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白村 明弘(慶応大)投手 187/84 右/左 |
「投球の幅が広がった」 ランナーを背負わない時のボールは、まさにドラフト上位級。しかしいつも同じように打ち込まれて成長のあとが見られない。そんなピッチングを繰り返してきた 白村 明弘。昨秋あたりから、何かを変えて行かないといけないという変化が見られ始め、ようやくそれが一つの形となって現れようとしている。リリーフに転向してから、安定したピッチングを見せ始めたその変化を考えてみた。 (投球内容) 今までは高校時代からの実績から、話題先行でドラフト上位候補とされてきたが、実際には全くそれにすぐわない成績しか残していない。この秋の緒戦でも、先発で失敗。ドラフト指名さえ危ぶまれるなか、リリーフで起用されるようになる。そうなると瞬く間に3勝をあげ、水を得た魚のように持ち味を発揮しはじめた。 ストレート 常時140~145キロぐらい 普通リリーフで登板するときの方が、めい一杯力を出そうとして球速が上がるもの。しかし今の白村は、そのストレートへのこだわりを捨て、変化球とのコンビネーションで相手を討ち取ろうという意識が強くなった。そのため球速こそ以前に比べ落ちてはいるが、余計な力みがなくなりコントロールミスも減っている。 これまでは、独特のスピンの効いた150キロ前後のストレートばかりが注目されてきた。そして本人も、そのボールへのこだわりが人一倍強かったのだろう。しかしラストシーズン、そのこだわりを捨て仲間と共に優勝したい、そんな思いが強くなったのではないのだろうか。 変化球 スライダー・ツーシーム・カーブ・チェンジアップ 最大の変化は、球種が増えたこと。春までは、スライダーとツーシームという横の変化、それも球速のある一辺倒な投球だった。 しかしこの秋は、カーブを意識的に使い緩急を活かし、投球にアクセントを作れるようになる。そして何より、フォークやスピリットのような落差のあるチェンジアップをモノにすることで、それまでの両サイドへのピッチングだけでなく、高低を強く意識させることができるようになった。このチェンジアップが、中々ストレートとの見分けが困難な腕の振りで、打者の空振りを誘えるのが大きい。ようやく、ストレート以外で勝負できる球を手に入れる。 投球が立体的になり、打者も何を投げてくのか打席の中で的が絞れない。本人のストレートへのこだわりを捨て、変化球でも勝負できる投手になったことが、投球を飛躍的に向上させた。 その他 ランナーを刺すような、鋭いターンの牽制を見せます。クィックも、1.05~1.1秒ぐらいと素早く基準以上。フィールディングも素早くマウンドを駆け下りて処理するなど、投球以外の部分にも優れている。 (投球のまとめ) ランナーを背負うと途端にオドオドしたり、投球内容が悪化する精神的な脆さがあります。そういった意味では、もう少しプレッシャーのかかる状況でのピッチングを見てみたい気は致しました。 しかしこれだけ縦の変化に磨きがかかってきた今だからこそ、余裕を持って相手と対峙できるのではないかと思います。むしろ彼の性格も考えると、短いイニングにエネルギーを集約させたり、集中力を高められるリリーフの方が持ち味を発揮できるのではないのでしょうか。 また一辺倒になりそうなところを、上手くマウンドでも「間」を取ろうという意識も持て、そういった精神面での成長も、けして見逃してはいけないポイントでしょう。 (投球フォーム) 春に細かく見ましたが、今回も分析した結果、恐らくフォームに関してはいじっていないと考えられます。「開き」が早いという欠点は以前と変わらず、それ以外の部分は意外なほど実戦的なのに驚かされます。ボールをもう少し隠すことができるようになれば、手がつけられなくなるのではないのでしょうか。 (最後に) とにかく今は、ストレートへのこだわりを捨てたことが投球に大きな変化をもたらしました。その最大の理由は、カーブで緩急をチェンジアップで空振りを誘えるようになり、精神的な余裕を持てることができたからでしょう。 これに元々あったスライダーやツーシームも交え、非常に的を絞り難くなりました。どうしても「開き」の早さから、長いイニングを投げると相手に馴れられてしまう危険性は感じますが、リリーフならばボールの勢い・変化球の威力で誤魔化すことができます。それができるだけのボールの力が、この選手にはあります。 その球だけ見ていればドラフト1位級でありますが、本当のプレッシャーに打ち勝つことができるのか、長く高い意識を維持できるのかというのは、散々今まで期待を裏切り続けてきただけに信頼しきれません。その辺の部分は当然マイナス評価になってしまいます。 それでも1位は無理でも、2位か3位ぐらいでは消えるのではないか。そう実感させてくれるほど、この秋は今までにない充実したシーズンを過ごし始めています。まだまだポカを喰らって試合を落とすことも出てくるでしょうが、トータルでは確実に向上している、そう捉えようと思います。ようやく昨秋から取り組んできた成果が、実を結ぼうとしています。リリーフなら、プロでも即戦力を期待できます。 蔵の評価:☆☆☆ (2013年 秋季リーグ戦) |
