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久里 亜蓮(亜大)投手 186/82 右/右 |
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九里 亜蓮(亜大3年)投手 186/82 右/右 (岡山理大附出身) |
「訴えかけて来るものが欲しい」 この秋、東都リーグ戦で防御率1位になった 久里 亜蓮 。しかし140キロのボールを連発しても、何かこの投手の投球からは、訴えかけて来るものが感じられない。何かもっさりしていて、ボールそのものにもピンと感じるものがないのだ。けして気持ちが入っていないわけでも、いい加減に投げているわけでもないのに。 (投球内容) 少し肩で担ぐようなフォームであり、かなり角度をつけて投げてくるフォーム。 ストレート 135~140キロ台前半 東浜の投球もそうなのだが、コントロール重視の投球なので、ボールに見栄えがしないのは確か。彼が出てきた時、MAX147キロを記録し注目されたが、現在は先発で135~140キロ台前半ぐらい。力入れて投げれば140キロ台中盤ぐらいまでは投げられる能力はあるのだろう。ただ非常にコースを丹念について来る、そんな精度の高いコントロールは持ち合わせている。 変化球 スライダー・チェンジアップ 彼の一番好い球は、落差のあるチェンジアップではないのだろうか。左打者外角に沈むチェンジアップには威力があり、この球は上のレベルでも通用するはず。あとは、曲がりながら落ちるスライダーと横滑りする2種類のスライダーがあるように見える。その変化球が、高めに浮かないのが彼の好いところ。 その他 牽制はまずまず上手く、クィックは1.1秒~1.2秒ぐらいで投げ込んできます。特別身のこなしに非凡なものは感じませんが、すべてが一応のレベルには達しているようです。 パッとマウンドを外したり、そういった危険回避能力は、先輩の東浜巨の影響を強く受けているのでしょう。自分のリズムを大切にし、試合をつくって行けるタイプです。特にコースへの微妙なコントロールは、先輩の東浜巨以上ではないかと思います。 (投球のまとめ) 先輩の東浜同様に、ボール自体に凄みは感じません。とにかく痛手を食らわないように、コースを丹念に突いて来るので、ヒットを打たれても連打を食らい難い投球に徹します。その精神力と技術には、目を見張るものがあります。 ただ速球が、球速以上に物足りない。この点を改善して行けるのかがポイントだと思います。どうしてボールが手元まで来ないのか、その辺のことはフォーム分析のところで考えてみたいと思います。 (成績から考える) リーグ戦で主戦となって先発するようになったのは、昨年の秋から。リーグ戦では、3位・5位・1位と常に安定した成績を残してきました。そしてこの秋は、彼にとって一番のシーズンだったと言えるでしょう。 5試合 3勝1敗 38回2/3 25安打 8四死球 40三振 防御率 0.70 1、被安打は、イニングの80%以下 ◎ コースを丹念に突く投球で連打が食らい難いように、被安打率は 64.8% 。プロで即戦力を想定するのならば、70%以下を切って欲しいなぁと思っていただけに、そのファクターを満たしているのは素晴らしい。彼の良さは、速球だけでなく変化球のコントロールミスも少ないところ。 2、四球はイニングの1/3以下 ◎ 四死球率は、20.7% と極めて少ないことがわかる。四死球で自滅するということは殆どなく、そういった意味では安心して観ていられる。こういったポカが少ないのは、むしろ東浜以上ではないのだろうか。 3、奪三振はイニングの0.8個以上 ◎ ストレートに非凡なものは感じなくても、チェンジアップやスライダーで三振が取れ、追い込むと空振りを誘えるボールを持っている。また勝負どころで力を入れるメリハリもできているので、それが数字の上にも現れている。 4、防御率は1点台以内が望ましい ◎ プロを目指すような投手ならば、リーグ戦で1点台。更に上位指名を狙うような投手ならば、0点台の絶対的なシーズンを見せて欲しい。そういった意味では、大学球界最高峰の東都リーグで、この数字を残した意味は大きい。 (データから考える) 実際の投球は観ていて物足りないものがあるものの、この秋の成績はすべてのファクターを文句なしをマークする完璧なものだった。