか?

 軸足の内側の筋力こそ、ボールを運ぶのに唯一関連性のある筋肉だと云われている。ここに強さが感じられ、仕掛けも遅く、フォロースルーの際に、グリップが高い位置に引き上がる人材は、プロでも長距離打者になれる可能性があると評価出来る。

 また中々形が崩れないような選手は、粘り強くしぶとい打撃が期待出来る。例え体勢が崩されても、ここで踏ん張ればボールを拾うことが出来るからだ。彼の場合、
粘りこそ感じられなかったものの、軸足には強さが感じられた。強い打球を生み出す一つの要因になっているのかもしれない。

(打撃の3大要素)

1,ヘッドスピードが基準を満たしているのか?

2,ボールがしっかり見えているのか?

3,的確にミートポイントで、常にボールを捉えることが出来ているのか?


このことの方が、大事である。

 彼の場合、上半身・下半身の技術は、想像以上にしっかりしていたことがわかった。むしろ課題は、
技術的なことよりも、へッドスピードのキレ・ボールをミートポイントで捉えるセンス、むしろこちらに問題があるように思える。特にヘッドスピードに関しては、バットを振り込むことで改善出来るポイントなので、夏までにスイングに磨きをかけてもらいたい


(最後に)

 実際フォーム分析してわかったのだが、技術的に粗いと言うよりは、ヘッドスピードのキレ・ボールを的確に捉えるセンスに問題があることがわかった。技術的には、少々癖のあるスタイルではあるが、けして低くはない。

 走力・守備力には魅力に欠けるが、持ち得る肉体のポテンシャルは悪くない。あとは、
その才能を導き出す本人の性格的な資質があるのかが、この選手を見極める大きなポイントになりそうだ。

 センバツの内容では、まだプロ確定と言う絶対的なものは感じられなかった。それだけに夏までに、目に見えての成長が見られるかが、指名に向けて求められることになるだろう。


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2009年・センバツ)