白村 明弘(慶応大)投手 187/84 右/左 (慶應義塾高出身) |
「やっぱり変わっていなかった。」 昨秋自身初の4勝をあげたり、8者連続三振を奪いドラフト上位候補ともてはやされたが、オフの寸評にも書いたとおり、根本的には変わっていないのではないかと苦言を呈していた。その真価が問われた今シーズンも、早慶戦の成績が含まれていないにせよ 6試合 2勝3敗 防御率 3.83 9試合で4勝2敗 防御率 2.45 の秋の成績よりも、むしろ数字を落としている。昨秋の成績では、ドラフト上位候補としては物足りない数字だと言っていただけに、余計に数字を落としていては上位指名はおぼつかない。 (投球内容) ボール一つ一つを見れば、そりゃ上位候補と言わざるえないぐらいで、2013年度の大学球界でもトップクラスの球速の持ち主だと言えよう。更にスライダーのキレ・独特のツーシームの曲がりなどをみても、これだけのボールを持っていて、何故この成績なのか? 疑問を持たざるえない。 ストレート 常時145~152キロ シーズン序盤の立教戦に続き、明大戦を観戦。ストレートの勢いは、昨秋あたりから高校時代の勢いを取り戻したどころか、それ以上のものになっている。またかなりアバウトだった制球力も、コースに散らすことができ、成長の跡が感じられないわけではなかった。 変化球 スライダー・ツーシーム 昨秋までは、高めに甘く入るスライダーを打たれるケースがめだったが、今春はスライダーは以前よりも真ん中~低めのゾーンに決まることが増えてきている。チェンジアップのような球は、彼いわくツーシーム。特に通常こういったシュート系のボールは左打者の外角に使うことが多いのだが、彼の場合は右打者の内角に食い込ませて来ることが多い。また左打者の外角には、外から入って来るスライダーでカウントを稼ぐことが多い。 そういった変化球一つ一つのキレ・コントロールも悪くはない。それでも結果が残せないのが、むしろ不思議だと言わざるえない。 その他 ランナーを背負うと、走者を釘付けにするだけの鋭い牽制を投げてきます。クィックも1.05秒前後で投げ込んで来るなど、中々盗塁を仕掛けるのは難しい。フィールディングも、マウンドから駆け下りて来るのは素早く、かなり上手い部類。逆にそれが仇になって、悪送球をしたり間に合わなかったりすることも少なくない。 (投球のまとめ) 課題だったアバウトな制球や、スライダーが高めに浮くなどの欠点も薄れ、ボールの勢いも昨秋あたりから完全に取り戻している。そういった意味では、かなり本気で野球には取り組んできたのだろう。 ただせっかく好投していても、ランナーを背負うとガタガタと崩れることが多い。急に投球を観ていても、マウンドで浮き足立つのだ。この精神面の脆さが、投球が成長・進化しているにも関わらず、結果に素直につながって行かない要因となっている。 (データからも見てみる) 実際の投球を見る限り、課題克服に向けての片鱗は垣間見られた。その辺は実際どうだったのか?数字の上からも検証してみたい。 1,被安打は、70%以下 ✕ ここまでの6試合・40イニングで被安打は39と、被安打率は 97.5% となっている。昨秋は、71.4% だったことを考えると、この点では大きく悪化している。 2、四死球は、イニング1/3以下 ◎ 40イニングで四死球は9個となり、四死球率は 22.5%と大きく改善。昨秋が 37.8% だったことを考えると、アバウトだったコントロールはデータの上からも改善しつつあったのは間違いない。 3、奪三振は、0.8個以上 △ 奪三振率は、1イニングあたり 0.78個。けして低い数字ではないが、昨秋がイニングを越えていたことを考えると、かなり低下している。球速こそ150キロ台を連発しても、実際のボールの生かし方は昨秋より悪かったことがわかる。 4、防御率は、1点台以内 ✕ ドラフト上位指名を目指す選手ならば、防御率1点台を期待したいところ。しかし昨秋の 2.45 でも物足りなかったのに、現時点では 3.83 とかなり物足りない数字になっている。 (成績から考える) コントロールが改善されたのに、何故成績を落としたのか? 考えられる要因としては、荒れ球で的が絞りにくかった投球が、ボールが揃うようになって狙いが絞れるようになったのではないか。 