こういった選手は、正直過去なかなかいない。 来年は、東浜が抜けエースという重圧のなか、同様の成績を残し続けることができるのか。そこにかかっている。 (投球フォームから考える) <広がる可能性> ☆☆☆☆ 引き上げた足を地面に向けて投げるフォームなので、カーブで緩急を利かしたり、フォークのような縦に鋭く落ちる変化球には向きません。しかし曲がりながら落ちるスライダーや落差のあるチェンジアップで、これを補う配球ができています。 足を地面に着きそうなところから、前にグィッと伸ばすことで着地までの粘りを作れています。これにより身体を捻り出す時間が確保でき、好い変化球を投げられる下地になります。彼のチェンジアップやスライダーが、空振りを誘えるキレがあるのも、この部分が大きいと考えられます。 <ボールの支配> ☆☆☆ グラブを最後まで内に抱えられるので、両サイドへの投げ分けは安定。このサイドへの制球は、かなり精度の高いものがあります。その一方で、足の甲での地面への押しつけは浮きがちで、あまり低めに押し込めないようなフォームです。その割に低めに来るのは、必要以上に腕に角度をつけ押し込んでいる部分があるのと、恐らくあまり力を入れて投げてしまうと高めに抜けてしまう球が少なくないのでしょう。その辺の事情があって、かなりキャパを落として投げていると考えられます。「球持ち」がけして好いようには見えませんが、指先の感覚はかなり好いと思います。 <故障のリスク> ☆☆ お尻を一塁側に落とせるフォームではありませんが、カーブやフォーク・シュート系の球を多様するわけではないので、身体への負担は大きくはないのでしょう。ただ腕を振り下ろす角度に無理があるので、肩への負担は少なくないはず。また担いで投げる分、腰への疲労も蓄積しやすいのではないかという不安は残ります。 それでも力投派ではないので、疲労は少ないタイプではないかと思います。過度の登板過多などがなければ、アフターケアに注意して取り組めば、深刻な事態は避けられそうです。 <実践的な術> ☆☆☆ 「着地」までの粘りがあるので、打者としては合わせにくいはず。更に「開き」もそれほど早くないので、球筋がわかりやすいわけではありません。そういった投球フォームに、淡泊さがないのは好いところ。 その反面フォームに躍動感がないのは、振り下ろした腕が身体に絡むような、腕の振りの鋭さがないところ。今後の課題としては、上半身や腕の振りの「鋭さ」を身につけ、ボールにキレを出して欲しいですね。 あとは、担いで投げる分「体重移動」が不十分で、後ろに残りがち。前にしっかり体重が乗って行かないので、打者の手元まで生きた球が行きません。更に「球持ち」も良くないので、ボールにバックスピンが効かせられないので、好い回転のボールが投げられません。すなわち、ボールに伸びを生むことができないのです。 (投球フォームのまとめ) 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点では、「着地」「開き」に問題がありませんが、「球持ち」「体重移動」に課題を残します。 「球持ち」が悪くても、指先の感覚はよく、フォームも合わせづらいので別の部分で補えています。しかし「体重移動」の不十分さが、ボールの勢いの無さを如実に現れています。 (最後に) 彼の投球の物足りなさは、そのストレートの球質と投球動作にあります。身体のキレのないフォームは、まず腕の振りや上半身の「鋭い」振りを意識して日頃から取り組むこと。ストレートの物足りなさは、「球持ち」と「体重移動」を重視して取り組むことにあるかと思います。ただこれらの課題を最終学年で改善しようと思うと、失敗してプロ入りを逃す要因にもなりかねません。そういった取り組みが下級生の間に出来なかったことは、彼にとっては悔やまれます。 普通に考えれば、今の投球を最終学年のプレッシャーの中で続けられれば、指名はされると思います。ただ上位で、あるいはプロでの即戦力を想定するのであれば、やはり上記であげた課題に取り組まないとプロでは厳しいのではないのでしょうか。物足りなさを改善して、真の上位指名候補を目指すのか。あえて今のまま貫き確実に指名を狙いに行くのか、彼の今後の姿勢が試されます。 (2012年 神宮大会) |