更にシーズン通してのボールの勢いは、昨秋の方があったのではないか? そういった要因が考えられる。皮肉なことに課題を克服しつつあるのに、結果は全く別の方向へと進んでしまったと。 (投球フォームから考える) では、投球において何が問題なのか? 今回は技術的な観点からも考えてみたい。 <広がる可能性> ☆☆☆ 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻は一塁側に落とせません。そのため体を捻り出すスペースが確保できないので、カーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種には適しません。 しかし「着地」までの時間は稼げているので、体を捻り出す時間は確保。カーブやフォークといった球種以外ならば、投球の幅を広げて行くことは可能でしょう。実際にスライダーやツーシームなどの曲がりは良く、球速のある変化球中心に投球を組み立てることは出来ていません。 <ボールの支配> ☆☆☆☆ 足の甲でしっかり地面は捉えており、ボールが浮き上がるのを防げています。またグラブも体の近くに留めており、両サイドの投げ分けもわるくありません。「球持ち」も悪くなく、高校時代よりもフォームがおとなしくなった分、コントロールの狂いもだいぶ改善出来ています。ただ指先の感覚はあまり良くないのか?勝負どころでのコントロールミスが目立ちます。 <故障のリスク> ☆☆☆ お尻を落とせないフォームではありますが、肘に負担の大きいカーブやフォークなどを投げることもありませんし、ツーシームが大きな負担をかけているようにも見えません。 振り下ろす腕の角度にも無理は感じないので、肩への負担も大きくはないはず。そういった意味では、故障の可能性は比較的少ないのではないかと思います。以前ほど力投派ではなくなっているので、体へのダメージは緩和されていると考えられます。 <実戦的な術> ☆☆☆ 「着地」までの粘りは悪くないので、簡単に合わされ難いように見えます。しかし実際は、軸足一本で立った時に、膝から上がピンと伸びて直立し、そこから前に倒れこむようなフォームです。 これだと前の肩と後ろの肩は常に打者に向かって正対してしまい、打者からは非常にボールの出どころが見やすいフォームなわけです。実際には、前の肩の「開き」も速く、150キロのボールの勢い・抜群の回転を誇る球質を持ってしても、苦になく捉えられてしまう原因を作り出します。 振り下ろした腕は体に絡んで来るように、腕の振りは速球と変化球の見極めは困難。更にボールにも適度に体重が乗せが甘い部分はありますが、体重移動自体は適度に出来ています。ボールは軽い部分はあるのですが、後の動作へはエネルギーを伝えることは出来ています。 (投球のまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点で考えれば、「開き」の部分に大きな欠点を抱える以外は、想像以上に実戦的なフォームであることがわかります。また、けしてコントロールを乱すようなフォームでもないことがわかります。 (最後に) ランナーを背負うと、平常心が保てず制球が甘くなったり、球質が低下しているように思います。逆にランナーがいない時のパフォーマンスは、まさに上位指名級、そういった投球が出来ています。 そしてそのボールを活かせない最大の要因は、ボールが見やすいフォームにあります。これだけの球速・球質の良さがあるのに、それを十分活かせないでいるわけです。プロで大切なのは、速い球を投げることではなく、ボールを速く見せること。このことの意味を真に理解でき、実戦できるかどうかが、勝てる投手とそうでない投手の大きな別れ目になると思います。 これまで、有り余る才能を持ちながら、取り組みの悪さで伸び悩んできた選手。しかし3年秋ぐらいから、その意識にも、変化が見え始めてきているとは言えるでしょう。実際に、その努力のあとは、少しずつ形になって来ているとも言えます。しかしそれが、必ずしもまだ良い結果と結びつかない。そういった状況に陥っているわけです。 根本的に、そういったセンスに欠けているのか、持っている感性が悪いのかまでは、現時点で断定できません。しかし結果に結び付けられない以上、素材型の域を脱し切れていないと判断されても致し方ないでしょう。個人的には大学生だけに、ある程度の即戦力への期待が求められるだけに、そう考えると上位指名としては厳しいと判断せざるえません。しかし社会人に行ってどうこうという選手でもないと思うので、プロの高い指導や環境で、更に資質を伸ばすことが、この選手にとっては良いのではないかと思います。できれば秋には、その努力してきた成果が、結果に結ぶつくことを期待せずにはいられません。 蔵の評価:☆☆ (2013年 春季リーグ戦) |
白村 明弘(慶応大3年)投手 187/84 右/左 (慶應義塾高出身) |
「本当に上位候補なのか?」 彼の投球で最も印象的だったのは、2年秋・地元神奈川で行われた、秋季関東大会でのピッチング。独特のスピンの効いたストレートは、伝説の速球投手 与田 剛(元中日)の速球を彷彿させる球だった。全国レベルの強豪校の打者達が、わかっていても高めのストレートに手を出し空振りの山を築く。そんな光景を目の当たりした時は、相当なインパクトがあった。 しかしその後の白村の投球を何度となく見てきたが、あの時ほどのインパクトを受けることはなかった。慶応大に進んで150キロ台の球速を記録しても、ボールのインパクトは高校2年の時が一番だったのではないかとさえ思っている。しかしこの秋の白村は、久々に彼らしいボールが戻ってきている。そのこともあって白村は、2013年度のドラフト上位候補と目されているという。 (投球内容) 高校生の時は、変則クィックみたいな投法だったが、今はかなりオーソドックスになっている。 ストレート 常時140キロ台~150キロ強 以前のような物凄い回転は感じなくなったが、高めで空振りの取れる球質は健在。この投手は右投手ながら、右打者にはアバウトで、左打者には外角中心に集められるという不思議なコントロールの持ち主。ただボール全体が、高めに集まりやすいのは昔から変わっていない。 変化球 スライダー・ツーシーム 右打者には、外角にスライダーを集めてきます。ただこのスライダーも、真ん中~高めに集まりやすいのは気になるところ。またシュート回転して沈む球は、チェンジアップでもフォークでもなく、本人によるとツーシームだという。実際この球は、135キロ強ぐらい出ており、確かにチェンジアップにしては速すぎる。ただこれらの変化球は、投球の的を絞らせない、カウントを整えるという意味合いはあるものの、それほど空振りを取れるほどの絶対的な球種ではない。 その他 ランナーへの目配せなどはしても、牽制を入れる場面は見られない。クィックは、1.05~1.15秒ぐらいで投げ込めており、高校時代よりワンランク上手くなっている。ボールの処理は丁寧で、フィールディングはまずまず。 (投球のまとめ) 経験豊富で、マウンド捌きや「間」というものを意識して投げることは出来ている。ただ相変わらず制球はアバウトであり、細かいコントロールはない。あくまでもボールの威力で勝負するタイプであり、細かいことができるようになったわけでもないし、高校時代から目に見えて大きく成長した印象はない。 (成績から考える) 実際の投球には大きな変化は感じられなかったし、相変わらずアバウトな印象は否めなかった。そこで彼の残した成績から、その辺の印象がどうなのか考えてみたい。特にこれまで通算3勝しかあげられていなかったが、この秋は4勝をマーク。そこで、この秋の成績を元に考えてみる。 9試合 4勝2敗 47回2/3 34安打 18四死球 51奪三振 防御率 2.45(8位) 1,被安打は、70%以下 △ 被安打率は、71.4%と僅かに基準に届かず。プロの二軍の選手が、1軍を視野に入れるならば80%以下。中央の大学球界の選手ならば、70%以下を実現して欲しかった。その点では少々残念だが、けして悪い数字ではない。 2、四死球は、イニング18/3以下 △ 四死球率は、37.8%で、これも僅かながら基準である33.3%以下を満たすことが出来なかった。彼の場合、四死球を出すというよりもストライクゾーンの枠の中へのコントロールがアバウトなのが、むしろ気になる材料。 3、奪三振は、0.8個以上 ◎ 奪三振は、1イニングあたり 1.07個。先発での起用が多い彼が、イニング数以上の奪三振を奪っているのは驚異的であり、それも変化球よりもストレートで奪っているところが、本当に破格の数字だと言わざるえない。 4、防御率は、1点台以内 ✕ この秋の防御率だけでなく、通算でも2.19 とドラフト候補としては高いことがわかる。確かにレベルの高い東京六大学での数字だけに考慮したい部分もあるが、やはり過去の六大学の上位指名選手に比べると、防御率などは物足りない。 (成績からわかること) 甘い球が多いから、やや被安打が多い。また制球がアバウトなのも、データからも実証された。奪三振の多さは破格ではあるが、防御率の悪さはドラフト上位候補としては厳しい成績となっている。 (最後に) 大学に入ってからもフォーム分析をしているので、今回はあえて行いません。ただ実際の投球やデータの上からも、制球がアバウトなのと、実戦力に物足りないものがあることはよくわかりました。 わかっていても振ってしまうストレートは破格ですが、現状ドラフト候補としては総合力で物足りないことは間違いないでしょう。その辺の粗さが、最終学年で改善されるのか注目したいポイント。現状は、上位指名するとするならば、リスキーな素材ということになりそうです。 (2012年 秋季リーグ戦) |
白村 明弘(慶応大)投手 187/80 右/左 (慶応高出身) |
(どんな選手?) 慶応高校時代は、関東屈指の素材として注目されました。慶大に進んだ昨年は、リーグ戦で、2試合のみの登板に留まりました。今シーズンから、ようやくその真価を発揮し始めた投手です。この選手の一番の特徴は、独特のスピンの効いたストレートにあり、球速以上にボールを速く感じさせます。その球質は、かつての与田剛(中日)の球を呼び起こさせてくれます。 (投球内容) 元々変則クィック気味な独特のフォームをしていたのですが、今は少し身体の突っ込みを抑えるべく、ゆったりした始動することを心がけているようです。球速は、昨年あたりは150キロ以上出せるようになっていたのですが、少し抑え気味で140~中盤ぐらいでしょうか。そのため球そのものには、それほど凄みは感じませんでした。それでも勝負どころで投げ込んで来る、高めへのストレートの勢いには観るべきものがあります。 変化球は、スライダー・フォークなど。一つ一つのボールの威力はあるのですが、まだ投球全体の組み立てやトータルでみると、未完成な投球。それでもその能力の高さから、ここまでのリーグ戦で、5試合に登板し防御率0.59でリーグ2位につけております。 (投球フォーム) お尻を一塁側に落とせるフォームではないので、基本的に緩い球や縦に鋭く変化球には向きません。しかし着地までに大きな前へのステップをさせることで、ある程度の変化球を放れられる時間を確保します。また打者からも、この一伸びがあるので、タイミングが合わせやすいと言うことはなさそうです。 グラブを最後までしっかり抱えられていると言うほどではありませんし、指先まで力をしっかり伝えると言う指先の感覚の良さは感じません。足の甲の押しつけは見事ですが、膝小僧に土が着いてしまうぐらいものなので、高めにはボールを浮いてしまうのかもしれません。結構動作が激しいフォームなので、軸がブレやすくボールが暴れるのだと考えられます。 投球の4大動作においては、「着地」までの粘りを作れている割に、前に倒れ込むフォームのせいか?身体の「開き」が早く、球の出所は見難くありません。「球持ち」も独特のスピンを生み出すのですが、際だって好いようには見えませんでした。一番の課題は、なんと行っても前への「体重移動」が不十分な点。これは、恐らく前への大きなステップのせいで、踏み込んだ足と軸足の間にお尻が落ちすぎてしまって、滑らかなに体重が乗って行かないからだと考えられます。球の回転は素晴らしいのですが、これにもっと体重が乗せられるよう になると、更にグッと勢いのある球が行って、手がつけられなくなるでしょう。 (今後は) まだ短いイニングでの起用が多く、全幅の信頼はないようです。実際その投球も未完成で、成長途上の印象を受けます。しかし伸びしろは充分で、もう少し上手に身体を使えるようになったら、手がつけられない領域のストレートを投げ込めるようになるのではないかと期待しております。バラバラになって崩壊する危険性も秘めますが、どえらい投手に育つ可能性も感じます。今後もその可能性に期待して、見守って行きたい投手です。 (2010年 春季リーグ) |
白村 明弘(神奈川・慶応高校)投手 185/73 右/左 |
春季関東大会や神宮大会では、中々140キロ台を超える球がなかったのですが、センバツでは状態が回復したのか?コンスタントに140キロ台を投げ込むなど、状態の良さを感じさせる内容でした。 彼独特の伸びのある速球とカーブ・スライダー・フォークなどを織り交ぜるピッチングスタイルで、牽制も鋭く、クィックも1.1秒台と早く(基準は1.2秒)、投手としての総合力の高さを感じさせます。 昨年までは、随分と球にバラツキが目立ったのですが、選抜では右打者、左打者に対しても、速球・変化球共にアウトコースにきっちり制球出来つつあるようです。投手としてもテンポがよく観ていて気持ちの良い投手で、また打者に向かって行く姿勢も良い投手です。天性の投手と言う感じの選手でした。 (今後は) 速い球を投げられるだけの力は付けましたが、それを長く持続させるスタミナに課題があるように感じます。秋に比べると、MAXの球速は変わりませんが、アベレージではかなり速くなってきていると思います。また一番の成長は、何より制球力の改善。この点が、非常に評価出来るポイントです。 非常に投手らしい投手で、マウンド捌きも洗練され、総合力の高い投手。現時点では、私が知る限り、彼以上の右腕は知りません。それだけに、志しを高く持って、何が何でもプロに入るんだと言う貪欲さを持てば、高校で指名される可能性は充分ある選手です。 もうワンランク、夏に向けての成長を見せてくれれば、スカウトのGO!サインも、降りるのではないのでしょうか。もしプロに行きたいと考えているのならば、ぜひ高校から行って頂きたい素材です。そのための確かな力を、夏までに養って欲しいと思います。 蔵の評価:追跡級! (2009年・センバツ) |
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白村 明弘(神奈川・慶応)投手 184/70 右/左 |
「この球の伸びは尋常ではない!」 秋季関東大会、保土ヶ谷球場。大会NO.1右腕・白村 明弘 を生で見ようと球場に足を運ぶ。テンポの良いリズムは、この投手のセンスの良さを実感させる。しかし私を驚かしたのは、その球の伸び方だ。明らかなボール球にも関わらず、関東大会にも出場する程の強豪校の打者達が、手を出して空を切っている。 バックネット裏から見ていても、常時140キロ以上の出ているんじゃないかと思わせる球を投げ込んでいるのだが、実は130~135キロ程度。思いの外スピードガン表示は伸びてこない。腰痛と言うことで、元来の出来ではなかったようだが、その球の勢いは、高校生としては破格なものがあった。やや変則でギッコンバッタンするフォームは、何処か巨人に入団した福田聡志を彷彿させるような癖のあるフォームではある。しかしながら、投手としての総合力・センスでは、この白村の方が、よっぽど投手らしい投手であろう。 (投球スタイル) 独特のフォームから繰り出される速球の伸び・回転は素晴らしい。特に速球が高めに浮く傾向が強いのだが、それでも打者はそれを振ってしまう。初めて対戦する高校生が、この球を見極めるのは極めて困難だろう。 ストレート 130キロ前半~MAX146キロ 神宮大会では、決勝戦になりようやく登場。序盤は、関東大会同様に130~135キロ程度だったが、徐々に本調子に。MAXで146キロに到達するなど、かなり元来の能力に近い内容を示してくれた。 スライダー 110キロ前後~110キロ台後半 カーブのように曲がりながら落ちるので、実際カーブなのかスライダーなのかの判断が難しい、いわゆるスラーブと言われる代物だ。投球は、ほぼこの球と速球とのコンビネーションで構成されている。 その他 クィックは、1.15~1.25秒ぐらいとプロの基準レベルがあるなど、中々上手い。フィールディングなども丁寧で動きも良く、バッティングなどのセンスも悪くない。制球力にはバラツキが目立つが、マウンド捌きにも優れ、総合力のある野球センスの高い選手だと評価したい。 <右打者に対して> ☆☆ アバウトにコースに投げ別けようと言う意識はあるようだが、現状はストライクゾーンの枠の中に球を投げ込むといったレベルの投手。特に速球が、ボールゾーンに浮いてしまうのだが、この球をみんな打者が振ってしまう。そのため制球の悪さが、意外に問題にならない。ただ細かいコントロールは、存在しない。 <左打者に対して> ☆☆ 左打者に対しても、アウトコース高めのストライク~ボールゾーンに球が抜けることが多い。インコースにも、何処まで狙って投げているかは微妙だろう。並の高校生レベルならば、この速球とスライダーのコンビネーションだけで抑えられてしまうのだが、これから全国大会を意識するのであれば、もう一つ使える変化球を身につけたい。 (投球のまとめ) 現状制球はアバウトな上に、攻めのバリエーションが不足するなど、かなり課題も多い。しかし投手として持ち得るセンスの良さがあり、投手らしい投手だと言えよう。そういった意味で、将来的に制球や球種を増やすことが出来るのかは、フォーム編を見て考えて行きたい。ただ投手としてのセンス・可能性は、そのピッチングを見る限り強く感じられる。 (データ編) いつものように、幾つかのファクターを設けて、データの上からも考察してみよう。 ファクター1 イニング以上の奪三振数を奪っている(練習試合+公式戦の合計で)○ 新チーム結成以来 101回1/3イニングで、110個の奪三振を奪い、イニング数以上の奪三振を奪っている。腰痛で本調子でなかったことを考えると、更に選抜では三振が期待出来そうだ。 ファクター2 四死球は、イニング数の1/3以下に抑えたい × 101回1/3イニングで、四死球は53個。実にイニング数の1/2以上のペースで四死球を出している計算になり、これはかなり制球力がアバウトであることを裏付ける。 ファクター3 被安打率は、イニング数の70%ぐらいには抑えたい ○ 101回1/3イニングで、被安打率は50%以下とかなり優秀だ。四死球こそ多いが、実際に打たれてランナーを出すケースは非常に少ない投手であることがわかる。 ファクター4 防御率は、1点台(1.99)以内が望ましい ○ 新チーム結成以来の防御率は、0.80。更にこれを公式戦に限定すれば、0.59とトップクラスの安定度を誇る。本調子で挑むことが出来れば、選抜でどんな投球をしてくれるのか大変楽しみだ。 (データからわかること) 奪三振・被安打の少なさからも、球の威力がその球速以上に破格であることが伺われる。また四死球でランナーを出塁させても、踏ん張りの効く良い投手であることが、防御率からもわかって来る。関東屈指の本格派と言われるだけあって、データの上からも選抜注目の投手であることは、間違いないだろう。 (投球フォーム) いつものように「野球兼」の2009年3月6日更新分に、彼の投球フォーム連続写真が掲載されているので、そちらを参照しながら読み進めて頂きたい。 <踏みだし> ☆☆☆ まずいつものように、写真1を見て欲しい。両足の横幅を広くとっていることからも、バランスを重視、すなわち制球を重視した立ち方になっている。 ただこの際の背中の反り具合やお尻の大きさからも、背筋・下半身の肉付きはもう一つで、まだまだ線が細い印象は否めない。この辺が、一冬越えてどこまで変わって来るのか注目したい。 写真2までに、足をヒュッと引き上げる勢いと高さはまずまずだ。フォーム序盤のエネルギー捻出と言う意味では悪くない。ただトータルで見ると、先発タイプなのか、リリーフタイプなのか、イマイチ目指すべき方向性が見えてこないで、ちぐはぐなスタイルとなっている。 <軸足への乗せとバランス> ☆☆ 再び写真2の膝から上に注目して欲しい。膝から上が、真上に向かってピンと伸びてしまい直立した立ち方になっている。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと 1,膝に余計な力が入り、力みにつながる 2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい 3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い などの問題が生じる。彼の場合、引き上げた足を幾分二塁側(見ている我々の方角に)送り込むことで、バランスを取ろうとしている。ただ全体的なバランス・軸足への体重乗せ具合は、あまり良いとは言えない。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆ 写真3を見ると、引き上げた足を空中でピンと伸ばすことなく、そのまま体重を落として行く。そのためお尻は、一塁側に落ちることはない。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労することにつながるから。 ただ彼の場合、写真4の着地までは、地面に着きそうなところから、大きく前にステップすることで、着地のタイミングを遅らせることに成功している。着地を遅らせる意味としては 1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。 2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。 3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。 などの効果がある。通常フォームと言うのは、上半身の回転と下半身の回転が一致し、最大限のエネルギーが発揮出来る箇所がある(ボクシングのストーレートを打つとイメージしやすい)。野球の場合、その回転の一致を見つけることが、最も理想的なフォームであるように思える。 ステップが広すぎず、狭すぎず。すなわち重心が立ち投げにならない程度で、それでいて深く沈みすぎない箇所と言うのが必ず存在する。そのため日本古来の指導だと、膝小僧に土が着く程の重心の沈み込みが良いとされたが、それに関しては私は沈み込み過ぎだと考える。どうしてもステップが広過ぎると、踏み込んだ足と軸足の間にお尻が沈んでしまい、前に体重が乗って行かないからだ。その辺は、フィニッシュの動作を見ていると、何処が適正だか見えて来る。ただ間違っても重心の沈み込み過ぎを回避するために、お尻を一塁側に落とさないで良いと言う、浅はかな指導だけは避けてもらいたい。お尻の一塁側への落としとは、その深さではなく、むしろ横のポジションニングを指しているからだ。 <グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆☆ 写真6を見ると、グラブはしっかり抱えているわけではないが、最後まで身体の近くに添えることは出来ている。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。 特筆すべきは、写真5の際の右足スパイクにある。足の甲で深くしっかり地面を捉えつつ、その粘りが素晴らしい。これだけの粘りを見せる選手は、年間にそう多くはいない。足の甲で地面を押しつける意味としては、 1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ 2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える などの働きがある。ただこの動作がしっかりしているのに、制球に不安があるのは別の要因が考えられる。 <球の行方> ☆☆☆ 写真3を見ると、上体を軽く前に倒し、ボールの持っている腕を隠せている。ただ写真4の着地した時点では、いち早く身体が開いてしまっていることもわかる。またこの時、肘が大きく下がっているのも気になる。この状態から、写真5のリリースの段階では、右肩が上がり、左肩が下がっているなど、腕の振り抜きが適正でないので、身体への負担は大変大きくなっている。将来的に、非常に故障が心配なフォームだと言えよう。また高めに浮くのも、写真4の下がったテイクバックを無理に引き上げているからだろうと考えられる。 ただ特筆すべき点は、この写真5の球持ちの良さにある。高校生でここまで長くボールをもてる投手は稀であり、これが一つ彼の非凡な球の伸びを支える大きな要因になっている。ボールを長く持つ意味としては 1,打者からタイミングが計りにくい 2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる 3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい などがあげられる。彼のフォームが興味深いのは、着地までの大きなステップのため、中々ボールが出てこない。しかも身体はいち早く開いたかと思ったら、小さなテイクバックで鋭くピュッと振るので、2段階でタイミングが狂わせる。極めつけは、遙かに想像以上に、その球自体が伸びて来ると言う3つのギャップによって、135キロ程度の速球でも、みな空を切ってしまうのだ。この特殊なフォームは、かなり興味深いものがある。 <フィニッシュ> ☆☆☆☆ 写真6を見ると、振り下ろされた腕はしっかり身体に絡みついている。また実にシャープに強く、腕を振ることが出来ている。また地面も強く蹴り上げられており、それでいて投げ終わった後、大きくバランスを崩すことはない。フィニッシュとしては、かなり理想的なフォームとなっている。 (フォームのまとめ) 投球フォームの4大動作である、着地・球持ち・開き・体重移動と言う観点から考えると、身体の開きに課題を抱えるものの、あとの着地・球持ち・体重移動と言う観点では、中々優れたものを持っている。特に球持ちに関しては、超高校級の素材だと言えよう。 ただかなり上下の移動がの激しいフォームで、制球がつきにくい欠点と典型的なスライダー・チェンジアップ系投手のフォームであるので、将来的に緩急を効かしたカーブやフォークのような縦に落差のある球を武器に出来るのかには疑問が残る。 (最後に) センバツでは、ぜひ万全の状態で出て来て欲しい選手。実際にそのプレーぷりを見ていると、一つ一つの動作は、結構丁寧に行うタイプのように見える(投球の粗さとは対照的に)。ただ何が何でもと言う、貪欲さはプレーからは感じられなかった。その辺のプレーへの意識が高まっているのかも、高校からプロに行く心構えがある選手なのか、それとも大学経由でプロに進むべきタイプかの大きな見極めの材料となりそうだ。 かなり癖のあるフォームで、意見の別れるタイプだとは思うが、選抜ではぜひ、関東NO.1と呼ばれるその力を見せつけて欲しい。本人の意識次第では、充分に高卒でプロに行ける可能性を秘めた素材だろう! この記事が参考になったという方は、ぜひ! (2008年・神宮大会) |
センバツでは確認出来なかった投手なので、一度ぜひ見てみたかった投手です。恵まれた体格の持ち主で、常時135キロ前後投げ込む速球派です。少々からだを抱え込みすぎるフォームが気になるのですが、持ち得るポテンシャルは高そうです。 変化球は、スライダーとのコンビネーション投手のようです。ただこの試合では、全く力のいれ加減が調整出来ず、ストライクが入らないまま、あっという間に降板してしまいました。能力は高そうですが、まだまだ実戦力に欠ける投手の印象を受けました。夏までの復調と新チームからの更なる飛躍を期待したいですね。2009年度の神奈川を代表する速球派として注目したい投手でした。 (2008年・春季神奈川大会) |